おはよー、ございます。
仕事上がりのテンションでアップです。
事前に、また一人キャラが立ちました。
あと、何人増えるんや……。
では、どうぞ。
六月の初週。
夏の訪れを肌で感じつつ、だらりとした姿勢で明日乃は廊下を歩いていた。
早朝七時。ほんの一時間前まで、剣道場で篠ノ之箒にみっちりと稽古をつけてもらっていたのだが、これといって歯が立たず、コテンパンにやられてしまった。
ほんの数日前―――クラス対抗戦決勝ステージ。
開戦二十分から三十分くらい過ぎた頃、それは嵐のごとくやってきた。黒を強調とした強躯は装甲。それにフルスキンのぎょろっとした幾個のセンサーレンズが蠢き、アリーナを一瞬で焼く程の威力を持つ砲を構え、IS学園にテロを図ってきた―――!!
その敵は一機だけではなく、もう一機いて私たちは満身創痍になりながらもそれらを倒したのだ。
しかし、不可解な出来事もあって……。
今ではすっかりと修繕された屋根――遮断シールド。それが天を穿つ時には白い機体が一瞬ちらつかせたかと思うと僥倖の光を差し伸べ、勝利へと私たちを誘う。
私、リリスが戦闘中の時にも生徒の避難を務め、最悪の危機を免れた。不幸中の幸い、被害はアリーナだけで済んだのだった。
今ではすっかりと元通り。私たちは少し変わったアリーナを気持ちよく使わせてもらっている。ちなみに私の〝天華奏蘭〟の効果で修復しました。
長い廊下を歩き、一年フロアを通過し、我がクラスルームが丁度十メートル先にあるのを確認した後、視点を一点に合わせる。
前側のドアの付近にぽつんと一人、腕を組みこちらを伺う金髪の生徒に明日乃は眼を奪われる。とりあえず、名前を呼んで見る。
「リリス~~~!!!」
彼女―――リリスの今でも恐いその表情に拍車がかかり、眼は鋭さを増し――いやもしかしたら眼が悪いのか?――、こちらへの嫌悪感を全身で、オーラで表しているように見えた。第一印象は感じ悪っ!!で決まりだ。
「おはよう。藤崎明日乃……いい夢は見れたか?ふっ、それが最後の夢にならないことを祈るよ」
「なんだよ?私にそれが言いたいのがためにわざわざ、待ってたのか?ご苦労なこって……じゃ!!」
「まて…いまのは言いすぎた……!」
私は流れるように、教室の入るようだった。なんたって、開口一番にあんな事を言われたら、寝覚めが悪い。―――まあ、起床から随分経ってますけどね。
過ぎ去ろうとした私を、幼女はガシッと華奢な身体からは考えられない程の膂力で腕をホールドした。
それでもって、ツンデレのデレの方が出た。上目で、弱気で、今にも泣き出しそうな眼。
思わず、言葉が詰まり―――
「ふじさきはわたしと…もういちど、たたかいたいか?」
「へ?………うーん。戦いたいけどさ……あれって、結局どうなったのさ?」
―――そして素っ頓狂な声が出た。
急なキャラ変更はよし子さんだぜ……リアクションに戸惑ってしまう。
―――この話は置いといて。
あれとは決勝戦のことで、珍入者が見事に荒らしてくれたおかげで、一旦中止。
再開は教員達に全てを委ねられ、やるかやらないかはうやむや。未だにやるよという返事はなし。生徒たちも今か今かと優勝賞品が自クラスに届くのを喉から腕が出る気持で待っている。正直やらないといけない気がして、それでも気持ちは下がって来ているはで、一体何が正解なのか……。
だから、話をずらして見る。
「………ところで、リリスはこの件をどう考えてるのさ?」
「わたしは、くらすのこたちのよろこぶかおがみたい。だから、わたしはたたかわなくちゃいけない……きがする。でも……」
