「ただいま~…」
「おかえりなさい。明日乃♪」
「うわぁ!!急に飛びついてくるなって!!危ないだろ?」
「いいじゃあ、ありませんか?」
私が部屋に戻るころには、すっかり日も暮れ、夜の帳が降りていた。
待ち構えていたのかクラウンが、ドアを開けるやいなや飛びついて来た。――今までこんなことなかったのに一体どうして?――それと、彼女が飛びついて来た位置がちょうど臍のあたりで私はおぅと声をあげてしまう。
この自然と部屋に戻る感じを私は当たり前のようにしていた。まるで自室にでも戻るかのように。
それよりも腹をガシッとロックしたクラウンの様子の方が今は何よりも大事だ。
「なにか、嫌なことでもあった?聞くよ?」
「……」
「おいおい。言わないとこれ(抱きつきのことね)剥がすぞ?」
更にギュッと、腕が絞まる。その度にわき腹が絞まる。
珍しいことをする時は大抵、なにかがあったという。理由は気を晴らすためだ。
声は漏れるが、けして痛くはなかった。すっかり、黙り込んだクラウンを剥がすことを止め、とりあえずドアは―――閉めていた。
(気が動転してるな……)
思わず苦笑。
しばらくこの状態が続き、彼女が落ち着くまで頭を撫でたり、背中をさすってみたり、人が落ち着くであろういくつかの行動をしてみた。
そろそろかなっと明日乃が考えていると、突然左腕のジャケットが何者かによって引っ張られた気がした。否、確実にそれは引っ張られていた。
「?」
反射的に左側を見やった。そこには裾を何度も引っ張る久遠が佇んでいた。しっかりとした引きに腕が持ってかれそうになる。おまけに身体はロックされているし……。とりあえず、今動けるのは表情筋のみだった。待って、待ってと強く念を表情に込める。
すると、伝わったのか彼女もなにかジェスチャーで返してきた。―――よし、久遠の通りにしてみよう。
「そ、そうだ!クラウン。腹減ってないか?」
久遠の出した指示がこれだった。
腹のあたりで、何度か円を描くように擦ってみせた。つまり言葉にしたように腹が減ったというサインであった。その数秒後に腹が鳴った。
久遠は話せない代わりにサインもといジェスチャーが多彩である。大体は一目見て分かるものが多い。それに表情でも読み取ることも可能で非常に助かるの言葉に尽きる。
「はい!ぺこぺこですわ!!」
今日のクラウン変だなっと、私は笑ってしまう。
「うおぅ!!?私の妹がそんなに懐いているの久しぶりに見たァ!!」
「えっ?」
「おお、おねえさまぁ~~~~~!?」
「ええ、えっ~~~~!!!??」
突然ドアを開けて何かを叫ばれることよりも、覗いている人が実の姉ってことを聞かされた方が何よりの驚愕な事であった。
私は思わず二度三度左右を見返してしまい、つい声をあげてしまった。しかも周りが何事っと、野次馬が湧くくらいに。
「へぇ~~~。君が藤崎明日乃君か~~」
「えっ、あっ、はい。明日乃です……」
場所は変わって、食堂。
先ほどは周囲に野次馬が湧きに湧くという事態を生んでしまい、一歩間違えれば、こっぴどく言われるので、速いところズラを刈り、食堂に逃げ込んだ。ちょうど腹もすいていたところもあるのと、食事中に話が済めばいいかなってというノリで訪れた。現在各々の食事が済み、食後のお茶を啜って、談笑としゃれこんでいる。
席の配順は前にクラウンのお姉さん。左にクラウンが来ていた。
先に食いついてきたのはお姉さんの方だった。恍惚そうな瞳を浮かべ、あれやこれやとどっちかというと事情徴収みたいな感じで時は流れていく。
「ところで、姉さまはどうして部屋の方に?」
「いやぁ、妹のことが心配でね。泣いてないかなっと思ってね?」
私は言葉にはしなかったが、さすが姉妹と関心をしてしまう。常に通じているということが改めて分かった。簡単にわかるような世界ではないことを私は知っている。現私は……。
「暗い顔をしてどうしたのさ?」
「ああ……すみません。こっちのことで」
「ん?悩み事?」
「まあ、そんな感じですね」
ふーんと残念そうな表情を浮かべ、口元をお茶で濡らす姉。
「そういえば……、お名前は?」
「あ、言ってなかったけ?私はカトレア・ヴィクタ―っていうのさ。一様クラウンの姉で―す」
「対照的ですよね?なんか太陽と月見たいで…」
「その口説き文句はよく言われるね。髪でも見たのかな~~?」
そう言い、ふて腐れたように灼熱を彷彿されるその髪の毛先を弄ぶ。心なしか口を少し尖らせている。
「いや、……それもありますが性格なことでも」
「それもよく言われるかな。私が元気印で、妹が大人しめのしっかり者って」
○○は背もたれにふんぞり返る。少し呆れたような表情を作って。
「クラウンは確かに大人しめかもしれませんが、人情がとても熱い娘だと私は思っています。私が間違えた時はしっかりと叱ってくれるでしょう」
「ふ~ん。クラウンがそこまで、熱くなる娘だとはね。それだけ、君のことを気にいっているのかな?」
ぶ―――――!!
