IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

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第一話 朝と天使と疲れる一日の始まり

「ん~~~!!」

 目覚めとともに上半身だけを起こし、思いっきり伸びをする。あくびとダルけが身体中からどこかに飛んでいく。

 カーテン越しからの優しい朝の陽射しがまず、目についた。

 晴れだと……。

 晴れといえば、晴れなのだがこの三月の寒さといえば、未だ春とは到底言えたものじゃなかった。それは手足がぶるぶると笑っていたからだ。

(暦だったら、もう春なのに…)

手と手でもみ合いながら、愚痴とは違う言葉を吐いた。

しばらく、揉む。

揉んでも、温まる気配がないので、いっそ毛布にくるまろうと、毛布の端と端を掴んで体に巻きつける時、コツンと右足に何か当たったような気がしたので、巻いた毛布から手を出し、あたりを適当に探すと、コンと軽い金属の様な音が小さく、鳴る。

鳴った所は分かったので、もう一度手を伸ばし掴み、引き寄せる。

 その正体は目覚まし時計だった。

明日乃はもしこれが時計じゃなくて、違うモノだったらと思うと、変なモノを想像していた自分に呆れていた。

 いつも目覚まし時計に怒鳴られて、ギリギリの時間を味わっているのだが、まさに今日に限って早く起きれるとは、なにか嫌なことでも起こるのではないかと思わせた。

 珍しく早く起きれもんだから、なにか特別なことをしたい。―――時刻は5時49分。

 かなりリアルな時間帯だ。目覚まし時計が鳴るまであと40分あまりある。

 顎に手を当て、肘に手を添える形をとるが、これといったことが思いつかず、つい二度寝もありかなと考え込む。

 どうでもいいはずなのになぜこうも真剣に考えているのか?と正直馬鹿馬鹿しくなり、プッと吹きだした。

 ベッドが体重を支えキシッと軋む音が鳴る。その反動とともに無意識にベッドに横たわり、羽毛布団かけ、目を閉じる。

(あっ、なにやってんだ私!?)

慌てて寝そうになっていた自分を必死で、叩き起す。

一度は、目を覚ましベッドの中に収まるとなれど、素直な気持ちには勝てない。勝てないのです。

 しばらくすると再び、意識が遠くなるのが口にしなくともわかった。

(それを考えるのはまた、後でいいかな?)

 睡魔のせいか、そんなことを考えていることすらもどうでもよくなっていき、後回しを優先させ、素直に寝ることにした。

 目を閉じスーッと、浅く息を吐くと寝息に変わり身体が楽になるのと同時に夢の世界に入っていた。

 

 

◆◆◆

 

 

 ――――起きて、おきて……。

 

 それはまるで天使の囁き(ささやき)のようだった。

 柔らかくて、温かくて、何より不思議な感覚があった。

 その天使は私に触れているというのは解かるのだが、その手が頬を撫で方、鼻をくすぐる臭いも、吐息も……。なんとなくイメージが

出来上がっていた。

 それは、まるで……

 

『ねえちゃん…、お姉ちゃん…!!』

 

 私の最愛の妹を思わせたのと、自らが寝たことを自覚させたのはほぼ同時だった。

 でも、なぜだろうか。眼が開けないのだ。まるでその天使があえて目を開かせまいとしているのか。ただ、瞼が重たいだけなのか。分からなかった。

 だが、そんな疑問は頭を撫でる温もりが忘れさせた。その頭を優しく触れる温もりを味わう。

(これが、もし天国と云うのなら、私は…)

 強張った自分の体のあらとあらゆる個所から力が抜けていき、開かなかった瞼が次第に開ける様になってきた。ゆっくり、ゆっくりと見開く。

 視界に入る世界は真っ白かと思いきや、意外と違うもので、それは楽園と言うにふさわしい空間だった。

 空は青く、ひどく青く、空を覆う雲から薄ら薄ら顔を覗かせこちらを見つめる塔に、輝き魅せる赤い太陽。

 下は絨毯のようにフカフカした、柔らかい緑の草たちが生い茂っている。その緑の周りにはさらに四季折々の草たちが花を開き、まるでパレットの中で混ざり合う、絵具のようだった。私の背後に連なった木樹が迷わせるように深く、深くそして黒く、とても先が見えない。これは何かの忠告と悟った。

 桜の雨が降る。

 舞った桜がいくつか頭に乗ったのが分かり、振り落とすために頭に手を当てる。

(そういえば、彼女がいない)

 私の頭を撫でた彼女はどこにもいない。どこを見渡してもいなかったのだ。

 彼女の名前は分からなかったがとにかく呼んでみる。

 呼ぶも返事はない。それと声が出ているかどうかも本当のとこ、分からなかった。

 しかし不可思議な事に私はここをどこかで一度観たことがあること思い出した。

 昨日の寝る前に観ていたテレビとかだっただろうか?―――いや、違ったかな?

