IS―インフィニット・ストラトス―IXA   作:理十日

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第八話 白刃が狙う奇跡

 

 

 教室が静まるまで、さほど時間はかからなかった。

 あの織斑先生に便乗しかけた、数秒間のことだ。

 再び出席簿が教卓に叩きつけられる。ゴンと教卓と出席簿の鈍い音を奏でる。出席簿からは白い煙が天に昇っていく。その姿を目の当たりにして明日乃は何度も瞬く。

 叩きつけた本人は無言で頭(こうべ)を垂れる。

 静寂の間が訪れ、むしろこの状態で喋ろうものは喋ってもらいたいという気分だ。

 針積めたピリピリとした空気。それは肌をちりちりと責める。

 明日乃も含め視線は織斑先生に一点集中し、次の展開を待つ。少なくとも恐怖感はあるのだろう。 現に私は体を逆立つ刺激に驚かされているのだから。

 あたふたする山田先生を見、再度織斑先生を確認する。

 異変はない。でも、違う意味で異変は続いている。それはやはり織斑先生の態度である。

 鬼がいる。鬼がいるのだ。

 眼前に。口元に弧を描く鬼が。

 けれど、その光景もまた一瞬で・・・。

 ――――くしゅんっ!

 そう。その一発で。

 終わったのだ。

「んっ……!すまんな、少々花粉症気味でな」

 鼻孔辺りを指で擦る。少々荒く擦ったのか鼻が赤い。

「えっ!………!?」

 私はすっとんきょうとした様子で織斑先生の方を見た。

 驚いたのは私だけではなく、クラスの皆もだろう。呆気を取られた。本当に。

 今まで、鬼のような形相で、何を言うかと思えば、くしゃみで、この緊張感は何だったのだろうか?

 笑いたい反面笑えないというものだが、感情の表れか顔が引きつる。つまり苦笑に落ち着くのだ

 

 

 

 

「これより、ISを実際に動かしてもらう」

 鋭い視線が和らいだ時、織斑千冬の口からはそんな言葉が出たのを明日乃を含めてクラスの女子たちは歓喜の声を漏らすばかりであった。

「「『おーっ!!』」」」」

 壮絶なHR(ホームルーム)が一難過ぎて、私たちはパイロットスーツに着替えここ第三アリーナに身を落ち着かせていた。綺麗に整列した横列に明日乃は息を吞んでいた。これが織斑先生の力?と。

 パンと織斑先生が持っていた竹刀がからからに黄褐色の乾いた土に一太刀入れる。

 条件反射といわんばかりに皆体を跳ね上がらせた。

 体は正直だ。待ちに待ちわびたISの操縦となれば、皆子供のようにはしゃいで、中には歓声をあげるものもいたが、明日乃はそんな女子達とは少し温度差があった。

 はしゃぐ気持ちも分かるが、試験の時、乗ったでしょう?!

 それは通り越す勢いでいかないと。もう大人なんだし。

 はあと、ため息を吐いた後周りを見渡す。

 すると、第三アリーナには私たち以外にも点々と女生徒と鉄灰色の姿があった。鉄灰色のISは見た感じ、十数機はある。因みに私のところは四機も設けてあった。

 既に動かしているところもあるが、私のところは生徒が賑やかで、先生が黙るのを待っているみたいだ。

 白いジャージ姿の織斑先生の手には竹刀を何度も手のひらの上で弾ませる。まるで、時間をカウントしているみたいだ。

 先頭にいる織斑先生の行動に視点をあわせ、指示を待つことにした。あとなんカウントするのだろうか?

 その織斑先生がどこか落ち着かない様子で、私達を見ていた。

 それが気になった明日乃は先生の視線を追いかけるが、視線に気がついたのかこちらに視線を変えた。目があったようで、慌てて目を反らす。

 今までのは気のせいかのように。でも少し気になったので、ちらっと視線を先生に向ける。

 うっすらと口元の端を緩ませ、先生は笑っていた。―――気のせいだろう。

「では、見本を………藤崎にやってもらう」

 ドキッ…………!!

