IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

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第二十四話 彼女の瞳

 

 

 ブザーが鳴り響いてから、手元に重力を感じていた。

 手元を見やると、彼女―――セシリア・オルコットが項垂れていた。

「セシリア!!」

 思わず、声を張り上げてしまった。注意力が足りないのがよくわかった。どうりで視界に入らなかったわけだ。もうちょっと、遅れていたら危なかった。

 顔を正面に向け直すと、セシリアは目を瞑っていた。ブル―ティアーズは待機状態になっており、彼女はパイロットスーツのみの格好となっていた。

 抱っこをするが、どれもしっくりとこない。―――ならばと思い、明日乃はいっそのことお姫様抱っこをしてみる。そのまま、地上に高度落としていき、私も久遠を待機状態にすると無重力からの開放から着地すると同時に思ってもみない程の重力を身体が受けた。

 一瞬、セシリアを落としそうになったが、そこは気合いで持ち直した。

 こんなにも慣れ親しんだものが、まさかのラスボスみたいな立ち位置となるのは人生の経験上初めてだ。

 ようやく、誰かがこちらに走ってくる。

「藤村さ~~~~ん!」

 声の主は、誰でもなく山田先生だった。それとクラウンもセットのようだ。後方を走っていたのだが、等々抜いてしまった。私は思わず苦笑。

「明日乃ッ!?」

「っは、クラウン。先生抜いちゃあ駄目だろ?」

「あはは……」

 クラウンも薄幸そうな笑みを浮かべた。

「藤崎さん――――はぁはぁ……セ、……シリアさんは?」

「先生頑張り過ぎ!」

 ようやく追いついた山田先生に労わった一言を添えた。

「ああ、セシリアは私が保健室に連れてきますよ?」

「本当ですか?」

「あ、はい。―――あ、そうだった」

 何かを思い出したかのように明日乃は真耶に訪ねた。

「この後って、なにか集まりますか?」

「いえ、私たちもこれから職員会議がありますので、本日は解散で……」

「てことは、後日ってことですか?」

 そうなりますねと見ているほうが気持ち良くなるような山田先生の極上の笑みを受け、どきりとした。

 私はAピットから、一言挨拶し、後ずさるように踵を返した。山田先生はBピットからとぼとぼと消えていった。

 クラウンは先に部屋に戻っててという指示に首を縦に頷かせ、山田先生と同じくBピットに消えていった。

 なぜ、Aピットを選んだのかは単純に保健室がこちらの方が近いからだ。

 セシリアを起こさないように細心の注意をしながら、私は保健室までの路を歩むのだ。

「かわいい、寝顔しやがって―――!」

 一つ文句を吐いたが、これはいい意味でのいわゆる褒め言葉だ。

 

 

「それにしても、セシリアのやつ。軽いな」

 第三アリーナから伝わる痛い気を掻い潜り抜け、保健室への路を歩んでいる。

 薄暗い廊下だ。外は夕焼け色だが、残念なことにこちらには日が入ってこない。電気を付ければ話は早いのだが、こう電気のスイッチがどこにあるのか分からなかった。こう言うのに限って、廊下の端っこに設けられているんだ。

 それよりもセシリアだ。私の手の中で収まるセシリアは本当にお嬢様といっても過言ではない。もしかしたらそうかもしれない。

 伏せられた双眸、小さい寝息、化粧品か何かの甘い香り。どれをとっても私はかないそうにないな。それくらい起きている時と寝ている時のセシリアの印象は違うものだった。別に起きているセシリアが嫌いというわけではない。ギャップというやつだ。それに少したじろっただけ。

