IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

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第十五話 それからとこれからと

「はあ…」

 分かっていてもつい溜息をしてしまう。

 それだけ、胸が締め付けられるように痛い。というより苦しくて息すらまともにできていない状態に近い。

 自然を胸元を強く握っていた。

 ふと、周囲を見やる。と広がるのは教室のような広さ、解放感ではなく、細くただただ後ろにも前にも伸びる一本のコンクリートの道。それに、窓が張り巡らされているからするに・・・ここは渡り廊下だ!ただ、何回かは知らないけれど。そんでもって、中央に突っ立っていた。

 はて?いつの間に?小首を傾げても答えはなかなか思い出すことはできなかった。

 私の中の最後の記憶が廊下まで出て行ったというところまでしか残っていない。ということは何かに引かれるように私はここに辿り着いたってことになりそう。大体そうしておけば、ファンタジー要素がでてテンションが上がるもんよ。

 だが、私は顎に手を添えて考えた。一つだけ、引っかかって気になるのが一つある。それは、今日どこで寝よう?―――ってことだけだった。

 単純に謝ればすべて済むんだけど、なんかこう気に病めない感じがしてかつ、素直になれない感じが今の私。多分口も聞いてくれないんだよな……。―――だったら、しばらく部屋に戻らないっていう考えもあるのだけれど、今のところどれがいいのか判断できないのが現状。

 ふと、窓越しから廊下に入る光源の月明かりがヒントをくれた。――屋上?―――なんてのもどうだろうか?この寒い時期に屋上で野宿って・・・。風邪引くな。絶対。

 でも、それだけを理由にして案を消すのもなにかもったいない気がする。そこで私は屋上に下見に行くことにした。

 ならば、まず動かなければならない。私はその場で屈伸運動、伸びなどの軽いストレッチを適当にやって屋上に向かうことにした。真っ暗で本当に何も見えない。正直何か出てきそうな感じがしてしょうがない。

 ここは楽しい気分で行かないと、ここから動けない…。

 よしっと、気合いを注入して、真っ暗な先が知れない渡り廊下を歩くことにした。光源の月明かりだけが頼りだった。

 

 

 放課後からどれくらい経ったのだろう?生憎と時間を知らせるようなものは現在手元になかった。携帯端末も部屋に置いてきてしまった。朝の一件の時に持ち忘れてしまったらしい。

 既に日は暮れ、真っ暗な空が広がる。そこに月が、きらきらと輝いて自己証明を強調している。今の私とは真逆の存在だ。どこか憎い。―――ごめん、ちょっとした八つ当たり。

 無意識に手を伸ばし、掴もうと掌を握ったり、開いたりと動作に出ていた。もちろん掴めるわけはない。虚空を掴むのだ。

 てっぺんに月が昇り、月明かりが周囲、私を明るく照らす。

 人工の芝生が夜風に吹かれ、かさかさと擦れる音が聴こえる。

 こういう空は誰かと見たい気分だが、二人はおろか、友達もまだできていない。結果的に一人。 だからこうして行くあてもなくて、屋上で月を眺めていることしか出来無くて…。

 そんな途方に暮れる気持ちを誤魔化すために、私はその場に腰を下ろし、その勢いで背中を芝生に預けてごろんと寝転がった。

 頭のところで指を組み、リラックスした状態で月を見直す。

 月はどうしてこんな大きいのだろう?……なんて、分かりっこの無いことを問題にしてしまうのはどうしてだろうか?そういう専門的なことは知らない。シリアスになるとどうでもいいことを考えてしまう。

「実は月の大きさは変わらないのです。今は真上に昇っていますが、それは周りのビル、木などの比べるようなものがあるから小さいと感じてしまう。いわゆる眼の錯覚。でも地平線の近くにある月はなぜか大きく見えてしまう。これは先の真逆のことを言ってるのですが…?」

「君は月が好きなの?」

「はい。好きです。あなたもですか?」

 私は視線を月にしたまま話していた。月に見惚れていたとかそういう意味じゃなくて、もう寝ちゃってるのかなって、思ったから。

「うん。なんていうかさ、つい話しかけちゃうってやつ…?別に、返事なんてしてくれないわけだけどさ、でもどことなく安心しちゃうっていうか…、あはは。なに言っちゃってるんだか」

「別に、変じゃあないですわ?その気持ち共感できますわ」

 あ、そりゃあどうも。

「私も毎晩お月見をしていますが、ついつい話しかけてしまいますの」

 それにしても、夢って事にしちゃあなにか会話成立してないか?

