ブルーアーカイブ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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ノアちゃんのお友達 2  ミレニアム×

 

 

 

 

 

最後の一滴までエナジードリンクをぎゅっとの飲み干し、空になったアルミ缶をシャーレのすぐわきの自動販売機に併設されたごみ箱に投げ捨てた。

 

吐き気がする。

 

 

ユウカが昨日ドアノブを弾き飛ばしたのが一時半近く。昨日はユウカの部屋に泊まったから眠りについたのは三時を回っていたか。

 

喉元から嫌悪がせりあがる。

 

 

胃の内容物も一緒に出てしまわないか心配だったが、無事に曖気だけが口から零れ落ちた。

 

どうして、よりにもよって私が当番なんてしなくてはいけないのか。

 

もちろん最愛の彼女のためなのだけれど。

 

欠伸を漏らしながらシャーレの自動ドアをくぐった。どうやら何かのシステムが自動で認証しているような気配を感じた。

 

執務室と呼ばれるような部屋にたどり着くと、そこには既に溜まりに溜まった書類とパソコンのモニタを見比べながら何やら作業している男性がいる。

 

挨拶なんてしたくない。

 

けれど

 

私がのあの評価を下げるわけにはいかない。

 

 

「おはようございます。のあのかわりで来た、

 

 

フルネームを告げると、その男性、先生が何やらうなずく。

 

 

「おはよう。早速で悪いんだけれど、お手伝いをお願いできるかな?」

 

笑顔を私に向けた。

 

 

私の恋敵

 

 

と、呼べるほどの敵意を彼には抱けずにいる。

 

のあが、彼のことを愛しているようだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はのあを愛している。そのはず。その前提を否定することは容易い。こんなものは愛ではないと。

 

薄氷よりもより強く輝く白に取りつかれただけ。ぬいぐるみより暖かい囀りに絆されただけ。

 

のあの書く文字に、まるで夢のような世界に、

 

 

 

でも、そうじゃないと。のあを愛していないと。

 

私には何も残らないのだ。

 

 

私がのあに出会ったのは幼少期のころ。

 

少ししたころからずっと、のあのことが好きだった。

 

まだ幼いころだったのに達観したような子だった。

 

もちろん何か楽しむような素振りも見せるのだけれど、飽きたような素振りも良く見せた。

 

まるで、見たものの総てを余さず覚えてしまっているかのような。

 

 

そのころからだった。のあのために文字を書くようになった。

 

初めはもちろん、組み立ては乱雑で、私の脳内にあるものを共有しきれないようなものだった。

 

のあのためにいろんなものを書いた。なけなしのセンスをかき集めて詩を書いてみたこともあったし、中学二年生のころの発想力が爆発したようなもの、ギャグ調の穏やかな話、他にも、

 

どうやら、人生の半分程度を費やして書き続けている作品たちは、ある程度のあの好みに合致していたみたい。のあは、バレない嘘をつかない。私はそう感じている。

 

少なくとも飽きの表情を見せることはなかった。

 

だから私の文字はのあのためにある。

 

気の迷いでインターネット上に投稿したところ、まあそこそこ程度の反応はあった。

理解はしている。そこまで質の高い物ではない。

 

でものあは喜んでくれている。

 

 

そんな文字にユウカは、彼女自身で並んで見せた。

 

のあに「好かれる」ためにそうしているのではないので、この表現は適切ではないのだけれど。

 

彼女が魅力的で、誠実なひとであることはよくわかる。

 

見ていて飽きない、というのも少し乱雑な表現。

 

いっしょにいて、楽しいひと。

 

でも、彼女が存在したからといって私が、疎かにされたことは、なかった。はずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

持ち歩いているノートを慌てて閉じ、万年筆をきゅっと握りしめる。

 

休憩に少し席を外していた先生が戻ってきたから。

 

「ありがとう。すごく助かってるよ。ノアの紹介で来てくれたそうだけど、よくそういう作業をしているのかな?」

 

