IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

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二章 覚醒した蒼い鎧
第十四話 私は迷路の中にいる


 学級委員を決める―――という一連の出来事から、丸々二日が経った早朝のこと。

 セシリアとの決闘が決まって、昨日からアリーナを借りて、練習を行っている。

 ISの操縦には慣れたもので、細かい動作ができるようになっていた。はて、どうしたものか?……たぶん気分の持ちようかもしれない。

 相変わらず私は綾陽と火織の二人に練習を頼んでいる。二人ともうまいもので、私以上に動けているかもしれないと思わせることがいくつかあった。

 そんでもって、アリーナの使用できる時間ギリギリまで、使わせてもらったら、今日は絶賛筋肉痛というわけだ。自称鍛えてますからと、言っていた頃の自分が恥ずかしくなってきた。

 私はベッドの上で動かない体を必死に動かそうとしていた。いまさらながら。

 そろそろベッド脇に置いてある電波時計が鳴るだろう。そんな感じがする。直感的に。

 ―――二人はちゃんと私を起こしてくれるだろうか?

 今更ながらに、少し怖くなってきた。なので、私は眼で左右を見やった。

 腕、脚が動かない。それに首も痛い。だから今は眼しか……。

 左に綾陽、右に火織。間に私ときている。―――右はうん。幸せそうだ。涎なんか垂らしちゃって。左は……いない。

 もしかして、トイレか?なら、大丈夫だろ。……ね、るか。

 眼を伏せると眠りの波はあっという間に訪れ、自分の呼吸する音が間遠になってきた。

 

「お姉ちゃん、朝だよ?」

「う、うん…もうチョイ」

「だめだよ~!さ、起きて、WAKEUP!!」

「うわっ!!」

 バサッと、私にかかっている毛布が無くなる。その後に訪れる寒気は一気に眼を覚まさせるものだった。犯人はもちろん綾陽で、火織もこの後餌食になるのではないだろうか?

「眼覚めた?」

 毛布を持ち上げながら、私に問いかけた。

「うーん、おはよ……あやひ……」

「うん。おはよ。お姉ちゃん」

 私は寝癖ではねた部分を手で押さえつつ、綾陽のいる方向、声の聞こえる方に眼と耳を向けた。あくびが出る。しかも大きいの。

「火織は……今から起こすのか?」

 うんと綾陽は縦に頷いた。つまり手伝えってことか。了解と私は頷いた。

 私が頷く頃に、彼女は火織を起こしにかかっていた。眠り眼の私は浅い知恵を巡らせ、ひとつ思い出した。火織は単純に朝に弱いということを忘れていた。

 良く言えば、元気になる源注入中。悪く言えば、皆に迷惑かけちゃうタイプ。でも、少なからず私たちはそのようなことは思っていない。逆にこういうのは歓迎だ。相部屋の中に一人くらい手を焼くような娘がいてもいいような気がするんだ。その方が何倍も楽しいってことをつい最近気づいた。まあ、綾陽はそのかん真面目すぎちゃって……。

 私はひとつ笑みを零す。

「火織ちゃん、朝だよ!起きて」

「う~んう~ん」

 綾陽が火織をやさしく摩る。この様子だと毛布剥ぐな。もしくは摩るのが震度が上がるような感じか?

 火織もなにやらうなされている。夢の中で揺らされているような夢見てなければいいけど。少なからずこの現状は火織のささやかな抵抗と感じて見守ろう。―――って、突っ立てるのもあとでとやかく言われるのも嫌だし、形だけでもやっとかないと。

「火織。朝だぞ。早く起きないと一人でいくハメになるぞ?いいのか?」

「お姉ちゃん。それじゃ起きないよ?」

「いやいや。綾陽のもどうかなって、思うぞ?」

 珍しく、話が拗れそうな気がしてきた。なんか久しぶりだな。小さい頃はよくやったっけな。結局、綾陽が泣いて、母さんに怒られるのが定番だっけ?