 腕を組み空を見た。

 人は何か悩むと空を見たくなるらしいのは本当のようだ。

 私の場合は特に意味なんてなく、ただ綺麗だな。いいな、空って…。思うくらいだった。別に何か出るとか、悩みが晴れたとかそういう意味ではないのだ。

 ふと、右肩に重みを感じた。だから、振り向いた。

 そこには妹と似た(イメージ)とは違った女の子が私を見つめ、笑っていた。それは天使のようでひどく愛らしく、その笑顔に吸い込まれてしまいそうになる。同性なはずなのに、その笑顔にドキッとした。

 真っ白なワンピースにほっそりとした肢体を包ませ、同系色の帽子を被っている。空色の大きい瞳が私を捉える様に見つめ、桃色の長髪が風に靡(なび)く。年代は十代後半と思わせる顔の幼さが大人に少しずつ近づいているという顔の整い方だ。見方を変えれば、二十代にも見えなくもない。かわいい顔立ちからしてもの優しいイメージと、とれてしまうが、彼女は本物かもしれない。

 彼女は優しく笑う。ただ、それだけだった。

「君は誰…?」

 ただ、思ったことが口から零れた。

 それは当り前な質問で誰しもが出合いたてならそういうものだろう。と、言ってもこんな言い方はしないと思うが…。

 その声音はとても優しかった。

「すぐ会えるから―――」

 突拍子もなにもなかった。会って間もないのに、次の事の話をされことが早く進むので私は絶句した。

「えっ!?」

「だからその時まで―――」

「ちょっ、ちょっと待って…!な、何を言っているの?」

 少し前からだけど、私と彼女は少しずつだけど距離が離れてきている。

 手を思いっきり伸ばす、関節が悲鳴を上げるくらい思いっきり伸ばす。だけど、届かない。

 たぶんこれは、夢と現実の境目なのだろう。私が起きようとしている証拠なのかもしれない。抵抗は出来ない、分かっている。素直な気持ちを受け止める。

 この夢は話が見えず、何がなんだかわからないまま世界だけど、彼女が、私から遠ざかって行くとはむしろ私の方じゃないかと、改めて思うと苦笑していた。

(また、あえるかな?)

 空の色、草の色、次第には彼女の色もすべて、真っ白に褪せていた。

 その光景を見て、悲しいとは思えなかった。

 また、ある。その言葉がなんだか元気をもらったから…。

 

 ふと、一息つく。

背後に胸騒ぎを覚え、振り返ると先程はなかった輝きが自分の存在を自己主張しているようだった。もし、その輝きが私を呼んでいるとすれば、好都合だった。

こんな無彩色なエリアははなから御免だ。まだしも、色のある方が楽しいと思えたのだ。

脚が光の方に振り返り、無意識に向かわせる。踵(かかと)が地面に擦れる音が無音世界には相応しい音のような気がした。あまつさえこの音が歩いている実感を教えてくれた。

 進んでいるのは分かるがまだまだ光は小さく、先は長い。

 寝ている自覚はあるのだが、早く起きないかと、起きもいしないことを吐いた。

 一瞬の間。小さかったはずの光が眼と鼻の先まで迫る。これで帰れるという希望を持つことができるが反面恐怖もあった。

 両足、両腕、体、筋肉……、あらゆる個所に力が入らなく、それに伴い意識も遠くなりつつある。

 迫る光がこんなにも温かいとは思ってもいなかった。

それもそうだ、こんな夢は初めてだから…。

 

 

◆◆◆

 

 

「ハッ!!」

 今までにないくらいの見開き、そして上半身を思いっきり起こし、当り前のように散らかりのない整った部屋を見た後ようやくここが、夢ではなく自分の部屋、現実だと分かった。

 横になっていたベッドが軋み、手に伝わる毛布の感触。寒さというのもあり吐く息が白く見えた。

 寝癖で所々はねた、髪の毛を少し荒く掻きまわす。

 ゆったりとしていると、時間のことを思う。自分が二度寝をしていることを一瞬忘れかけていたことが、幸せ馬鹿だと思わせたのと同時にベッドの枕元に置いてある目覚まし時計を探すが、見つからない。

