IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

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第三十三話 ジェイルの笑み

 

生徒たちは今どうしているだろうか。無事に避難出来ているだろうか?

こうして私たちが囮になることで、彼女たちの寿命が少しでも伸びれば……それでよかった。

 

 

全身真っ黒の装甲を纏う奇妙な珍入者は、背に黒煙を宿し少し、少しとこちらに近付きつつあった。ズシン、ズシンと重厚な音が聞こえてきそうだ。もし聞こえてきたら、それは幻聴だ。

 腹の底から感じるこの緊張感はリリスの時とは圧倒的に違う。怪訝そうな顔をした明日乃はそんな事を思った。

 二人の眼前に現れたその黒い機体は異形を成していた。肉体とIS装甲の一体感が実に気味が悪く、肩と首がくっついていて、言うなればボディービルダー風なごつごつとした肉体の印象がそこにはあった。

 フルスキンタイプ……漢字にすれば全身装甲。文字通り、肌の露出が一ミリもない状態を示している。そもそもISは部分的の装甲があれば十分なのである。なぜなら不可視な加護“シールドバリア”があるからして、わざわざ全身に装甲を纏うことは必要なく、全てはシールドバリアが処理をしていて、実際のところアーマーはそれほど意味を成さない。防御特化の機体はもちろん存在して、その機体に物理シールドを装備していても肌の露出をしていない機体などない。故に私たちの眼前にいる黒いISは一般の機体とは似ても似つかぬ存在だということが分かった。

 そして、それを見上げるほどもある巨躯は二メートルもある。大袈裟にあるのなら三メートルはあるように見えた。それを支えるかのようにとりつけられているブースター。

 不規則に並ぶセンサーレンズが幾個もあり、キリキリと動いている音が聞こえそうだ。腕にはここの遮断シールドを派手に壊した砲台を四門も構え、こちらを望む。実に奇妙で寒気がする。

『あれは……?あれはなんだ?!』

『――分からない。でもなんか、まずい……!!!!?』

 明日乃たちも初めは理解までに時間を要した。事を飲み込むことが出来たのは黒煙が少しほど収まって、奴がこちらに向かって来ているその時であった。

 ターゲットは明日乃。そうオペレートされた。だから風花を呼び出し、身構える。

 黒い奴は砲台をこちらに向け、淡い桜色の光線を短発で放ってくる。弾速は早く、少しの判断ミスで当たってしまう可能性があった。

糸を縫うような感じで、黒い機体の前に躍り出た!上段からの一閃は流れる所作からして早く、時間にして一瞬程で放たれた。弧を描き、空を切るもの速さは充分にあった。奴はそこまでのろまでは無かったのだ。ブースターを即座に吹かすこと、定まった像がぼやけた状態になった。

 空振り。明日乃は宙でバランスを崩しそうになったが、なんとか持ち直した。その刹那に正面からリリスが雄叫びを上げながら、奴に急接近を図ったのだが、それをも軽々しく避けて見せ、終いには拳を叩きこむほどの余裕というやつを私たちに見せびらかした。

 案の定、リリスはその拳に打たれ、バックグラウンドの壁に打ち込まれ、煙に隠されてしまった。

『リリスッ!!!』

 腹の底から声を張り上げる。悲痛の叫びは彼女に届く前に様々な音により掻き消され、そしてこのとき改めて理解をする。

――とんでもないものがこの学園に入って来た、ということを。

『こんな時……、どうすれば……』

戦意を削がれ、迷いが生まれ、呆然とその場を滞空する。

しまいには腕が力を抜いたようにぶらんと垂れる。

そんな弱い私を見かねたかはさておき、通信が入る。彼女の姿が見えずとも彼女は生きている。なのに、私はなにを勝手に仇を取ろうとしているのだろうか。

『―――簡単だ。前を向け!藤崎明日乃!!』

『リリス……。そ、そうだよな。―――さんきゅうな!』

 黒いISを正面に捉え、その向こう壁側のリリスを網膜に焼きつけるように見つめる。煙が上がり彼女の姿を捉えることはできない。それどころか明日乃の眼の前は急に不安が込み上げてくる。リリスのこともあるが、それを上回るほどの自身がどうしたらいいのか分からなくなったという恐怖感。それはなぜか、単純だ。眼前に強敵がいて頼もしいと思った仲間が一瞬で敗れたからだ。

 恐怖のそれはこちらにぐるんとセンサーレンズを向けた。込み上げる恐怖で顔が引きつる。自身の身体とは到底思えない程に硬直している。振るえる手。笑う脚。動揺する心理。もう―――。そんな時、声が聴こえた。それもリリスのだ。すると、どうだろうか?

