ブルーアーカイブ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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庇護
庇護(ティーパーティーb  ハナコ ナギサ)


 

 

 

 

 

トリニティの構内。

 

 

夜間点灯しているはずである照明の確認に、夜行性な私が駆り出されるのは当然の流れだったのだろう。適正という意味でも、仕事の押し付け先という意味でも。

 

焦げ付いたような茶色と鈍いまだら模様の汚い羽は、真っ白な翼の方々の一部には不評だったようである。茶会のテーブルの末席の庇護がなければ、もう少し直接的な干渉もあったのだろうか。その茶会の構成員に夜間に行われる作業のほとんどが押し付けられたり汚れ仕事に近いものを押し付けられている時点でいじめられているような気もするが、それは適切な仕事の割り振りだと自分を納得させていた。

 

 

 

E-18の照明が機能していないことを手元の端末に打ち込んで、その端末をコートのポケットにしまい込む。

 

夜なのに空気が騒がしい。

 

日付が変わるほどの夜中。防犯目的で照明で照らし続けてはいるものの、外出者はめったにないはずである。そもそもこの通路の先は古書館であるので不審者でもない限り夜間に用事はないはずだ。

 

フードを深くかぶり、消音機がついたピストルをひとつ、手の中に握りこむ。

 

騒がしい。遠くで聞こえる複数人の足音。それとすぐ近くで、木の葉とこすれる音。

 

ピストルを明かりが消えた照明の裏、人が隠れられる大きさの植え込みに向ける。

 

 

 

「……出てきなさい。夜中に騒ぎを起こすと後が面倒よ。」

 

 

人ひとり分の気配が揺れる。しかし何かアクションを起こすつもりはないらしい。

このままにらめっこを続けるのも味気ない。なんなら私はこの壊れた照明の下でも夜闇を見ることができる。こちらから仕掛けたっていい。

 

 

「……いまなら、私だけだから。」

 

 

最後に一度誘いをかけたが、わずかに、戸惑うような雰囲気が感じられただけだった。

 

 

「言ったからね」

 

 

絞った引き金を引き切る。

 

植え込みの左端をかすめるように一発、右側から小さなナイフを抜いて回り込むと、人間のシルエット。それはしかし衣服を身に着けておらず、どうやら覚えがある。

 

 

「…ハナコ?」

 

 

深夜に遭遇することは何度かあった。本人はただのお散歩だと言っていたし、付き合いの長さもあり、驚くことはなかった。なかった、のだが。

 

うずくまり、丸くなり、自分のカラダを抱え込む彼女。レンガで均されていない土に膝をつき、寒さに震えながら私を見つめ、下着すら身に着けていない彼女は、

 

 

「あなた、どうして、」

 

 

足音がした。

通路の先、先ほど感じていた複数人のものである。私の銃声に引き寄せられたのか、そのすべてがこちらへ向かっている。

 

 

『浦和さん、見つけた?』

 

『わかんないけど、音がした。早く見つけないと…』

 

 

なるほど、人通りの少ない、そして照明の壊れたこの植え込みは今の彼女が隠れられるほぼ唯一の…。

 

そして、よくない記憶を思い出す。年端もいかない子供だった頃、気づけば靴がなくなっていたことや、生理現象を抑えきれなくなるまで複数人に拘束されていたあの頃の。

 

脱いだコートを彼女にかぶせ、もう一度茂みのほうへ押し込む。

 

布切れ一枚なくなっただけで、夜闇の寒さが身を包む。

 

 

「あなたたち、何をしているの。」

 

 

こちらに駆け寄ってくる二人組に声をかけた。握ったピストルは隠したまま、威嚇のつもりを込めて羽を揺らして見せる。

 

 

『マリ、あの子、』

 

『茶会の……』

 

 

見ると、彼女たちは手の中に衣服を抱えている。トリニティの制服と、女性用の下着を一組、靴下、ローファーに至るまですべて。

 

 

「もう遅いのに、どうしたのよ」

 

 

何かを隠すようなそぶりは続けながら彼女たちは言葉を紡いだ。手に持ったそれこそ一番隠すべきだろうに。

 

 

『ちょっと、人探し、みたいな』

 

 

おすまし顔で視線を巡らせる。どうしてひきつっているのだろうか。

 

服を抱えていないほうがふと、茂みに見当をつける。その視線に気づいたが、もしかすると注視しすぎていることを気取られたかもしれない。

 

 

『浦和さん、見てないかな』

 

「ハナコが何かしたの?」

 

 

『いやー、何かしたっていうか、その』

 

 

あいまいな顔で微笑んで見せる。

 

その笑顔で私をどうしたいの?