「もしかして、リリスも気持ちが冷めてたりしない?」
びくっと肩を小さく揺らす。あ、図星か……。
「実はさ、私もなんだ?気持ちが定まってないから、さ……、他の娘から聞かれたら先生たちがGOサイン出さないんだよって、誤魔化してるんだけどね……!」
私は少し照れくさくなって、頭を搔いた。
「馬鹿者が……!試合再開は貴様らの意志で決まる。やるかやらないかは貴様らで決めろ。ただし、外野がそれでいいのかはわからんのだがな。楽しいお話はおしまいだ。リリス時間だ、教室に戻れ」
リリスは私の背後かつ、名簿アタックを慣れた動作で発動した織斑先生。見事に喰らった明日乃は悶絶。
その間にリリスはすたすたと教室の方に消えていく。ちらちらとこちらを伺うが、私はうっすらとしか黙認を出来なかった。
教室で、ひりひりとした頭を優しく撫でながら、先のことを思い出し、聞きそびれた事を思い描く。“セシリアのことで頭にキてたのでは?”と。あくまでこれは私に関する個人的な復讐……(言葉は悪いがこの場合はこの字の方が、妙に説得力があるように思える)で、本当の目的はそういうことなのかもしれない。さてはかなりの甘党か?
クスクスと小さくにやけていると……。
ゴンッ!!
「今、そんなに面白いところか?」
「あっ……!」
「そんなに面白いのなら、読ませてやる。立て。ではこれからいくつかの所を質問していく。無論黙っているのはなしだ。答えてもらおうか?なぁにぃ、笑うくらいの余裕があるんだったら、教科書も見ないでもいけるよなぁ?藤崎」
「は……はぃ」
「声が小さいなァ?」
「はいっ!!?」
考えている時間がまず間違いだった。
現時点で三時間目の中盤、しかも織斑先生の授業で、私が苦手とする範囲で、それでもって笑っているところを、名簿アタック&耳元での囁きのダブルパンチを喰らわせかつ、おまけに教科書剥奪の上に質問攻撃が展開、私は二十問中たったの三問しか正解できず、更にペナルティーが加算される結果となり……。
現在。
一人教室で、渡された課題に頭を抱えながらも、ペンを走らせる。
この渡された課題は、織斑先生直筆の総作プリントで、“一年の押さえておきたい”シリーズらしく、(右上にシリーズ二と書かれていたのでそういうことだろう)最初は文章問題から。ついで練習問題に応用問題。分からないときはヒントが書かれている。
「あ、そういうことね!!……わかりやすい……!」
あっという間に表が終了。裏を捲ると同じような感じの流れが載っている。これなら授業がおもしろくなりそうって、頭になる。
普段の様子からして辛辣なイメージが定着しつつあるが、この問題のおかげで少し印象が変わりそうだ。
「ねぇ、藤崎さん。ここ分からないんだけど……分かる?」
「ん?……ああ、ここね意外と引っ掛け問題なんだ。一見、教科書の三十三ページの十三行目の太文字に見せかけて、実は次のページに答えがあるんだ!」
「もしかして……これ?」
「正解!ね?似たようなことが書いてあるでしょ?私もそこでつまずいちゃって…、見つけるまで大変だったんだぁ」
「藤崎さんって、頭いいね?」
「えへへ……そうかな?」
「でも、ここ間違ってるよ?」
「え?まじに!?」
「はい。答えはこれね?」
「うわぁ~~、騙されたぁっ!!」
あちゃ~~と照れ隠しのように頭を搔いた明日乃の前に突如として現れたのは、えっ……とぉ……。
「一深(いつみ)紫阿(しあ)です。自己紹介がまだでした……。というか私の自己紹介をあの時聞いてなかった?」
「ごめん」
「君はいつだって、話を聞いていないんだね……」
「え?今なんて?」
「ん?やっと話せたなって、ね。藤崎明日乃君」
