ブルーアーカイブ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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ノアちゃんの    3

 

 

 

これが、私がノアに送る最後の手紙になるはず。

でも、直接渡す権利は私にない。

 

 

 

それを文字にしない形で記憶するのであれば、声や窓ガラスの文字にするのならば、個人の認識の違いとしてごまかすことができたのに。

 

私さえいなければ。私が書き留めてしまわなければ。

 

私がのあに思いを告げるたびに。愛の囁き。賛美。書き記すたびに。文字を書くのが上手くなって想起させる物事の解像度が上がるたびに。書き記す度。思いを告げるたびに。

 

あまりにも辛い物だったのではないか。

 

私が上手く『話せる』のであれば、何も間違わなかった。

 

手紙で彼女に思いを伝えるたびに。

 

のあは、のあになってしまった。

 

窓ガラスの文字はいくばくもなく消えるはずだった。先生への囁きは、のあとの2人だけの間で温めてほどけるはずだった。

 

のあは先生にならと、窓ガラスの文字を残したのに。

 

『あなたは一体だれを愛すのですか?』

 

私は、空に浮かぶ雲をこそ愛す。

 

勇気を出してこの文字を書いたはずだった。

 

自信が確定されてしまうのがこわかったはずだった。

 

伝えてくれたって、少しも悲しまないのに。のあは私にはそれを伝えなかった。

ようやく、先生になら、分かち合えるはずだった。のに。

 

 

郵便局の窓口で、ノートからちぎり取った紙切れをドローン速達でのあに送った。

こうなってまで文字しか書けない自分に辟易する。

 

でも、これで最後だ。

 

のあのために書かないなら。もう何もない。

 

ユウカが新調してくれたドアをくぐって自室に閉じこもった。

 

ポケットからのあが選んでくれた万年筆を取り出して机に置いた。

 

壊れたモニターもすでに捨ててしまったのもちょうどよかったかもしれない。

 

内臓のインクカートリッジの交換で今まで頑張ってくれたこれも、もういいかもしれない。

 

もちろん捨てることはできないけど、もう私は文字を書いて気分を高ぶらせることはない。

 

もう彼女に頼らなくていい。

 

もう。

 

 

 

手元の端末が誰かからの着信を告げ始めた。

表示を確認すると、のあからの物だった。

 

よく思い出すと、のあから音声で通信が届くのはとても珍しい。

今までは、私が。

 

頑張って音声通信に声を吹き込もうとしてみる。

 

「のあ」

 

「そこにいますよね?」

 

返事は手元の端末と、先ほど閉ざしたドアの向こうからも聞こえた。

 

「開けますよ?」

 

ドアノブを乱雑に扱うような音。電子錠のエラー音。

単発の銃声がひとつ。カービンキットの全弾。

耐えきれなくなったドアノブと電子錠が弾け飛び、扉が開いた。

 

「今日は私の部屋で寝ましょうね」

 

のあは私と机の上の万年筆を抱えると有無も言わさず歩いていく。

のあは笑っていなかった。書類を眺めるときの表情や、採決の表情でもない。

表現するなら、失敗を悔いているような、でもいつもの余裕はたたえたまま、諦観はない。

 

運ばれた私はのあの部屋のベッドに安置された。

万年筆を大事に握らされる。

 

「のあ」

 

のあはどこにでもある油性ペンを取り出し、私の左の手の甲に

 

『生塩ノア』

 

自分の名前を書いた。

 

「のあ」

 

何やら可愛らしいデザインのわっかが首元に着けられる。

油性ペンも手渡され、のあは自分の左手を差し出す。

流されて記名すると、感極まったかのようにきゅうっと抱きしめられる。

 

「のあ」

 

お布団がかけられた。

 

 

「のあ」

 

 







ノアちゃんの「   」
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