 私は閉じていた眼を開いた。

 ついでに芝生をかさかさと踏む音がした。ゆっくりとだが視線をそちらに持っていく。すると細い足に当たるものが眼前に現れた。黒い。ということはストッキングあるいは紺ソックスに当たるのではないだろうか。

 気になった私は、視線を持ち上げると白装束……ではなくて、うちの制服のスカートが入る。ロングタイプだった。

 それでもって、二つの山があって、顔は前髪が隠れて良く見えない。でもうっすらと笑っているということは分かった。

 月明かりに輝く白銀。夜風に吹かれ、髪が弄ばれる。

 私の中で、一瞬時が止まったようだった。

 すると、風が止むと同時に私の中の時間が再び刻み出した。

 あっと、今自分が息をしていないということ思い出した。

 肺に酸素が行き渡る喜びを噛み締めつつ、私は起き上がっていることをさらに思い出した。

「えっと・・・」

 なぜだろう。彼女が私の眼前に現れた瞬間、動機が乱れた。

 しかも腰を落として、正面に顔が見れるようになるともっとドキドキする。

「お隣座ってもよろしいですか?」

「どどど、どうぞ」

 うまく口が動かない。震えている?―――寒さでか?なんつって、でもこう冗談でも言わないと気持ちが落ち着かないってのが心情。

 彼女は私の返事を受け取り芝生に腰を落とした。さっそく月を眺めていた。横顔がなんていうのだろうかわいいってか、あはは…にやけが止まらない。

「どうかしましたか?先ほどから笑っているようですが・・・」

「あ、ごめん。そのつい君がかわいくて、その・・・」

「あ、・・・ありがとうございます……」

 急に真っ赤になった彼女。

 あれ、言われ慣れてるんじゃないの?―――なんか新鮮な気がするな。

「あ、そうだ。私は藤崎明日乃ってんだ。ここであったのも何かの縁ってことで宜しく!」

「私はクラウンですわ」

 私は右手を差し出した、もちろん宜しくって意味で。

 クラウンもどことなく躊躇いを見せるような面もあったけれど、ちゃんと手を握ってくれた。

「手…冷たいね?まあ、私もか…!」

「ごめんなさい。冷たくて。でも、明日乃様の手は暖かいですわね?ずっと握っていたいですわ」

「照れる…、それと、その明日乃様ってやめてくれない?なんかムズ痒いよ。明日乃でいいよ、明日乃で」

「分かりましたわ。明日乃」

 なんか本当に顔が熱いな。こんなかわいい娘に名前で呼ばれるのって。

 しばらく沈黙が続いて、私は彼女の顔を見続けた。もちろん彼女は月を眺めていた。

 ハーフっぽい出で立ちで、翡翠色の玉を宿している。穢れが無く、純粋そうなその瞳は多分憶測だが良い生活をしているように私には見て取れる。

 白銀のその髪は綺麗に手入れをされていて、つい触りたく……。

「どうしました?明日乃?……髪の毛を触りたいのですか?」

 あ、はい。………こくこく。

「だめですわ。これはまたのお楽しみです」

「あ、はい……」

 まあ、そんなこと分かってましたよ。

「明日乃は今日どうしてこちらに来られたのですか?」

「えっと……」

 どこまで話したらいいのかな。初対面だし、深くまで話すのもどうかなって、思うし。

「一つ、当ててみましょうか?」

 彼女は月から目線を合わせたまま、口を動かした。

 ふっふっふと、笑っているからするにふざけているのだろうか?

 でも、さっきだって、私の心の中読んでたし、あながち嘘ではないだろう。多分、クラウンの演出と見た方がよさそうだ。

「あなたは友人や妹さんと喧嘩をしたのではないでしょうか?」

「あ、・・・・・・あぁ、そうなんだけど……さ」

「どこまで話したらいいのか分からない?」

「そう、分かんないんだよね。どこまで話す以前に、君とは初対面なわけだし……」

「それでもって、友達を作っておけばよかった・・・とも、考えていますね?だから、ここに来た。野宿しに・・・」

 何だかわからないけど、彼女は特別な力でも持っているのだろうか?ここまで、綺麗に見抜けられるとなぜだろう、逆に気分が良い気がする。

「すごいね。もしかして能力者?」

「いいえ。少し変わっているだけですわ」

 変わってるっちゃ、変わってるけど・・・さ。自分でも言い切っちゃうんだな。

「今までの私の推測に間違えはありませんか?」

「ああ、間違いない。大体、当たってる」

「では、一つ聞かせてもらえませんか?」

 いいのかなって、私は思った。

 というか、ここまで筒抜け状態の私が何を今更隠し戸惑うのだろうか?―――もういっそ思っていることを全部話してしまえばいい。それで気が済むのだったら。

 一度、眼を伏し深呼吸をし、気持ちを整える。

「じゃあ、聞いてくれ――――」

 私は覚悟を決めて、クラウンに穴を残さず、綾陽との喧嘩のことを話した。―――そして、いつの間にか意識が途切れていた。

 

 

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