 急に心の臓が跳ね上がった。心臓に送られる血液が絶賛上昇中。

 動揺を隠しきれず、体温が上昇するのと手先が冷たくのが分かる。これは緊張というのだろうか。

「藤崎っ!」

 二度目の咆哮――まあ、大袈裟に言えば、の話。二度までは許されても三度目は許されないという云々を聴いたことがあったので、明日乃はため息をつき、渋々前にいくような形で前に乗り出るついでに唇を震わせていた。

「はいっ!」

 考えている間に視線は私に集中していて、先生の鋭い目線が突き刺すように痛い。

 前には鎮座した打鉄とジャージ姿の織斑先生がいた。

「よしっ、来たな。では、乗り方は分かるな?」

「はいっ。分かってます…!」

 ISに乗るのはついこの間の入試試験の時以来で少し曖昧なところもあるが乗れないわけではなかった。

 鎮座したISの装甲がプシュッと音を立てて開いた。まるで私のことを呼んでいるようだった。

 装甲に当たる部分に体重を預ける。すると開いていた装甲は私を感知したのか、閉じる。

 身体に走る装甲は不快感を与えることもなく自然に走り、一体感という文字を明日乃は連想し、微笑した。

 カシュッという空気の抜ける音に次、眼中でパラメータが上下に揺れる。一瞬、ウッと眩んだが慣れは速く、パラメータはすぐに修正を始めた。

 緊張は確かにしていた。でも、IS………、いや打鉄が送る何か不思議な力が私を落ち着かせていた。

 打鉄(うちがね)がその場で立ち上がるのは正常に起動したのと、私の指示に従っただけのことだ。

 立ち上がりとともに無重力に襲われたのは肩の部分に浮いている推進機(スラスター)が正常に起動した証拠だ。

 膨大の情報量が脳内に自動的に送り込まれる。

 推進機(スラスター)正常稼働。

 皮膚装甲(スキンバリア)展開完了。

 ハイパーセンサー最適化……完了。

 システム以上なし………了解。

 一斉に通知が来たのにはびっくりしたが、対処のやり方はわかっているのですぐに消した。

 軽く息を吐く。それはちゃんと起動したことにたいする安堵の息だった。

 肩の力をガス抜きの容量で抜いていく。ガス抜きをしないとこれにまで影響を及ばしてしまうのだ。いかに打鉄を受け入れるか、受け入れないかですべてが決まってしまうほど。大袈裟になってしまうが強者のような動き一般の物と比べるとしなやかでかつ、美しくそして潔い。その他いろいろと合わさっているのではないかと私は思うのだ。

「織斑先生!OKです!」

 織斑先生はこちらを一度一瞥し、指示を出した。

 それは手元の竹刀からの一太刀によるもの。パンという音が聴こえたのち私は無意識に体を動かしていた。なぜなら、断るという道理がなかったから・・・。

 

 

 

 

 基本動作といえば、歩行、刀を形成し、軽い身のこなし。…………くらいだろうか。

 織斑先生を始め、クラスの全員の視線が私に釘付けになるわけなのだが、女子達はコソコソと耳打ちやどうでもいいような会話をしていたのを確認し、適当に処理した。

 私的には真剣に見られるのはいかんせん慣れていない。できるなら違うことに集中してもらえると非常にありがたい。

 閉めに近接ブレードを無限(∞)という文字を軽く描き、左腰に携えた鞘に刀身を収め、基本動作を終えた。

「これでいいでしょうか?」

「ああ、戻っていいぞ?」

 降りる許可が下りようが下りまいが、私は降りるつもりだった。

 スタッと、靴が黄褐色の渇いたグラウンドについた途端に体が、重く感じたのはISから解放された証拠だった。

 ずかずかと大股で歩幅を大きくしながら自分の並んでいた場所に戻る。視線を集めたが、それは一瞬で再び織斑先生のところに視線は集中していた。

 

 

 

 

「では、以下の通りだ!呉々(くれぐれ)も怪我人を出すんじゃないぞ?!」

「「「「はーい!」」」」

 怪我人なんて出ませんよと、明日乃は心中で相槌を打った。

(まあ、朝の予想が的中しない限りは、大丈夫だろう………?)

 当たる要素はないが、なぜか朝の予想が脳裏を過(よぎ)る。これは警告だろうか。

 

 

 ―――キヲツケロ………。―――と強く念を押されているようだ。

 

 

 ハッと、明日乃は這い上がってくる恐怖に眼を見開き周りをみやった。

 特に何の代わりのない。ISの基本動作中の女性とたち。でも、何かがこのあと起こるはずだと教えている。体が、空気が、針詰められたようだ。舌が喉に張り付いて息苦しい。酸欠なのか視界が定まらない。

 

 

 そして私はここにいる子たちを疑うのか?―――異分子だといって、弾くのか?

