第0話 HAPPY BIRTH DAY
「ほう…、面白いね~。君が特別操縦者(イレギュラー)だなんて!!素晴らしいッッ!」
ガバッと天に捧げ広げた両腕は溢れんばかりの躍動感を披露していた。
防音設備が整ったこの特別な空間は、その声を大いにハウリングさせた。続いて腰かけていた革製の社長が座るようなデザインが施させた椅子から立ち上がり、全面ガラス張りのさぞ夜景が美しそうな窓際から真昼間の街々を伺う。
手に持ったグラスを呷る。
背を向けたパソコンのディスプレイには膨大の資料のウインドウが小さく展開されており、ある一点に目が止まったものがピックアップしてあった。そこには一人の顔写真とプロフィール、その他諸々の個人情報が著された資料が展開されていた。
資料の娘の名は藤崎明日乃。15歳。女。
キリッと整った顔立ちと清潔感を与える褐色のポニーテール。カメラ越しからでも凛々しさが伝わり、覚悟を決めていることを思わせるがまだ、成りきれていない少女の部分があるところに興味を持った。いや、それは違うのかもしれない。少女なんぞここらには山ほど在籍している。ならばこうであろうか君は特別で、何にも興味を覚えなかった私に火を点けた。これならば自身でも納得のいく答えになった気がする。
人間とは、面白いもので一度見た物のイメージは六時間以上経たないと消えないというからね。本当に君に恋をしたのかもしれないね。―――私が思う、君のイメージは………ふふ、どうかな?
ふと、ジェイルに笑いが込み上げて、笑わずにはいられなかった。ジェイルは裏返ったような声で、誰もいない特別な空間で大きく笑い、気の済むまで笑い続けた。
防音設備や様々なものが施こされたのはもしかしたら彼の行動になにか原因があったからだろう。そんな張本人はポジティブにしかものを考えず、行動をしない男だからだ。
彼の名前はジェイル・ヴィクター。
インフィニット・ストラトス。通称アイエス。
それは女性にしか反応しない世界最強の兵器。篠ノ之束が作り出した、宇宙空間での活動を想定として作られたマルチフォーム・スーツ。
開発当初は周りからの注目もなく、束が引き起こした「白騎士事件」により従来の兵器を凌駕した機動力、防御力、破壊力などの圧倒的な性能を世界中に知れ渡ることとなり、現在は宇宙進出より、飛行パワード・ スーツとして軍事転用が始まり、各国の抑止力の 要がISに移っていった。
かつての彼ジェイルもその一課に入って、コアの開発を束としていた。束は束で、独自のコアを作り上げ、ジェイルはジェイルのコアを作り上げた。
そんなある時、ジェイルは束の前から姿を消したのと同時に、束も世界から追われる身になっていた。二人の関係は小さないさかいによるものが発展したのかもしれない。詳細を知るのは束とジェイルのみだった。
落ち着いたジェイルはデスクにつき、手の甲に顎を置き、再びパソコン画面へと、輝いた目を走らせ、気に入った娘になっては、特殊なパフォーマンスを幾度と無くやり続けた。なぜなら、これは密かな楽しみだからだ。というより、理事長職となると昔みたいに、はしゃぐことができない。だから、入学してくる生徒、職員の顔と名前を記憶するのが、今の趣味みたいなものであった。
止めることはできない。というより、止める気はさらさらないのが、彼の心情のようなものだった。
(誕生ほど、面白いものはないよっ!)
この人物はIS学園理事長。ジェイル・ヴィクター。
彼が行うパフォーマンスはほんの自己表現にしか過ぎず、抑揚をつけた発言や行動が特徴的だ。
「さあ~っ!春が楽しみだッッ!」
またも、乾いた空間を喰らうような大声が発せられ、理事長室全体ににこだまする。
理事長室はIS学園の最上階に位置する学園の全てを見渡すことのできる唯一の空間だ。中に入れば、中を疑うような最新のキッチン設備が施され、もの優しい顔立ちからして作らせて食べるというイメージが持てるが、逆で自ら作り振る舞い、ハッピーバースデーの歌なんかをピアノで奏でながら、歌うことなんかもあり、何かにつけてバースデーケーキを作られるため、そのたびにこの学園内で配られることがあり出すたび出すたび人気を博している。
そうこうしている間に、ジェイルはケーキを作っていた。右手には、ホイップクリームを持ち白く装飾されたスポンジケーキに渦を巻いていき、最後にイチゴとホワイトチョコでできたプレートを置く。イチゴはホイップクリームとのバランスを考えて、プレートは中心にそっと添えるように置く。出来上がったのはジェイルお手製のショートケーキなわけなのだが、どこから見てもただのショートケーキにしか見えないのだが、ジェイルにとっては特別な一品なのだ。
“ハッピーバースデー!久遠!!”
と、全て書かれていたからだ。これは何を意味するのかは全てジェイルのみぞ知る。
ケーキを作り終えたジェイルは壁際から全てを見渡していた。どれもこれも一つたりとも同じものはないことに感嘆を洩らす。
そして再び理事長室には沈黙を破るような大声が発せられた。