「――ちゃん。おねえちゃん?」

「あっ、何だっけ?」

「もう。……もしかして、喧嘩のことで昔のこと思い出してた?」

「うん。なんか珍しくて、な」

「実は私もそうなんだよね?」

「だよ、・・・」

「待って、今すぐ着替えるから!!!?」

 へっと、火織は面食らったような、非常に力が力が抜けた情けない顔をしていた。多分私たちもそのような顔をいているような気がする。

「「く、あははははは」」

 明日乃と綾陽は互いの顔を見合わせて、くすくす……いや、大きく笑った。抱腹絶倒といわんばかりに。

「あのぉ・・・いったい何が?」

 困り果てた火織が大笑いする私たちに申し訳なさそうに尋ねてきた。

「おぅ、おはよ。火織。悪夢でも見たのか?涙で出てるぞ?」

 くいっと、人差し指で彼女の瞳に溜まった涙の玉を拭う。

「あっ、ほんとだ……。ねえ、明日乃?明日乃はどこにも行かないよね?――行かないよね?」

 は?――どうして私がどこかに行かなくちゃ行けないんだよ?

 ぽんと、少し呆れ気味の私が火織の頭の天辺に手を置いた。

「なに、寝ぼけてんだよ?ばか。大丈夫。…大丈夫。お前の手がかからなくなるまで、そばにいてやる。まずはそれまで。後のことは、後で考える。それでOK?」

 ぐりぐりと、彼女が嫌がるくらいまで、髪がぐちゃぐちゃになるくらいまで、撫でてやった。

「ありがとね。じゃあ、着替えてくるや」

 そういって、火織はバッと瞬間的に私の眼前から姿を消した。まるで脱猫のように。素早かった。

「お姉ちゃん。なにか飲む?」

「ああ、緑茶で」

「分かった。お姉ちゃんも早く準備しないと遅れちゃうよ?」

 またあくびでた。そんでもって、腹を掻いていた。これはもう女子じゃあない。

 それにまだ寝巻きであった以前に私はなにも準備をしていなかった。火織に次ぐように私も洗面所に向かっていた。一様、火織の着替えを持って。

 

 

「最近どう?」

 洗面所に入るなり、家ではめったに話さない、親子みたいな会話を切り出す私。シャカシャカと歯を磨く音に、狭い鏡に二人並んで顔を映していた。しかも見えるのは互いの反面のみなのだが、なんだかすこし楽しいと思う自分がいる。

 そんな中で、こんな会話を切り出している私はまだ寝ぼけているのだろうか?

「あすのぉ~~~~。なんか家であんまり会話をしない親子みたいな感じの会話だけどぉ…そふぉそふぉ、おにゃじきょうしゅつで、しぇきもちかいし、かふぁったこふけいなんてしょふぉしきないでしょぉ」

 ごめんよく分からないな。でもなんとなく言いたいことが分かった。

「それもそうだな」

 ごもっとも。でも私なりに人笑いをとろうとしたのに、寝ぼけたやつに突っ込まれてしまったこの残念感。ミスったか……。

 「ちょっと、ごめんね~~」火織はいち早く洗面台を占領し、口を濯ぐ。がらがらぺって。その後もシャカシャカとゆっくりスピードの私を無視して、火織は寝巻きを脱ぎだす。

 ブラウスに袖を通し、ボタンを留めていく。次いでスカートを履き、最後に靴下を履いて準備を完了させた。リボンは朝食を食べた後に巻くのが彼女のポリシーらしい。だから、現時点でブラウスをスカートにインさせている状態。まだ成長の余地がある二つの膨らみが妙に強調していてなぜだか私は反応をしてしまう。

 私が洗面台を独占している間にきゅっと何かを結う音が後方から聞こえた。

「はい、できた。どう?」

「ん?ああ、かわいいぞ。すっごく」

「~~ぶぅ、ちゃんと見てよ、ほめてよ~~!」

 支度を終えた火織が鏡の前で自分の姿をいろんな角度で映していた。

 そのとき私は適当に褒めてしまったのが仇となって、気まずい情景を作り上げてしまった。顔を洗い終えて、タオルで拭き終わった。

 視線を鏡に映る火織ではなく、本物の火織を見た。急に視線が変わったことに火織の目線は上目遣いとなり、瞳は少し震えていた。

(正直、まともに見れないんだよな・・・)

 今日の一番の変化といえば彼女の髪の毛だった。通常はおろしている姿が多く、それに慣れていないという面で今日の彼女に驚いている。後ろをアップにしただけなのだが、そこがまたつぼというかギャップに私の心は鷲掴みにされた。

