私は少し勘違いをしていた。
学年別トーナメントが始まるのは来月の六月下旬。私は今それが始まるもんだと認識していた。本当は―――クラス対抗戦というのだ。
クラス対抗戦。文字通りクラスの長たちによるリーグマッチだ。はなしによれば、これからIS実習も本格的になるのはもちろんだが、まだそれすらまともに始まっていない。だからこれはスタート時点での実力指標を作るために行うらしい。
またクラスでの交流およびクラスの団結を固めるためのイベントでもある。
そしてそれを行うにはもちろん景品も付くわけだ。やる気を出させるために優勝クラスには学食デザート半年のフリーパスが贈られる。それにクラスの順位が下位だろうがなんだろうが、それ相応の商品が贈られるという話もあるが結果が出るまでのお楽しみという―――なるほど。どうりで女子が熱中するわけだ!―――とまあ、ここまでは一年生内での話しを簡単に纏めたかんじだ。
学年が上がると、クラス対抗戦はもちろん、チーム部門といった一年生には無かったコースを選ぶこともできるらしい。商品はやっぱりデザートらしいです……。
―――でその開催日が一年が五月。二年が六月。三年が七月といった一月ごとずれた日付となっている。――で、それが終わると学年別トーナメントに移り変わる。
今度は全学年が強制的に行うイベントなため、一週間程かけてやるそうだ。
そんな事細かく覚えられない私、藤崎明日乃はこうして、クラス対抗戦当日にパンフレットと睨めっこをしていた。
既によそのクラスの戦闘が始まっていて、私は控え室で待機中だ。モニターはリアルタイムを中継していて中には入れなった生徒たち用というわけで、外がやけに忙しなかった。おそらく、いや絶対に観客席は満席と謳っている。そんな中で戦うのだからなお緊張する。
こういうイベント事だからこそクラスの垣根を越えて友達を作ることもできそうだ。ちょっと羨ましかったりもする。
今行っている試合が終わると、次は私の番だ。この後に昼休憩が間に入って、午後一番から行うそうだ。
私の対戦相手は―――三組の島原(しまばら)百花(ももか)という生徒だった。その子の前情報をあらかじめ持っていないので私にとっては本番までのお楽しみということだ。
今日もクラウンは朝からいない。紙のメモを見るに、午後には戻りますとしか書いてなかった。おそらくヴィクタ―社に赴いているのだろう。
カトレアさんの研究が終わったのがつい昨日のことで、データを持ってそそくさと去っていった。発つカトレア後を濁さずってやつだ。
だから、早速彼女が呼ばれてもおかしくはないと韻を踏んでいた。そしたら案の定今朝には既にいなかった。カトレアさんのことだからすぐに終わるだろうな、なんて呆けていると視界が唐突に暗くなった。
眼を包み込む優しい温もり。次に聞き覚えのある声音が聴覚を支配した。何度か耳の中で反芻し、落ち着いた私は名前を当てに行く。
「クラウン?」
「やけに自身が無いように感じられますが?ファイナルアンサー?」
「おぅ、ファイナルアンサー?!」
どこのクイズ番組だよって、思わず心中で突っ込んだ。そういえば日本の番組好きだもんなって、ずっと日本育ちか。
「正解です。ただ今戻りました」
「おう。眼がちかちかする。あぁ、おかえり。クラウン」
視界が回復し、クラウンの無鉄砲な笑みに私はドキッとした。
丁度、ブザーの鳴る音がして、視線をそちらに配る。
「次は、私か……?」
自ずと声が震えていることに気が付いた。手も冷たいし、心臓は早鐘を打ってるわで。
隣にいるフリルたっぷりの藍色のドレスを纏った少女・久遠はくりくりとした瞳でこちらを見上げるように凝視していた。なにも知らないあどけなさが残る子供のような目線だった。
片目を瞑り、ウインクをすると、納得が言ったかのように久遠は笑った。腕にしがみつく彼女の細い腕は私の腕をより一層大事そうに握った。
昼食も済ませたところで、いつのまにか緊張は解れていた。これもクラウンのおかげだな。早速、第三アリーナに入り、軽いストレッチを開始する。時間まで後十五分くらいある。
手の行き届く範囲でこなした時には、身体がぽかぽかと温まって来ていた。
アナウンスが入り、ISの装着許可が降りたところで、早速、久遠を呼び出す!
