僕からキミへ
玉城真一郎とV.V.、二人の付き合いはそれなりで十年近くに成り、気安い間柄。
なのだが、いつも玉城がV.V.に迷惑を掛けるといった一方的な関係でもあった。
「ストロングストロングー!いえー!」
今日も今日とてストロングチューハイ。適度に強いアルコールと、その飲みやすさに定評がありながら、かなり癖になってしまう、良くも悪くも酒飲みの味方。
その500m缶を既に四本開けて尚要求中なのだ。この玉城真一郎という男は。
「悪酔いしちゃうよキミ。というよりもうしてるか」
「いいんだよ!どーせ明日はお休みなんだ。休み前の夜くれー飲ませろっつーの!」
「これ、僕が買ってきたんだけどさ。僕のお金なんだけどわかってる?」
「いーじゃんいーじゃんっ、かてーこと言うなよな、俺たち家族、夫夫(ふうふ)なんだからよー」
夫夫(ふうふ)夫婦(ふうふ)ではない、夫夫という間柄に二人はあった。
男と女では無く、男と男で夫夫なのだ。婚姻関係にある二人。そう玉城とV.V.は結婚しているのだった。
勿論誰かに認められた物では無い。お役所も男同士の婚姻は認めない。二人が二人、互いに相手を想い二人だけで結婚したのだ。
二人の関係を知っている者も、この特殊な夫夫関係にある玉城真一郎とV.V.の事を、心から祝ってくれて、ささやかな結婚式をこのゲットーの片隅で挙げてくれた。
祝言を済ませた二人のその夜の営みは、互いに一糸まとわぬ姿と成り、肌と肌を合わせ、じっくりと穏やかに時間を掛けた物で。
互いを想いながら深く深く、抱き合い、愛し合った物だ。玉城はV.V.を愛し、V.V.は玉城を愛し、二人は二人だけで完結する。
毎日、毎夜、そうして愛を紡ぐ。男同士? 外見年齢が10つほど実年齢還暦ほどのブリタニア人美少年と、二十代の野性味溢れた日本人青年?
だからなんだというのだろう。愛するという事に、愛し合うという事に壁など有りはしないのだ。互いが互いを想っていればそれでいい。
ただ、V.V.は玉城にも話しているが。玉城に隠し事をしたくないから話しているが、V.V.は永遠の命を持っている。
そしてギアスと呼ばれる超能力を発現させることが可能となる力を、他者に与える事が出来る。
このギアスは玉城も持っている。
玉城のギアスは幸運のギアス。発動条件は無意識の下。
危険や危機が迫れば幸運値を増幅させて、自身と、自身の周囲ある程度の範囲を幸運で守る様な、そんな力であるらしいのだ。
この力はギアスの効かないV.V.にも間接的に効力を発揮する非常に便利な能力なのだ。
そんな便利な力の先にV.V.は玉城にもコードを保持させようとしていた。もちろん打ち明けている。
永遠に生きるV.V.。寿命のある玉城。いつかくる死という別れ。V.V.は叫んだ。耐えられないんだ真一郎の居ない世界なんて!! この叫びに玉城の胸は高鳴り激しく揺さぶられた。これは、駄目だ、と。
だから一緒に、永遠に生きようという言葉に彼は肯いた。その為にまずは日本を拠点とし、世界中の遺跡を虱潰しに回って。またコードの研究も行いながら、玉城のコード保持を目指す。これが二人の目標となる。
玉城自身は別に寿命が来ても良かった。人間いつか死ぬし、生きてるって事はそんなもんだと割り切っている。しかし、しかしそれがV.V.を永遠に悲しませることに繋がる、繋がってしまうのなら話は別だ。
それだけは、それだけは楽天家の玉城真一郎も耐えられなかった。愛するV.V.を。心の底から愛し想うV.V.を悲しませるなんて、許されることじゃないし、とても耐えられる事じゃ無い。
