IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

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第十三話 笑って私を追い越して

 

 

 前の授業(学級委員を決める件)が終わってからの休み時間の事だった。

 毎度のことながら、いつものメンバーこと綾陽、火織の三人で談笑をしていると、私は後ろに人気がある気がした。なのでとりあえず、首だけを後ろに向けると、案の定誰かがそこに立っていた。えっと、確か名前が…ヘルシア・ダイエット?―――さん?―――いやいや、でもなんていう名前だっけ?

 後ろに首を向けたまんまだとさすがにきついので、一度首を戻し、姿勢をセ、セ、セ……セシリア?そうそう。セシリア・チョロコットさんだ!その人に向け直した。

 さすがに人に背を向けたままだと失礼になりますからね。

 正面にセシリアを私は無言で見詰めた。

『な、なんですの?』

 やっぱり、先ほど熱演していたセシリアに間違いなかった。遠目で見ていたせいか近くになったら、思っていた以上に整っていた全体的に。それと良い匂いがした。多分香水の匂いだと思う。

『良い匂いだね?セシリアちゃん?』

『ちょっと、近すぎますわ!』

『えっ?あっ、ごめん。つい良い匂いがしたもので』

 セシリアが制止するのも無理ない。なぜなら、私が匂いを嗅ぐのを夢中になってしまったがばかりに互いの吐息が掛かる距離まで急接近していた。

 白人独特の肌の白さに少し赤味が増していた。―――もしかして、照れてる?

 それに透き通ったブルーの瞳がしっかりと私を捉えていて、眼があう。そんでもって、私がひとたび笑顔を作ると更に赤味が増した。

『からかうのも大概にしてくださいな!私はおちょくられるのが嫌いですの!』

『いや、かわいいから、ついね』

『あなたと話していると、調子が狂いますわね』

『そう?』

 セシリアが、はあと溜息を吐く。なにもそんな嫌そうな顔しないでよ。見てるこっちまで悲しくなってしまうよ。

『えっと、セシリアちゃん。用件があるんだよね?邪魔してごめん』

『そ、そうですわ。まんまとあなたの罠にはまるところでしたわ!少し、お時間良いですか?』

『あっ、うん。セシリアちゃんの為なら時間をいくらでも作るよ』

『先程のお時間の事で、引っかかるところがありましたの。あなた、私より後に名前を出されたはずなのにどうして人の気を留めていたように見えましたが、どのような巧妙な手段をお使いになったんですの?』

『いや、これといったことは……なあ?』

 私の後ろで話を聴いてあるという定で綾陽と火織に問いかける。

『それは簡単だよ。セシリア』

『うんうん』

 私の問いかけに素早く返答した綾陽と火織は私が悩んでいる間に答えに導こうとしていた。

 これまでに時間を共にしてきたが、この二人がこんな息ぴったりな姿を見せるのは初めてかもしれない。

 ただし、ややこしい方向に話がもつれていないかが実は一番私的に気になるところだった。なぜなら、この二人が息を合わすようなことをしなかったからだ。だからこそ、恐怖半分、楽しさ半分という結果に辿り着くのかもしれない。

 『それは…』と、綾陽が音頭をとる。続くように二人ほぼ同時に息を吸う。はっきりと聴こえる点からかなり期待できる一言が来るはずだ。

『お姉ちゃんが〝アナタ〟より強いからに決まってるからじゃない!』『明日乃が〝お前〟より弱いわけがないだろうっ!』

 ビシッと、二人はセシリアの顔に向かって、人差し指を近付けた。それに急に立ち上がるものだから、教室中の視線の的となり変わるわけ。そんでもって、私が強い宣言をされてしまう始末。これって、私今物凄く恥ずかしいこと言われてなかった?