 

 

(違う………!)

 明日乃は首を左右に振る。ポニーテールに結った栗色の髪が激しく左右に揺れる。

 荒くなった呼吸を深呼吸で落ち着かせる。――三回目でなんとか落ち着きを取り戻せた。

 目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。

 決して犯人捜しをするわけじゃないと自分に言い聞かす。

 ゆっくりと覚醒する。明日乃は真っ直ぐな瞳で何かを追う。

 明日乃の目はISに自然と目線が示していた。自分のクラスではない他クラスだ。

 確かに有り得そうだ。だが、自分のクラスも疑がわなくては差別だ。

 どちらにしろ動くときにはそれなりの動きをとるはずだ。

 自然に眉間に力を入れ、シワを作り、腕を組みながら周りを見渡した。

 特になにもない男子がいたら喜びそうな光景だった。

「あの…………ぉ」

「ん?」

「ひぃ…!」

 うちのクラスの女子生徒が突然と驚いた。

 明日乃は自分が怖い顔をしていることを驚いてから気がついた。

 怯えきった少女は順番を教えに来たのかもしれない。なぜなら、私が並んでいる列の前には誰もいない。いるというかあるのは鉄灰色の塊。打鉄だ。

 沈黙があった。

 カシュッと打鉄がハッチを開ける。私を待っている犬のようで明日乃はふんっと鼻で笑う。そんな姿を見た少女が・・・

「あの…………」

 明日乃に聴こえるかわからないような声で語りかける。少々上目使いな面がキュンと来たが、辛うじて―――聞き取れなかった。

「……ごめん!」

「えっ………!?」

 少女を一瞥し、私は爪先を打鉄に向け、一歩を踏み出す。ついでもう片方。足取りは少々重い気がする。

 寒気がする。脈が上がってきているのが体感できる。

 今日が世界の終わりかというのは大袈裟さかもしれない。

 これくらいのことを言わないと落ち着かないのを私は私なりに知っている。

 明日乃は地を蹴り、少し強引だが、打鉄に飛び込んだ。それをクッションのように打鉄はカバーしてくれた。

 身を打鉄に委ねる。二度目でもう慣れている。もう心配は、何もない。

 先程とは違う感触が身体中に広がるのが分かる。これは緊張感だろう。

 だが、推進機の起動の際は一瞬だが気が楽になった。

 すべての起動を確認の後、ハイパーセンサーの解像度でさらに周りを睨み付けるように、一人一人を明確に判断するために見た。

 キャッ、キャッと女子たちの喧騒に、ぎこちない動きのIS。少し慣れたのか動きが機敏の彼女。………特に変わったような現象はない。

(やはり、気のせいなのか…?)

 胸に手を当て、心拍数を測った。

 脈は差ほど速くはなく、気味が悪いほど落ち着いていた。鮮明で、とてもクリーン。相手の動きがはっきりと見える。太刀筋や脈拍、推進機の駆動音が、全て知覚出来るのだ。これほど気味が悪いことはなかった。

「――――あっ…」

 周りの女子からの視線を感じた明日乃は身を竦めた。今まで喧騒の中で気にした様子がなかった女子たちの視線は私に集中していた。

(なんで、見てるんだ………?)

 一瞬だが、背中に何かがうねる。たとえるなら背中に鰻を入れられるような感じだ。

 これは普段から目立たない自分がこんなに注目されることに慣れていないからだった。

 だから、明日乃は背を女子たちに向け、適当に動きを誤魔化すような行動に出た。

 とった行動はウォーミングアップに近い行動だ。

 

 

 ――――ズキン !!

 

 

 明日乃は不思議な痛みに顔をしかめた。片眼を閉じ、眉を中心に集め、そっと額に手を添え、その場に膝をつく。――――激しいことはしていない、なぜだ?

 はあはあと、動悸が早くなり、視界が眩む。

 首を横に振り、否定するように意識を正す。

 その時だった。

 

 

 ――――ガタンッッ!!