『なに、マイナスになってん、だか……あほらしぃ―――さ、いくぞ…!!』

 明日乃は眼に浮かんだ弾を拭い、風花を二分割。気を引き締め、いないリリスの為にも……。本当に気を引き締めないと、な…!!

 

 

 スイッチが入った明日乃を止めることは今のところ誰にもいなかった。

 縦横無尽。文字通りに暴れ回っている明日乃はこのアリーナを支配するような動きで珍入者の黒いISを撹乱させていたのだが、ISにはハイパーセンサーなるものがあるのだから死角などなく、ただ無駄な体力を使っているだけのように思われるが、これが仮に人では無かったら…と考えるのなら、この話はまた違う方向に傾くのだ。

 けして、明日乃は冷静を取り戻したわけではなかった。冷静とは違う、表現するならば言葉の力。リリスの言葉。いわば鶴の一声的な言葉が私に力をくれた。

 まず根本的な所からおかしかった。なぜ全身装甲なのか。そして、こちらになんらかな興味があるのか。様子を見るのとは違う、言葉を換えれば観察。見られている感がすごかった。そして常人並み以上の身体能力の披露。それはリリスの動きから読み取ることが出来た。私もリリスと今一度刃を交えて分かった。彼女は本気ではない。相当手を抜かれていたのが分かる。でもさきの黒いのと刃を交えたこと、それを上回るほどの能力を兼ね備えかつ、瞬発的、爆発的な力を常人でも放てるだろうか。あんな一瞬で。まるで…人というよりも機械人形見たいではないか。―――という考えに行きついた明日乃はこうして行動に出ていた。

 やれることはやる。今そう決めた。

 雄叫びを上げながら明日乃。加速。加速、加速。加速。まだまだ振り切る!!!

 それでも、奴は反応を示す。

いくつかの行動選択が脳内で選択されていくが、いざ行動に移すとどれもこれも受け止められてしまう。守備範囲が広くかつ攻撃範囲も広い。あまつさえ死角もないと来ている。はたして、勝つことなどできるのだろうか?――不安的要素が脳裏の片隅で肥大化する。これも時間の問題だ。そもそもこいつが入って来てからどれだけの時間が経ったのかもすら分からない……。

(気持ち的に、外部との連絡が取れれば……、そんな時間があれば……)

 一進一退、攻守交替、危機不可避。――ああ、もぅ……。

 桜色の光線を放ち、距離を一気に殺してきた黒い奴から身を翻し、反手を狙うが功を奏しない。風花でビームを弾く事で精一杯。しかも場所を間違えると、観客席にも被害が―――。これではなにも出来ない。

 明日乃は力んだ肩を落とすかのように深く一回息を吐いた。

『あれこれ考えてもしょうがない!!今は……ああもうヤケだッ!!!!!』

 ギュィィィン―――!!!!!!

 推進器を全開に吹かす音がした。擬音を付けるならその音が今まさしく似合っている。明日乃は風花を胸の正面に構え、一縷の望みに近い、打突進。青い一筋の線は黒いISに吸い込まれるような形で猛スピード。時間にして一瞬…数秒の出来事であった。

 次いで、耳を劈くような機械音が、明日乃と奴とでの衝突の際に生まれ、それでもって小規模の被害もこの時同時に生まれた。

『――――いっけえええええッ!!!!!!!』

 張り裂けんばかりに声を上げ、そして望みを乗せ………。

 

 

『――――っ、………!!』

 小さな唸り声を一つ、ぼんやりとした意識の中、明日乃は覚醒した。

 寝像が悪いのか、ベッドから落ちたのか分からないが、何かに寄りかかっているのが背中越しから伝わってくる。材質からして、低反発?―――いやいや、それはないね。だってここのベッドは反発よりも沈むからね―――。じゃあ、このふわふわとした感じは―――。それと、この地面に腰をかけてるお尻が次第に痛くなるこの座り心地の悪さは―――。ところで私は、何をしていたのか……そうだ、変なのが入って来て、それからどうしたんだっけ?倒したんだっけ?負けたんだっけ?あれ、どうして肝心のところの記憶が無いんだ?

 そう思い、明日乃は自身を見た。手――IS装甲を纏うものとし、その他の脚、胴……そして頭。―――ああ、ようやく思い出せた。私は負けても、勝ってもいない。これは現在進行形で話が進んでいるんだ―――!?

 ――――装甲ダメージは全体して中傷、特に右腕の装甲にダメージ蓄積が目立つ。その他のパーツは右腕程とはならないが、ダメージがどのような時に現れるのか分からない。

 そんな事よりも、だ。私以外動いてないような気がする。それは走馬灯を彷彿させるときに起こりうるそれに近い何かが、あるのだが今それが発動しているようなのだ。詳しくは分からないけれど、だがこれはある意味チャンス。千載一遇のチャンスというやつではないか?