 そりゃあ、変化に気づかないわけがないじゃないか。正直に言ってしまえば、かわいくないわけがない。

「か……まぁ、たまにはそういうのもありだな、うんうん」

「もしかして、惚れちゃいました~~~?明日乃、顔真っ赤だよ?もしかして、熱でもあるのかな~~?私が熱ははかってあげようかぁ~?」

「か、からかうなよ」

「きゃっ!?」

 私はからかう火織に仕返しといわんばかりに、彼女の頭を容赦なく撫でてやった。

 最初の方は勢いがあったものの、しだいに衝撃は弱くなって、いつもみたいに撫でるような形になってしまった。正直、恥ずかしさを隠すためのアクションなのだったが、うまくごまかせただろうか?本心を言ってしまえば、根負けだ。かわいいです。

 えへへ。と火織は屈託のない笑みを全開で私の前で曝け出した。

「ありがとう。よし、今日もがんばろっ!!ねっ、明日乃」

「おお、そう・・・だ、な・・・」

 歯切れが悪いのと表情が引きつった私の姿を不思議そうに見つめる火織の頭には〝?〟が浮かんでいるだろう。すくなくとも私にはそう見えている。

 火織は私の視線に倣うように後ろを振り返った。だが、何の変化もなく、むしろ疑問に感じ取っている。私の眼前にいるのは火織を除いて、一人しかいない。それはとてもとても顔なじみのある、我生涯の最高の宝にして姉妹の綾陽がそこには立っていました。そしてそこには笑顔がありました。

 表面上は笑顔なのだが、効果で顔半分特に上らへんに影がかかってる感じ。笑ってるけど、眼は笑ってないやつにすごくそっくりだ。もしかして、そうなんじゃ・・・。

 いやいや、そんなわけ。

「いゃ、綾陽?どうしたのかな……?」

「お茶の準備ができたのですけど、お取り込み中みたいでしたか・・・?」

「?…いつもみたいに、元気注入をしてもらってただけだよ?」

「火織ちゃんは先飲んでていいですよ?」

「うん。明日乃と綾陽は?」

 小首を傾げる火織。

「少し、乱れちゃって。直そうかなと・・・」

 一拍くらいだろうか?それくらいの時間が空いたが火織はわかったと一言残して、自席に座ったと思われる。

「私も準備しないとな~~~!」

「・・・・・・・・・・」

 私の後ろにぴったりとついて、離れるという様子はないと見えた。

 後ろからの無言プレッシャーがものすごく怖い。そして、笑み。

 ぶるるると背筋が凍るかと思った。それくらい彼女のプレッシャーは大きいものだった。

「な、なにか、な……?」

 声が震えてる。

「いいえ。なにも?」

「じゃあ、どうしてそこにいるのかな?」

「いちゃいけませんか?」

「いや、なんか怖いなぁ~って」

 「そう」と一言短く言葉を切ると、綾陽は踵を返し、私の視界から後ろ髪とともに消えていなくなってしまう。

 おそらく、火織の元へ行ったのだろう。

 よくはわからないけれど、怒っているのだろう。その要素が彼女の体位から滲むのが分かった。

 ここは胸を撫で下ろすべきなのか分からなかった。正直わからない。世の中分からないことだらけで悩む。分からなかった。乙女の心が。一様私もなんだけど。

「まあ、早く終わらせないとな」

 歯は磨き終わってるし、後は髪くらいか……。

 早速、髪の毛をとかすが、思った以上に髪がまとまらない。水で抑えたところが、ぼっと破裂した。

(そういえば、水って髪の毛と相性悪いんだよな…)

 鏡に映る自分の顔が少し落ち込んでいる。一体どうしてかな。

 

 

 その後も、準備を終えた私は自席に腰を落とすと、すでに二人はお茶を楽しんでいた。さて、私の分は……って、ティーポッドを手に取ると、妙に軽い。

 それぞれお茶の種類が違うため、一人一個のポッドが設けれれているが、私のはすっと持ち上がった。かといって、二人のを持ち上げたのではないが。

 ポッドを傾けて、カップに入れようとしたが、残念。一滴も出てこない。あれ?

「なぁ、綾陽。お茶出ないんだけど?」

「・・・・・・・」

 綾陽の対応はニッコリと笑うだけだけど、せめてなにか言ってよ。

「なぁ、怒ってるの?」

「怒ってないよ」

 私は、はあとため息をついて席を立ち、ベッドの上に置いた鞄を取り上げ、そのまま部屋を出て行った。

 あまりこういうことで腹を立てないけれど、今日はどこか虫が悪い。

 一昔前はしょっちゅうやってたけど、いつぶりかな。こういうことって。 

 

 

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