 あれっ?と、少々戸惑う場面を見せつつ、頬を掻く

 ベッドから身を乗り出すと同時に、どうしてこうなったのかという原因が分かった。

 それはそこに残骸があったからだ。

 私が使用しているのは典型的な丸い目覚まし時計だが、今も無惨になるその時計は変わり果て、周りには秒針を守る円形のガラスの破片が大小関係なく飛び散っていた。割れる原因に繋がったのは、自分が投げたことだろう。投げられ、割れたのはそこにこげ茶色の装飾がされたクローゼットがあったからだ。

もし何も知らずに歩いていたら大怪我になっていただろうと自分の注意を褒めたくなった。

さらに、秒針は折れ曲がっており歪な格好をしていた。金具もあちこち凹みに凹みに例え鳴ったとしても、壊れた蓄音器のような音は御免なので、捨てることを選び、新聞紙とゴミ袋を携え後処理をするために体を動かす。

ゴミ袋の端と端をきゅっと、結び終えたのが後処理完了の合図だった。

目覚まし時計を壊す―――というと、今から始まった訳ではない。昔からだ。ということもあり癖になりつつある。毎月必ずといってもいいくらいに時計を壊すのだが、春から通うIS学園でもしこんなことがあると大変なので、この際に直した方がいいのかなと切実に思えた。

しばらくそのことで、考えているとコンコンと軽やかな木材の叩かれる音が耳に入った。

反射の要領で、どうぞと返事を返す。

ガチャッ――。ドアノブが無抵抗のように右にドアノブが回り、そのドアを押し中に入ってくる。一般的かつシンプルなデザインだが、そのシンプルさが私は気に入っている。この今住んでいる家は築60年となかなか長持ちしている。何回もリフォームを繰り返してきた代物なので、外見は少し古びたイメージを感じ取らせるような木造建築。現代の技術をもたらせれば、もっといい外観になると言われたが、私の両親は頑なにこのデザインを推奨させ、今に至るわけだ。あまつさえ、内観ときたら外観とのギャップの差を求め過ぎていたのだ、壁紙は三種類に分かれる。目をチカチカさせられるほど、蛍光色を用いられたリビングに、キッチン。リビング、キッチンの間に伸びる階段は子供部屋に繋がる。和のデザインを施された私の部屋は、唯一の変わった空間と家族にも称され、ドアもなにから、リフォームする際にデザインを説明して作らせた、オーダーメードの部屋なのだ。私の部屋を出ると、もう一つドアがあり、中に入ると桃色の壁紙と子供が思い切り抱いても抱ききれないほどの大きさのくまのぬいぐるみと大小関係なくベッドや机などいろいろ並べられているぬいぐるみたちがこの部屋の特徴だ。この部屋の主は私の妹の綾陽が使用している。私の部屋と綾陽の部屋は本当に姉妹と思わせないほどの差があった。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!?」

「うわっ!?」

 声がすると思い、横を向くと人がいることに驚いた。

 隣にいる人も驚いたが、私以上に驚いていたので、自分の驚きはどこかに飛んで行った。

 思わず、半歩下がる。条件反射で隣にいる人も半歩以上に後に下がり、揚げ句ベッドに踵を引っかけ、驚きの声が悲鳴と悲痛とともにベッドに背中から落ちていった。

 幸いに後ろがベッドでよかったと思う。ベッドがクッションの代わりになり、私以上の反応を見せた人の瞳には大粒の涙の塊が浮かんで、今にも流れてしまいそうだった。

 慌てて、駆け寄り顔を覗かせた。可愛い顔が台無しだと、言いたいところだったが、まずは――

「なに、やってんの…綾陽?」

 彼女がどうして私の部屋にいて、隣にいたのか。いろいろと聞きたいことがあるが、まずは口を開き問うた。

彼女が口を開くよりも前に私は記憶を遡ることにした。掃除が終わって、ひと段落しているところにドアが鳴るから、ドアを開けたところまでは覚えていた。だが、その後のことは皆無といってもいいほど何も覚えていないし、知らない。

唇を少し噛むと同時に、綾陽の小さな口がゆっくりと開く。

「お姉ちゃんの部屋から、変な音が聞こえたから駆け寄ったのは良かったんだけど、お姉ちゃんは途中から返事はしなくなるからずっと名前呼びながら、肩を叩いたり、擦ってみたりしたんだけど…急に返事するわ、で…」