 

 

 反射より思考よりも、早く研ぎ澄まされた神経がそこを追う。

 見開いた瞳は、何を見た。

 微動だにしない打鉄と鉄の塊が地を這うように寝転がっていた。

 明日乃は微動だにしない打鉄の方に目線は釘づけになっていた。

 打鉄は何かを持ち上げていた。地に伏せたのと同じ―――打鉄を。

 一体目は地に虚しく転がっていて動く様子がなかった。二体目、今まさにそれが落ちようとしていた。

 悶え苦しむ姿を快楽のように感じ、手中に少女の首を収める姿に明日乃は眼を見開き、その場で硬調し、間髪入れる前に自分のなかでさらに神経が研ぎ澄まされるのを感じた。

 不可思議な痛みと緊張感が何事もないように消えたのはそのあとすぐのことだった。

 

 

 ―――ガタンッッ!!

 

 

 二度目。

 それが引き金(トリガー)となった。

 歯を食い縛り、地を思いっきり蹴りこむと鈍い音がアリーナ内に轟く。それはまるで明日乃の内心を表しているかのようだった。

 明日乃は何かに弾かれたかのように推進機(スラスター)を吹かす。

 打鉄との距離はざっと、一〇〇メートルだが、こんな距離は造作もなくすぐに追い付くような距離だった。

 瞬く間に地に伏せた打鉄を通りすぎると、ハイライトを失った瞳で私を見ていた。

 まるで、糸が切れた操り人形のような姿をしていた。グデッと、骨を抜かれた状態とも言える姿に明日乃の心中で何かが萎(しぼ)む。

 ―――大丈夫なのか?…………心の片隅にある気持ちが口走る。

 いや、今は…………。同情で、なにか変わるのかっ!?

 視線を落ちた打鉄から打鉄に集中させた。

 ギュッと、さらに奥歯に力を入れ、近接ブレードを呼び出す。

キンッと、束を強く握りしめ直す。

 手元にある近接ブレードを鞘から抜刀し、 その勢いで鞘を投げ捨て、両手で束を掴み取り加速という勢いで思いっきり斬りかかる。

「はアァアァアアッ!」

 上段に持ち上げられた腕、近接ブレードは綺麗な弧を描きながら相手の面と胴のラインを捉え、右肩斜めに流れる勢いで振り落とす。

 近接ブレードを引いた際に砂嵐が巻き起こり、明日乃と相手を互いに見失いかけたが、打ち込むことはできたはずという確信が優先された。それと絶対防御はちゃんと発動してはいたのだろうか?という疑問が一の次に思考をもやもやさせた。

 絶対防御とは、量産機から専用機に備われているパイロットを守るための能力だ。

 これを破らない限りはパイロットに直接のダメージは与えることはできないという優れものだ。だが、この能力がパイロットを守る際は極端にシールドエネルギーを消耗する。当たらなければどうということはない。という言葉が身にしみる。

 明日乃が心配していたことだ。もし相手がこれを切っていたとしたら?と考えてしまうと戦慄が体を支配する。

 相手を切った時にシールドのようなものに当たった感触がしなかったからだ。本当に人を切ったような―――気のせいだ。これが切るということなのか?

 自問をして数拍の間が過ぎ砂嵐が、晴れていく。

 回復してきた視界に入る影は武者の鎧を模した―――打鉄が佇んでいる。

口元を眼にとどかんばかりに歪ませる。

「はっ!?」

「どうした?………終わりか?」

 えっ………!?

 ドウイウコトダ…………?思考が混乱を生じ、動揺の表情を浮かべその場に佇む形になった。

「じゃあ、こっちのターンだ」

「なっ…………!」

 冷ややかな声は明日乃の身体を舐める。

そして頬に汗を一筋垂らす。

 身の毛が逆立ち、何かに弾かれるように推進機を噴かし、その場から逆方向に離脱。

 その刹那、明日乃が離脱した場所からはヒュッと、風を切る音が聞こえた。

 そう。打鉄は自分の刀の方を天に向けるように切り上げたのだ。紙一重で回避はできたものの体を 震わす戦慄はより一層酷さを増していた。

 思いっきり推進機を付加したおかげで距離は2,3メートルは離れることができた。

 推進機を思いっきり噴かさない限りはすぐには顔を直接会わすようなことはないだろう。

 虚脱感が体中を支配する。無意識に膝から地面に跪(ひざまず)く。近接ブレードを杖のように地面に突き立て起き上がり周辺を見やった。

 周囲は蛻(もぬけ)の殻のように、私と前の打鉄しかいなかった。

転がった打鉄たちはすでに回収されていた。

 いつの間にという感想があったが、これで思う存分暴れられるといってもいいのだろうか。………そこは分からないが助かったという気持ちは身体の底から込み上げてくるのは分かった。

 

 

 

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