 セシリアの瞼が何度かぴくぴくっと力が入る。それからゆっくりと青色の双眸を開かせた。寝ぼけ眼が辺りを一周。この姿勢に気付かず、不思議そうに観察に勤しむ。

 腕の中で何度か動くとようやく私に気がついたのか、こちらを一瞥。

「あんま、動くと落ちるぞ?」

「………」

「セシリア?」

「………」

 私に興味があるのかそれとも寝ぼけているのか分からないが、セシリアは私を凝視した。私は思わず、歩みを止めて硬直した。

「あなた……どこかで見たことのある顔ですね?」

「おいおい、私だよ、藤崎明日乃!――忘れちまったのかよ?」

「―――!、あすの……?」

 訝しげな表情から一変、何かを思い出したかのような顔をしたかと思えば、また顔が難しい顔になってしまった。

 セシリアは首をぐいーーーーーーっと、横に傾ける。釣られて私もぐいーーーっと、傾けてしまうが、彼女に変化はおろかこの状況を楽しんでいるように私の瞳には映った。

 もしかしたら一時的に記憶を失っているのかもしれない。となると、それは風花のあの一撃に何かあるのかもしれない。

「あすの?―――どうしてそんな顔をするの?」

「えっ……?」

 そこで意識が現実に引き戻され、自分の現状を知らされる。要するに私が怖い顔をしていたということだ。ついつい悪い方向へ話を傾けてしまった。少し自重しなくては。

「ありがとう。セシリア……」

「あすの、元気出して?」

「あの、セシリア?―――君の頭の天辺あたりにあるドアを引いてくれないかな?」

「はーい」

 元気のいい返事をし、片手でドアをスライドさせた。

 まず目に入ったのが藍色と夕焼け色を混ぜたかのような空が透明ガラス越しから覗く事が出来た。

「きれい――。きれいだね?あすの」

「ああ、とってもね」

 腕に収まるセシリアが一言感想を述べた。声もそれとなく高く本当に驚いているようだ。

私もそれに共感できる。藍色と夕焼け色の二色のコントラストが混ざることで描き出される芸術的な絵は当たり前のように見てきたこの時でさえ、再び関心を湧かせるものだった。セシリアがそういうことで私も首肯することが出来た。これにはセシリアにお礼を言わなくては。

 先生の名を呼ぶも反応が無い。いないのかな?

 とりあえず、セシリアを近くに空いたベッドに下ろす。

「よいしょっと」

「ありがとう。あすの?―――でも私どうして寝てたの?」

「私とセシリアは戦ってたんだ、学級委員ってやつを決めるためにさ」

「がっきゅういいん?」

 小首を傾げるセシリア。この時私はどこまで彼女は記憶を無くしたのだろう?と、考えてしまった。

「そこまで、忘れてるのか……?」

「?」

「ああ、ごめんごめん。こっちの話」

 何から順に追って話せばいいんだ?――――この学園のことからか?いやいや急には難しいだろ!?―――私たちの間柄か?―――決闘仲間だな。いやいやいや。それもどうかと思うな……。なにから、話したらいいんだよ。

 思わず手を頭に着いて嘆きたい気持ちになった。でも、それが出来ないので、内心で激しく叫んだ。

「よし、順に君がここにいる理由について話していくから、良く聞くんだぞ?」

「うん!」

 セシリアは首肯する。それを皮切りに私はセシリアについて話し始めた。

 その話は夜の帳がどっぷり浸かるまで掛かったそうな。

 

 

「ふ・じ・さ・き、あ・す・の」

 疲れた素振りを見せずに保健室を退出していった明日乃。その前に保健室の先生、入谷(いりや)が帰って来た事で、明日乃はセシリアの様態を簡潔にまとめ、入谷に肩を叩かれていたが、内容そのものはセシリアには届いていなかった。

 最後に、頭を軽く撫でられ、また明日な。と、一言残して消えていった。

 今はデスクに向かう入谷の姿と、空調を整えるために空けた窓ガラスから入ってくるまだ肌寒い風のみだった。

 急に寂しくなり、彼女の名前を一字ずつ唇を震わせながら、声に出していく。出来るだけ入谷に聞こえない程度の声量で挑戦してみる。

 ぽっかりと空いた隙間に明日乃という文字がはまっていく。この気持ちは何だろう?落ち着くっていうのかな?心が満たされていく、というのもある。この幸福感は一体。

 胸が高鳴る。息をまともにさせぬほど苦しい。つい胸に手を当て心拍数を測るのだ。―――ドクンドクンドクン。心の臓は早鐘を鳴らしていた。今までにないくらいの不可思議な現象に身が震えた。

 意識をすると尚胸が苦しくなる。これは一体なんなのだろう。今の浅知恵では到底導き出すことのできないものであった。数学の公式よりも難しく、その正体を知ると尚苦しくなるものだ。

