柏餅&愛し合う 一路キュウシュウへ
「わり、V.V.。ちょっと待っててくれよ」
茶髪の髪を逆立てた青年、玉城真一郎に電車の座席に置き去りにされる。踵まで届く淡い月色の髪の少年。少年の姿をした齢六十代の男性なのだが、その男性は表地が黒、裏地が紫のマントを羽織り、白を基調とした青や金の色が入った宗教指導者のように衣服を着ている。
だから目立つ。一人にされていると狭い列車内を行き交う人々にじろじろ見られる。地元であるシンジュクゲットーでならこんなことは無かった。
みんな温かい目で見てくれるし、自身が六十代の大人である事を知っている者ばかりだから、年上への接し方で接してくれた。だが、一歩地元を離れれば、貴族のような変わった衣服を着たブリタニア人の子供としてしか見られないから一人にされると非情に気分の悪い思いをするものだ。
貴族と勘違いして取り入ろうとしてくる馬鹿まで出てくる始末だ。
特に玉城と僕の間柄、夫夫関係という間柄を知らない者からしてみれば、ふとした僕と玉城の、真一郎の行為が気持ち悪く映ったりするのだろう。露骨に変な顔を向けてくる。
嫌なら見なければ良いのに。気持ちが悪ければ視界に入れなければ良いのに。僕は余り気にしない方なんだけれど、それで真一郎が傷つきでもしたら多分辺り構わず怒鳴り散らす。僕よりも年下の糞ガキ共が、僕の大切な真一郎の事を良くも傷つけてくれたなって。
まあ、幸いにも真一郎も気にしない方。自嘲気味に俺の脳みそは2Bitだから、物事深く考えられねーのよ。そんな事をよく言っている。だけどね真一郎、君は僕を、僕の事をこんなにも愛してくれている。僕も君をこの小さな身体で精一杯愛している。
夜、ううん、昼でだってどこでだって僕たちは性愛行為だってしているじゃ無いか。
君のを口に含み、僕のを口に含まれ、互いに達して呑ませ合い、身体を擦り寄せ合い、肌と肌で感じながら、大切なところを絡ませ合わせて達する。これは形だけの夫夫愛だけど、心と心で深く一つに繋がりあってる証拠なんだよ?
僕はそれが嬉しい。僕の愛を受け入れてくれて、君の愛を受け入れるんだ。ゲットーのお隣さんなんかには昨日の夜は激しかったねなんて恥ずかしい事も言われたりするけれど、それさえも僕には嬉しいんだ。ああ、早くこんな旅は終わらせて、あのシンジュクゲットーのあの家に帰りたいよ。
そして帰ったその日は僕と真一郎は一日中を以て愛し合うんだ。僕らが結婚して夫夫仲にあるのを知っているのはあのゲットーの住人達だけだからね。あそこは僕と真一郎の地元。故郷なんだよ。彼処で僕と真一郎は出逢い、そして始まったのだから。
それにしても何してるんだ? 遅いなあ。電車出ちゃうぞ。
と、思っていると、逆立てられた茶髪のいかにも俺不良なんだぜってのが飛び込んできた。
「わりーV.V.。一人にしちまってよ。寂しかったか?」
「寂しかったよ」
ああそう、寂しかった。君のいない時間はいつだって寂しい。僕にとって君という存在は僕の生きる全てなのだから。
「そっかあ~ごめんな~」
真一郎は人目も幅からずに僕の事を抱き上げてくれると、強くハグしてくれた。僕も小さな手足で真一郎を抱き締め返す。長いマントの裾と、僕の長い髪が翻りゆらゆら揺れている。
「終点の次の駅で降りるからそこからは歩きか、ヒッチハイクだろ? 万一遅れたら駅で待っててくれるだろうって」
「僕を待たせたら“V.V.の真一郎寂しん坊病”を発症して五秒で死んじゃうからね」
嘘じゃ無いよ。僕は真一郎がいないと寂しくて死んじゃうんだ。
「な、何だよその病気は」
「僕が作った」
「勝手に作んなっ!」
見ると手に何か持っている。
「何か買ってきたの?」
「おうこれか? へへっ、こんな田舎ならまだ日本の風習も残ってんじゃねーかなーと思ってさ」
そういって僕を降ろし、座席に座らせてくれる。二人で向かい合わせにではなく、隣り合わせで身体をくっつかせて座りあって僕と真一郎は強く引っ付くんだ。
真一郎は袋に入っていたビニールに包まれた緑色の葉っぱを取り出す。
