IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

23 / 40
第二十二話 心強い仲間がいる

 

 

「あのぅ、私の両親ってどんな人なんですか?」

「そうだね―――。一言で言ってしまえば明るい人たちでね。笑顔が絶えない、そんな理想を描いた人たちさ。頭も切れていてね、私の発想を遥かに超えてしまうんだ。いい意味でも悪い意味でも。そんな二人に私は感謝をしている」

「そんなにすごいんですか?」

 にわかにも信じ難いが、理事長が優しい笑顔を浮かべながら話していた。それは過去に浸りながら、懐かしくそして一瞬の出来事の線をなぞるように話していたのだから私はすっかりとその話に飲まれていた。

 それから、口が開くたびに両親の話を聞いてしまうのだ。本当は会って話を聞けばいいのだけれど、それが出来ないからついつい理事長に話を振ってしまうのだ。嫌な顔を見せずとも話してくれるその顔に委ねてしまって―――。

 時間が迫る中、いよいよこれが最後の質問となる。―――が、先に手を打ってきたのは理事長の方だった。

「今日の放課後はクラス代表を決める決闘があるみたいだけれど、心境はどうかな?」

「あ、理事長の耳にもこの話が通っていましたか。お恥ずかしいながら、そのようなことになりました。身内が相手を怒らせてしまって、その影響で決闘という形に落ち着きました。話によると、相手はイギリスの代表候補生とのことで―――」

「もしかして……、怖い?」

「―――はい」

 緊張感がある。胃が多少なりともキリキリと痛む。

「君は、何も心配することはない。これは私からのささやかな気持ちだ」

「ありがとうございます」

「そろそろ、時間かな?」

 ちらりとクラウンの方向に視線を流す。それを予知していたかのようにクラウンは時間を知らせる。まさに阿吽の呼吸だ。さすが親子。

「藤崎明日乃君。今日は楽しかったよ。私はこの後ここをしばらく留守にする予定だ。その際彼女をお任せするよ」

「あのぉ――どうしてクラウンと名前を呼ばないんですか?」

 先ほどから彼女の名前を呼ぶのは私だけなのだ。理事長は彼女やこの子とまるで名前を呼ぶことを避けているようだ。

「ふふっ。私たちはわけありでね。名前を呼ばなくても意思疎通が出来る。今はこれくらいしか言えないかな。もうちょっと親密度が上がればポロっと口走ってしまうかもしれないね」

 クススと、ジェイルが上品に笑う。

「分かりました。このような機会があればまた」

 私は席を立ち、チョコレート色のドアのノブを捻る。何事もないかのようにお辞儀をし、退出した。

 その際に理事長が手を振っていたが、不自然な場所に手を振っていたのが最後だった。

 

 

 藤崎明日乃がゆっくりと戸を閉め、しばらくが過ぎた理事長室はヴィククター親子の空間となっていた。

 しばらく沈黙が過ぎ、二人は口元を濡らすが、一向に会話が弾まない。これは稀なことではなく、日常から頻繁にある当たり前のことなのだ。

クラウンに父を恭しく思う気持などないはなく、単に苦手なだけだった。分かりやすく言えば反抗期なのだ。

父は何を考えているのか分からない人なのだが、その割にはよく目が行き届いている。それがなんだか嫌なのだ。監視されているみたいで。

「ところであの子は面白いね?藤崎明日乃君は!」

「それはどうも……!」

「あまり嬉しそうじゃないね?」

「いえ、嬉しいですわ」

「本当に?」

「本当ですわ」

 一方的に話を切ろうとするのがクラウンだった。この時ばかりはあまり楽しくない。

「釣れないね~~~」

「釣らないでください」

 抑揚のない言葉が彼女の口から放たれるが、会話がしたいジェイルには痛く、子供の嘘泣きをまねるようにジェイルは両手で握りこぶしを作り、眼のところに添える。そしてえーんと、声を上げ、必死にアピールするのだ。

(無視、無視―――)

 最初は無視をするクラウンは手頃な所に本があったため、それを手元に寄せ、ぺらぺらとページを捲って世界に集中する。

「えーん、えーん!!真紅が構ってくれないよ~~~!」

「なんでそこで本名出しますの!?」

「あっ、やっと返事をしてくれた♪」

 はあ―――と、深い深い溜息が肺いっぱいに吐きだされる。

 クラウン・ヴィクター。本名、不知火真紅「しらぬいしんく」―――。現在は分け合ってクラウンという名を使用しているが、こう構ってくれないときにだけ名を呼ぶ父が……嫌いだ。今はまだ語れないが、後にこの名を明日乃にも知られるだろう。その時に語るとしよう。

