IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

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第二話 朝食と準備と夢うつつ

 

 しばらくすると、ごめんなさいと綾陽から謝ってきた。

 当り前のことだが、素直に謝るものだからこちらも少し戸惑ったが、素直に免じて許すことにした。

 それはそれとして綾陽に時間を聞くことにした。

 一置きして、ポケットにしまっている携帯を取り出し起動させ、操り時間を口にする。

 時間を聞いた瞬間、もしかしたら遅刻かギリギリかと思ったが予想以上に時間があることに目をぱちくりさせた。

 とりあえず、まずは腹ごしらえと思った瞬間に腹が賛成と言わんばかりの歓声を上げた。

 綾陽と顔を見合わせ笑った。

 

「お姉ちゃん…!」

 うん?と、後ろに続く少女に返す。

「お父さんとお母さんは早くに出て行ったから…」

 綾陽の口からはとても言いにくい様に濁らせていた。言いにくいその言葉も意味を知っている私は部屋を後にする前に頭を軽く掻きまわして、大丈夫と言い聞かせた。

 母はIS関連の仕事をしているが、どこで働いているのかまでは定かではない。ときどき帰ってくるくらいで、深く追求するまでには至らず、ただ遠目で見ている方が私には丁度良かった。でも妹のほうは私のようにはいかず、甘えるようなことを度々繰り返していた。母も時間が空いた時には少しでも多くの時間を過ごすために離れずにいてくれた。

それは嬉しかった。とても、でもなんでだろう。私は満足しているのだ。習慣が付いてしまったように。

閉じていた目を見開き背後を見やると綾陽の顔は曇っていた。

よほど寂しいのだろう私以上に、欲が深いからだろうか。違うか?

私はお構いなく階段を下降していき、台所に顔を出す。

台所には、すでに出来上がっているおかずがどんぶりに入ったのが一つに小鉢の様なものが一つ。炊飯器に目を向け、スイッチを押し蓋が開くとムワッとご飯の良い匂いが鼻を擽り、食欲をそそる。台所のコンロの上には中鍋が置いてあった。蓋を開けるとわかめと豆腐がたくさん入ったみそ汁が中鍋一杯に作ってあった。

鍋を火にかけ、電子レンジにどんぶりを入れ、スイッチオン。

電子レンジがうねり声をあげながら、回る。

特に作業はないので、腕を組み鍋を見張る。

 

おいしそう。

早く食べたいと思い、台所の下に設けられている食器棚から食器を取り出し、程よく温めたみそ汁、ご飯をよそう。

みその香ばしい匂いが鼻を擽りさらに食欲が増す。お盆にみそ汁とご飯を乗せ、テーブルまで運ぶ。

手際良く、運び終えるとタイミングがよく電子レンジがチンと短く歌った。

早く食べたい自分が急きたて、ドアを開け食器に手を伸ばし掴むと同時に、指先に激痛が走る。慌てて両手をひらひら振り回し、耳たぶに触れる。

(ふー。あっつ…、急ぎ過ぎた、どんだけ腹減ってるんだよ、私…?)

 結局、耳たぶだけじゃ治まらず冷水に指を突っ込む形に収まった。水に入れたことによりヒリヒリとした感覚は治まったが、少し赤みが残った。

 水を切り、キッチンのタオル掛けに掛っているタオルで、手から水を拭き取る。

 拭き終わると同時に、開けっぱなしの電子レンジに足を進ませる。

 どうしても、食べたいという気持ちが強いので、再び両手に鍋つかみを装着し、突っ込む。鍋つかみを付けてるおかげか、さほど熱くないと言っても時間が経てば熱くなるのは分かっているのでテーブルに事前にしてある鍋敷きにどんぶりを置き、サランラップを捲(めく)ると湯気とともに料理が顔を出した。

 ひとつは母の得意とする肉じゃがだ。黄金色のジャガイモに、汁をたくさん吸った玉ねぎ。いんげんの緑が彩と食欲をそそり、色彩が鮮やかだと改めて思えた。

 ぱんと両手を合わせるといただきますと、次いだ。

 すかさず箸を右手で握る。綺麗な一汁三菜だ。

まず箸が狙いを定めたのは白米だった。一つまみ、箸の先端が白くなった。そして口に運ぶ。…と、つい笑みを零してしまう。

(これこれ~!これだよ!)