「なにこれ?」
「柏餅っつーんだ。葉っぱの中に餅が入ってるんだぜ。男の子の節句って奴の時に食べるんだよ」
男の子の節句ねえ? 僕は大人の男だ。結婚もしてる成人男性なんだけど。
「舐めてんの僕の事?」
「舐めてねーよ。まあまあそう怒んな。六十代のおっさんがガキ扱いされたらそりゃ怒るだろうが、ほら、ブリタニアにはない風習だろ? だからV.V.にも味わってみて貰いたかったんだよ」
そういうことか。うん。まあいい。それならば許そう。
「葉っぱ事食べるの?」
「いやいや、葉っぱは無理。桜餅なら行けるだろうけど柏餅は無理だ。とりあえず葉っぱ剥いて」
「こう、かな」
僕の小さな手の指が、お餅の葉っぱを剥いていくと、現れたのは。白いお餅。甘い良い匂いがしてるね。
「そんでまあ、普通に食べる」
見本とでも言うように、もっちゃもっちゃ食べ出す真一郎。
僕も食べてみる。
「もっちゃもっちゃ、ん、中に餡子が入ってるんだね。もっちゃもっちゃ」
「美味しいか」
甘いお餅に甘い餡子が見事にマッチングしていてとても美味しい。
僕は自然笑顔になると、真一郎に顔を寄せた。
「うん、美味しいよ……君の唇には劣るけれどね」
周りの視線なんて気にしない。だって僕V.V.と玉城真一郎は、誰憚ることの無い夫夫だもの。
◇
「おお~、お熱いね~お若いの」
僕と真一郎が口付けを終えて、ふと前を見ると如何にもな老紳士が座っていた。物わかりの良さそうな人で僕らの関係にも理解を示してくれている。僕が真一郎にキスをした瞬間。隣の席のブリタニア人カップルが「おえーきも~」って言ってたのとは偉い違いだ。
「僕と真一郎は夫夫だもの。熱いのが普通なんだよ」
「お前が必要以上に愛情表現を要求してくんじゃねーかよ」
「嫌なの?」
「んなわけねーだろ……んっちゅ」
隣のカップルが。
「げー、キモいまたヤッテル、しかも相手イレヴンだろ気持ちわりー」
とか言ってるのが聞こえるけど、眼前の紳士は。
「仲良きことは美しきかな。性別や種族なんてのは、愛の前には関係ないんじゃよ」
と僕らの行動を美しいと見てくれて。
僕の気分は高まり、舌で真一郎の唇をこじ開けて、舌を中に差し入れ、真一郎の舌と絡ませ合うディープキスに移行した。隣のカップルは「おげー」とかやって本当にゲロ吐いて車掌さんに怒られてる。いいざまだ。
身体も心も火照ってる。頬が熱い。真一郎の頬も熱い。目をつむってキスをする僕ら。いい加減離れようかと言うときに、発車ベルが鳴った。ベルを聞いてお互いに身を離す。
「お前いい加減にしろV.V.よお。ディープキスまでしてくるとは予想外だぞ」
「いいじゃないか。夫夫関係に遠慮なんか要らないよ。ねえおじさん」
僕は前席のおじさんに聞いてみる。
「まあ、場所は選ぶ必要はあるかもしれんが。こんな列車の三人しかおらん客席なんじゃし、かまわんのではないかな。それよりあんたらこのさき終点なんじゃが行く宛てはあるのか?」
おじさんが尋ねてきて、真一郎が答える。
「いや、宛てはねー。とりあえずキュウシュウを目指してんだけど」
真一郎の言葉を僕が引く次ぐ。
「僕らはキュウシュウから中華連邦に渡る予定なんだ」
「中華連邦、大陸まで?! そりゃまた偉い長旅じゃなー、んーお二人さえ良ければこんばんは儂の家に泊まっていかんかね。こんな田舎だけになにもないところだが、まあ酒ぐらいは出せるよ」
とまあ、そんなこんなで、旅を始めてそれほど経って居ない頃、第一の宿を見つけた。
ついでにここぞとばかりに僕と真一郎は愛し合った。互いを口に含み、呑ませ、肌と肌を重ね合わせて、大切なところを絡ませた。
真一郎の身体に僕の月色の長い髪が纏わり付いて、真一郎は僕の髪を優しく撫でてくれて、僕が真一郎の耳朶を噛むと、真一郎も僕の耳朶を噛む。散々、愛し合い絡み合った僕たちは、裸のままで抱き合い、お互いの温もりに触れて眠りに就いた。
短編あるいは長編として続きを読みたいですか?
-
読みたい
-
別にいいかな
-
また書きたいときに書けばいいんだよ