玉城真一郎にとって、V.V.を悲しませることは、悲しませてしまう事は、唯一絶対の禁忌。犯しては成らない罪。あってはならない事。
だから玉城はその永遠って奴を目指してみることにした。V.V.と二人一緒なら、いつかそこへと辿り着ける、そんな予感を抱いて。
そんなV.V.を愛する志高い男、玉城真一郎だが、今はただの酔っ払いと化していた。
「うめェっ! V.V.もう一本!」
「はあ、まあいいけど」
ほら。小さな手がスーパーの袋の中に入れられ、掴み出された500m缶を手渡す。
「センキュー!!」
受け取る大きな大人の手。実際は小さな手の方が、大きな手よりも四十ほど年上だという、不可思議な状態なのだが、特に二人とも気にしていない。
共に相手をよく知っているからこその気安い間柄。玉城も目の前の美少年が、どうして六十代のおじさんか知っているから、今更訊いたりもしなかった。
男と男、愛し合う夫夫、それで十分なのだった。
「よーし、V.V.も明日は何にもねー!つーことで俺様に付き合えー!」
「いたっ」
額を小さな頭のその額に押し付けながら、玉城はぷしっと開けた缶チューハイをV.V.に差し出す。
「痛いよ」
おでこをさすりさすり、恨めしそうに玉城の両目をにらむV.V.の紫色の双眸。
「いたかねーって、ほら」
玉城がV.V.のおでこを触り、小さなその額をさする。
「……というか明日も僕には家事があるんだからね」
「俺と一緒にやろうぜ」
「真一郎だって、真一郎と一緒に家事をすると直ぐにキスしてきたり、胸元とかあそことか触ってきたりして邪魔するでしょう?」
「お前だって俺のキス受け入れてくれるし、身体触らせてくれて文句言わねーじゃんか」
「言うわけ無いだろ……愛してるのに……」
玉城の手で擦り付けるように額を摩られ続けるも、美少年の姿をした還暦ほどの男は拒絶しない。
そのままの勢いで玉城は、彼はV.V.の小さな身体を真正面から抱き締めた。
「へへーっ、ちっさいV.V.ちっさくて可愛いなぁ」
「んんーっ、苦しいんだよ、もう……っばか、小さくて悪かったね」
玉城の羽交い締めにV.V.のマントが皺を刻む。
髪留めで整えている髪も少しくしゃっとほつれてしまう。
「真一郎キミ飲み過ぎだよ……また僕がキミの介抱することになるのかなあまったく」
V.V.も深く愛する玉城の背中に手を回して、V.V.から見ればその充分に大きな身体を抱き締め返してあげた。
一見、幼い子供が歳の離れた兄に抱き着くように見えても、実際は逆。二人の関係はさも不思議。
V.V.の手が玉城の背中をさすり、玉城の手がV.V.の背中をさする。
玉城の手の平にV.V.の表が黒で裏側が紫色をした、夜の色を連想させるマントの生地が擦られて、結構手触りが良い。
またV.V.の月の色のような美しい金色の長い長い、V.V.自身の踵にまで届く長さの長い髪の毛が手の平をさらさらこすり来て、これもまた気持ちが良かった。
変わってV.V.の手には身体を包む黒いシャツの感触と、彼のその筋肉質な身体のたくましさ、自身には無い男らしさをよくよく感じられて心地良かった。
「V.V.は俺様の介抱係ーっ、うーん、それもいいんじゃね?身体ちっちゃいから細かく介抱出来るって言うかぁ、なーなーV.V.ー俺の事介抱しておくれよー」
「うーん、そんな可愛らしい事言われちゃ断れないじゃないかー、真一郎ぅ、可愛いよ真一郎」
言いつつV.V.も膝立ちのままに玉城の頭を優しく撫でた。身長差はある体格差もある、だが愛し合う夫夫が愛を伝え合う障害とはならないのだ。