 頬が朱に染まり、足をバタバタと上下に振り、抑えんばかりの声を心中で吐く。

 このふんわりとしてかつ、ケーキのように甘く、入れて直ぐに口の中で溶けてしまうこの食感が、昔から食べ慣れている母の味を思い出す。この味のおかげで米が好きになったこと、三食これでいいとさえ思ったこともあった。

 だが、さすがにこれだけを食べるのは作った相手側に悪いと思ったこともあって、直すきっかけに繋がった。でも、この母の味にはこれはこれ、それはそれはと、つい食べ過ぎてしまう。どうしてこの味になるのだろうと考えていた当時のことを思い出す。

 続けて、みそ汁の入った器に手を出す。ずずっと、音を立て啜(すす)る。

 あー、日本人でよかった…!と思わせる瞬間。至福のひと時。

 含んだ時、味噌の風味が口中に広がり、鼻からスーッと爽やかに息を吐くように通り抜けていく。後味はさっぱりと、くどいわけでもなく自然と流れ込んでいくような感覚。

 これが藤崎家の味だ。つい一口で、半分も飲み終えてしまった。それくらい飲みやすいのだ。ちなみに、さっぱりとした後味にするのはトマトなのだ。

 それが、中鍋に丸ごと一個毎回必ずと言ってもいいほど浸かっていた。

 どれだけ浸からせたのか、どうしたらさっぱりとした後味になるのか、いろいろと感じるが、自分の最優決断は意外な組み合わせというほかは何もなかった。

 普段何も考えず、好き勝手に過ごしてきた人間にはちと難しい考えだった。

 明日乃は顔をしかめた。みそ汁をひたすらに眺めた。だが、みそ汁は何も語らない。語るわけがないのだ。だが、彼女は分かっていた。語らない。でも、もしかしたら……。

「…………」

 静寂の間が台所を支配した。だが、その沈黙はすぐに戻ることになる。

 明日乃の目は線のように細め、顔を近づけたり、時には離して見たりと分かるはずもないのに片意地を張る。ガシっと、両手でお椀を掴み逃げない相手にもかかわらず、容赦ない明日乃の姿をたまたま台所に用があった綾陽が見たことにより話は終結した。

 やはり―――語るわけがなかった。たぶん、それはこれか先も語ることもないだろう。

 

「お姉ちゃん。何やってたの?お椀をあんなに握りしめて、たまたま見ちゃったこっちは、どういうリアクションしたらいいかわからなくなっちゃったよ…!」

 ひとまず、綾陽は席に着くがいや、愚痴に近い言葉を俯きながら言った。

綾陽の言うこともわかるのだが、一様事情説明を入れてこのようなことを言われると、お姉ちゃんとして恥ずかしくて涙が出そうになった。

 それからも、口にはしなかったが目は何かを語っていた。

 逆に開口一番になにか言われるほうが、こっち的にもどうだったのだろうか。

(…まあ、気にしないでいこうかな)

みそ汁の入ったお椀を机に置く。

「綾陽も飲むか…?」

 妙に、気迫を感じる。だから聞いてみる。

おそらく腹を空かせているのだろう。綾陽は腹を空かせていると目つきが鋭くなり、かつまた、気の弱い彼女が唯一強くなる瞬間でもある。つまり性格の逆転というわけだ。

 そんなことを唯一理解しているのも私こと明日乃のみで…まあ、両親よりも顔を合わす時間の方が長いからだろうか。いつしか無意識に分かるようになっていたわけで…。

 明日乃はイスから有無も聞かずに立ち上がり、コンロの元に足を運ぶ。

 火をかけ、中鍋を温め直す。その間にお椀を取り出し。手に取りやすい場所に置き、待機。

 台所から見えた綾陽の後ろ姿は少し猫背気味に近く、頬杖に顎を乗せて不機嫌そうな顔でどこかに焦点を合わせているのだろう。微動だにしない姿から予想できる。これも、長年の付き合いからね。