左耳のイヤ―フックに手を添え、光が体中から溢れ出す。解放された光は明日乃を包み込み、再集結するように纏まり、IS本体として形成される。
各部に接続され、身体が浮遊する。何の問題もない。すこぶる良好だ。
展開まで0.5秒の出来事。
機体を上空へ。
そして、対戦相手が打鉄を駆って、私に釣られるように彼女も上がって来た。ここまでてこずったような場面はなく、動きも滑らかでまるで手足のように扱っていた。
打鉄は、純国産の第二世代型ISで、安定した性能を誇るガードタイプ。初心者でも扱いやすいというのもあって、企業並びに国家などでも採用され、もちろんIS学園でも一般的に使われている機体の一つだ。
打鉄自体が西洋鎧というイメージより甲冑に近いイメージの為、どうしても彼女が現代に生ける武者にしか見えない。それだけ様になっているともいえるのだが。―――余談だが、彼女が使用しているこの学園の打鉄は誰でもが使用できるためにパーソナライズ、フィッティングはもちろん切られている。
基本武装が刀型近接ブレードのみで今まさに鞘から抜き身となり、鉄色の実体剣独特の渋さ、鋭さが、そこで披露された。刀身に乗る冷たさが私を武者震えさせる。
「私は島原百花だ。宜しく。今日の試合互いに楽しもう」
「私は藤崎明日乃だ。同じく試合に全力を注ぐつもりだ。だから、受け止めてくれ!」
プライベート・チャンネルが繋がり、彼女――島原百花の顔が画面に映った。
突然ではあるが、遅かれ早かれこちらもそうするつもりだったから、丁度いい。
短い言葉の交わしだが、私なりに纏めたつもりだ。それをどう受け止めるのかはさて置き、もうじき試合が始める。
デジタル時計を見ながら、心の中でカウントダウンを行う。――5、4、3、2、1……。
ビーーーーーーィ!!
ブザーが鳴るのとほぼ同時に、百花の先制を許す。
ブレードを顔の横に構え、腰溜めのように姿勢を低くすると、それがブザーが鳴るのとほぼ同時に解放され、突進してくる。突きの構えのようなスタイルはこちらに吸い込まれるように一気に間合いを殺したのだった。
一つに結った真っ黒な髪は振り子のように激しく揺れた。
―――来い!風花!
私は右腕を前に持ってきて、そう願った。
光が右腕に集まり、それは像を結び、形を形成し、一瞬の爆発的な光を放つとそれは――風花は手に収まっていた。
素早く盾のように風花を構えると、丁度のタイミングで百花の近接ブレードが突進してくる。それを同じ力で相殺し、相手の勢いを利用して私は押し返し、逆手で柄をとり袈裟切り。
逃げ遅れた百花はもろにダメージを受け、後退する。
解像度を上げ、百花の顔をアップにする。冷ややかな表情はこの事態を想定としていたのだろうか、全く変化することはなかった。―――端正な出で立ちをしているんだから、もっと喜怒哀楽になった方が得な気がするな。(たとえば値引きとかさ、それは少し違うか?!でも、将来的に必要だぜ?)―――それじゃあ、宝の持ち腐れだぜ?クールキャラは今時古いんだぜ?
風花をくるんとバトンの要領で顔の正面に持ってくる。スラスターをふかし、リズミカルに百花の懐に流れ込む。
一閃。刹那、百花は身を捻り逆立ちのような体勢になり、反転してさらに捻りを加えたことで上手く背後に回り込まれた。つまり背中が開いてしまったのだ。剣を振るう私の腕が遠心力を利用して切り回しを計るよりも先に背中に痛みが走った。
「くっ!!」
苦悶の表情と悲痛の声が漏れた。
更に、背中に蹴りが入り、身が崩れた隙に正面から×字の切りを刻まれた。
力なく地上に落ちていく。
観客の悲鳴のような黄色い声援が耳をこれでもかってくらい劈くようにうるさい。顔もそれなりに強張っているし……、まるで、私の負けを暗示しているようでいやだなァ……。
―――ズドォオオオオォオォンッ!!!!!
