IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

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第十六話 彼女の笑顔

 

 

『ん――――』

 何かに呼ばれるように私、明日乃は眼を醒ました。寝起きみたいな気だるさもなければ、さっぱりとしていて気持ちが良かった。

 身を起こしして首を二、三回ほど軽く回し、周囲を見渡す。そこには大草原の緑を主とした世界が広がっていた。

 胸一杯に空気を吸い込み、口の端を上に吊りあがらせた。

 そこに一陣の風が吹き、葉がかさかさと鳴く。巻きあがって来た風は私の肩をくすぐる位の髪を靡かせた。靡く髪を押さえ心地いい風だと、私はぼそりと呟いた。

 この時、ここが夢の中だと判断が出来た。

 根拠として、ここが現実世界と異なっている生物や草類、花が生い茂っているからである。故に空想上の生き物(私が想像した生き物)が我もの顔でそこらへんに生い茂る草を頬張っていたり、闘争していたりと、実にファンタスティックな世界を展開している点において、述べれば大体私の夢と自己的解釈が完了するわけだ。

 だから―――――。

『ってことは、どっかにあの娘がいるってことか・・・』

 ここでの役割というのが存在したりするわけだ。

 天使みたいな容姿な女の子。特に笑うと無邪気で、陰りが無い本当の笑顔を魅せてくるそんな子だ。

 大体私と同じくらいの背格好で、やたらと髪を伸ばしている。その長さは太もものところまで届く。綺麗な淡桃色でなぜかしら私が手入れをしている。彼女が喜ぶからついつい気合いが入ってしまって、やり過ぎてしまうのだがね…。

 ちなみに私の背は170センチです。そうなるとデカイね。

 積もる話もまだまだあるのだけれど、当の本人が一向に現れない。―――ということで、私が彼女を探しに行くことになる。というかそういう展開が多々ある。―――それでもって、そんなリズムに慣れてしまった私ということだ。

 概ね、居る場所は予想が付いている。

 さっそく、軽い体を起こし、彼女がいるであろう場所に向かうことにした。なんだか足が軽い気がする。気のせいか。―――といった感じに私にはこの夢でやらなければならないことがあったりするのです。

 

 

―――コンコン。

 

 

『お姫様?―――迎えに来ましたよ?』

『ああ、いらっしゃい明日乃?!……どうしたんだい今日は?』

 歩く事数分、私は彼女がいるであろう巣穴に足を運ばせていた。普通、岩肌にノックしても綺麗な音は出ないが、そうここは私の夢だから、こんなことも出来るわけだ。

 何というのだろう。とにかく彼女がいるであろう場所は巣穴なのだ。動物が冬眠の際に使うような土に穴を掘ったタイプの。例として、熊―――なのがしっくりくる。

 でも、サイズ的には洞穴に近いから洞穴と言ったら洞穴になるだろう。

 私がある程度歩むことで彼女に接近することが出来た。奥に背を向けて座っていた。ちょこんと。

 すかさず私の声に反応して、こちらを向く。驚きの顔から一瞬にして笑顔いや、喜びの眼差しを向ける顔になった。まるで犬。おもちゃで遊んでもらえることが分かったような犬にとても近かった。だからつい向きになって遊んでしまう。