逆立てられた茶髪の短髪。その触り心地が良い。わしゃわしゃしてあげるともっと良くて、暫しV.V.は玉城の頭を撫で続けた。
「真一郎、可愛いよ……僕の、真一郎……」
可愛い可愛い年下の、我が儘な夫は、本当に世話の焼き甲斐があった。
抜けているところが多いからこそ、その短所を夫である自分が埋める。
夫夫そうやってこのゲットーで生きてきた。
「それより忘れないうちに渡しておきたい物があるんだ」
世話の焼き外のある青年夫に外見年齢美少年夫は、少し離してと言う。
玉城は「やだーっ」と駄々をこねたが、離して貰わないと渡せないからと窘められ、ようやくV.V.の背を撫でていた手を離した。
「ちょっと待ってね」
美少年の後ろ姿を玉城は目で追う。早くこの腕の中に戻ってきて欲しいと。
ガサガサ。袋をあさる音。V.V.の、彼の小さな手が、台所に置かれていた紙袋をあさっているのだ。
六畳一間のこの部屋では台所も丸見え。よく料理を作ってくれるV.V.の可愛らしい後ろ姿に玉城はほっこりさせられ、また抱き着いたりしたくなることが良くある。
料理をするときのV.V.は長い長い金髪を首の後ろで一つに纏めて、三角巾を付けていたりする。マントも脱いでいるから、白と蒼に金縁を混ぜ込んだような、不思議な司祭服みたいな服で料理をする。
正確にはその衣服の上から白いエプロンを着けてだ。これがまた可愛らしくて玉城の庇護欲と情欲の中間の欲情を煽るのだ。
そんなV.V.に抱き着き、料理の邪魔なのにキスをして、五分くらいは口付け合わせて彼の邪魔をしてしまう。
『も、もう、……ばか、んんっ』
うつむき加減で頬を赤らめて抗議するV.V.が可愛くて、更にキスをしてしまうことも。
くちゅくちゅと交わる唇の間から、つーっと唾液が漏れ零れ、V.V.の、玉城の、顎を伝いお鍋の中に落ちてしまったり。
そんな事が良く行われている台所。そこで紙袋をあさって彼は何をしているのか?
そんな事より早くこっちへ戻ってこい。もう一回抱き合おう。まだキスをしてねーじゃんか。
うずうずする玉城を後ろ目に。
「あったあった。一番下まで落ちてたみたいだね」
嬉しそうに微笑むV.V.。頬は真っ赤に染まっている。愛し合うときのように。口付けを交わし合う時のように。
「えへへ。真一郎~、はいっあ~げ~る♪」
実際に恥ずかしく照れくさかったV.V.が、玉城に渡したのは。
「はー、と?」
「うん、ハート――だよ♪」
ハートの形をしたチョコレートだった。
「えへへ、受け取ってよ真一郎、僕の愛のチョコレート。愛のイベント忘れてたでしょう?」
夫夫関係なのだ。愛し合う関係なのだ。愛のイベントに参加するのは必須であった。
「き、今日、近くのあばら屋に住んでるおっさんが、V.V.ちゃんからいいもん貰える日だなあ。羨ましいこってって、言ってたの……あ~っ! 今日だったのかぁ~っっ!!」
玉城は酔いの回る頭を両手で抱えながら、目線を差し出された赤い色の包装紙に入った。真ん中だけ見えるハート型のチョコレートに。
「ぶ、V.V.~っ!」
涙を流して大げさに。いや愛情深い故に涙を流して喜び、両手を差し出し、V.V.の小さな両手からそれを受け取った。
「えへへ」
はにかむV.V.。今日一番のドキドキだった。どうせ忘れているだろうという事は察していた。だから、どんな反応を見せるかと少し不安だったが。
泣いて喜んでくれたのだ。こんなに嬉しい事は無かった。自分自身にとっても最高のプレゼントだよ。そうV.V.は微笑んだ。
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