IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

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第十二話 良くも悪くもこれが日常

 

 

「ほら、ちんたら歩いたら置いて行くぞ~」

「待って、お姉ちゃん」

「明日乃~」

 綾陽と火織の姿を尻目に私はずかずかようもなく早く歩いてみる。

 いつもというか、何というか、とかく歩くのだ。ええ、そりゃあもう毎日、足が太くなるくらい。

 少しばかし足を速め、教室までの道筋を歩む。そのあとに、もちろん遅れて綾陽と火織の二人がついてくる。なにか後ろから聞こえるが、私は気にすることなくスタスタと進む進む。

 そんなことで、無心に歩くこと数分。教室の前に到着。ちょっとって、表現はないと思うが歩くスピードを誤った私は廊下に一人ポツンと取り残されている状態だ。タイミングがいいのか悪いのか誰も来ない。右、左に首を振るが誰も来ない。

 

 ひとまず、苦笑。

 

「明日乃。速いって」

「はぁはぁ……ほんとだよ…おねえちゃん…」

「たはは……!」

 息を上がらせた二人が、ようやく私に辿り着いた。

 あーだこーだ文句をぶーたれている。

 悪い悪い。ちょっとしたいたずら心が働いてしまった。

「まあ、ここでごちゃごちゃ言うのもなんだから中に入るか?」

 二人は無言で頷く。

 荒い息を整えた二人が私を見つめる。つい流れ的に生唾を飲み込んでしまう。妙に緊張するな。

 自然と緊張するこの空気がまるで、ここから先はゲームで言うボス戦みたいな感じがしたのは多分私一人だと思う。軽い気持ちで入りたいのですが……。

 

 私が意を決めてドアに触れると、プシュッと風の抜ける音がし、ドアが開く。

 

 クラスの娘たちはドアが開くなり、視線を私たちに向けた。

 

 まあ、クラスに入れば誰が入って来たくらいかは知りたいから見るのは分かるけど、会話を完全に止めてまで私を見るかね?普通。

 まるで、私たちを珍獣が入って来たみたいな眼で見て。そんなに難しいかね?

 息の合ったクラス中の娘の反応に私はすかさず、顔をへの字に歪ませ、一歩引いてしまった。

 

 こういうのは、進めばいいんだよ。進めば。

 

 そう思うならば、私は実行していた。ちなみに後ろからちょっと、早く進んでよとか、どうかしたの?とか色々言われていたが私は何も聞いていない事にする。

 とにかく私は自分の席まで歩いているが、視線は私を指している。後ろの二人は何の疑問を持たずについてくる。私たち三人は一連の事件の関係者ということで席がまとめられている。席に着くなり、話に花を咲かせるが、やはり視線が気になり話に集中できない。一様あちら側も話を再開している模様だが視線は以前に私のままだ。まるで、私のこそこそ話をしているように見える。

 どうしてこうなったのか、心当たりが一つあるかないかなのだが、多分これではないだろうか。遡ること昨日の事だ。

 

 

 

 遅咲きの桜が教室の窓から見受けられる頃、風は突然吹く。

 

 入学式も何事もなく済まされ、四月の第二週のある日。適当に友達が出来始め、少しずつだが、学園生活を充実し始めていた。その日は晴れていた。

 私たちは今日みたいに少しおびえて入るような光景もなく、ごく自然に教室に入り席について、授業の時間まで適当に潰すことにした。

『おはようございます。今日は―――――』

 話は学級委員を決める事で、少し背伸びをした私たちの担任こと、山田麻耶先生がその話題を持ち出したのが始まりだった。

 山田先生は興味のある人は大歓迎ですと一言エール的なこと放つが、そのあと副担任の織斑先生が学級委員について補足を付け足す。

 そもそも学級委員というのはクラスの代表であるのは常識。これぐらいなら赤ん坊でもわかる。 だが、それはあくまで常識に過ぎず、この学園内ではクラスの長になるものはクラス代表戦と言われているものに参加しなくてはならない。さらにクラス代表戦といわれるものは簡単に言えば、クラスの長同士が戦い、頂点を目指すといういかにもシンプルな内容な企画だ。