 だが、何かがおかしい。

 どうして、どうして、黒いあいつは私に向かって撃ってこない?それは桜色の光線を砲身に溜め、いまにも撃つことが可能なはずの体勢になっていた。

 明日乃はそれに気が付いた時には固唾をのみ、戦慄した。深く逡巡する間もなく、それを理解。―――身体は動かず、動くのは眼球のみ。

 声も出ない。助けも呼べず。その中で一体何が出来るか。そんな一時。緊張の糸を紐解くものがあった。それは馴染みのある声で、どこか落ち着く―――。

『――ふふ、そう言ってくれると嬉しいね。明日乃』

『―――――――!!!?』

『あ、喋れないね―――。もぅ、ちょっとまってぇ……!はいッ!』

『―――ちょっと、これどういうことなのさ!!!?』

 桜色の女性が言下と共に姿を現したかと思うと、人差し指を立てスッと右から左にスライドさせるととりあえず口の自由を手に入れた。他は試してないからわからないとして、まず理解が不能。口調はもう勢いなのだ。

 桜色の…は、やれやれ言わんばかりの仕草をしたかと思えば、小さく笑う。なんかよくわからないな、釣られて苦笑。

『もしかして死んだかと思った?』

『……どうかな』

『でもね、今のままだと確実にこれだよね?』

 首筋をシュッと薙ぐような素振りの桜色の女性。

 これは腑に落ちる。ああ、もう納得ものだ。しかし、この結末を迎える前に彼女が時を止める【仮】をしたなら、なにかしらあるのではないか?なら聞こう。

『そうならないために、あなたがここにいる。そうじゃなくて?』

『おっ、おっ……!!正解!!すごいねって……、普通に考えれば誰でもわかるんだけどね。―――でも、ね。助かると言うのもまたハッタリもの。百パーセントなんていう数字はないんだ。結局は運任せなんだよ?それほどの運が君にはあるのかな?明日乃?』

『―――ふん。いままでまともに運を使って来てないんだ、上等ってとこかな。私の運が強すぎてビビんなよ?!』

『なんとも心強い発言。気に入った。では可能性に賭けてみますか。お嬢さん?』

『望むっところだ!!』

 

 

身体の自由が完全に祓われたことにより、明日乃は現実と向き合う。

 背を預けた地面から素早く、立ち上がり風花を槍投げの要領で正面に放つ。正面は奴の砲身がこちらに向きかつ桜色の光線を放とうとしている。しかも質力高めのきつい一発を。  

でもそんなことは関係ない。投げた風花は吸い込まれるようにして向かい、あちらはノーモーションで発射。迸る光条は案の定なくらい爆発的火力でかつ、そこに風花が盾のように被さるのでダメージはない。

 だがしかし、私は武器を失っていない。なぜなら風花は二本あるのだ。そう片刃の風花が明日乃の手中に収まっている。そして明日乃を隠すのには片方の風花だけでも十分なのだ。

 攻撃の相殺化に成功した風花は力なく地に刺さり、黒い機体が視点を合わす頃には、明日乃は眼前にいて、攻撃を再開させるキーアイテムとして一時役割を終える。

 木偶の坊と化した黒い機体に一発ぶちかます!!

『当たァれェェぇェぇぇぇぇぇッ!!』

 腰溜めからの抜刀炸裂!!

敵は木偶の坊と化しているのだから、当たると明日乃は確信していた。

距離なんてほんのミリ単位。現在進行形で明日乃も進んでいた。そう思惑通りに事が済んでくれれば、良かった。

 

 ガキンッ!!!

 金属同士の擦れる音。手中に広がる金属の重み。打ち返す敵の右腕。

刹那、敵は大きく姿勢を乱す。なぜなら奴よりも早く反応し、一定の距離の離脱を図る。―――成功。奴はコマのように私に振り回される。そこにチャンスが出来た。

そのチャンスに明日乃は連撃を試みる。放たれた剣戟の数々は見事に当たることと、これまでの流れが変わりだしていること……。

―――と錯覚している私は痛い目を見て現実を知るのだ。そう背後からきた〝あれ〟に気が付かずに――――。

 無我夢中で前しか見えなかった。そこが盲点だった。

 

――――ザシュッ!!!

 ――――えッ!?

 

 

 背中に走る激痛。痛みは稲妻に撃たれたかの如く駆け抜けたかと思うと、身体の自由が一瞬にして奪われた。

 根こそぎ持ってかれるシールドエネルギーをただ眼で追うのみしかできず、そして空になったシールドエネルギー。

前に傾く私の体。

それに追い打ちをかける前方の黒い奴の回転パンチ。身構えていないこの一撃がどれだけのものかは当たる前から分かるものがある。案の定当たり私もリリスと同様な姿になり下がるのだ。―――そう、今になって分かった。背後にいたのはもう一機の黒いISであること。―――でもどうして?