クラウンが口に含んだお茶を吹きだした。それでもって器官にでも入ったのか思いっきり咳込んでいた。
「―――どうして、いつもデリカシーが無いのですか?」
「わるい、わるい。これも私の癖だ。思っていることをつい言ってしまうんだ。こういう風にさ」
「いいと思いますよ?そういうの。ちょっと羨ましい」
「明日乃…」
「ひょっとして君一人っ子?」
「いえ、一人います……でも、今は喧嘩中で」
頬を搔きながら、気まずそうに明日乃は言葉をつぐんだ。
クラウンは姉を睨み、カトレアはごめんと言いたげな表情を浮かべていた。
「あ……悪い」
「あ―――で、でもちゃんと仲直りをしたいなって考えているんです。ただ、タイミングが悪いのと、向こうが距離を置いてるって言うか」
「姉さま……」
熱のあった会話はいつの間にか冷め、沈黙の時が訪れていた。
明日乃は珍しくおろおろと何の話題を切り出そうか悩んでいるみたいで、クラウンは無言の圧殺を姉に決め、カトレアは参ったな~~と、表情を曇らせている始末。
「あ~~、さて、私がここにいるのはもう一つ訳があってね。明日乃君にもちょっと手を貸してほしいんだ」
「私に?」
「そうそう」
頬杖をついたカトレアがにっこり笑う。
それと、先ほどからちょくちょく視線を浴びていた。多方向から。主にカトレアさんの方に。
「ん?―――先程から妙に視線を感じるねぇ。明日乃君?」
「あ…多分。珍しいからでは?」
謙遜した明日乃がおずおずと答える。
「そうかな?」
再び髪の毛を弄りだす。
灼熱を彷彿させるその髪が原因なのか漆黒のスーツが目立つのか……それとも両方とも目立つのか。
分からないが、人目を引くには十二分、それ以上にあるのではないかと私はカトレアさんという人物に触れて分かったことだ。これはクラウンの時にもあったから、やっぱり変わった何かを持っていると考えてもいいかもしれない。
「なーにぃ。じろじろ見てんのさぁ?そんなに私に魅力を感じてんのかい?」
「はぁ……でも、魅力があるのは本当ですね」
「照れるなぁ…。からかうつもりが逆にからかわれるとはね。君も私と同じで正直だね。もしかしてクラウンを落とせたのもその正直なところなのかもしれないね?」
カトレアは片目を瞑り、ウインクをした。
「………」
私は隣に座るクラウンに自然と目が行っていた。本人は下を向いている。おかげで髪の毛が影となり表情が読み取ることが出来ない。気のせいかもしれないが、彼女に少し熱が帯びている。それに恥ずかしそうにスカートを握っている面から相当恥ずかしいのか照れているのか、にわかだが読み取ることが出来た。
(ここで、フォローしなくては)
内心でぐっと、拳を握る。言葉も思いついたし、タイミングは今。
「まぁまぁ…。クラウンを落とすとか、そういう気持ちとかないんですから」
「……」
キッと無言の圧視。私は思わず口が引きつった―――あれこれじゃないの?