「ごめん、お姉ちゃん、な。疲れてるのかもしれないんだ」

 綾陽の頭を撫でる。猫を撫でる様に優しく。

 むぅと、小さく聞こえるか聞こえないくらいの息を洩らす綾陽。

「う、うん…」

「大体のことは分かった。ありがとう。綾陽…、でも驚かすのはなしだ…!」

 ピンと、綾陽の額にデコピンを喰らわすとコンと軽やかな音を奏でたのと同時にリアクションをした。デコピンはほんの少しだけ力を入れたやつを。本気でやる馬鹿者はいない。

 だが、私の可愛い妹は、そんな大したことのないことにも少しオーバーなリアクションをとるのだ。それが、私の妹の藤崎綾陽の悪いところであり、キュンとくるポイントなのかもしれない。

 温かい陽だまりの様な笑顔で私を見る目は、許すえざるを得ないのだ。

 彼女も春からIS学園に通うことになっているのだが、気が早い事にすでに制服にほっそりとした肢体を包ませていた。

 話は、リアクションの所まで戻る。

 綾陽のリアクションはオーバーだけではない。トロいし、馬鹿力だし、方向音痴だし、胸は私よりデカイわ……。髪の質は私より良いし、目は大きいし、可愛いし……、言ってて分かったが、これは最初の三つ以外嫉みかひがみに感じるのはなぜかな。これって、自虐的というのではないか。

 と、綾陽はようやくとっぷしている体をベッドから起こし、床に引いてある深紅の絨毯に脚をしっかりと立たせた後、一言。

「お姉ちゃん…準備しなくていいの?」

 彼女の彼女なりの気遣いなのは分かる。だが、もっといい言葉はなかったのだろうか。

 なんで、手を出してくれなかったの?とか、私を責めることも出来たというのに責めないのもまた綾陽らしいと思う。

 本人はそんな事を気にする事もなく、明日乃を見て小首を傾げる程度で、目が合うとニコッと笑う。そんな姿を見るとやる気とが削ぐなわれる。

 ―――ダメ、ダメ…。

 こういう時にこそ言うべきなんだと思う。だから、拳を握る。

 いざ、って時に綾陽の制服姿を直視。

 それにしても、いつの間に綾陽はこんなに大人びたのだろう。日常茶飯事、綾陽の事を必ず一日一回以上は見てきたが進化というのは唐突にやってくるのだとこの時改めて思った。

 制服越しから魅せるスラッと伸びた肢体。湾曲に美しいかつ大胆さを感じさせる胸囲。いつまでも子供というより女性に近づき始めている容貌は美しいよりまだ少しあどけなさが残る可愛さの方が強かった。栗色のポーニーテールが揺れる。普段はストレートにして過ごしているが、この際に心機一転ということもあり髪形を変えているのだ。普段の見せない髪形のせいか妙に清潔感を感じる。そしてドキドキしている。

 心拍数が上がってきているのが分かる。その時のこと。

「おっと――」

 体がよろける。

脚に体重を掛けてバランスをとらないと……、だが遅かった。

スローモーション。時がゆっくりと流れ、綾陽が顔を歪ませる。

なんでも傾いて、視点が合わない…。脳が指示を出す時には私は床に這う様に倒れていた。床に倒れる際に頭を強くぶつけたのだろう、なんでも視界が歪んで、気持ち悪い。

これは昔から悩んでいる貧血だ。血が上るとこのようにしばらく動くことができない。酷い時はそのまま病院に搬送なんて事もあるが、倒れるだけなら不幸中の幸いと言った方がいい。そもそもこの病気は生まれつき持っている持病で、激しい運動なんかをするとこのようになってしまう。でも、どうしてIS学園に入るようになったのかそれは、古き知人の勧めだった。君なら大丈夫という一言で、せめても結果ぐらいは知りたかったから―――

 

トロいはずの綾陽が私の体を揺さぶる。揺さぶるのはありがたい、でも感覚がないのでは話は別だ。でも、この揺さぶりが意外と、効いてきて…

「す…ス、ストップ…!」

 苦し紛れの一言でもあり、やめてくれの合図でもあった。

 先程まで、何とも感じなかった体が急に感じる様になった。しかもいつも以上に鮮明で。

 だが、実施のところ声が出ているところがあやふやの感覚で、一生懸命なまでにやる綾陽から地震を喰らったかようにグラつく中で、揺れる豊富の胸は激しく揺れ、私を酷く困らせた。

 

 

 

 

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