一深紫阿。私は彼女を知らない?いや、知らないはずはない。だって…クラスメイトだから?私は心底自分が嫌な奴だと悟る。人の顔どころか名前まで…物覚えが悪いのは分かってたけど、まさかここまでとは……。
「無理もないよ。私、無口だし。影薄いし、友達なんて今までまともに作ったことないし…」
「そうなのか?それでもなんか否めないな……、私の意識のなさにも問題あるけど、一深さん本人にも問題が……あ!!」
つい、口が滑った拍子に思っていることを言ってしまった。慌てて明日乃は口に手を当て表情を隠すようにした。
やばい、怒られるなんて眼を瞑った。しかし…。
「あっははははは!そうだね!私にも問題がある。それは認めるよ。そこまではっきり言ってくれたのは、君が初めてだけど。一深紫阿だ。改めて宜しく!!」
「知ってる……。改めて宜しく、一深さん」
第一印象から与える相手のイメージとコミュニティを通じてから分かることは予想を覆すことがある。何事も蓋を開けてみないと分からないのと一緒で、毛嫌って話さないとではやはり与える刺激もない。それまでの関係になってしまう。
けれど、こうして会話をしてみて、新たな発見をすることが出来た。
彼女は一見、大人しそうな外見をして、陰湿なイメージを連想されるかもしれない。だがしかし、彼女は優しい笑顔を私に見せてくれた。それは大きなアクションでイメージが変わる。もしかしたら優しいんじゃないのって。
結論に至るまではまだ早いが、今のところ彼女は魅力的な何かを持っていると垣間見た。
彼女が一旦私から離れ、自席から課題を拾い上げ、再びこちらに歩んで来る。
「藤崎さん。私課題の方を出してくるね?」
「もう終わったの?早いなぁ……」
「それは藤崎さんがぶつぶつ話しているのを聞いたら自然と……!」
明日乃は無意識に独り言を話していたらしく…またもや記憶が無い…。それだけ夢中になっていたのだろう。でも、私は後一枚残っていた。彼女の手にも三枚。
「待って、一深さん!?君もしかして……」
教室を出ようとする紫阿を引き止め……。
「頭いいの?」
「そんなこと……あるね」
「じゃあさ、ちょっと、教えてよ?」
「やぁだ♪」
頼みを請うが……だめだった。
最後に小さく舌を出し、片目を閉じ、小悪魔チックな表情を一つ残し、いなくなってしまった。
後ろ髪を追ってまでも、引き止めるべきか悩んだのだが、自分に言い聞かせ、机に鎮座する。
課題が終わるのは、それから数分後の出来事で、職員室に行くなり、呼び出しをくらう。
相手はジェイル・ヴィクタ―理事長なのである。
職員室までの長い距離を済ませ、二回短いノックをする。実に簡素で静寂が支配する空間にはちょうどいい音だ。シュッと空を切る音もいい加減に聞き慣れた。
短く礼を言い、中に入ろうとする。
廊下と打って、景色が変わって、辛気臭い職員室が姿を現す。そこに誘われるかのように脚を一歩また一歩踏み入れると、職員の名……ここでは織斑先生を呼ぶのだが、逆に織斑先生がこちらに向かってくる。後ろに山田先生と紫阿がこちらを見つめている。
―――なにかやらかしただろうか?疑問符を頭上に浮かべながら、織斑先生を見つめる。すると。
「藤崎。いいところに来たな。今から、理事長室に迎え。理事長がお前と一深に話があるようだ。これに関しては私にも分からない。課題を渡しに来たのだろ?受け取ってやる。さぁ、行って来い!」
職員室に入るなり、織斑先生に課題を取られ、あまつさえ追い出された。今度は理事長室に行けだのなんだので、結局―――現在。