盛大な音を出しているわりには、Gや衝撃による被害はなく、小さなクレ―タ―を作ったくらいで済んだ。ゆっくりと身体を起こすと、制止するように鉄色に鈍く光る刀。そう近接ブレードが眼前に映った。喉元付近にそれは向けられていた。
見下すような冷ややかな瞳。光が無く。慈悲という文字は彼女の心の中のあるとは到底思えないような印象を与えた。何のためらいもなくただ勝利にのみこだわる……そんな感じがした。
手をつき、その時気が付く。不幸中の幸いというのか風花はしっかりと手中に収まっていたということを。
視線を手元から百花に移す。唇を少し尖らせて、反骨心を露わにし、睨みつけるように見やった。
「こんなものですか。藤崎明日乃?――少し買被りすぎました。恐くも無いその睨みは猫の威嚇にしかすぎない。……でも、次の一手で貴女は負ける。だってそうでしょう?」
百花の言葉通り、これは悪あがきにしかすぎず、シールドバリアーも百を切っていたし、本当にあと一撃を喰らえば間違いなく負ける。
けれど、これほど悔しいのはどうしてだろう。手も足も出なかったこと?―――いや、もっと簡単なはず―――そうだ。彼女の熱意だ。
彼女の動きから、言動から楽しむという思いがこれっきし伝わってこない。本当に、本当にだ。まるで自分の本心を殺して無理しているような……。
最大まで掲げられた近接ブレード。振り下ろされるまでそう時間はかからないはずだ。
だが、私にもチャンスはある。逃げるチャンス?いいや、勝つためのチャンス。手に収まった風花を強く握り、歯を食いしばる。奥歯がぎりっと鳴る。
「これで、おしまいです!!」
この時、彼女の闇を見た。不気味に弧を描き、極上の笑顔を張り付けたそんな彼女の姿を。
剣戟のコースは脳天を真っ二つに切り裂く事が出来るだろう一直線ど真ん中。
ゆっくりと軌道を描きながら刃は容赦なく明日乃を切り裂こうとしていた。視覚が先行してゆっくりと見える。この感じは交通事故なんかを連想させた。
再び上がる観客席の悲鳴を、搔き消すようにグラウンドに剣を叩きつけたような音が支配する。
―――ドォォォォォオオオンッ!!!!
アリーナ外のリアルタイム中継を観ながら、クラウンは衝撃映像に茫然自失の一歩手前まで来ていた。
相手側の打鉄の攻撃が決まったのか、判断が出来ない程グラウンドの土は舞い上がり、未だにモニターが晴れない。
クラウンは思わず手を合わせ指を絡め、天に祈った。
しばらくする映像が回復し、モニターを、眼を細くして堪えた。おそらく観客席でも同じような事を皆しているだろう。
そして、会場の皆の表情が一変した。
「明日乃ッ!?」
――ガギィンッ!!
リアルタイムモニターに、視界が回復された時、第一に聞こえた音がそれだった。
剣と剣とが弾く音。その間に散る火花。
そこでは今まさに鍔迫り合いが展開されていた。丁々発止といった言葉が似合う光景だ。
幾度も響く剣の音。両者が切り抜ける姿がまるで、舞っているようにみえる。
自ずと観客席まで熱を持ち、先ほどまでの畏怖をどこかにやったかのように黄色い声援が会場、アリーナ外を支配していた。
互いに鎬を削り、一進一退といった隙あらば攻撃するスタイルが観客を奮い立たせた。二人の勝利を譲らない信念を強く感じさせるワンシーンでもあった。そこに明日乃の放ったハイキックが百花に命中した。
現に明日乃の攻撃ターンがやって来た。雄叫びに似たそれを吐きながら、下段から上段に向けての逆袈裟。
「ハァァァァアアア!!」
天まで持ち上がった風花は、左肩から右の脇腹を目掛け更に攻撃の後を刻む。
私の攻撃に堪えたのか百花に次のステップは来なかった。明日乃は距離を置いてスラスターを噴かし、フラフラの百花の腹めかけ切り抜ける。
明日乃はその勢いを殺さずに反転。もう一撃を彼女の胸に鋭く速い逆袈裟を放つ。×字に切り刻まれ、よろめいた隙に止めの一撃をお見舞いする。
会場、モニターは時代劇のワンシーンを観ているようだった。
次の瞬間、全体的に静寂に包まれた。明日乃は自然体に戻ると同時に後方を見やった。
島原百花は前のめり、そして重力に従うようにグラウンドに沈んでいく。
その時―――ビィィィィ!!