『ほぅ…それは私への宣戦布告ということでよろしいですわね?』

『い、や……これは』

『おう!そうに決まってるぜ!』

 あのぉ…私の話を聞いてくれませんか?火織さん。

『うん!もういっそ、お姉ちゃんが学級委員になるしかないよ!もうその道しかないよ!』

 いや、だからね、綾陽。二人とも私の承諾なしで話をトントン進めないでよ。

 それに二人ともチラチラとこっちの様子を窺うのやめてくれないかな。

『わかりましたわ。ならば、その挑戦受けて立ちますわ!そんな大声を出したことを後悔させて上げますわ』

 セシリアは二人の手を払いのけ、自席に戻っていった。

 そのあとは授業に手も付くわけ無く、何度も織斑先生に叩かれかは言うまでもない。 

 

 

 ――――――はあ…、また溜息をしている。

 

 

 いけない。いけない。―――あっ、外が暗くなってきたな。そろそろ帰らないと二人が心配してしまう。

 教室はいつの間にか、薄暗くなりつつあり、光の源が窓越しの茜色の光のみだった。

 だれが、電気を消したんだか……と、溜息交じりで私が小言を言う。それにクラスに私しか残ってないし。

(もう、夕方か……)

 明日乃は重い腰を上げ、のろのろと教室を後にした。

 我ながら、悄然としていない。気持ちも釈然としていない。おそらく、学級委員の件で気が乗らないのだろう。綾陽と火織が余計なことを言ったから?それともセシリアに負けるのが怖いから?  ―――というかそもそも何で競うんだよって話。この学園内のルールだとISを使った争いになるんだろうな。

 はあ……。また、溜息をついた。

(私は何に悩まされているのだろう)

 帰ったら、寝よう。

 一人、計画にもないことを思い、ただただ長い寮までの道を憂鬱な気分で明日乃は歩いた。

 

 

『……えちゃん』

『あ……す、のぉ~』

 私は一階の廊下を歩いている時、何かの声が耳に付いた。

 でも、気のせいだと自己解釈をした私は振り向き直してそのまま歩きだす。

 それでも、やはり名前を呼ぶ声が聴こえる。しかも、聞き覚えのあるような名前で、その名を〝あすの〟というらしい。へぇ~、この学園の中にも私と同じ名前のやつがいるんだ。もしかして、〝あすの〟って名前はメジャーになりつつあるのかね。なんだか嬉しいよ。うんうん。

『おねえちゃーん!』『あすのぉ~!』

 そこに人影が二つ。あいにくと、逆光でシルエットしか目視できなかったが、走っているのは分かる。なぜなら、私のもとに人影が近ついてきているからだ。

 私は一瞬、後ろを見やった。誰もいない。ということは私が〝あすの〟って呼ばれていた人物だ。あー、なるほどね。ずっと私が呼ばれていたのね。

『おねえちゃ―ん!』

『あすのぉ~~!』

『おう、どうした?』

『あまりにも帰ってこないから、捜しちゃったよ』

『わるい』

『で、お姉ちゃん。朗報だよ』

 な、なんだ?もしかして本当に〝あすの〟って名前が子供につけたい名前ベストテンみたいなやつに急上昇したって話じゃ……!―――それ一回離れよう。

『何が?』

『『セシリアちゃんとの決闘が……』』

 二人がまたシンクロしようとしていた。

 息を吸う音が鮮明に聞こえる。これは今日の学級委員の件の時と酷く酷似していた。

 また良からぬ方向に駒が進みそうだった。

『『決まったよ!!』』

 だと、思いました。今更ながら驚くようなこともない。

 私がきょとんとしている間に二人は私のリアクション待ちをしているのか、ジャーンと両手を広げながら、―――まあ、はたから見ればハグでもする一歩手前見たいに見えるのではないだろうかって状況。

『一旦、部屋戻るか?』

『『うん!』』

 彼女らに数テンポ遅らせてリアクションを返すと、うんと首を縦に頷かせた。かわいいやつらめ。

 

 

 仕切り直しにと場を私たちの部屋に移し、各々ラフな格好に着替え、テーブルをかこうするように座り、ついでにおやつの時間はとうに過ぎているがお茶にすることにした。

『ふぇ~落ち着く~』

『だねぇ~』

『二人とも、本当にリラックスしてるね。クスス』

『別に、良いだろう?自室なんだし、こういうことしたって』

『あっ、明日乃が元に戻った』

『人をおもちゃのように言うなよ』

 小話を挟みつつ、お茶に、お菓子とこれはもうTT(ティータイム)だということを分かっていたが、改めて確認した。私はアップルティを綾陽はレモンティ、火織はミルクティとかなり楽しんでいる。

というか夕食前にお菓子ってのが女子って感じがする。あとで、夕飯残しても知らないぞ―。

 って、いう自分もさっきからクッキーを頬張っているんだけどさ。

 お茶請け用のクッキーは綾陽たちが買い置きしておいたものなのだが、意外とおいしいものでついつい枚数を両頬にため込んでしまう。その姿を見た火織が・・・

『明日乃ったら、リスみたいだぞォ~!』

『クスス。そうだね。かわいいよ』

 はいっと、火織が言下直後にティッシュ箱を私に差し出してくる。察するに口周りが汚れているからこれで拭けって事らしい。

 私は素直に一枚受け取り、口の中のクッキーを咀嚼し、アップルティで流し込む。そのあとにティッシュで口回りを拭く。

(もしかして、お姉ちゃんが元気なかったのって、お腹すいてただけじゃ)

(たぶんね、本人はその自覚がないみたいだぞ?)