紫阿を横につけ、私は理事長室に向かっている。チンっと、特設エレベーターにて最上階を目指し、エレベーターのドアが開くと見慣れたチョコレート色のドアがお出迎え。
紫阿は初見らしく、はぁ…だのと感嘆を上げていた。無理もない私も初見の時驚いたものだ。重厚感溢れるその扉に二回ノック。中からどうぞーっと、籠った声が聴こえた。
なので、失礼しますと一言。
重たそうなドアを押し開けると、すぐに理事長のジェイルが腕を広げての歓迎ムード全開で、私たちを出迎えてくれた。
「……で、何用ですか?理事長」
「う~~ん!!その冷たさ!たまらないぃぃッ!!!?もっと頂戴ィ!!」
煙たがる明日乃は、理事長を粗雑に扱うと、後ろの紫阿は小さく拍手をした。
だが、当のジェイルはこの態様が逆効果となり、身をくねくねさせながら、さらに近寄って来たのだ。
感想としてはキモいなのだが、口を裂いてでも言うわけにいかない。かれこれ色々とお世話になっている身であるからして……、ここは話を逸らすことにした。
「ぉううんッ!!はい。理事長、用件は何ですか?!」
「あぁ…、はいはい。簡単に……、君たち二人にはチームを組んでもらい、試練に挑んでもらいます!?」
「しれん?」
試練といえば、やっぱそっちだろう。この意見は揺るがない、絶対に。
「今、君が想像した通りさ、壁を越えてもらうよ?二人で、ね」
「でも、私は一般生徒です。藤崎さんは…。ともかく私と彼女とでは吊り合いません!!」
「そうかな?私はいいと思うぜ?」
「と、彼女は言っているが?一深君は?どうしたい、意見を聞こうじゃないか?」
紫阿は口籠る。堅く結び黙ること二分。
私にはこの時間がとても長く感じた。もしかしたら彼女にはとてつもなく感じているのかもしれないが。
「私に……何を望むので……すか?私は期待通りには出来ませんし、非力です。もしかしたら藤崎さんの脚を……」
「んん……。じゃあ、二人とも眼を閉じて。私がいいよというまで、ね」
すると、二人は眼を大人しく瞑り、それでいて呼吸も止めたかのように静かになる。
ただ、響くのは彼の靴底が床と音を奏でるだけで、後は何も……。
「いいよ。二人とも」
静かに目を開くと、何も変化はない。
変化はないはずなのに、ないはずなのに……眼がそれを探す。間違いというやつを。
明日乃には見つけられなかった。なぜなら……。
「気付いた?一深君?」
「私が……、私が……」
声音が震えている。すぐさま明日乃もそれに気づく、目線の先には紫阿がいて……天辺か爪先まで行く間に分かった。
彼女の手には……かみきれ?いや、手紙だ。
彼女が目線を落とすように、私も覗き見る。するとそこには……。
“ハッピーバースデー。一深紫阿。君は選ばれた。君が触るべき力に。そう今日から君は特別者だ”と。
すると、ジェイル本人から鍵が渡された。
「それ持って、ISガレージに行きなさい。君を待っている。―――私からの用件は以上。あ、後ぉ後日に重大な発表があるからね♪」
最後まで話が分からなかったが、次に二人はガレージの方に行くことにした。ちなみに地下にあり、ここからだとすぐにつくが、今日は移動が多い気がする。
明日乃は溜息を一つ吐き、再びエレベーターに乗り今度は下へ降りて行くのだった。
「藤崎さん……私……」
だんまりとした空間に一石を投じたのは一深紫阿であった。
気まずい空気ではなく、いつでも話せる状態ではあった。
ただ、なんとなく黙っていた。そんなときに、彼女が声をかけるわけなのだが、それがどことなく嬉しかった。
エレベーターの稼働音を感じながら、なにか話そうと話題を詮索するが……まず、今日が初絡みということもあって、何を話したらいいかが分からなかった。