『迎えに来たって、言っただろう?』

『ああ、そうだったね。で、今日は何して遊ぼうか?』

 口調は冷静にして、行動は素直・・・っと。自分じゃあ隠してるみたいだけれど、これじゃあ丸わかりだ。さっきから、手の、いや全体的に疼いている。

『こんな狭いところじゃあ、病気になるぞ?ほれ、外で遊ぼうぜ?』

『いや、間違っているぞ、明日乃?―――ここには光がある。風がある。故に私は病気にならない!!』

『いやいや、それこそ間違ってる!お前は風の子だ!…子供は外で遊んでなんぼなの!!――わかったら、外行くよ!?』

 少し乱暴気味に彼女の手首を掴んだ。おっと、一歩間違えれば、折れちまいそうな華奢な身体の部品だ。だから、少し力を緩めて相手に害を与えないように心がけた。

『―――わ、わわわかったから、手を離しておくれ?……ちゃんと自分で歩くから?ね?ね?』

『いいや、ここで手を離したら戻るだろう?まだ、百メートルも歩いてない。そうやって、何度その言葉に騙されてきたか。……ほら、行くよ?』

『はい………!』

『素直でよろしい!』

 そこから彼女は借りてきた猫のように大人しくなってしまった。

 いつもこうだと非常に助かるんだけど。なぜだろう少し虚しい。

 ともや後ろで小言が聴こえたが無視してスピードアップ。

 

 

『……な?たまにこうやって走るのもいいだろ?』

『うん……!』

『そろそろ、時間か?』

『うん……』

 最初の内は軽くじゃれている程度だったが、次第にエンジンが掛かって来て、いつの間にか走りまわっていた。小一時間ほど。

 だから、草を背に二人は大の字になって、寝転がっていた。いつの間にか汗も引いて、呼吸も楽にできるようになっていた。

 そんなこれからが盛り上がるというところで、彼女は時間の終わりを眼で物語っていたところを私が問うと物悲しげに彼女が頷く。

 いつの間にか、蒼天の空が茜色に変わろうとしていた。生まれて初めてこの世界に時間系列があることを知った。

 ここ十四年生きてきたが、そのような現象は一度たりとも無かった。多分それは私のイメージが足らなかったり、気持ちが不十分だったりとその日限りのアクションが原因だろう。

 でも、今回はどこかすっきりしていてこの時間が続けばって、何度も願った。…そうは言ってられないのが現状だ。時間は無限ではなく有限。そして彼女といつかは別れを惜しむ日が来る。それは私が年を重ねることに意味があるのだろうか。正直分からない。胸が苦しい。彼女が暗い顔をするたびにだ。

 胸を抑えつつ、それにもうひとつ、睡魔が襲ってくると、目が回ったかのような感覚に陥った。

 そう。私は夢の中で、寝ようとしていた。

 瞼がだんだんと沈み始めている。霞む視界。自分の呼吸音がいつの間にか聴こえているのさえ分からなくなってきた。もう一度、私は彼女の横顔を見たと同時に完全に意識が眠りの海に飲まれていった。

 

 

「―――ん…!」

 ねていた?―――本当にか?

 ―――ってか、あたたかいなぁ……。なんというか毛布に包まれているみたいな…?

 私は眠り眼を擦り、視界の確保をする。―――すると、その予想は半々という結果で当たることになる。

 真っ白な天井。見覚えのある壁紙。しかも白。そして高級ホテル並みの施設完備。……と、ええ、えっと、ベッドが二つ。とりあえず周りを見た辺り最初に気になったのがベッドだった。ベッドメイキングが施されているのか分からないという印象を受けた。