 思わず、振り返る必要もない状態なはずなのに見やってしまった。なぜなら、ハイパーセンサーの恩恵があるのだから全方位見渡せる、それなのに振り返って見てしまうのは性……否、普段からの癖に近い何かがそうさせたのだ。

(……くそっ……!肝心な時にィ……ちくしょぉ……!!)

 ドゥォンッ!!という鈍い音を響かせ、明日乃は堅い地面にクレーターを作った。うつ伏せの状態で身悶える姿がどことなく美しくもあり、そして汚くもあった。

 

 

『こちら、ヴィクタ―社所属の不知火真紅です。貴校の緊急事態をそちらの理事長から直属に連絡をいただきました―――――』

「うぅーん!!そんな堅苦しく言わなくても大丈夫だよって!!真紅くぅん!!―――その機体は試作機のぉ、秋桜タイプだぁ……!!やっぱりいいなぁ~!!……ということで、織斑先生。彼女一人をこの学園の中に入れるけどいいよね?答えは聞いてないけどね♪」

「ええ……!」

「大変です!!!織斑先生。リリスさんと、藤崎さんの二人が……!!!!」

「あれぇ……、もしかしてやられちゃった?」

「――――はぃ……!!!」

「でもぉ~~、大丈夫!!とっておきの秘策があるんだ!?」

 恍惚とした眼差しを送るジェイル。今度は得意げな表情に切り替わり、口を走らせる。

 

 

 見動きの出来ないまま、時間は流れていく。その中で、唯一はっきりとしているのは意識のみ。

 そして止まなく、出現し続けるミニウインドウ。

 そのウインドウが、私にはカウントダウンのように思えた。いや、そのようにしか見えなかった。

 ――――未確認の機体二機からターゲットの対象となっています。

 ――――二機の内一機が高出力砲発射体勢に入っています―――発射まで十秒前後。

 ――――機体ダメージ、後部ユニット中破。これ以上のダメ―ジはパイロットの命に関わるやもしれません。どうしますか?

 ――――どうするも、こうするも、貴女はこのまま死を選ぶのですか?その選択を受け入れるのですか?――――なーんて、そう簡単に殺すようには出来てないんですよねェ~~。命ある限り、貴女にはもう少し頑張ってもらいますからね?―――藤崎明日乃さん♪

「ざっ……け、んなァッ!!」

 力なく開かれた手は地に。しかし、次第に怒りと共に力が入る。

 力強く固められた拳で地を何度か殴ると、怒れる瞳を正面……二機のエネミ―を睨みつけた!!

 悪い夢を見ているような気分だ。胸クソが物凄く悪い。何かが詰まったかのような、まるで反吐。それを汚い言葉で周囲にまき散らすが、憂さを晴らすことにはならず、ただ立ち上がるための動力源になっただけ。明日乃は片刃の風花を杖のようにして立ち上がった。

 だが、明日乃が立ち上がっただけで何かが変わると言うわけでもない。危機はいつまでも危機であった。なにより明日乃の精神はかなり弱っていて、この状況を納めなくては!という使命感と、野心のみが今の彼女を支えている活力と化していた。

 睨むようにして桜色の光線を明日乃。点火は任意といったところか……。さて、どうしようか………。

 小さく二ィッと笑った明日乃。なにか策があるわけでもないのになぜか笑ってしまう。絶体絶命過ぎて気が狂ってしまったのか疑ってしまうほどに笑いが止まらない。

『藤崎!!なにを笑っている!?笑っている暇があるのなら、戦え!!―――っても、ケガ人は引っ込んでな。後は私が殺る!!』

 土煙りの彼方から現れかつ、渇を叩きこんできたのは他でもなくリリスで、私のことを気遣ってか、いやそれは私の気のせいということにして、私はリリスの隣まで歩く。

『ケガ人でも……休んでられない。無理って言っても、やるけどね』

『藤崎!!お前動きが鈍いんだよ!!そのままだと死ぬぞ!!』

『――――あぁ、おかげさまで、ね。よし、速いところ片を付けよう……』

 悠然と話にしゃれこんでいるが、私はあと一歩のところで危うく死んでいたことだろう。それをほんの少しほど助けてくれたのがしばらく出番のなかったリリス少女であった。

 迫りくる桜色の光線を二つに分割させたかと思えば、開いた口からは愚痴のオンパレード。それを完全に無視でやり過ごす。

 リリスが私の肩を軽く叩いたかと思うと彼女は空にいた。そんな彼女の後姿に背中を押され明日乃も気だるい身体に鞭を打ち、空を目指す。

 

 

