ブルーアーカイブ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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ミカに絡むための下準備




医療担当パテルちゃん
医療担当パテルちゃん


 

 

 

 

初めは、ただのおせっかい焼きのような立場だった。

私たちの派閥は少し喧嘩早く、自由で、何かの拍子で怪我をしてしまうことも多かった。

私達は放っておけば治るような怪我が多く、雑な処置と気にしないような風潮。まるで怪我をする方が悪いとでもいうような。仲間意識というようなものも少なく、どちらか言うと相互監視のような関係性。

それでもまだ子供で、傷や弱みを誰かにさらけ出せないような、そんな誰かを助けてあげたかった。

 

パテル派の一員として迎え入れられてしばらくした頃、救護騎士団の青髪の女の子に、少しばかり私の考えに同調してくれそうな女の子に話しかけた。

「たかが派閥関係だとか、思想だとか、利益だとか。そんなくだらないもののせいで治療を受けられない子がいる。そんな愚かなことがあると思いますか。」

騎士団にとっては少しばかりパテル派の評判は悪かったのだろうか。彼女は鋭い視線で一度私を貫くが、私としては間違ったことを言っているつもりなどない。

「涙を拭い、傷口を覆い、少しばかりそばにいてあげられるような、そんな当たり前のことを当たり前にできるような。トリニティをそうしていきたいのです。」

当時のホストは雑な仕事が多く何か別のことにかまけてばかり。部下の動向などさほど気にせず、勝手なことをしてもバレなければいい。そんな体制だった。

救護騎士団はもう少しかっちりした組織だったかもしれない。彼女には悪いことをしたかもしれない。

彼女は少しばかり思い悩んだ表情をした。しかし数舜後にはその感情の薄い表情に決意が見えた。

彼女は、今後一年間の少量の物資の援助と私が動いた時には協力してくれるという約束をくれた。たかが一年生の立場ではその程度が限界だろう。むしろ現状では最上級の約束に感謝した。僅かな時間、抱擁を交わす。

その一年後。彼女が二年生ながら団長の立場に収まったのにはとても驚いた。

 

初めの一年は少し歯痒い思いをした。資金も物資も乏しく、ポーチに包帯やガーゼや消毒液を詰めただけで走り回って、あまりにも手に負えないときは理詰めでも涙でも暴力でもなんでも使って騎士団の世話になることを飲ませた。

幸いにも、泣きながら自分の怪我を心配してくれるような素振りは騎士団との癒着だの邪魔くさい雑魚だの、そういった風潮を形成するには至らなかった。少しばかり変な人とは思われたかもしれないが、先輩も傷口に絆創膏を貼ることを許してくれた。

 

彼女が騎士団の団長になった二年目。医療行為は騎士団に任せて何か別のことをしろ、と言われることを危惧していた。あまりにも立場が、権力に差がある私達ではパテル派の治療を受け入れるという口約束だけでも難しいかと少し侮った。

二人きりの部屋に呼び出して目の前のカップに紅茶を注いだ彼女は、穏やかな表情を浮かべながら、これで援助がしやすくなったと、そう告げてくれた。

彼女の好意を無駄にするわけにはいけない。私と彼女が卒業した後もこれを残すためには、制度として何か残さなければいけない。それにはパテル派だけでは足りない。

 

三年目。これまでのトリニティを一番よく知るのは私の同級生になり、彼女達からの印象も悪くない。後輩ちゃん達に、何かあったら騎士団か私を頼れと教えてくれる娘も少しいた。

そういうキャラづくりをしたためにパテルの首長とはなれなかったもののミカの放任主義は悪くない。ナギサもセイアも少しばかりは理性的な判断をしてくれるだろう。

一番のチャンスだった。パテル、フィリウス、サンクトゥス。それも超えて、茶会、騎士団、フッド。騎士団が権力を持ちすぎないような構成にするのには慎重になる必要があったが、怪我は騎士団が、メンタルケアはフッドが、設備やら制度やらの見直しは茶会が得意とする分野だ。みんなが手を取り合えれば上手くいくような気がしていた。

セイアが死んだ。そして彼女が失踪した。

セイアを救えなかったことを後悔しているのかもしれない。セイアと何の関係もなく彼女の身に危険が迫っているのかもしれない。

どちらにせよ。

潰えた。

 

惰性で、余った物資を食いつぶしながら、派閥騒動なんかで傷ついた娘達に治療を施す。

ピンク髪の2年生ちゃんなんかに上手いこと取り入ればこれまで通りの治療程度ならできるかもしれないけれど。

けど。包帯を巻き終えると。私の大切な仲間は笑ってくれるのだ。

彼女がいない今

私がするべきことは

覚悟を決めて

 

 

 

ミカの。聖園ミカの傍聴会が終了した。

後任が決まるまでは、ミカがホストとして扱われる。

しかしながらトリニティのパワーバランスはもはや崩壊寸前である。

パテルの失墜は言うまでもない。そして彼女の後を継げるような生徒もいない。強引にその席を取りに行くことも、今の反対派を取りまとめればおそらく五割程度で成功するだろうが。そうしたとき、ナギサとセイアからの扱いは相当なものになるはずだ。

フィリウスやサンクトゥスに取り入るような不審な動きも、今だけはこのパテルの名があまりにも邪魔だった。そしてそれを捨てるのにも遅すぎた。

 

トリニティに舞い戻った彼女に、こっそりと話をしに行った。

彼女がいない間、ピンクちゃんに融通してもらった物資の話だと嘘をついたが。きっと初めからバレていた。一番初めの、パテルの生徒を見定めるかのような視線が私を撫でる。

ゆっくりと口を開いた。

「私では力不足だったのかもしれません」

あまりにも惨めだった。トリニティの権力の中で上手くやってきたつもりでいたけど。そんなものは幻覚だった。

彼女にゆるく抱きしめられた。

いつの間にか泣いていた。

 

未来を知っていたはずのセイアにも相談してもらえなかった。私より、彼女を頼ったのだ。

ミカのせいだと、言えればよかったのに。そんなにも情は薄くない。もうボロボロなミカを傷つけることなんてできようはずもない。

瓦礫から必死にパテルの仲間を、ナギサを、フィリウス、サンクトゥスをゲヘナを掘り出して、それで一体何になった?

私には、何が、できた?

 

何もできなかったくせに。

 

 

 

 

 

余った部屋の中で一番アクセスがしやすい部屋。二年目に何とか手に入れた保健室もどきの空間。

ときどき、立場上騎士団を頼ることを躊躇う生徒や軽い怪我をした生徒、心労や相談ごとなんかも。

彼女と調度品を整えた記憶も、今まで施した手当の噂も、私を頼りにする仲間の表情も

未だに、私を解放してくれない





ナギサ編
セイア編
彼女編
ミカ編を予定
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