 父の名は不知火紡「しらぬいつむぐ」

 現在世界指名手配中の篠ノ之束と肩を並べられる唯一の男性だ。そして彼もその厄介人として指名手配中となっている。

 どうして、わざわざ名前まで変えたのかは知る由もなく、私は今まで平和的に過ごしてきた。しれずとも私の名前が付けられる頃に束は姿をくらまし、紡も後を絶つように姿を消した。最近では紡の死体が発見されたというニュースが耳に入ったが、隣でぴんぴんとしている彼の姿をみると、どこかで細工を施したと心中で笑うことがしばしばある。

 早い話であると彼のDNAと死体のDNAがあったことでこの件は幕を閉じ念願とおりになったということ。

 そこで第二の人生を歩んでいるが、そこでも異彩とまで称され、不知火紡の再来と世間から注目されることとなる。

「お父様。ですから、真紅はもういません!」

「いやいや、そこにいるではないか?」

「茶番はよしてください!?」

 パンと丸めた本を机に叩きつけるように置いた。軽やかな音がして、置いた本人も多少なりとも驚いていた。

「そう、気を立てないでおくれ?」

「私はあなたに話すようなことなどありませんわ!!」

 今度は踵を返し、この部屋を出ようとした。

 その時――――。

「また、君はISを乗ろうとしてるんじゃあないのかな?」

「ッ!!?」

 足を止め、すかさず父の方を射るように見つめた。その瞳には動揺と怒りが走っていた。

「なぜ、そのことを?!」

「私は君の親だよ?娘の考えていることも理解できなくては親失格だからね?」

「何を、綺麗事を!」

「綺麗事だね。でも、私は真紅の親だからね」

「―――できるだけ、その名前は世間に出さないでくださいね……。今見つかったら、ややこしいことになりますから」

「そこは弁えているよ。さぁ、真紅。親子会議を始めようか?」

 いつもの笑みとは違う、妖艶な笑みはこれから起こることの前兆を示している。もちろんジェイル以外誰も内容を知る者はいない。

 

 

二時限目の終了を告げる本鈴を聞いたのは、理事長室からかなり離れた、私の教室に近づいた時だった。それからものの数分で教室に辿り着いた。

教室のドアを開くと、騒がしかったクラスの中が蜘蛛の子を散らしたかのように静かになった。クラス中がドアの方向へ目線を集める。一点集中の的になったのは紛れもなく私だ。とんだ差別である。

目線には睨み、怯え、中には興味を持たずとも確認するものもいたが大概が私を見ていた。以前に何度かこのようなこともあったが、今日は何か違う。そう、私の感が訴えている。未だに見続けられている。

気にすることはなく、私は席に付き、どうしようもなく暇になったため天井を仰ぐ。

依然に緊張感は解けることはなく、沈黙を保ったままである。

(私がなんかしたんかね?)

 身に覚えはなく、頭中にいくつかの疑問符を浮かべる事になった。

 そして、沈黙を引き裂くように、金髪の少女は私の眼前に現れたのだ。

「この空気を作ったのはお前か?」

 目線はそのまま天井を見詰めた状態で、金髪の少女セシリアに問うた。

「なんのことかしら?身に覚え場ありませんわ?」

「そっ。ナラあんたは、いい度胸をしているな?―――セシリア・オルコット」

「あら、覚えてくださいましたの?あなたみたいな庶民にも」

「ああ。私は名前を覚えるのが、昔から苦手でな。出来れば、お前の名前なんて、覚える気は微塵もなかったけど、うちの妹が世話になっちまったから、仕方なく覚えてやっただけだ。むしろ感謝しろ。―――それと、にやついてんじゃあね……。気持ち悪いぞ?!」