普段の私なら何かしら話題を見つけることが出来るのだが、今日はそうはいかないようだ。妙な緊張感。圧迫感に喉を詰まらせる。
「もしかして、迷惑だった?」
「ううん。むしろ嬉しいかな?」
明日乃は、彼女に背を向けたまま、じっと降りていく光を見つめていた。
それを不審に思った紫阿が声をかけてきたので、私は振り返りそう告げた。
「嬉しい?」
「うん。なんか良くわからないけどさ……なんていうの…友達が出来たから……かな?」
「ともだち、か……!」
私が率直にそう言下した時、再び静寂が訪れる。
もどかしいというか居た堪れない雰囲気というか……。
静寂の間を破らんとばかりに、目的階についたエレベーターはチンと鳴り、扉が開く。
光が零れ、先に進めをと、言うかのように電気が点灯して行く。
先の先まで、それは予想だにできない程の距離を表しかつ、私の好奇心を逆なでする。
「さぁ…、行こうか?私たちを……呼んでいるみたいだ?」
「うん」
二人は、お互いの顔を見ないまま、ただ言葉だけで相槌を交わし、エレベーターから降り、先の分からない道を歩き始めた。
長い長いその道のりを歩むこと、数分。
―――とうとう、目的の所に行きつく。
重厚感ある扉に、ロックの堅いセキュリティーはカードキータイプ。
紫阿は迷わず、胸ポケットからカードキーなるものを取り出し、上から下へスライドさせると、ピ―っと音を一つ鳴らし、ロックが解除される。
ドアがスライドし、二人はアイコンタクトをし、漆黒の闇が広がる世界に身を投じた。
暗転から明転。
世界は変わる。いや、変わった気がした。違う、変わったんだ……。
強い点灯のより、二人は眼を瞑り、眼を覚醒させると、そこには鎧が鎮座していた。
―――鎧、いやここではISだ。私たちが日々共に進化する存在。機械ではなく、自身の一部として、役割を担うそんな大事な存在。
君たちの、私たちの、新たな出会いでもある。そんな一瞬がまた、めぐり。そして会える。今度は……一深紫阿の番。
「これが……私の……!」
「―――らしい、な……」
階段をいち早く降りたのは、明日乃の方だった。
もらう本人より、嬉しそうな、まるで子供のような表情をして機体の方に向かう。
紫阿は冷静に、ヴィクタ―からもらった機体データに目を通しながら、ゆっくりながらも機体の方に歩んでいる。
―――機体名。サラシナ。
―――識別コード。VT‐347型菫タイプ。
―――全方位支援タイプ。
―――アサルトライフル一挺、アサルトブレード一本、バススロットに空きあり。
ふーん。などと、鼻で受け答えする紫阿。
眼前で、“サラシナ”を見やると、ただの機体ではないかと思う。
モスグリーンのボディに、実体シールドが双翼部に構え、それ以外は特に興味が無い。というか湧かない。
武装も、見た目も地味で、取り得といえば、誰にでも使い捨てにされる存在?的な。
いやいや、シールドがあろうとなかろうと、避けきれればいい。
あまり使いどころが見えない……専用機をもらえようと、使い勝手がよくないとただのガラクタだ…。
紫阿は深い深い溜息を吐き、先ほど理事長室にて言われたことを振り返る。
『これは君を最大限に活かす。これは君自身。そして、これで番狂わせを狙ってもらいたい!!―――これは不可能ではない。確率の高い賭けだ。君が彼女を救うんだ!』
―――などと、言われたが私がこれだと!?まるで私が殻に籠っているみたいではないか。こんな守ることしかできない存在だというのか?分かっていないのは、アンタだ。ジェイル・ヴィクタ―!!