 私と火織ちゃんがこそこそ話している間にもお姉ちゃんは幸せそうな表情でクッキーを頬張っていた。

『さぁて、適当に腹が膨れて良い気分なとこれで、さっきのセシリアとの決闘の件を話してくれよ?』

 話す直前に腹を一叩きをした姉。もうちょっと女の子なんだし、デリカシーを守ろうよ。

 こちら側もタイミング良く話そうと思っていたところに話が転がって来たので、ちょうどよかった。

『……で、さっきは決闘が決まったぐらいしか聞いていないから、日にちはいつになった?』

『うん。今からちょうど一週間後の月曜日だよ』

『そんでもって、場所は第三アリーナなんだよね』

『ほぉ…なるほどね。―――ん?でもいつそんなこと言いに行ったんだよ?てか、勝手に決闘とか決めちゃダメだろ?!第一、セシリアだって……』

『本人、すごくやる気あるみたいだったよ』

『もしかして、話したの?』

『『うん』』

 あー、なるほど……。あっちのやる気を駆り立ててしまったか…。

『ううんと言った何の話をしたのかな?』

『大した話じゃないよ』

『そ、そうか……』

 世の中には聞いていい話と聞いちゃいけない話の二種類があるから、今回は耳を塞ぐとしよう。うん、そうしよう。

 ついでに話も切り替えよう。

『で、いつそのことを言ってきたんだ?』

『あ、うん。お姉ちゃんが落ちてる時に、何言っても上の空って感じだったから。サササって、言ってきちゃった』

『そっか、ここまで来ちまったら、やらないわけにはいかないか・・・?よし、腹をくくろう』

『それと、お姉ちゃん。さっきはごめんなさい』

 急に綾陽がその場で謝った。頭を深く下げて謝って来たのだ。

 私は、少し動揺をしたがすぐに気持ちが整った。

 そのとき、分かった。この二人は心から私に学級委員になってほしいものだと。

 未だに頭を下げている面では本当に反省の色があると私には見えているし、そう思いたい。自身の妹一人信じられないのでは恰好がつかないではないか。

それとここまでされてしまうとやはりやるを得ざるを得ないじゃないか。

『ほら、顔を上げて。大丈夫。ちゃんとセシリアとは……あんまやりあいたくないけど、やるだけやって見るし、それと……』

『『それと?』』

 綾陽と火織が同タイミングで、小首を傾げる。本当に息が合ってるな。

『それと、セシリアとは仲良くなると思う』

『そうかな?』

『この私が言ってんだから、大丈夫だろ?なっ、火織?』

 明日乃が急に真剣な表情で私の名前を呼ぶ。

 そんな眼で私を見ないでよ。調子狂っちゃうよ。ほんとに。

 そう思うと、急に体中に熱が込み上げるような感覚がした。

『は、はいっ!!』

『こうして、お前とも仲良くなれたんだ。なっ?大丈夫だろ?』

 更に明日乃はニッと、子供のような無邪気な笑みを表現した。

 何の穢れもない、純粋無垢な笑顔だった。

『ああ、そうそう。ひとついいか?』

 またまた急に何かを思い出した明日乃は、右手の人差し指を立てて二人に問いかけた。

『打鉄とか練習場所とはどうすんだ?』

『もうそれも申請済みだよ。明日の朝位に許可が下りるかわかるから。その時まで待っててね』

 ぐっと、親指を立てる二人は本当にシンクロしているんだなと明日乃を底無く関心させた。

『よし、じゃあさっそく明日から特訓だ』

 私は天高く拳を突き上げ気合いを注入する。

『よし、このまま、食堂に行くぞ―!!』

『『おおぉ!!』』

 と、そのままの空気で私たちは部屋を飛び出し、食堂に向かったのだった。

 

 

 

 

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