ブザーの報せ。
静寂に支配された会場は何テンポか遅れて、その時に状況を理解。そして歓声が会場を支配した。拍手喝采の鳴りやまない雨に明日乃は棒立ちになった。
「君のかち…だろ?……素直によろこびなよ?」
両手、両足を大胆に広げた島原百花が、肩で息を整えながら、話しかけてきた。とても同じ女子とは思えない行動が自分を観ているみたいで、急に恥ずかしくなった。
「女の子なのだから、足を開くな!!」
「あ、ああ……」
さぞ言われた本人はびっくりしただろう。眼を瞬かせ、口を何度か痙攣させたのち力ない返事を返した。
それと同時に私は手を差し伸べる。釣られるように百花は私の手を掴んだの。
「ごめん。強く言ってしまった……」
「父にもよく言われた。癖ってやつだ。気を緩ませると出てしまう」
「それにしても、島原さんは強かったけど、なにかやってたの?」
「まあ、齧っていた。ほんの少々な」
照れ臭そうに答えてくれた百花は、ジェスチャーでほんの少しを表現してくれた。
「その……藤崎。あのだな――」
「なんだよ?急にかしこまって」
頭に疑問符を何個か浮かべた私は、彼女の余所余所しさに不思議と可愛いと感じてしまった。ぎこちなく視線を彷徨わせ、心なしか頬も赤く、なんかとても緊張しているみたいな印象を与えた。―――されたことないけど、告白でもこの後受けるのではないか?とさえ錯覚してしまいそうなそんな一場面であり、こちらにも変な緊張感が漂っていた。
「―――わ、私と……友達になってほしい!!!!」
「え……あぁ、友達ね。オッケ、オッケ。――てか、そんなことか。こっちも変に緊張しちゃったよ」
いやだな、と私は頭をかきながら、顔を赤らめた。今度は百花に疑問符が何個も乗ることになった。
「ダメ……だろうか?藤崎」
「いいや。もちろんおっけーだ。それと、藤崎じゃなくて明日乃なっ!!」
クスッと、百花は笑う。そんなに面白かっただろうか?さておき、そろそろ上がらないと怒られそうだ。
「積もる話は後にしてさ、まずは上がろうぜ?」
「ああ、そうしよう。明日乃」
「な、なんか照れるな……」
急に名前を呼ばれたので条件的に驚く半面、こそばゆい感じがして、次に照れがやって来た。なんかいろいろな感情が一気に込み上げてきたというべきなのだろうか。それと、優しく笑った感じで言われたのも少しあったりする。
「なんか堅苦しい喋り方だけど、あんま無理しなくていいよ?同期だし」
「いや、実は昔からそうでな。父からの遺伝みたいというか」
「なんか侍みたいだな?そういうのかっこいいぜ?」
今度は百花が照れた。顔をうずくめて表情を悟られまいとする行動をやってみせた。
「そういえば、さっきから百花のお父さんが過去形になってるんだけどさ。もしかしてさ……」
「ああ、すまない。変な勘違いを呼んでいるみたいだな。父はぴんぴんしているよ。この頃会っていないからかもしれないな」
「そっか。なんか安心した」
引っかかった疑問も晴れ、同時にピット前まで到着。
とりあえず私側のピットに入るなり、ISを解除した。ISが担っていたものから解放され、どっと身体に重力という荷物を私たちに背負わせた。
そこに追い打ちをかけるようにクラウンがやって来て……。
「明日乃!!御無事で!?」
「あぁ、大丈夫だ……。心配掛けさせて悪かった……」
「はい。本当に……、どうにかなりそうでしたわ!!……バカ…!」
私の胸に顔を埋めて文句を吐いたかと思うと次にぽかぽかと何度か叩いてきた。胸による緩和で痛みというのはなかったは嘘になるがほとんど効いていなかった。けれど、ここまで心配させてしまったという点においてはかなり胸が痛い。