 だが、やるのであれば頂点を目指すのは当たり前なのだが、優勝賞品はなんと学食のデザート無料券らしい。そりゃあ女子たるものその話を飲まないわけにはいかないのである。だからこそ本気、いやそれ以上で戦いに挑まなければならないということだ。それだけ重いのだ学級委員というのは。たかが紙切れされどお宝となりうる代物だ。だからこそ舐めてかかれば後で後悔する。

 それが、織斑先生の口から説明されたときに、固唾を飲んだ。

 そのあとももちろん教室は暖まる事もなく、むしろ逆に凍ってしまった。進んで立候補するのもいず、私たちも冷静に見守るわけで。

 なんのリアクションをしない私たちに山田先生はキョロキョロする。その姿を微笑ましい表情で私は見ていた。

 そんな時、この静寂を破るものが現われた。聴こえたのは後方の方で、私たちは反射的に首をそちらに向ける。実際こういうのは気になるものだろう?

 私たちの視線を受けながらも怯まず、己の意志を貫こうとする姿はその場の空気を自分の物のように使えていた。まるで、このような光景を幾度も体験したかのような堂々とした物腰に私たちは すごいの一言で片づけてしまう。

 理由は簡単。こんなに堂々とした人がやってくれれば、優勝も間違いなしと。ただそれだけ。

はなから学級委員になろうとする者は誰もいないだろう。唯でさえ、扱いがままならないISに乗って、そりゃあ時が経てばうまく扱えるようにはなるとは思うが、実際そこまでリーグに残っていられるだろうか?……ここからはあくまでの話だが、一回戦で負けてしまったら、どうだろうか?他人からの残念な視線を受けて学校に居られないだろうな。多分心が折れると思う。だったら、はじめから周りに押しつけちゃえという考えに至ると思うんだ。だから現に今こうして互い同士で牽制し合っているわけで。

 だが、だが今、その厄介事に首を突っ込んだ人がいてくれている。

『では、この私イギリス代表候補生のセシリア・オルッコット自身が学級委員に立候補いたしますわ!』

(あー、残念系だな……)

 率直な感想を心中で言ってみる。なんせ、自分の胸に手を当て自己主張をして見せてくれるのは、まあ、……関心するところだが、何かが違う気がするんだ。

 口調や口癖はまあ、いいとして。行動は演劇とかやってますか?と少し疑問を問いかけたくなるくらいその場をうまく使って表現していた。一言でまとめるなら、自分に酔いしれている感じ。

 そのセシリア……なんちゃらさんって子は上記のようなこと一旦忘れると結構お嬢様っぽい印象を受ける。

 金髪の金が染めたような輝きを見せるわけではなく、生まれつきの地毛であるのは初見でもわかる位だった。腰まで届くその長さと縦ロールがいかにもお嬢様って感じがしてしかたがなかった。 つまり、隅積みまで手が込んでいたということを私は言いたかった。

 端正な顔立ちにして色白。他の顔の部品もそれに負けじと整っている。正直かわいい。悔しいけど。

 視線を変えて、スタイルを見た。服越しからでも細いのが分かる。すらっと伸びた指や腕なんかも手入れが十分に施されていてつい見とれてしまう。下半身は机が邪魔で見えない。でもなんとなく細いんでしょうねと嫌味を七割ほど混ぜた溜息をその場で時間をかけてゆっくり吐き、そのあと体勢を前に戻した。

『であって、この私が学級委員になった暁には―――――』

 まだしゃべってる。

 体勢を前に戻してみたものの、彼女の演説的なものは、未だ終わらない。時間にして十分はとうに過ぎている。正直、こちらもベラベラ話され続けると、心穏やかでは無くなってくる。

 

 そろそろ、織斑先生が……

 

(あれ……?)

