セリナちゃんが できたとして、もしそれを観測できるのはどういった状況なのかの妄言です。
続編が生えてくる場合があります。
恐らくは施錠の音がした。
古臭い物理錠、されど厳重に。この近辺にそんな施錠をするものなんて一つしかない。信じたくはなかったけれど、隣のセリナちゃんと顔を見合わせてすぐ二人で扉のほうへ走った。
さび付いてはいないものの年月の経過で色が褪せた重厚な金属製の扉。古臭い見た目とは裏腹に榴弾なども保管している倉庫なので管理に抜かりはなく、一般人二人程度ではびくともしない。
「すみません!まだ中にいます!」
扉にこぶしをたたきつけながら鍵を閉めた誰かに声を届かせようとしてみる。が。返事がないことは薄々気づいていた。
本来なら、騎士団のセリナちゃんと茶会の私だけが備品の確認を行うはずはない。形式上もう一人、フッドからも来るはずだった。書類を見たとき、見覚えのある名前だった。あのこだとは信じたくはないけれども。やはり、組織所属だとままならないこともあるのでしょうか。
ふとミカ様のことを思い出した。彼女なら、もしかするとここからの脱出も容易なのかもしれない。そしてその場合の方法は。破壊の意図をもってこぶしを固く握りしめてみる。
大きく右腕を振りかぶった。鈍い光沢を覆い隠すためにクリーム色が重ねられた金属塊。諦めに飲まれる前に扉にたたきつけた。
痛みをぎゅっとこらえる。
少したわんだような気もする。意外にも、私だけでもなんとかなりそうだった。利己的ながらも微かに私たちのことを気にかけてくれた尊主に恥じぬよう、二回目の衝撃を与える。
三度目の衝撃で私から何かが滴ってしまう前に、セリナちゃんが私の腕を強く握りしめた。
「やめよう、 ちゃん」
セリナちゃんのほうを見つめると、セリナちゃんも少しうるんだような目で私を見つめていた。
少しやけになっていた自分自身をやっと見つめる。
「ごめん」
「…ううん、きっと、大丈夫だから」
もう一度あのこのことを思い浮かべてみる。セリナちゃんも同じかもしれない。
なぜか決まりで、通信できるものは持ち込んではいけないことになっている。
空気はあるのですぐに死んでしまうことはない。
放火されてしまうと、弾薬に引火すると、だめかもしれない。
消火栓の隣に二人で座り込んだ。
手を握った。
日が落ちた。
秋口の夜は良く冷える。床面のモルタル材は、あまりに簡単に私たちの熱を奪う。
きゅう、と下腹部で生理現象が主張する。
騎士団のセリナちゃんは、それがただしい機構であること、羞恥の感情論、医療者で、お友達で、どちらも正しく理解してくれる。
尊主様のため、セリナちゃんとあの子のため、身をささげる覚悟はあれど、女の子らしい感覚は捨てきれず、しかし合理と理性も捨てきれず。
小さな声でセリナちゃんに告げた。
恐らく、気づいてくれてはいた。寒さを避けるために二人で身体を寄せ、密着して、
でも、私の感覚のことなので、私が伝えないといけない。
こぶしを振るうにはもう遅い。きっと零れてしまう。
一夜帰らないと同室の子が心配してくれるかもしれないけど、すぐに助けが来るような展望はない。
空の容器が転がっているような好都合はない。
身体を寄せてくれているセリナちゃんから離れようとした。
自分が汚いような気がした。
セリナちゃんはそんな私を離さなかった。
少し迷ったような顔、悲しそうに、そして決意。
「目をつむって、耳を塞いでいてください。…絶対に、私から離れないで」
少し諦めかけていた。けど、セリナちゃんの言う通りに目を閉じ、耳を手で覆う。
セリナちゃんは私の身体を柔らかく、強く抱え込む。
少しの浮遊感。
セリナちゃんが私の肩を叩く。目を開くと、夜空が見えた。
何かを恐れるようにセリナちゃんが目を伏せる。そっと。
「内緒、ですよ?」
いつの間にか私たちは外にいた。
まるで、瞬間移動でもしたかのように。
セリナちゃんは瞬間移動ができると思いますか?
なんて、誰にも聞けません。約束ですから。