そこに、謙虚に入って来たのが百花だった。一瞬、彼女のことを素で忘れていたのはここだけの話だ。
「あ、あのぉ……。明日乃?彼女は?」
「あぁ、彼女はクラウン・ヴィクタ―だ」
「ヴィクタ―?」
聞き覚えが無いはずが無い。だって、ヴィクタ―社は世界的に有名な大手企業なのだから。とくにこの学園を援助している点においても彼ジェイル・ヴィクタ―がバックにいるのだから知らないわけがない。逆に知っていて当然というわけだ。さらにここの理事長なわけだし。
百花は一瞬逡巡するかのように顎に手を添えた。そして眼を見開き紡ぐ。
「もしかして、ヴィクタ―社の令嬢か?」
「あぁ、そうだ」
そこで迷いから革新に変わった百花は頭のてっぺんからつま先まで見て、私の方に身体を寄せて小さな声でこう言ってきた。
「どういう関係かな?」
「どうもしないけど。強いて言うなら、恩人ってところかな?」
「普通逆では?」
「確かにな……」
多分、クラウンがこちらに媚を売るように近づいてきているのが、百花にとって不思議な光景に映ったのだろう。本来なら私がその立場のなのだろうが、いかんせん甘えるのが下手なのだ。もしかしたらそれを見計らって彼女からスキンシップをとってくれているのかもしれない。
おっと。二人でコソコソしていることに違和感を感じたクラウンが静かながらこちらに圧をかけてきていた。背筋がぞーっとした。
「ああ、すまないね。私は島原百花だ」
百花は思い出したかのように自己紹介を始めた。差し伸べた手をクラウンは握ろうとはせず、明日乃背中で小さく威嚇していた。多分身長差かもしれない。私とほとんど同じくらいだ。私が170㎝だから。ざっと、168~9㎝くらいかなって。
百花は黒髪が似合う長身美人だと思うのだが、クラウンからは恐いのかもしれない。それに、ここでクラウンの知らない一面を確認することが出来た。意外と人見知りな面があるということを。
「なんかさみしいね」
「すまない。ちょっと、照れているんだ」
「照れてません」
抑揚のない言葉だ。それじゃあ、友達作れないぞ。
ここで、百花に対して少し申し訳ない気持ちがしてきた。本人はもちろん苦笑い。
手で謝るポーズをして、善意を露わすとクスッと百花が笑った。
「さてと、これから宜しくな、百花!」
「こちらこそ宜しく。明日乃!」
手をガシッと握って、本台は次の試合についてに変わった。
話を持ちかけたのは百花の方からだった。
「次の対戦相手は七組だな。大丈夫か?」
「ふふ、あぁ!大丈夫だ。私にはこいつがいる!」
「ひゃぅ!!」
私はクラウンの肩をこちらに引き寄せ、身体を密着させた。すると、クラウンが素っ頓狂な声を上げた。
「ななな、なにをいきなり!!!?」
顔を真っ赤にしたクラウンが更に詰め寄る。互いの顔が更に近づく。まるでキスをするみたいに。こちらが見つめ返すと彼女の瞳に同様の色が生じ、慌てて眼を離すと同時に身体も明日乃から離れた。
「何がともあれ、私のパートナーはクラウンなんだ。彼女は強い。だから、背中を預けることが出来る。いや、強ければ誰でもなんてわけじゃあない。彼女は特別なんだ。でも、時々他の意見ほしいんだ。その時は頼んでもいいか?」
「あぁ、いつでもいいさ。こんな私でよければな」
「ありがとう」
「いいよべつに」
「じゃあ、今日はこれくらいにしますかな?疲れてるだろう?百花」
「まあ、疲れてないって言ったら嘘になるがめずらしく疲れた気がする。そうしよう」
最後に互いに握手し、明日乃はクラウンと共に部屋に戻っていった。百花は明日乃たちと違って反対を指している。だから必然的に反対方向へと歩き始めていた。
明日乃とクラウンが角を曲がるとき、百花の姿はそこには当たり前のようにいなかった。