 タイミングを合わせたようにぐつぐつと、みそ汁が沸騰してきた。火を止めシンクの上に置いたお椀を掴み、みそ汁をよそう。淹れ立てのみそ汁の匂いが綾陽の所まで届いたのか綾陽のいる方向から可愛い音が聞こえた。

 その音を聞いた私はつい微笑む。

 お盆に乗せたお椀を持ち、さりげなく近寄り、コンと軽い音とともに綾陽にみそ汁を差し出した。

「ほれ!お腹減ってんだろ?」

 一泊の間が空いて、ツンツンとした口調で返事を返す。

「遅い…!」

 フンと、そっぽ向き私から完全に背を向ける態勢に入った。

 明日乃はお構いなく話を続けた。

「早く、飲まないと冷めちまうぞ!」

 下言すると同時に綾陽の髪を軽く、叩いた。

「分かっている…!だから、私を見んな…!そして、叩くな!」

「分かったよ、と言いたいんだけどな~、ほら私も食事中なんだよね…!」

 ぽりぽりと頬を掻きながら、一汁三菜の並ぶ方に指をさす。

 テーブルを一瞥し、確認した綾陽はむぅ~と、唸り声を上げた。

ははと明日乃は軽く笑い、座っていた元の席に座りなおして、再び食事と向き合う。それと綾陽とも。

食事の再開ということもあって、お口直しにと一口口いっぱいにご飯を頬張る。

(んん~~~!)

 頬を朱に染め、パタパタと上下に足を振る。先程の様な光景をもう一度やってしまう。

「ホント、姉貴って、飯うまそうに食うよな?」

 そう?と温くなったみそ汁啜りながら答えた。

 

 

「ごちそうさん!」

 ぱんと合掌し、一礼とごちそうさまを言った。

 イスから立ち上がり、食器を水につけながら、綾陽に問うた。

「綾陽さ、学校何時からだっけ?」

「15時からだよ!お姉ちゃん!」

 綾陽は軽やかかつ、優しさのある口調に戻っていた。

 声は先程のようなトゲトゲしさはない。目も元の大きさに見開いていた。

 つまり空腹はま逃れたということになる。ひとまず安心から安堵の息を洩らした。

(これから、同じ部屋になる奴は大変だろうな…)

 この変化についていけるだろうかな?逆に、相手の事を考えてしまう。さぞかし忙しいだろうな。普段は優しいんだけど、この時だけはな、きついんだよな。ギャップの差が。

 食器を洗いながらつい苦笑してしまう。心配する母親のように。

(同じ部屋なら、いいんだけどな…)

 できればというIfの願いと、自分が人見知りだということを知っているから尚更心配という二つの意を込めていた。

 意気投合とかにでもなってくれれば、話は別なんだが…。

(考えるだけ、無駄かな…!?)

 食器を濯ぎながら、天を仰ぎ、どこかに視線を彷徨わせていた。

 焦点があっち、こっちと泳ぎ、道に迷った人のようになっていた。

 キュッっと、食器を洗い終えたので、水を止める。迸っていた水は絞られてピチャン、ピチャンと数滴シンクに弾けた。

 水で濡れた手をタオルで拭き、次いで、ガスの元栓を閉める。特に念入りに。

 本日から、二泊三日のお泊まり会みたいなのがIS学園で行われる。なにやら、学園の説明や部屋割り、クラス内の顔合わせ…、そのほかにもいろいろあるらしいが、私自身あまりマニュアルと分厚い本系を読むのが得意ではない。お泊まり会の一件に関しても大雑把に目を通した程度であまり覚えていない。かといって、二度見をするかと言ったらしないと言った方が強い。逆に分かんなければ綾陽に聞けば良いことだし…。

(だから、あの子立派になったのかな?)