 なるべく入谷に悟られずに、足をパタパタしてみたり、コロコロ転がって見たり、とかく忙しなく動き回ることで落ち着きを得ろうとしていたのかそうでないのかは本人のみぞ知る。それほど、明日乃と明日というのが待ち切れなかった。―――というより明日ってなんなのだろう?お菓子かな?という陳腐な発想が彼女の頭を支配していた。

 そこにデスクワークを済ませた入谷が肩をコキコキと鳴らしながら、興味無さ気に問うてきた。抑揚など無く、言葉では感情を読み取ることが出来ないのに対し、表情も眠そうに眼を半分開けている程度で、謎という言葉が似合いそうな人だった。

「ごきげんだね……。なにか良いことでもあったのかい?」

「うん!……ねぇ~~入谷~~~」

「ん?―――なんだい」

「明日とはなにぃ?」

 ああ、と手慣れたように入谷はハスキーがかった声音で説明をしだした。

 入谷は甥っ子が遊びに来たかのような扱いをして、セシリアとの時間を潰した。もちろん明日乃から聞いたことを元に導きだした答えだった。―――そのあとは彼女、セシリアが眠りに着くまで傍にいてやった。

 

 

 ―――コンコン。

 

 

 夕焼け色の空が理事長室を赤く染める頃、一つの渇いたノック音が静寂を破った。

「ど~~ぞ~~」

 ジェイルはいつもの快活そうな声を上げ、ドアを鳴らした主を入るよう促した。

 それは躊躇いもなくノブを捻り、当たり前のように、まるで自室にでも戻るかのような自然さを醸し出しながらも、丁寧な振る前を忘れることはなく、パタンとドアを閉めた。

「やぁ、待ってたよ?」

「失礼します」

 ジェイルは窓に張り付き、クラウンのことなどを全く視界に入れていなかった。純白なスーツは夕焼け色が反映して赤く染まったような幻惑を受け、その姿は実に無気味であった。

「用件は―――藤崎明日乃の使用する久遠についてですよね?」

 少しうんざりしたような声音の主は紛れもなくクラウンであった。

 にぃと振り向くジェイルの顔も返り血を浴びたかのように深紅に染まっていたがけしてクラウンは臆することはなかった。

なぜなら、父が悪戯好きにも程があるからだ。これもすべて彼の計算通りということだろう。だから、尚疲れるというわけで、先に顔に出してまった。

「クラウン。どうしてそんな辛気臭い顔をしているんだい?笑いなよ?ほら?」

 そう言い、ジェイルは自身の口の端を上に押し上げ、笑顔を作る。

「早く帰りたいのですが……。とりあえずそちらに試合の映像を添付したのを送らせてもらいましたが、拝見なされましたか?」

「クラウン。そんなに堅くならなくていい。もっと、柔らかく。ソフトにソフトに!!」

「―――」

「母さんの時は常に笑ってたくせに。どうして私の前では……」

「お母様は関係ありません。これは生まれつきです」

「―――まあ、いいや。試合の映像は確かに拝見させてもらったよ。彼女は―――」

 ジェイルはデスクにつき、頬杖をついてパソコンのディスプレイを流す。

 そこには放課後に撮影された試合の映像が流れていた。もちろん明日乃の試合だ。

「大変興味深い。―――が、まだ歩きだしたばかりだ」

「私も同感ですが、セシリアを破ったのはまぐれではないかと」

「そんなこと分かってるよ。いやまぁ、あんな世代が違うのに負けるわけないし…。多分……いや、確実に強くなるね。明日乃君―――それと君も」

「何を言っているのですか?理事長」

 デスクに頬杖をついたままだがジェイルはリズムをとっていた。それもとても楽しそうに。表情はこのあとも何があっても絶対に変えることはないだろう。現に眼を細め睨みつけるクラウンが眼前にいるのだから。

「文字どおりだよ?」

 

―――コンコン。

 

 それはこの時を満に持したかのように、唐突にやって来た。

 口角を吊りあげ、喉の奥で笑うジェイル。この時、クラウンは背筋に何かが走った。

「入りたまえ!」

 一拍置き、ドアが抵抗なく開く。

「失礼します。理事長殿」

「君まで、畏まらないでくれよ。ははは」

「すみません。これが営業スタイルですので……。父さん」

 部屋に入って来たのはスーツがよく似合う女性であり、クラウンのよく知る人でもあった。

「お姉さま!?」

 不知火(しらぬい)星羅(せいら)。クラウンもとい真紅の姉にあたる存在だ。

 現在はヴィクター社に席を置き、IS関係の仕事に携わっているが、実際日本にはおらず世界を股にかけるエリートといったところなのだ。だから突然帰ってきたり、こうしてわざわざここに顔を出したりするのだ。そしてすぐにいなくなってしまう。神出鬼没という言葉が似合う人で、それが定番だ。