「なっ!――なんと下品な言葉を。これだから極東の猿は嫌いですのよ!?」

「てめぇの個人的な感情で、先祖を語るな。―――なんだ、それだけを言いに来たわけか?」

 ハッと、鼻で笑う明日乃。

 目線を下ろし、セシリアに合わせると、彼女の顔は唇を歪ませていた。吊り目が更に吊りあがりもう少しでセシリアという原形を保てなくなりそうなぐらいになっていた。

 もともと、腰に手をつくのが癖らしく、引き絞まった容姿からモデルを彷彿させるが、モデルという言葉もこの時ばかりは地に落ちたものだと思えてしまう。

 我ながら喧嘩腰と来ているし、私らしくないといったら私らしくない。

「貴女みたいな野蛮人を好きに言わせておけば、言いたい放題ですわね!?」

「当たり前だろ?この空気を作ったのはおまえだろ?―――そもそもここはお前の領域じゃあないだろ?まだ学級委員は決まっていないのに早速指揮を執るってか?」

「ふん。貴方こそ眼障りですわ!―――学級委員はイギリス代表候補生のこの私、セシリア・オルコットですわ!」

 胸に手をついて、自己アピールをしてくる。その姿、舞台を演じる女優か何かだ。

「―――で、何が言いたいわけ?」

「簡単ですわ。放課後の決闘、私が勝つと言っていますの。―――そうね、もし貴女が勝ったら、貴女の望みを一つ聞きましょうか?この私が。まあ、勝てるわけないですけれど……」

 いちいち腹の立つ言い方をするなこの女は。

「じゃあ、あんたが勝ったら?」

「それはもちろん、貴女は眼障りですから、ここから消えてもらいましょうか?」

「つまり退学と?―――ハッ。面白い」

 セシリアの言葉にクラス中ざわめきが奔る。

 中には「どうして、こんなことに」「あれはまずいんじゃない?」「撤回してもらったら?」……などという若干引いた意見が耳に入るが、勢いで決してしまった決断に後に引く気などは毛頭ない。こういうピンチとチャンスの間を味わうのも悪くない。要は勝てばいい。負けのイメージはしない。

 実はこの時いや、それよりも前から気になっていたことがある。

 皆の眼がセシリアに向いていることをいいことに私はそれを見た。もちろんセシリアは勝手にしゃべっている。こういうときに助かる。さて―――

 私の席と隣の席のちょっと私よりに近いところにちょこんと膝を折る子がいた。

 髪は白い。それだけで検索が引っかかる。もしかして―――。

「お前―――久遠か?」

「……(こくこく)」

 誰かに聞こえるか聞こえない程度の声でその子に問うた。

何度か首肯をする久遠。

 初めて知った。―――実は昨日のあたりから彼女の存在に気づいていた――のだが、あまり怖いことが得意じゃあないので怖くて見て見ぬふりをして今まで過ごしていた。

 だから、理事長のあいさつに違和感を感じていたわけか。納得。それを思い出せたことですっきりした。

 どうして気がつかなかったかな、私のバカ!――内心で吠えた。

 クスクスと久遠は笑う。やはりクラウンに重なるものがある。――あの時質問しとけばよかった―――。いや、だってケーキが……。と、言いわけは後回しにして。

 じ――――――っと、射るように見つめる久遠に気がついた私はどうしたと小声で話す。

 特に眉を逆ハの字にして、雄弁に訴えているのだ、それを気がつかないほど鈍チンではない。

 私からの言葉を聞きとることはできるみたいだが、自分からものを言うことは出来ないみたいだ。それから何度かリアクションをしてもらった。

 頷く、傾げる、首を横に振るという少ないレパートリーを披露して見せたが、やはりジェスチャーで返すことが多い。どうしたものか―――後で考えよう。

 その時、袖を引っ張る久遠に反応し、何かを見つめていることに気がつく。そして久遠の目先を私は追う。

 私はギョッとした。

 視線の先はセシリアだった。

 既に彼女は怒髪天を迎えていた。喋ることもなく無言でこちらを射抜いていた。

 周囲は先ほどより状況が悪化していた。「こりゃあもう、おしまいだな」「あ~あ、喋ることなく一人減っちゃうのかな?」「燃えてきたわね?!」最後のはマンガの見過ぎだな。

 キ―ンコーンカンコーン。

 私とセシリアは、三時間目の本鈴を聞き、ハッとする。

 扉を抜けてきたのは織斑先生だった。次の授業は織斑先生の担当するものであった。

「いいこと?逃げるんじゃなくてよ?」

 逃げねえよっと―――。

 セシリアは一度髪をふぁさっと、手で靡かせる。どこまでお嬢様意識が高いんだか。

 その背を一瞥し、わたわたと急いで席に戻る生徒たちなどに目もくれず私は綾陽と火織の方をみた。

 私に気がついたのか、綾陽はすぐに背を向けてしまう。―――もしかしたら、今日が最後かもな。なんて。

 でも綾陽も心配してくれてるみたいだし、がんばんないとな?

 コクコクと久遠が首肯する。さり気なく頭を撫でてやる。触れるということに気がついた瞬間でもあった。

「―――心強い仲間がここに入る。なっ?」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。