『うぉぉぉおおおおおッ!!!!――――あぁ、もう当たらないし、しんどい……』

 息を切らしながら、上空を漂う。

相手にしているのは砲身をもつ黒いあいつで、リリスは眼前にいる奴とは一か所だけ違う、それは砲身があるところに剣幅が広い剣を持っているのが特徴的であれに切られたのかと思うと背筋に悪寒が走る。それにしても楽しそうにリリスは戦っていた。こんなときでも笑っていられる……そもそもこの流れを掴んだ時点で彼女の勝利は確信に近いだろう。それに彼女の心は強いのかもしれないな……。

 あまつさえこちらはおかげさまでぼろぼろだ。もっと早く帰って来いっての……愚痴は挙げればキリが無いけど、とりあえず助かるからそれでプラスマイナスゼロにするほど優しくないけど、あとで文句言ってやろう。そうしよう。

『オラァッ!!!!!』

 眼前に迫る奴の拳が来たのだから、反射なるもので紙一重で避けて見せ、逆手に構えた風花で奴の腹丁度、腸辺りに軽く当たった。そして引く。腹を抜ける爽快感がこれまでの積もった憤りが晴らされていく感覚がして、すぐに現実。

くの字に身体をくねらせ、抜けた剣それと反転、明日乃はリズムに乗り、一撃、二撃と奴に傷を付けていく!トドメの切り返しが決まり、奴はなすがされるるままにアリーナの壁にクレーターを作り、沈黙。―――等々二人間の戦いは終結を迎えたと共に明日乃自身の体力も底を尽いていた。

「――――はぁはぁ、やったァ……ぜぇ」

 ゆっくりと降下を始め、言下の頃に膝をつき、風花を杖のようにしているのが精いっぱいのことであった。

 アーマーは霧散。光となり明日乃の周囲に散ってしまった。それと同時に明日乃も吸い込まれるようにして地に伏してしまった。

『藤崎!!?』

 剣の装備をした黒いISを相手にしている時にリリスは明日乃の方を見やり、声を荒げた。それでも隙は生まれることはなく、今のところリリスが相手を牽制していた。

 一瞬の動揺もチャンスと変えて、相手の懐に入り、柄で突く。

 リリスの感じるところは、ここで倒れるようでは甘い。―――それであり、地に伏している彼女の過大評価をしていた自分の眼の甘さ、とんだパチモンだった。

『フンッ!!どこを狙っている!?』

 どこを狙っているのかわからない一発を完全に受け流し、背中に蹴りをぶつけ、距離を作る。隙あらば明日乃の安否を確認するために――――、私は、何を考えているのだ……あんな奴に気を使う必要などないのだ。なんたってあいつは……。セシリアの……。

 集中力が途切れた。思考が明日乃をどうにも意識して、戦闘に支障が出ていて剣が乱れている。距離を離したかと思えば……見誤りで実は眼前にいたなんていう実に下らないミスを引き起こしていた。迫る拳にも気付かず……。―――しまった!!?

 ゴキッという鈍い音響かせ、リリスも明日乃の二の舞を演じてしまった。高さといい、なにといい、全ての悪い条件をクリアしてしまったかのような感じだ。

隣には眼を瞑ったままの明日乃、このまま眼を開かぬのではないかとさえ錯覚してしまうほど、深く閉じた瞼にリリスは“ふざけんな”と小さく呟いた。だが、それでも思い届かず、ただただ動かぬ身体に鞭を利かす。

「く、そぉ……、起ってくれぇ……眼の前に敵がいるんだ。私を戦わせてくれェ!!」

 奴は高度を落とし、地面に浮遊。それからゆっくりとこちらの心理を狂わすような速さで近寄って来た。みるみる大きくなる像にリリスは平常ではとても居られなかった。

 その時、リリスの網膜に白く光る輝きが焼きついた。

 

 

 リリスの瞳には青白く光る光線に釘付けとなり、それでいて強く網膜に焼きついていた。

 間髪入れず、パシュンという短発の音を四つ響かせ、再びリリスの視界を奪う。

「なんだ……!!?なんだったんだ……今のは!?」

 リリスの視界が回復したのは数秒後の事であった。

 上空に鎌首を持ち上げるが、攻撃を仕掛けたと思しき人影はいない……。おそらく攻撃を仕掛けたのはぽっかりと空いた天井の隙間からだ。それ以外からは出来ないと私は考えている。

「―――う、ううん……!!」

 隣で小さい唸り声とともに眼を醒ましたのは他でもなく明日乃。

『いつまで寝ている。起きろ、藤崎明日乃!!』

『そんな寝起きに、酷いこと言うなぁ……で、どうなったんだ?勝ったのか?』

『いいところまでは行った・・・・・・。今は機能を停止している。トドメを刺したのは私ではない。藤崎明日乃、今の内に先生たちに連絡をとるんだ…』

『あぁ、……そうさせてもらうよ……』

 そうして、明日乃は回線を引っ張って、先生たちのいるピットに連絡をした。

 

