紙媒体で持ち込まれた資料をパソコンのフォーマットに打ち込み続け、ふと画面の右下に目を移しました。
今日は12月23日。もう少しすると24日。クリスマスくらいは休むべきでしょうか。でも、年内に終わらせるべきことが山ほどあって。
ダブルクリップで留められた紙束をひとつ、入力済みのほうに移しました。
最初はスキャナで読んで文字変換しようとしたけど、ミレニアムの生徒はよく電子文字に頼るからか、ボールペンで擦り付けられたインクは機械が認識しないものもがたくさん。
今からミレニアム全員の文字を解読できるAIを組もうとすると、とてもじゃないが年内には間に合わない。結局、今は手打ちするしかなくて。
秋口よりも冷たくなった常温のエナジードリンクの缶をつかみ、呷り、つい先ほどからになったことを思い出しました。
炭酸ガスとやる気と、女の子らしさが口の端からけぷりと零れて。
どうしてこんなことをしているんだろうなと、緩やかに脳裏に浮かぶ。
それはユウカ先輩と、それとノア先輩がとっても忙しそうだったから。
いつもなら申請周りのものはユウカ先輩が担当するし、そうでなくても文書周りの作業はノア先輩が強い。
だが時期は年末。そしてクリスマス。ユウカ先輩(とノア先輩)は、セミナーの大切なしごとと、大切な人へのアプローチで忙しい様子。
年に一度の季節。友達と、家族と、大切な人と、どうせなら幸せに過ごしてほしい。
半分は本気でそう思いながら、あと少しの紙束の山を取り崩します。
零れたやる気のかわりに先輩の顔を思い浮かべながら、紙面につづられた真意に頭を悩ませながら、ようやくやっと山を取り崩し、けぷりと理性をこぼすと、日付が24日に変わりました。
少し涙がにじみました。
不要になった紙束をどうするか迷い、一度保管しておくためのファイルを拾い上げようとカバンの中身をさぐり、そこでもう半分の心でつくったプレゼントが入っていることを思い出しました。
贈り物として重くないか、何度も悩んだカップケーキです。
朝から、C&Cのお姉さま方にも手渡し、ノア先輩に出会えた時にはお返しに感激か愛玩かの抱擁をいただきました。
子ウサギちゃんには会えずじまいかと思いましたが、どうやらお姉さま方が少し便宜を図ってくれた様子。受け取ってもらうことができました。
それでも渡せずじまいだった1つと、自分のおやつにつつんだもうひとつ。
太ってしまうかと天秤にかけ、きゅうと呻いたおなかに背中をおされ、つつみをひとつひらき、ちょこ味のカップケーキに口をつけました。
どうして、手作りにしてしまったのでしょうか。もう少しおいしくて、もう少し高価で、もう少し見栄えが良くて、もう少し日持ちして。
そういったものを用意すれば、先輩にも渡せたかもしれないのに。
ひとくち、ふたくちとかじり、エナジードリンクよりも優しい甘さが口の中にひろがり、少しの口渇感をおぼえ。
すこし涙がにじみました。
悔しさに近い感情に『しにたい』とラベリングしてしまった私にはそのカップケーキの味は苦しく、ユウカ先輩の幸せを思描くたびに感情が想起され、もうどうにもならなくなって、
おいしくできたのにな。
扉が開きました。
「…まだいたのね、 」
そこには私の名前を呼んだユウカ先輩が、いつもの服装にロジックくんとリーズン君を背負って立っていました。
「私も本当はもう少し早く帰ってくるはずだったし、 も休んでよかったのに。お願いした作業は年内に終わればいいし、明日はクリスマス。少し休んだって罰は当たらないわ。……それとも」
ユウカ先輩はかじかんだ指先で私の目元を拭って、
「待っててくれた、って思ってもいいのかしら」
ようやくやっと、ユウカ先輩にもう一つの包みを手渡し、電気ケトルでインスタントの紅茶なんかも用意して、少し軽口と雑談と言えるような会話、窓からはミレニアムの悪くない夜景。先輩をあたためながら
頑張って、時々悔しくって、想起して、それでも先輩の隣でこうしているとき。
わたしは、よかったなって思えました。
「ユウカ先輩、だいすきです」
「どうしたのよ、急に。私も のことちゃんと好きよ?」
「ちゃんとすきって、先輩は私のことは大好きじゃないんですか?」
「 、ちょっとノアに似てきたわね」
「先輩」
「……大好きって、言っても後悔しないくらい好きよ」
少し軽くなった心で混じりけの無い笑顔を先輩に向け、カップケーキをたべおわったころ明日も予定があるからと。その言葉にも100%で願えた。
「おやすみなさい。素敵なクリスマスを。先輩」