怒り心頭。今にもジェイルのところに苦情を届けに行きそうな紫阿に明日乃は……。
「なぁ、紫阿?これの名前は、なんていうんだ?」
「サラシナ……。肩のシールド以外はただの鉄クズだ!」
「へぇ~~、私にはとても頼もしく見えるぜぇ?ちょっとそれ貸して!」
明日乃は一人暗い紫阿を放って、恍惚な眼差しを“サラシナ”に向ける。全身を舐めるように見渡し、終いには紫阿の持つ、機体テキストを取り上げ、自分の機体のようにチェックし始める。
「紫阿。“サラシナ”は使えない機体じゃない。よく見ろ!!この実体シールドはエネルギーを使い、相手に攻撃もできるんだ。角度を決められるし、質量も上げれば、相手に大ダメージも与えられる。これのどこが役に立たないんだ?十分に役立つじゃないか!?」
「私は、もっと派手にやりたい……」
「そうか?私的には充分派手なんだけど?これ以上を求める?随分と見た目からは予想だにできない存在になっちゃうんだけど……」
明日乃はとりあえず、フィッティングを済ませようと、雰囲気を変えるために言ってみた。
「どうだ?気分変わった?」
「―――うん。少し、藤崎さんのおかげ……」
「そろそろ、明日乃でいいや。同学年にも妹がいてさ、まどろっこしいんだよね…」
「じゃあ、私も紫阿で、いいよ……?」
「じゃぁ、紫阿?」
「なに?明日乃?」
「さて、さくっと済ませちゃおうぜ?」
「うん。明日乃のおかげでこれを持つ者として、気持ちを作ろうと思う。だから、その一歩を今、挑戦する!!!」
「その活きだ。えっと、これを、当てて……」
不慣れだが、明日乃乃手つきが、私を安心させる。
―――とはいいつつも、先ほど理事長からもらったテキストに実は彼女のデータが書き込まれていたそれを打ち込むと、あっという間に“サラシナ”は彼女タイプに姿を変える。
四枚二対の実体シールドが特徴的なそれを宙空に浮かせながら、紫阿は顔つきを変える。少し大人びたというか…、なんかかっこいいかなって。
「いりや~!!」
「セシリア。よく来たね!」
「うん!!よびだしたのは、いりやだよ?なんで、なでるの~~?」
「うん?ついね。さて、来てもらったのはほかでもないんだけど……」
「だって、わたしのへやだよ?かえってくるのはあたりまえだよ!!」
放課後の保健室。
からからとアナログな感じを漂わせるスライドドアをけたたましく鳴らしながら、金髪の少女が職員の名を呼び捨てに叫びながら保健室に踊るように入ってくる。
少女の名はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生。
現在は記憶喪失。しばらく運動をしていないので、基礎練に精を出している少女だ。
ここ毎日の頑張りと、結果に基づき、今日は彼女の愛機〝ブルー・ティアーズ〟に触れさせようと思う所存である。
だが、その前に、一つ確かめようと思う入谷。
「セシリア。君は……、もう一度……」
いつもと雰囲気が違う入谷を心配の眼差しを送るセシリア。実に歯切れが悪く、小さいながらも震えていた。
「わたしは、だいじょうぶだよ?おはなしはもしかして、わたしのこと?だったら、まよわずいって?」
「セシリア。君はもう一度、引き金を引けるか?」
「ひきがね?」
セシリアは単語を唱えた瞬間、固まってしまった。
『お久しぶりですわ?もう一人の私』
『だれ?』
セシリアが声に導かれるようにして、振り返ると、そこにはもう一人のセシリアが腰に手を当て、まるでモデルかなにかのようなポーズを決めながら、立っていた。
二人のセシリアが相見えたことで、そこは別世界へのきっかけとなる。
ここでは、せしりあとセシリアによる二人の対話が始まる。
『あなたですわ。セシリア・オルコット』
『へぇ……じゃあ、ここは二人だけのせかいなんだ?』