 漆黒のジャケットに袖を通し、スラリと伸びた足にパンツがよく似合う。カツカツとヒールの足音を響かせながらジェイルの元まで距離を詰める。

 灼熱を彷彿させるその髪はよく目立ち、一つの房に纏めてある。そのためか清潔感を醸し出している。端正な顔立ちは人目を釘付けにするだろう。情のある瞳は強い信念を燃やす。そこに私は強い信頼感を得ている。姉としてもあるのだが、人生の先輩としてもだ。

「やあ、真紅。元気にしてたかい?」

「はい!―――姉さまは?」

「積もる話もしたいところだが……悪い、先に父さんに話がある。それからだ」

「じゃあ、私は……」

「いいや。真紅もここにいてくれ」

「はい。わかりました……」

 そう言いクラウンから視線を外し、肩に掛けたカバンから茶封筒を出して見せた。

 A4サイズの厚みのある封筒だった。

「うん。これが例の?」

「はい。報告書です」

 どれどれと、早速封筒の中身に食らいついたジェイルから笑顔が控えめになった。それほど大事なことなのだろうかとクラウンも渋い顔となった。もちろん姉も。

 パラパラと紙が擦れる音のみで未だに静寂の時間が続いていた。読み始めてから十分が経とうとしていたが、クラウンからすればこの時間がとても長く感じられた。まるで自分が提出した企画書かのように。それほど身近に感じ取ることが出来た。

「―――うん。なるほどね。第四世代の試験は順調みたいだね?よかったよかった」

「はい。喜んでもらえてよかったです。」

「まあ、経過報告としてちょくちょく連絡は貰ってたし、そこまで驚く事はないかな」

 再びジェイルは頬杖をつき、にぃと笑顔を張り付けた。それと同時に二人の糸も和らいだ。特にクラウンはジェイルの見えるところで胸をなでおろした。

「で、その試験パイロットなのですが……」

(試験パイロット?)

 クラウンの思考の中で、試験パイロットというワードが引っかかった。

 以前、姉がその仕事にも携わっていたからだ。今は忙しいということもあり、違う人―――つまり時々私が駆り出されるわけで―――に任せているみたいだが、今回はそうではないらしい。面立ちも十分に恐いし、声も少し震えている。よっぽど重要な作業ということだろうとクラウンは悟った。