 

 

「夜間作業がかさんでイライラしてるの。何もないなら明日にして、深夜に私の作業を増やさないでくれるかしら」

 

 

きっと睨みつけてみせると、その笑顔の仮面さえゆがむ。

 

 

『……じゃあ、そうだね。明日にするから』

 

 

おやすみ、と彼女たちはつぶやき、なぜか手のひらを見せてから足早に去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちの足音が消えてから、ハナコを拾い上げて慌てて自室へ向かう。

 

衣服は彼女たちが持って行ってしまったままなので視線が通らない道を選んだものの、ふとハナコのほほに触れると氷のように冷たい。唇の血色は悪く、歯が鳴る音がその間からは漏れている。

 

 

解錠されるされる時間すら惜しく鍵代わりの学生証を扉の横のリーダーに何度かたたきつけ、電子錠の解除音とともに扉をけり開けた。

 

担いだ彼女をおろし、型落ちの燃料を直接燃やすタイプの暖房器具に火をつけ、すぐにはあったまらないシャワーの温水コックをひねり、毛布を抱えてハナコのもとに駆け戻り、

 

 

ハナコがきれそうな衣服はあったかと立ち上がろうとしたとき、毛布をかぶせたハナコにぎゅっと抱き留められる。

 

留められていないコートの前面からのぞく素肌に直接触れた。あまりに低いその温度に慌てて体を寄せる。

 

身体を寄せたが、私の身体なんかよりは目の前の炎のほうが温かいはずだ。彼女の腕から抜け出そうとして、

 

「…ごめんなさい、   ちゃん、もう少しだけこのままで」

 

 

あまり聞かないお願いの声だ。

 

私を抱き留めたハナコを窺うとすでに平然とした表情をしているが。

 

 

「ハナコ、もう大丈夫なの?」

 

 

「はい。冬の夜はちょっぴり寒かったですけど、   ちゃんが助けてくれましたので」

 

 

素敵な笑顔で彼女は笑って見せると、私を抱えたまま額のあたりにほほをこすりつけ、唇を私の額に落とし、

 

 

「……せっかくですし、一緒にお風呂に入りましょうか」

 

 

ハートがつくような声色で私を抱えたまま立ち上がり、シャワーの水音に向って歩いていく。

 

 

私は安堵とあきれをを溜息にして一度吐き出し、ハナコが楽になるならと口を開く。

 

 

「…勝手にして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はどうやら服がなくても眠れるらしい。ベッドの上で私を抱きしめている間中ずっと、タオル一枚きりの格好だった。まだ眠っている彼女の腕から抜け出し、なんとか彼女がきれるサイズの衣服を見繕ってから一人で家を出る。

 

 

昨晩の仕事の報告が必要なのでナギサ様の執務室に向かうと、ドアが開いている。先客がいたようで、昨晩の二人組がナギサ様と話していた。

 

 

『…その、制服に浦和さんの名前があったので、彼女のものだとはわかるんですけど、本人は見つからず…』

 

「ハナコがどうしたの」

 

 

私が声をかけながら部屋に入ると、三人の視線がこちらへ向く。二人組は、また私に手のひらを見せ、左右に揺らした。

 

 

よくわからないサインを無視したまま、執務机に座ったナギサ様の膝によじ登って、机を向いて座る。

 

 

「ナギサさま、これが昨日の結果。E-18と、あと…」

 

 

机に取り出した端末を置きメモをさかのぼっていると、ナギサ様が机の引き出しから取り出したブラシで私の羽を撫で始める。

 

 

「あとは……B-16とB-17これは電球が割れてたから、取り換えるだけでいいと思う。…それと、夜中ふたりに会ったけど、何かあったのかしら。」

 

 

机を挟んで二人組を見ると、子猫でも見るかのようなまなざしを向けており、

 

 

「昨晩新しく設置した監視カメラに、ハナコさんの姿が映っていたんです。自分から服を脱いでいるようでしたので、至急確認するように2人にお願いしていたのですが。」

 

 

「そうなのね。…ハナコはなんで服を脱いでいたのかしら。恥ずかしくないの?」

 

 

ナギサ様への私の返事をきくと、気まずそうな顔をする。

 

 

私の質問には誰も答えてくれなかった。

 

 

「まあいいわ」

 

 

ぴょんっとナギサ様の膝から降りると、二人組の腰元に近づき、抱擁をする。

 

 

「昨日はごめんなさい。眠たかったから、ということにしておいてくれるかしら」

 

 

『あ、うん、ごめんね、私たちも夜遅くに』

 

『昨日はよく眠れた?』

 

「あんまり。あのあとすごく大きな猫を拾ったから。朝には出て行ったんだけど。」

 

 

意思をすり合わせるように軽口を告げると、私との確執がなくなったからか、彼女たちはでろーんと溶けた笑顔で私を見ていた。

 

 

2人から離れて、もう一度ナギサ様の膝へよじ登る。今度は反対側の羽が撫でられはじめた。

 

 

『それでその、結局は見つけられず、大きな騒ぎにはなっていないので、誰にも見つかっていないと思われますが、』

 

「騒ぎにならなかったのならいいでしょう。もう少し控えていただく必要があるかもしれませんが」

 

 

血流がよくなるような心地よさが、羽から背中にまで伝う。

 

昨日の過負荷がようやくお伺いをたててきたので、ナギサ様にもたれかかったまま、ゆっくりと目を閉じてみた。

 

 









当方ロリコンです
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