 右手を顎に添えて、左手で肘を押さえ、視線をまたどこかに彷徨わせて考えている私がいた。

 そのままの状態で、足が自室に向かいながらも階段を上る音はリズムが不安定で、下から覗く綾陽の頭の上には?マークがたくさん漂っていたが明日乃には分からなかった。

 バタンと戸を閉める音が耳に付くと、ハッと、我に返った。

 知らずうちに、顎から額に手を当てて、優しく撫でていた。

 今は頭に痛みを感じていたが、数分後には違う個所に痛みを覚えていた。

 今となって考えていたことがなんなのか忘れてしまったが、一体なんだろうか。そのうち思い出すだろうと作業に取り掛かった。

 作業と言っても、大仕事をするのではなく荷物の確認といったシンプルかつ、重要なことをするわけでそのことを忘れないためにと、ドアを開けてすぐの所に置いてあることを知っている私もこの時は考え事をしていたので、気付かず、転倒。両膝から落ちたため今もの凄く痛い。

 荷物と言っても、スポーツバッグくらいの大きさにまとまるくらいの量で済むので正直助かる。

 昨日綾陽の部屋を覗いた際に荷物の量をちらっと見たら、旅行用のキャリーケース一杯に物を入れてた姿を見た時、少し足がすくんでいた。

 普通少量で済むだろう。まあ、私的にはスポーツバッグに入るくらいがちょっと多いくらいかなと思うのに、あの量には目が眩んだ。下着は少し多めで持っていくにしてもそこまでかさばらないし。服とか寝巻なんかだってたたみ方によっても大したこともない。シャンプーとかもあっちにいろいろあるんだろ?噂なんかじゃあ高級ホテル並みとか聞くし、わざわざ自宅から持って行くのも少し羞恥を感じる。相手が分からないなら尚更持ってはいけない。“郷に入っては郷に従え”なんて言葉もあるわけだし、それに従うだけ。

もし私が男の子だったら、パンツとほんの少しのお金があれば、どこにでも行けるね。うん。言いきれる。

 独語を心中で派手にぶちまけている間にもチェックは終盤に近づいていた。

 手元に一枚の紙切れが握られていた。その中身には遠足やお泊まり会のしおりを模したような、実に人を小馬鹿にしているような数ページにもわたるプログラム表だった。

 だが、それは外見だけで中身は意外と言葉が選ばれていた。実にシンプルで高校生生活第一歩みたいなまだ始まってもいないがそんな好奇心をくすぐる。

(よし、こんなもんかな?)

 チェック欄にレ点を書き込みながら、後一項目の所でペンが止まる。

 それは書類(入学手続き、個人情報)という欄だ。

 これは小馬鹿にしたしおりとともに送られてきたA4サイズの真っ白な穢れのない封筒のことだ。その中にはご丁寧にも合否と個人情報記入欄、入学手続き、それとIS学園内の地図…その他になにかいろいろ入っていたが大雑把にしか見ていないので詳細は不明。

 合否はもちろん言うまでもないが合格だった。綾陽も私と同じくだ。

 白い封筒は目のつく場所に置いてあったため、すぐに気付く事ができた。

 腰を上げることがなくともすんなりと手に収まった。

 封を開き、しおりに示されていた紙を取り出し、目を通す。

 目は次々と項目を流して、何もないなと思いつつも、誤字脱字がないかくまなく探したが、自分でも驚くほどにミスは見つからず内心ほっとしていた。

 読み終えた書類を再び封筒に戻そうとした時、先程は気にしなかった心身の事に関する項目の所に目が止まり、ついで手も動く事をやめた。

 月一回に必ず注射を受けなければならない事―――母の話によれば私は生まれて間もない時に大きな病気を患ったらしい。病名はカタカナが多かった気がする。死率はほぼ100%という難病だったらしいが母の友人が私を助けてくれたらしい。で、なんで注射に繋がるのかといえば私の体からは完全に抜きとれてないらしい。だから、その病気を発症させないための注射とのこと。

 昔は注射と聞けば泣きじゃくっていた自分の姿を思い出す。今となれば何とも感じないほどになったが、できるならあまり投与はしたくはない。だが、誰が私に薬を打つのだろう?医者がこっちまで出向いてくれるだろうか?そんな王様のような気になったつもりはないし、自分から行くことになるのだろう。たぶんそうに違いない。