「試験パイロット?」

「ああ、今制作中の第四世代の試験パイロットを探しているのだが、いかんせん我がグループにはそこまでの逸材が存在しなくてね。困っているんだ」

 そこで、と星羅が続ける。

「真紅さえよければ、手伝ってほしい」

「私は……」

「苦い思い出があるのは分かる。それでも君が必要なんだ」

「そう言っているんだけど、クラウンはどうする?どうしたい?」

「私は、ISにならないと決めてます。あの日をさかえにそう決めました」

「冷徹の歌姫【プリンセス】だっけ?かわいいじゃあないか」

「はい。その名の通りです。―――もう恐いのです。正直」

 無意識に震える手手を見つめながら、そう告げた。姉は曇り、父は飄々としていた。

「でも、君はいつかそれを強く欲する時が来る。―――まあ、その時まで私が温めておこうかな?―――他に代理にできそうなのはいるかな?」

「はい、こうなるとわ――――」

「すみません」

 クラウンは二人の会話の間に割って入り、一度深々と礼を済ませ、踵を返し部屋から出て行った。

 一度は星羅も止めに入ろうとしたのだが、ヴィクターが首を横に振ったことで、指示通りに見送った。

「あ……」

 ぼそりと、星羅が呟く。手を伸ばしたのにそれを掴むことが出来なかった。

 クラウンは顔を下げ、前髪が影となり、表情が読み取ることが出来なかったが、星羅にはあの顔が沈んでいるように見えてしょうがなかった。

「あれでいい、彼女は。ところで藤崎夫婦はどうしてるかね?」

 父は冷たく切り離すが、今は何を言っても意味が無いだろう。そして話題を変えるように促す。

「二人ともぴんぴんしてますよ」

「そうか、ならいい」

 疑問符を浮かべ、星羅はジェイルに問うてみた。

「もしかして明日乃ちゃんのことですか?」

「ああ、一度親子の時間を与えなくては、そろそろ彼女も会いたそうにしてるしね。―――ここまでの褒美としてね」

「ふふ。父さん。そういうこところは相変わらず変わってませんね」

「変わる必要はないのさ。それより星羅はここにどれくらいいるのかな?」

「そうですね、ざっと二日間といったところでしょうか♪」

 星羅は人差し指を立て、少し得意げに申した。それとどこか頬が紅潮して、上に吊り上がっていた。

「ほどほどにね」

 短く言葉を切り、くるりと椅子を回し、外に張り付いた。

 昔から星羅がご機嫌の時は、大抵妹の真紅にべったりなのだ。だから、突然彼女の前に連絡なしで現れるのは妹の驚く顔が見たいからでもあり、父親譲りの精神が強いからである。

 そんな姿を見ているのも気持ちが悪いとジェイルは視線を逸らし、短く告げる。

「クラウンの部屋は、明日乃君と同じだ」

 案の定、くねくねと身をよじらせていた星羅の姿はそれはそれは気持ちが悪かった。もしこの光景を誰かが今見たとすれば、ドン引きだろうし、こうインプットするだろう。仕事のできる人は皆変態だ!と。彼女は残念ながら、知らない国民はいない。いや、全世界でこの人を知らない者はいないと置き変えた方がいいのだろう。深いことは言えないが彼女は有名人だからだ。

「ところで、明日乃ちゃんと同じということは。相部屋で解釈していいのかな?」

「ああ。君にも好都合だろう。好きにしていい。私が許可をする。けれど、ちゃんと人型にして返してね?」

「分かってますよ♪」

 はぁはぁと荒い息を吐きながら、身をよじることを止めない星羅は極上の笑みを顔面に張り付けていた。依然ジェイルは外に張り付きぱなしだったが。

「では、真紅の方に行ってきます!」

 ピシと敬礼を決めて、スキップしながら退出する星羅の姿を尻目に、ひらひらと手を煽るジェイルは、どこで成長過程を間違えたのかなと、一人薄く感じ取っていた。

 パタンと扉が閉まりきったと同時にくるりと反転。デスクに頬杖をついた。

「今日はお客様が多いねぇ~~~」

 そのジェイルの声に応答はない。

 再び始まる沈黙。十メートル未満の二人の距離は詰まるの一言だ。

 恍惚そうな瞳を晒し、ジェイルは本日最大級の笑顔を浮かべる。線のように細くなったその瞳がそれを射とめる。

 漆黒のドレスを身に纏い。輝く白銀の癖っ毛交じりのボブカット。印象に受けるのが夜だ。

 その子が、沈黙の圧に押し潰されることもなく、ジェイルを凝視していた。くりくりとした宝石のような瞳がジッと見つめている。

「喋れないんだよね~~~」

 こてんと首を傾け、残念そうな視線を向けた。その子も同じくこてんと首を傾けた。

 やってなすことはかわいいのだが、言語がほしい!喋ってほしい!ぜひとも声を吹きこみたい!―――押さえきれぬ悶々とした気持ちが爆発しそうになり、デスクの上で激しく転がり、鎮静化を図るがむしろ逆効果。もっと妄想が膨らむばかりで、この気持ちが収まらない!!!!!!

「ぜひとも、今すぐやろう!!!いいね!!?」

 ビシッと、その子がいた場所は指す。―――が、そこには何もなく、ジェイルは眼を何度もぱちくりさせた。思わず立ってしまった自分が少し恥ずかしい。次第と気持ちが落ち着き始めて、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。そして先ほどと同様にデスクに頬杖をついた。

 その子は、あらかじめこうなることを推測していたのだろう。ちょくちょく遊びに来るので自然と学んでしまったのかもしれない。前まではここにずっといたのにな―――と頬を膨らませながらジェイルがぼやく。

 盛大に溜息を吐きだし、天を仰ぐ。

「明日乃君、声欲しいとか言わないかな―――」

 

 

 彼女の名は久遠。

 現在のパイロット兼パートナー。藤崎明日乃………。

 

 

 

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