ブルーアーカイブ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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ナギ誕2023

『お誕生日、おめでとう』


くらえ


あなたへわたしに(ナギサ  トリニティの3年生)

 

 

『傲慢』という言葉のニュアンスでは少しおこがましいし、実際のところはいくらか貶されようと甘んじて受け入れるのだけれど。

 

ナギサの誕生日なんて私以外誰でも有り余るほど祝うだろうと思っていたの。

ナギサを慕う後輩ちゃんなんていくらでもいるし、少し政治的な意味を持ってしまうとしても、ナギサにプレゼントや言霊を送りたい人なんてそれこそ数えきれないほどいると思っていたの。

 

『日頃の感謝なんて柄じゃない』というと少し間違い。日頃から感謝は伝えているつもりだし、『貸し』『施し』上手くまとまらないけどそういったものをわたす機会はいくらでもあった。

だから、今日、私が彼女の時間をいくらか使ってしまうことに少し引け目が……。というとこれも少し違う。

気恥ずかしさ。違う。友人の誕生日を祝うことに後悔なんてしないし、どうしても、何か、上手くまとまらないけど。

 

プレゼントも実は用意していた。業務の手伝いや消え物なんかなら気にせずにいくらでも贈れるのに。

ナギサはあまりほしい物を言わない。ナギサなら自分で手に入れられるものも多い。

それでも、祝う気持ちは確かにあったはずだった。のに。どうしてか。

 

今日ナギサと会う予定はない。

モモトークで少しメッセージを送っても良かった。

プレゼントをわたす時間くらい、ナギサは受け入れてくれたかもしれない。

珍しく記念として残りそうなもの。ラッピングまでしてもらった洒落たフォトフレームは自室の机に置いたままだった。

 

物を贈る口実なんていくらでも用意できる。

 

今日じゃなくても、またいつか。

そんな風に思っていたの。

 

 

 

 

授業が終わった後。

放課後に偶然ナギサと顔を合わせた。少し物憂げな表情をしているように見えた。

 

会ったのに言葉を交わさない仲じゃない。もちろんお互いの誕生日程度把握していることも把握している。

お誕生日おめでとう、と告げる。

 

ナギサの表情が和らいだ気がした。

 

「ありがとうございます。実は少し寂しくてあなたを探していたんです。」

 

彼女が私を探してくれていたのか。

少しばかりうれしくなる半面、机の上のフォトフレームが頭の中で膨れ上がる。

そして自分を恥じた。

 

どうして今、気の利いた贈り物を渡せないのか。祝うことを拒否されるはずなどないだろうに。

 

「大切な人に祝ってもらえないのは、どうしても寂しくて。」

 

祝うべきは私なのに彼女の言葉でうれしくなる。

 

自分の中の何かがするりとまとまっていく。

彼女を祝って喜ばれる自信がなかったのかもしれない。

そんなはずがない。

それは、彼女への侮辱になってしまうかもしれないのに。

 

こらえきれずにナギサの手を取った。

ナギサのために祈りを込めてつぶやく。

 

 きっと、いいことがあるから。

 

ナギサは少しおどろいたような表情をする。

緩やかに吐息が漏れ、丸くなっていた目元は柔らかくたわみ、

 

「…そうだといいですね。ありがとうございます」

 

彼女の予定を聞くと、執務の整理があるらしい。きっといつもの部屋で書類と格闘するのだろう。

 

用事があるから、と少し慌ただしくナギサと別れて、自室に置いたままのプレゼントを取りに向かう。

 

小走りになってしまうと、ナギサに窘められてしまう。でも、今日だけは、きっと赦してくれる。

 

さほど高価なものではないけど、リボンを掛けたプレゼントを抱えてすぐさま踵を返し彼女のもとへ。

 

とくん、とくん。と鼓動が跳ねる。

 

ナギサの誕生日を祝うことがこんなにもうれしいなんて思わなかった。

 

跳ねる鼓動を精一杯撫でつけながら彼女の執務室に向い、息を整え、

 

 

ノックをする、その、瞬間、

 

 

 

『ナギちゃん、お誕生日おめでとう!』

 

 

 

中から軽快な破裂音と、扉の外にも聞こえるほどの声。

 

明瞭ではないのではっきりとはわからないが、ナギサと今の声以外にももう一人、誰かいるようだった。

ノックをするはずだった手でぎゅっと胸を抑えた。

 

すっと芯が冷える。

 

一番滾らせてはいけない感情から必死に目を背け、ふらつきそうな身体を必死に律し、

 

扉の向こうから、ナギサのすすりなく声が聞こえる。

 

ええ。知っていた。

 

傲慢だって。勘違いだって。

 

ナギサの、大切な人は、

 

 

 

 

何もできないまま立ち尽くしていると、中の誰かに気取られたような気がする。

 

よほど勘の良い誰かが中にいるのか。

 

慌てて私は扉の前を離れて、あてもなく歩き、

 

もちろんプレゼントを捨てることなんてできなかったけど、

 

やけに湿った笑い声が勝手に口から漏れた。

 

 

 

日をまたいだ次の日。

 

しわの寄った包装紙を整え、フォトフレームを彼女に渡した。

 

彼女は喜んでくれた。

 

彼女は私の手を取ると、笑顔を溢れさせながら、

 

「ありがとうございます。   さんの言った通り、昨日はとってもいいことがありました。」

私は少し感情が高ぶったように見せかけ、目の端から零れない程度の涙を浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






『おめでとう』
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