『私はこの時を待ち望んでいましたわ。貴女が“ブルー・ティアーズ”か“引き金”というワードを口ずさむのを!!』
『うん。わかった!』
『あまり驚かないんですわね?』
そう、せしりあに表情の変化はない。まるでこうなること最初から分かっていたかのような風貌だ。
『おもいだしたんだぁ』
『思い出したぁ?なにをですの!?』
セシリアよりせしりあの方が一枚上手だ。その笑みに幼さを感じさせない。
『何を考えているんですの!!?』
『しつもんばっかりですなぁ。わたしね、キミのオトナになれなかったブブンなんだ。いってるイミわかる?』
『そうとしか言えない言動、行動、思考を中で感じていましたわ』
『だよね。オトナなわ・た・し♪』
『貴女は本当に、私ですの?!』
もう一人の自分は首肯。否定はしない。
『わたしはキミに、しょうじきな気持ちをとりもどしてほしかった。キミはタイセツなモノをうしない、そのかわりにはやくオトナになりたいとベンキョウをした。それはまちがえではない。なぜならいまにけっかがでているからだ。それとどうじに、うたがうきもちがうまれ、ひとをしんじることができなくなった。そのときにわたしもどうじにきえかけそうになったけど、ずいぶんとたって、あすのがでてきた。そこにチャンスをかけた。で、あんのじょうチャンスはきた。―――で、いまにいたるわけね。わかった?』
話を締めるように、指パッチンのせしりあ。
『本物ですわね…』
『うん。ほんものだよ。まごうことなきジジツ!!さぁ、うけいれて?キミはすこし、いやかなりカタブツにもなってしまった。思い出して?昔の純真さを……』
『我を貫くためですわ!!?……ん?いいえ、自分の意見を通すためでもありますわ!!』
『けっきょく、ガがつよいんじゃん……。それでこそ、ワタシってかんじかな』
せしりあは苦笑。
『ええ、ですから、この身体を私に返してくれませんこと?』
『え~。いちよぅワタシのからだでもあるしぃ……そこんところも―――』
せしりあは俯き、駄々をこねる子供のように話をあやふやな方向に持っていこうとしていた。
そんな中でも、セシリアはすこし、余裕な表情を張り付けていた。
『私の身体は、そこにあって私ではない。それは別の人格が支配しているからですわ。では私は?どこにいるのでしょうか?―――私はここにいますわ!!別の人格が支配しようとも私は起死回生の一手を打って見せますわ!!そこに私の器があるのでしたら!!』
『しんだりょうしんがきいたらなくレベルのねつべんだね……。まいったなぁ……そこまでいわれちゃあ、ことわれないじゃん?』
せしりあは、主人格に値するセシリアの強い眼差に断りを入れることが出来なかった。
『きみは、そんなにあすのといっしょにいたいの?』
セシリア悶絶。せしりあはほくそ笑む。
これは随分と遡る。遡ると言っても、随分でもない。強いて言えば、彼女がまだ主人格で、せしりあが闇の中で垣間見た一瞬の光の頃だ。
クラス委員を決める際に、明日乃とセシリアの一騎打ちとして勝敗を決めるきっかけとなったバトルは、明日乃の勝利とセシリアの記憶喪失による苦い結末で閉まる。
話は、王手の一撃が決まるときに見せた明日乃の表情だった。
強い眼光に、雄々しい叫び声、荒い中にも鋭くも凛々しい彼女を引き寄せる魅力があった。
……それとは別にセシリアにとって明日乃は一条の光に過ぎなかった。そのため、過ぎ去る光のごとく存在が、この一瞬において逆に彼女のよりどころになることになった。
もしかしたら、さきの未来に影響が出るのではないか?くらいには。
その微かな望みが、主人格を逆転させるきっかけとなる。
しかし、せしりあはセシリアを怨んではいない。すこし、懲らしめる程度で充分に値した。そして、明日乃という存在に触れてしまったがために、すこし気になり始めていた。