私の目の前に下の階のコンビニで購入したのだろうシュークリームの包みと個包装されたお手拭きを置き、彼自身は缶に入ったコーヒーをすすりながら先ほどまで作業をしていた机、私の右隣に座る。

 

もともとのあに頼む作業が多かったのだろう。文書を扱った作業が多めに割り振られた。日頃から娯楽用に文字列を書きなぐったり端末に打ち込んだり、ユウカの手伝いで公式の文書を書くこともあったから少なくとも人並み程度には作業ができている、と思うんだけど、

 

シュークリームの原材料から目をそらし彼の方を見ると、体は机に向けたまま、少しだけ視線をこちらに向けてくれている。

 

私が、まあ、そう。そういった風な性格なのを気遣ってくれているのだろう。

 

返答がうまくいかずあいまいな呻きを漏らすと、彼は器用な微笑みを浮かべた。嫌悪や羞恥を感じず、限りなく均一に引き延ばした緩やかな安心に似た感覚。

 

未開封のシュークリームを机に置き、ノートと万年筆を掴んで彼のもとへ向かい、ノートの終りの方から何も書かれていないページを開いた。

 

少し彼は驚いたような雰囲気を感じる。

 

それを表には出さないようだけど。

 

 

『普段から趣味やお手伝いで文字を書くことが多かったので、他の生徒さんと比べると少し得意かもしれませんね。お褒め頂きありがとうございます』

少しはしってしまった文字を確認すると、彼はそう、何事もなかったかのように私と“会話”を続けてくれる。

 

 

こんなにも優しく、整った人だなんて知りたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれはいつかの雨の日だったことを覚えている。

 

少し日も落ち薄暗くなっていたころ。

 

曇りガラスに書かれた文字は本来、のあと彼だけの記憶だったはずだった。

 

それを、ガラスに残った皮脂と微かな水滴の残滓、あと数十秒で清掃ロボットの使い捨てクロスに飲み込まれてしまうはずだったそれを、

 

読めてしまったことは幸運だったのだろうか。

 

少なくとも、何度も繰り返した好意を考え直すきっかけになったのは確かだった。

 

 

のあは、彼には特別な姿を見せていると感じた。

 

軽口のたたき合い。好意を伝えても、照れたりごまかしたりしなくてもいい関係。秘密を共有できて、彼もどうやら悪い人ではないようで。

 

一度経験したようなことも、形式ばったことも、彼とならきっと、

 

 

のあのために何かを作り続けてやっとな私と違って、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとうございます。お手伝いに来たはずなのになんだかすごくもてなして頂いたようで』

 

 

「ううん、こっちもすごく助かったからね。そのお礼だよ」

 

お手伝いの時間が終わって日が落ち切ったころ。

 

暗くなった私を送り届けるかで少し先生と言葉を交わしたけど、これ以上彼と一緒にいたくなかった。

 

これ以上、彼女を奪われてしかたないという理由を見つけたくなかった。

 

やだ。いやなのに。

 

 

「仕事を頼むようで悪いけど、ノアにもよろしくね。無事なのは知っているけど、もしかすると今日のことを気にしているかもしれないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『拝啓、生塩ノア様。

 今まで何度も文字を送ってきたし、何度も同じ意味の言葉を伝えたつもりではいるんだけど、今日は特別に。もう、覚悟を決めたので。

  あなたのために物語を書いていました。少しでも、あなたに面白い物を見せることができて、ちょっとでも笑顔を見せてくれるとそれがとてもうれしかったです。あなたのためだけの物語でした。

 初めてあなたが書いた詩を読んだときに、私はもう二度とあなたのことを忘れられなくなりました。実をいうと、あなたには嫉妬も抱いているんです。

 私は、あなたのことが好きです。それはもしかすると、あなたがユウカや、先生に向けるようなものと同じくらいにです。

 好き。ずっとすきです。今までもこれからもきっとそうです。

 

もう、赦してくれなくても、大丈夫です。

ありがとう、ノア。』

 

 

 

 

 

 

 







読まなくてもいいわ。
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