 でも…ほんの少し期待している自分がどことなくいやらしいなと思いつつ、封筒に書類を入れ、封を閉じ折り曲がらない様に丁寧にスポーツバッグに仕舞い込んだ。

 時計、時計と時間が気になった明日乃はあちこち見渡すが、朝に壊した事をふと思い出した。

 あっと、手で口を覆い亡き時計の残骸になった姿を思い出した。

(あちゃあ…忘れてたわ…買わないとな、時計…)

 残念な気持ちを噛みしめつつ、仕方なく携帯端末に頼ることにする。

 枕元に置かれた薄い板が「私の事を頼るんですよね?」みたいな眼差しを送ってくる。たぶん送ってないと思うけど…。

 「違う、時計がお釈迦になったからだ!」と伝わりもしない視線を携帯端末に送り返す。

 実に数十分のできごとであった。

 明日乃と携帯端末の伝わりもしないくだらないお遊びは明日乃がどうしても時間が気になってしまい携帯端末を掬う様に取り上げ、起動ボタンを押してしまったことで幕上げ止まった。――――時間は13時42分

 まだ少し余裕があるが、着替えてテレビでも見ようかと、足をタンスに向かわせて歩く。

 服装はなんでもいいんだよな。たしか、と独語を呟く。

 動きやすい恰好が良いんだよな。じゃあこれで。選んだのは灰色のパーカーにジーンズ。パーカーの中には程よく動き回るだろうと想定して二枚の長袖を着た。

 ジーンズのベルトが締め終わるとともにスポーツバッグと体を下に降ろす。

 カバンを玄関に置き、洗面台に体を向かわす。そういえば髪とか、顔洗ってなかったな。

 鏡と相対した時、酷いなとつい口が先走ってしまった。

 その光景は一目瞭然で、褐色の髪があちこちに独自の命を得た生物のように跳ねあがっていた。統一感のない髪。これを直すまでどれだけかかるだろうか。まるで、メデューサの生まれ変わりではないかとこの時一瞬思えるような光景だった。呆れて言葉が出ない。

 ただ見ていても拉致があかないので、クシを一本握りしめ、蛇口を捻る。迸る水にクシを付け、濡れたクシが乾いた髪の毛へと持っていく。

 抵抗するんじゃないよと言いたいところだったが、相手は髪の毛、しかも寝癖なので尚更抵抗する。

 乾いたらもう一回水につけての行為を何度と続けただろうか。分からない。髪が抵抗するんだから、考えるだけ無駄のようだ。

 だが、何度もやっているおかげか次第にまとまりの兆しを感じた。

 しばらくしてようやく髪のセットが終わった。ついで、洗顔と歯磨きをした。

 最後に自分の顔ともう一度相対し、どこにも異常はないかと再確認をした。

 その場で、一呼吸と伸びをし、洗面所を出て行く。

 階段をリズミカルに登って、リビングに着くといっても台所とひとつになった空間だから、おかずの匂いや味噌の香ばしい匂いが鼻を擽った。

先程までいた綾陽の姿はなくあったのは、戻されていない綾陽の座った席だった。いつものことなら戻すのにと、少し怪しく感じた。

まあ、トイレでしょう。

明日乃はリビングに設けられた橙色のソファーに腰を下ろし、体重を預けた。

フカフカで、身が綻ぶ。自分がリラックスしているのがわかる。体が軽くなった気がしてうつらうつらと焦点が合わなくなってくる。次第に瞼も重たくなってきた。

ほんの少し寝たって、綾陽が起こしてくれるし大丈夫だよね。じゃあ、少しほ…ぉ…。

 

 

肩が優しく揺らされて、そっと覚醒する。

起こしてくれたのはもちろん綾陽なわけで、期待を裏切らない利点の効く綾陽の頭を優しく撫でた。

薄らうすらと視界が回復してくる。線のように細い眼をこすりながら、聞く。

今何時と。ただあたりまえのこと聞いた。

答えはこれは夢だよと。

 

 

 

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