 でも、いつの間に自室に?……昨日部屋に戻った記憶はないし、ってかあのクラウンって娘と話しているうちに急に眠くなってしまって、それから・・・・。

 一つ気になると、ワッと気になっていたものが出てくる。

 ひとまず、起き上がることにしよう。気になることは、まあ…いずれかタイミングが出来ると思うからその時にしよう。

「よいしょっと……!」

 ―――すんすん。

 良い年をした女子がジジくさい掛け声とともに身を起こしたと同時に、まず鼻孔をくすぐる香ばしい匂いがした。

 とりあえず、匂いを嗅いだら腹が減ったに変わりはなかった。ぎゅるる~~~っと威勢のいいけれど、少し行儀悪い腹の虫が鳴る。

 ベッドが降り、匂いの根源に赴く事にした。こう獲付けされているみたいで、私は苦笑した。

 多分、どこの部屋も同じ感じの設計のはずだから、角を曲がったら台所があると思う。

「あっ……!」

 角を曲がると、女子が調理をしていた。―――白銀の少女。昨日屋上で邂逅した女子が台所で調理していたのだ。

 私は軽く口を開けて、表情を変える。そこに私の存在に気がついた彼女がクルリとスカートを翻しながら、こちらに踵を返した。

 彼女の翡翠色の瞳と私の眼が合った。彼女はこちらに大きな瞳線のように細めるようにして笑って見せた。私はそのまま魅せられ硬直してしまった。

 戻るや否や真っ先に制服にエプロン姿が目に付いた。エプロン姿の外国人はテレビ位でしか見たことがないが、はるかに美しくなんというか懐かしかった。

 彼女がしていたのは紺生地の年季の入ったエプロンだった。長さは彼女の膝に届くくらいで、間違えて違う部屋で寝ちゃったみたいな(まあ、事実)私はあいかわらずそこに突っ立ってることしかできなかった。

「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

「あ、ああ……、ええっと。おはよう。うん、なんかごめんね?」

「なぜ、謝るんですか?」

 彼女は私が来る前まで包丁を扱っていた。なぜなら、私の存在に気付いた瞬間に一度手を止めた。そして私の顔を確認し終えると再び切り始めた。

 適当にあいさつを済ませる。白銀の少女の声音少し楽しそうに感じ取れた。

 音を聴くだけで料理が出来ると分かる手際の良さから、小さい時から何かしら手伝っていたのかもしれないと私は予想していた。

 それに楽しそうにやっているのがなにより印象強い。もしかして、クラウンはこの部屋の同居人がいないのでは?―――なぜ、たまたまにも関わらずベッドが一つ空いていた?仮にだけど同居人がいた。だけど馬が合わず部屋を変えてもらったとか?そういう線も考えられるが無いだろう。だって、彼女は……。

「……す…、あす……明日乃?どうかなさいました?」

「――――っ!……ああ。ごめんごめん。なんだかぼーっとしちゃって・・・」

 物事を考え過ぎていて、一瞬彼女のことを忘れていた。

 すでに朝食の準備が整ったのだろう。クラウンはエプロンを取り、たたみ終わり、席に着こうとしていた。

「いや―――。ほら私重かった、……だ、ろ?」

 私は照れ臭そうに頭を欠きつつ、笑いながら彼女に問うた。

「いいえ、とても悲しそうな顔をしていた……ですので私の方で回収させてもらいました」

「とにかく、ありがとう」

 クラウンは首を横に振り、優しく私に笑む。よく笑う子だ。

 そう一言言って、私は彼女に深く頭を下げて、ちょうど昼食ということもあるので部屋を去ろうとした心がけたが……。

「お持ちになって、もしよろしかったら、どうですか?一人でこの量は食べきれませんわ……!?」

「?」

 何を言っているのだろうと、私は一旦視線を丸テーブルに送る。

 和風サラダに、カリカリに焼けたベーコンと目玉焼き、トーストの表面に付いた焦げ目が食欲をそそる。そして、スープが各二個ずつテーブルに置いてあるのだ。

 片方はクラウンが座っておりもう片方は、空席つまり私が座るところだろう。

「どうですか?明日乃……?なにかお気に召さなかったのでもありました?」

 上目遣いで、私を見つめてくるクラウンに私はどぎまぎしていた。なんというのだろう段ボール箱に入った子猫(捨て猫)みたいにこちらを伺っていた。

 正直、食べたいんだけど……。

 

 

 ぎゅるるるるるるるるぅ~~~~。

 

 

「くすっ。かわいらしいですわ。どうですか?明日乃?」

「いいのか?本当に?」

 構いませんわと一言。

 いつまでも意地を張るのも時間がもったいないし、ここはお言葉に甘えて頂く事にしよう。

 空いた席に腰を下ろし、手を合わせ、頂きますと豪語し、頬張った。

 終始、クラウンは嬉しそうにしていた。なんだか、彼女の力になれたら良いのだけれど・・・。

 

 

 

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