そのままクラウンはこちらを見続けていた。背の高さから自然と上目遣いになるのでこの時が一番どきりとする。だが、私の目はあながち間違ってはいないようだった。彼女の頬は予想通りに熱を帯びて、紅潮していた。少し妖艶さも入っていた。でも、涙の粒を翡翠色の瞳に貯めてこちらを見ている時、少し胸が痛んだ。
「ああ……ええっと」
「君はつくづく幸せ者だね。これなら、この娘を任せてもいいかな。私の公認で」
ふふんと得意げに鼻を鳴らすカトレア。とても表情が映えていて、思わず見とれてしまう。
「ああ~~~。そうだ。君たち、相部屋になってどれくらい経つんだ?」
「「実は……」」
二人は互いに目を合わせ、実に気まずそうな表情を浮かべたのち口をほぼ同時に滑らせた。
その間、カトレアはうん?と頭に疑問符を何個か並べていた。
「え~~。忘れたの?」
「はい。実は最近ばたばたしてたので、時間感覚が鈍ってまして……」
「あはは!!ふたりしておっかしい」
「記憶だと、明日には大丈夫だと思いますが……」
あははと腹を抱えて笑うカトレアに言い返す言葉が見当たらなかった。
二人して顔を真っ赤にしていた。互いに顔を見合わせてクスッと小さく笑う。
「―――でさ、話し戻るけど、いままでどこにいたのさ?」
「話はほんの前に戻りますが、その話に辿り着くまで小話がありまして」
「早く話しなよ?」
「ここって、入学前に研修ってありますよね?」
「ああ、入学してから乗り遅れないために行われるプログラムのことかな」
「はい。その時に一つ事件というか内輪もめみたいになったのがありまして…」
「ああ、そんなことがあったねぇ。その件は表沙汰にはなってないよ。私の記憶では」
「そうですか。――――その件が起きたのはISの基本動作を行うプログラム中で、突然一人の女子生徒が暴れ出したんです。二人被害にあってしまって…。その時に間に入ったのが私です」
「君か……」
「はい。その暴れ出した女子生徒てのが―――」
「吉音火織君だね?―――今思い出したよ。確かそれから、君が彼女を止めて、学校に彼女の世話をするようにと命令させたはず」
「はい。あの時は監視と部屋割が変わる位で済まされました。その時に妹と火織と私の三人での生活が始まりました。それから学校が始まって順調に日が立ちまして、それで妹とぶつかって、今に至るんです。情けないですよね?」
明日乃は頭を垂れた。前髪が影となり、表情はもちろん読み取ることが出来ない。
隣で見ていたクラウンは明日乃が自身の手を強く握れることに胸が痛んだ。
「君って、結構人思い何だね?話を聞いてると私と被るところが何個かある。だから本当は冷たく見放すとか色々あるのだけれど。気が変わった。―――しばらくクラウンの傍にいて感じるといい。君は臆病ものではない。ただ、考え過ぎなんだ。だから自身が納得するような結論が出るまでとことん悩め、そして知れ。自分の愚かさって奴を――――ん?ちょっと待て、君何も持たずにクラウンの部屋に上がり込んだのか?」
「……」
急に身をよじらせるクラウン。
「あ……そうなりますね……」
「―――どうりで同じ匂いがするわけだ。もしかしてそれクラウンの一式?!!」
応える間を与えず、カトレアは首をもたげた。
「さて、積もる話はこれくらいにして、さっきの話し覚えているかな?」
「―――手伝ってほしいって、話ですか・」
「そうそう」
「姉さま、これはどういうことですか?」
「ああ、クラウン。きみはさっきの話覚えているかな?」
その言葉を聞いた瞬間に奥歯を噛むような音がした。表情も一変、なにか都合が悪いことでもあったのであろうか。
「クラウンはこんな感じなんだよね?―――明日乃君君はどうしようか?」
「私?ですか……」
「今日君は一皮剥けたんだ。―――久遠、どう?」
私は左耳のイヤ―フックを反射的に撫でる。ちゃんとあることを確認するために。待機状態の時はアクセサリー形状でいつでも呼び出すことが出来る。
「これは父さんと母さんがくれたもの。何不自由なんてありませよ」
「そう、良かった。でさ、私からのお願いなんだけどさ。君確かISランク測定不能だったよね?―――それゆえにイレギュラーって言われてるのは知ってる?」
「時々言われます。それっと、どういう意味ですか?」
「人によっては悪く言い人もいるかな。私たちの中では解放者とか無限の可能性を持つ人って呼ばれたりしてるね」
「どういう意味ですか?」
くすくすと笑ってしまう明日乃に対し、言った本人は不思議そうにしていた。
「君にとっては、おかしいかな?―――でね、君にISランクを与えようと思うんだ。まあ、拘束具で縛る感じなんだけれどね。どうかな?」
まるで、父を投影を見ているようだった。
口だけではなく、技術ともに才を見出し、それを商売道具として生きてきた父の姿がそこにはあった。クラウンの瞳にはそう映っていた。
とうとう姉にまでその影があることが分かった。そして見ることが出来る。これは喜ばしいことなのだろうか?
「クラウン。―――クラウン?」
「あっ、はい!」
「明日乃君はOKって言ってるんだけれど、クラウンはやっぱり駄目だよね?」
「明日乃からデータをとるんですか?」
「うん。ちゃんと頂こうと思うのだけど。でもぉ、対戦相手がほしいかなって…。あ~~どっかにいないかな?」
後半はほとんど棒読みそのものだった。
「分かりました。その話乗りましょう」
「おっ、話し分かってくれたのか。嬉しいな」
含み笑いプラスほくそ笑みを混ぜたかのようなその顔はあたかもこうなることを前提に話を進めていたものだとこの時ようやく理解することが出来た。
「よし、じゃあ、後で連絡するから、宜しくね~~~。それじゃあ、私はこの辺でお暇しましょうかね」
一度、こちらに立ち寄り、クラウンの頭を撫で、手をひらひらと呷りながら退出していった。その間も人目を奪っていたのは言うまでもない。