 教壇の脇に織村先生が腕を組み、眼を伏していた。もしかして…寝てます?

 だが、その疑いはすぐに解消された。セシリアの話が終盤になったことが分かった瞬間、先生の眼がゆっくりとだが開く。

『……というわけですの。これで、ひとまず―――――』

『いや、もう十分だ』

『ですが、まだ私の―――』

『もういいと言っている』

 織斑先生は眼を見開き、セシリアの像をしっかりと捉えていた。

 それでもと彼女が言うと、制止がてらに出席名簿を肩のところまで持ち上げるとセシリアはぐぬぬと、した表情を見せ、大人しく席に着いた。彼女の中で折り合いがついたのだろう。

(やっと、終わった・・・ありがとう、織斑先生。皆も感謝してると思うぜ・・・)

 同意を求めようと後方に体を回すと、起きているのは数人しかいず、ほとんどの者が夢見ごちだった。

『他に立候補する方はいませんか?』

 と、山田先生。それに続くように、織斑先生が出席名簿で教壇を叩く。木の部分ではないところを叩いた。その瞬間ゴオォ―ンと凄まじい音が教室中に鳴り響く。

 それに反射して、クラスの夢見ごち中の女子が跳ね上がらんばかりに身を起こす。

『セシリアがこう言っているが、他に立候補するものはいるか?この際、自薦他薦も構わない。このままだとセシリアの無投票当選になるぞ』

 最初は良いかなって思ったけど、後々から見えてくる嫌な部分がちょっと鼻につく。ただでさえ頭が高い性格の上に、学級委員という称号を付けてみろ!更に高飛車な性格になるに違いない。

 

(誰か、手を挙げてくれ)

『はいっ!』

いいね。こういう子に学級委員をやってもらいたいね。

『はい。吉音さん』

『他薦なんですけど、藤村明日乃が私は良いと思います』

『あっ、私も!』

(ヘ―、同姓同名で私と同じ名前か・・・、これは挨拶しないと。で、藤村さんって・・・私の後ろかな?いや前か?)

 私は落ち着きのない子のごとく、周りを見渡すと、おもしろいことに全女子の視線を受けていた。いやー、まいちゃうなぁ~。で、もう一人の私は・・・。

『藤村、お前的にはどうだ?』

『いや、これは話合わないと……』

『お前、ふざけているのか?』

いや、ほらもう一人・・・・・・。

『このクラスでは、あなたしかいませんよ?藤村さん』

『ああ~~~、そうですかぁ』

 って、ええええええ!!!

 条件反射で私は席から立ってしまった。勢いよく後ろの席の綾陽に当たってしまった。とりあえず、謝っといたけど。

『それって、ほんとですか?!』

『なぜ、お前に嘘を憑かなければならない。馬鹿者が!』

 ――――ですよね。

 一旦、この状況を飲み込もう。私はクラスの誰かに立候補をされてしまい、・・・・・いや、どこかで聞いたことがあるような声だったがまあいい。ってことは、あらかじめ立候補したセシリアと選挙をしなければならないってことか。……参ったな。勝つ要素が無い。ってか勝つ気はないんだけどな。

 この状況をどう打開しようか。

『あっ、私も藤崎さんに一票』

 私が耳を立てると私も私もと賛成の異口同音の声がちらほら聞こえた。嬉しいんだけど、どうして私なのだろう。他にも出るでしょう?……はて?

 

 キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン~。

 

 私の思考を遮るように授業終了のチャイムが鳴る。

 

『はぁ、では、後日改めて決めることとする。それまでに話がすんなりと済むように、話し合いでも……終われば、まぁいいか』

 織斑先生の言葉がつっかえている間に教室から出て行ってしまう。

 話合っても、何を話せばいいんだよ…。

 私ははぁ、深いため息を机に突っ伏した。

 

 

 

 

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