だがしかし、このままではいけないわけだ。
なぜなら、そろそろ彼女の愛機であるISと和解しなければならないからだ。
和解といっても、せしりあがそんな電波じみたことができるのであれば、末恐ろしい存在となりうる。
言葉が間違っていた。私たちが共に一・心・体とならなければ、この先は暗いという意味だ。そう言いたかった。一人の戦いもいいが、私たちは二人で一人だ。だから、二人で戦わなくちゃ、成長も止まってしまう。隙勝って言えるのは、今だけだ。これからは分からない。でもそうなるように、賭けてみようかなって、せしりあは思った。
『そんなに、あのこのそばにいたいなら、いいはなしがある。そのひょうじょうはまんざらではないだろう?』
『別に、私は……』
『そういいなさんな。もっと、すなおになりなよ?ツンデレはいまどきうれないぜ?』
『わかって、ますわ!!そんなことくらい……』
自分で、自分をいじめるというのもまた乙なモノ。
みるみる赤面していく自分を見ているのが、せしりあにとって、快楽的趣向の表れだ。
子供、というかじゃれっ気が旺盛なのかもしれない。
そういった、経験を持つものが傍にいなかったせいで。
なにごとも全ては独学から始まり。
彼女はそうして大人になった。そうなるしかなかったのかもしれない。
その渇いた叫びに、誰も応えてはくれなかった。
だから、力を求めた。人と対等に話せるのは、やはり力。力がモノを言うのだ。
いつも、傍にいるのは大きな人。しかも、かなりの権力者揃いの中にいつも自分がいて、難しい話ばかり。子供っぽい面影なんて、微塵もない。いつだって、気の抜けない罠ばかりで、ちょっとの油断が明日さえ奪うのだ。
そんな世界で育ってきた私たちは、同学年を知らない。
知らないから、ついつい相手を突き放してしまう。そして、周囲から浮き、孤立して日陰の中を彷徨う。
昔と違って、今は日を浴びている。明るい場所にいる。願えば、外に出られるということを知人から知る。
だから、今、この時が何気なく、嬉しく、嬉しく思えるのだ。
唯一の分かり合える友、セシリアと共に。
せしりあは、思ったことを並べてみることにした。
『じゃあ、さ。ワタシひとりじめするのもカワイソウだし、なんなら……、きょうとしない?これはおたがいにわるいはなしじゃあないきがするんだけどなぁ~~』
『それだけに釣られてしまったみたいで、不本意ですけれど、毛頭そのつもりですわ!!今の私には貴女の力が必要ですの!!』
『キミがそこにいて、ワタシもそこにいる。こうしょうせいりつだね?じごくのそこまで、あいのりしてくれる、ね?』
『もちろんですわ…!』
二人の彼女が相対し、手を合わせ、瞳をゆっくりと閉じる。
すると、相手の思考がすらすらと脳裏に焼き付けられていく。あまりのデータ処理により頭が熱く、唸り声を上げながらも、彼女を受け入れようと努力した。その結果、苦痛から解放され、暖かい気持ちに切り替わっていく。
今まで凍っていた空間が、時間を取り戻し、元の世界に帰ろうとしていた。
「その様子だと、意見がまとまったみたいだね?」
止まったはずの入谷が、眼前で急にそんなこと言うのだから、私たちは戸惑いを隠せなかった。
「なんだいその顔は?事実を言っただけだろうが?そんなに驚く事ないでしょう?」
あ~、と入谷。
私たちに状況を理解させるためかはさておき、ポケットから手鏡を取り出すと、鏡を私たちの方に向ける。
「君たちは、ひとつになった。わかった?」
「うん……、えぇぇぇぇぇえ!!」
こうして、二人で一人のセシリアが保健室で誕生した。
Angelaさんの楽曲を拝聴しながら、制作していると、重い話になるのは、気のせいですね!!はい。
ただ、これが言いたくなりました。すみません。
次回も、あればいいですね。
ではでは