 

『―――あ、あーあーマイクテス、マイクテス……ピット聞こえますか?』

「!!――藤崎さんですか?!」

『……はい、藤崎です。そっちに連絡が遅くなってすみません……』

「藤崎、猿芝居はその辺にして、そっちの状況を報告しろ」

『あ、はい……こっちの状況は乱入機が二機。二機ともに沈黙しています。それでもって私とリリスで抑えました……』

「藤崎さ―――」

「そうか。ご苦労だった……と言いたいところだが、まずはこちらに報告しろ。自身の判断がどうなるか、今ので分かっただろう。だが生憎と私たちもお前たちを強く攻めることはできない。だからといって何事も怠るな。そしてこの状況を打開し、帰ってこい!!」

『はい。織斑先生……』

―――敵機の再起動を確認!!―――

 ―――敵機の再起動を確認!!―――

『織斑先生……、他の皆を頼みますよ……?』

「ああ、任せておけ」

 プツンッと、通信の切れる音。その途切れる直後に明日乃の勇ましい叫びがスピーカー越しからピット内に飽和した。

 

 

『まったくさぁ……私ってどんだけお人好しって、キャラなんだか……ね?さぁて必殺技行ってみようかァ?』

 先から私の周囲にキラキラした粉みたいなのが散布されてるんだけど……、掃う仕草をすると粉が私に動きについて来る。てことは、なんらかのヒントをくれてるわけだから、そう、これは必殺技だね!!!――――粉撒く必殺技なんてないな……普通。こんなときにポジティブキャラもどうだかな……。ああもう考えるのやめた!!

『行くぞ!!風花!!』

 愛剣を胸の前まで持ってきて、突き出すと……粉がついて来るが向かうのは左手の方で…するともう一本の片刃の風花が瞬時に形成され、明日乃の空いた左手の手中で収まる。

私が驚いているのはいつもより軽い。言うなれば木の枝を持っているみたいな感覚だ。

『よくわかんないけど、私は強くなった!!だから――――お前を切る』

 明日乃は切っ先を再起動した奴に向けた。

 その直後、明日乃を軸として散布されていた粉が結晶になり、この会場、アリーナを蒼緑色に包まれたかと思えば、弾けた。弾けた先にあったものは修復された天井に、クレーターを開けたグラウンドに壁、それらが一瞬の内にして元に戻ったのだ。

 それだけではない。散布された粉がもたらした効力は修復のほかにもまだあり、次に相手の戦力を奪ったようだ。なぜなら眼前には奴がいて、同じように蒼緑の粉の影響を受けていたからだ。

 〝天華奏蘭〟発動中。シンクロ率99パーセント。さらに上昇。二機の未確認機80パーセントの戦力削減に成功。能力継続……残り120秒――――

『しゃぁ―――!!一気に片すぞォ!!!』

 心なしか身体が軽い。ううん、これは皆が私に力を貸してくれているからなんだ!!気のせいかな?ううんきっとそうに違いない!!

 全力の今の明日乃は迫りくる二機の奴らに恐怖を感じてすらいなかった。

『ひとぉ―つ!!』

 後から入って来た一機に切り抜けからのくるんと反転し、右肩から左腰に抜けての一太刀。さらに空いた背中に蹴りをかまし、その勢いを次のもう一機にぶつける枷とした。

『これで、おしまいッ!!!』

 勢い殺さず、風花を胸の前に持ってきて、打突の構えで相手を貫いた。

 前々から気が付いていたからこそこのような危険な賭けに出られたのかもしれない。

 鮮血を模した機械オイルのようなものが、奴の体内から吐き出される。貫いた感じも人というよりも人に近い素材を使った偽物であることが分かる。ただ、貫くことが限界で、迫る拳に気がつくころにはそれを睨むことしか出来ない現状であった、にも関わらずその拳は直前で止まった。明日乃は眼を見開いた。なぜならその腕は粒子と化した。しかも腕から全身にかけての粒子化はほんの瞬き程度の速さであったからだ。

 すぐさま背後を振り向くと、最初に来たやつが地面に伏していた。特に何もなく、ただ黙っていた。

 

 

『また、この時間か……。周りは静止し、私だけが動ける。そんな不思議な空間を作れてかつ私の顔を見に来たのかはさておき、はぁ…戦いにはちゃんと勝った。運命とかそんな固定概念的ルールで私を縛ろうとか……まぁ、そういうめんどくさそうなのはどうでもいいとしてさ、今度は何しに来たの?』

『ちなみに、これは貴女が発生させたフィールドなんですけど?』

『私が?まさか?』

『まさかって、私が嘘をついてどうするんですか?逆に貴女は私に何用なんですか?』

 そう言われると、急にだんまりしちゃうじゃん。

 桜色の女性がおもむろに退屈そうにした。

 すぐに態度に出すのは彼女の悪い癖だ。

 だから彼女が好きそうな言葉をとりあえず並べてみようと思う。

『だから、運命って奴を代えてやった。以上』

『……ぁあ、そう』

『反応薄くない?』

 えぇ?!みたいなリアクションはないのだろうか?

 まるでこうなることを最初から分かっていたみたいな。そんな低反応に明日乃は頭をかいた。

『ちなみに自分の意志でこの空間を閉じられますんで。じゃ!』

 手をひらひらされながら、彼女の後姿はぼやけ、ぼやけ、消えてしまった。

 にわかにも信じ堅い助言を鵜呑み。早速試してみた。――――戻れ戻れ戻れ………。

 一見、世界が時間を取り戻したようには思えなかった。どこか固まったまんまなのではないかと疑ってしまう。けれど、すぐに結果が分かるものだった。

「―――――ッ!……おい!おい、藤崎!!」

「!!?」

「何をびっくりしている!!気を確かにもて!!」

「ここは……はぁはぁ……」

「すごい汗だぞ!――――!」

 声の主はリリスであった。心配を装ってるかはさておき、怒鳴り声を私に浴びせ、肩を上下に揺らす。―――ぁあ、気持ち悪くなるからやめて……。そしてものの数秒後に表情が一変。眼を見開き、私から距離を置いた。すると私自身にも多少……いや、かなりの痛みが体中を支配する。胸の内から表現のしようのないくらいの衝撃が明日乃を――――。

「ぅぅぅう、ううううぅぅぅぅうううう……ぅう、あぁぁ…!!!!!!!!」

 明日乃は胸を押さえ、のた打ち回る。

 明日乃の変わり果てた姿にリリスは顔色を変えた。

 明日乃に起こっている現状は、栗色の髪が色素を失った白。綺麗に抜けた白に、肩までしかなかった長さが急に腰まで伸び、アリーナに立つリリスの足場を白が彩る。

 額には大粒の汗の玉が幾つも浮かび、苦しんでいるのがよくわかる。それでいて瞳は金色を宿していて、これもまた綺麗で見惚れてしまいそうだ。伸びた犬歯に、爪。更に顔の色素が白くなりつつ血の気が引いている印象から、彼女が吸血鬼にしか見えなくなったリリス。

「お前を救うには、血が必要なのか?」

「―――――ぅうううう!!」

 返事のない自問自答を繰り返すリリス。すると、アリーナの非常口あるいは出入り口から一人の女性の教員がこちらに向かって来ていた。入谷先生だ。

「ペンドラコ。藤崎の様子は?この状態になってどれくらい経つ?」

「ほんの二、三分前です。藤崎は……藤崎は、大丈夫ですか!?助かるんですか!!?」

「大丈夫。それよりもペンドラコも避難しろ。いいね?」

 ハイとは言えず、リリスは明日乃に起きている現状に身がすくんでしまっていた。―――あいつは何者なんだ……。

 

 

「――――。――――。――――」

 ゆっくりと明日乃は覚醒した。

 寝ぼけ眼を彷徨わせると、窓から差し込む光が、眩しい。というか痛い。

 外は夕ぐれ……橙色の空が一面を支配し、その中に黒い一面がある。……もう夜か。なんてぼんやり思うと、私以外にスースーと寝息が聞こえる。また入谷か……なんて?考えていると、それは意外なお客様であった。

 黄金に輝く髪をかき上げたショート。小さな体ながら頑張るその姿に明日乃も少しながら心が揺らいでいる。ツンケンとした態度はいわばツンデレみたいなもので、いつかはデレが来るはず……。無理に相手と張り合っていると疲れてまうぜ?―――なーんて言っても聞かないんじゃないかって私は思うんだけどさ。

 椅子にちょこんと座るリリスは舟を漕いでいる。

 それにしても今日は疲れた。身体もだるいし、あちこちが痛い。

 身体に力を入れると痛みに顔を歪めた。思わず息が抜ける。

「無理はよくないね?藤崎。傷口が開いちゃうよ?」

 え、嘘?―――私は思わず体中を調べた。

 それと同時に笑い声が聞こえた。犯人はもちろん入谷なわけで……。だから、私に声をかけたのは誰とも言わず、入谷なのだ。その隣にはセシリがちょこちょこと入谷の後ろから姿を現すのだ。小動物かよって……。

「―――って、傷口ないじゃん!」

「ああ、ないよ」

「驚かさないでよ。入谷先生」

「正常……と」

 入谷の手には、ボードが握られており、それに書いていた。

 そわそわしたセシリアが、こちらをチラチラと。

「どうしたんだよ?こっちにおいで」

「…………」

「ん?―――あ、もしかして、私死んだかと思ってた?」

 正解みたいだ。

「大丈夫。心配することはないよ?いまこうしてセシリアと話してるのは?私でしょう?」

 なんだか、母親になった気分だ。セシリアに諭すような口調で話しているからそう感じるのかもしれない。

「息をして、笑ってるのは?」

「……あ、あすの……!」

 怯えている。微かにいやかなり派手に手が震えていた。それに手が冷たかった。

「そう、私だ――――」

「ん、んん!!」

 隣からわざとらしい咳ばらいがしたので見た。

「リリス!!」

「貴様はそうやってセシリアを落としたのか!!?」

「落としたって、違う意味では落としたけど……」

「違う意味とはなんだ!!おい、答えろ!!」

「君たち、ここは保健室だぞ。静かにしないと……!」

 ゴンッ!!!!

「ほら、言わんこっちゃない!」

「すみませんね。入谷先生。このバカどもが先生にご迷惑をおかけしたことでしょう」

「いや、そんなことはないよ。織斑先生。お忙しい所お呼びして、こちらこそすみませんね」

「構いませんよ」

「二人からなにか言いたげですぞ?」

 ジト―ッと明日乃とリリスは織斑先生を見やった。

 二人して後頭部を押さえ、それでもって舌を出していた。

 千冬のお得意のチョップをノ―ガードで受けたのとあまつさえ、口が動いていたのがうまく重なって今の現状になった。

「………!」

「何か言いたげだな、貴様ら。だが、一つ絶対に言い逃れを出来無い一言をくれてやろう。ここがどこだかわかるか?そうだ、保健室だ。そしてここが騒いでいい場所ではないな?それくらい小学生でもわかる。では貴様らは?もういい大人ではないか?それなのに―――」

 小一時間ほど床で正座の説教だ。

 

 

 明日乃が深く眠りについていた頃――――IS学園の屋上。

 夕焼け色の空に、白銀の髪を彩らせ、靡かせる。

表情は無。次第に表情が曇り、すすり泣き始める。

 緊張の紐が切れたのか、抑えきれない程にその場で泣き崩れてしまった。膝をつき、顔を手で覆うようにして、機械のようなその表情は次第に少女の本当の姿を投影させる。

 止まらぬ泪。拭いてみても、それが逆効果へとつなげてしまう。出来ることならば明日乃の胸に飛び込みたいほどに……。でもそれは出来ない。こんな姿を彼女には見せることは出来ない。

 全身をボディースーツに包み、顔にはマスク。これがさす意味。

 私は……。

 彼の人形だ。

 ――――そう、叫びたかった。でも叶わなかった。なぜなら、屋上に来るには階段を上る必要がある。階段を昇る靴の音。敏感になっている神経がクラウンに知らせる。慌てて身を隠す。

 現れたのは一般生徒だった。―――明日乃でなくて良かった。内心ほっとする。

 しばらくその生徒は動く事はないだろう。足音からして手すりの方にまっすぐに向かったからだ。夕日がきれいだ。それは分かる。ここから膝を折って見ても美しい。

 少し待ちぼうけだ。誰を?――はは、おかしな話だ。待ち人なんていない。ただこじゃれただけだ。

 心なしにおかしくなったようだ。空笑いが漏れる。聞こえてないかと様子を伺うが反応が無い。大丈夫だろうか。

 ―――その一般生徒はこちらに近づいて来ている、ようだ。どうであれ、私もここに居続けるのもどうかと思う。生徒がこちらに近づいてきた隙に入れ替わるように出ればいい。

 立ち上がり、行動に移る。どうして、こそこそ動いてるんだっけ?そんな理由を探すがもちろん出てこない。たぶんこれからも。

 とか悩みつつも廊下に出ることに成功。なぜか疲労感もあった。

 エレベーターで理事長のいる最上階へ向かうのだが、そこまでもが格闘の始まりである。

 夕暮れ時、それは部活動活動真っ盛りの時間である。外は体育会系の部活の掛け声が、はたまた室内からは各クラスの隙間から生徒の笑い声が両面から聞こえる。普段ならこの声に耳を傾けないのだが、今日は違う。一分一秒が命取りとなりうるやも知れない。

だから、戸が開く音がすれば、天井に張り付き。

 身に危険を諭す行動にはそれ相応の行動でどうにかする。しかないようで……。

 結局、天辺につくまでにクラウンは疲れ果てていた。

 それを見かねた理事長ことジェイルは………

「?―誰だね?あ、クラウンかい?酷くやつれてるんだから、分からなかったよぉ」

  であった。

 

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