「…で。UTAのライブに行くために、くもの力を借りたいと」
麦わらの一味航海士、「泥棒猫のナミ」は、眼前で頭を下げる二人を見やる。
狙撃手「"ゴッド" ウソップ」と、船医「"わたあめ大好き" トニートニー・チョッパー」は、深々と頭を下げ、懇願した。
「頼むっ!もうこれを逃したら、二度と見れねぇかもしれねぇんだ!!」
「おれからも頼むっ!!」
「もう天候棒の代金催促しねぇから!!」
「おれのお小遣いから、好きなモン買っていいから!!」
必死になって頭を下げ倒す二人に、ナミは眉間を押さえ、ため息を吐く。
彼らがここまで必死になる理由は明白。
この二年で世界的に有名となった歌姫…通称「UTA」のライブが開催されることとなったからである。
いつもは特殊な電伝虫によって、歌声を発信するUTA。
そんな彼女による、現地開催での生ライブ。
ファンとして、二度あるかどうかもわからない機会を逃す術はない。
しかし、開催地は偉大なる航路の前半…音楽の国エレジア。
新世界から向かうのならば、それなりに引き返さなくてはならない。
そのため、彼らは異空間を行き来出来るソルガレオ…もとい、くもの能力に目をつけたのだ。
「アタシじゃなくて、くもに頼みなさいよ」
「いや、勝手に偉大なる航路前半に戻りてーって無茶言ってるし、悪いなーって」
「なら我慢しなさい。
第一、ライブなら映像でもいいじゃない。
現地開催だと、無駄にお金かかったりするんだから」
「やだ!生で聴きてぇ!!」
「おれも聴きてぇ!!」
ウソップたちは不満を露わにし、ぎゃーぎゃーと駄々をこねる。
見苦しさに苦々しい表情を浮かべると、ナミは観念したかのようにため息を吐いた。
「あーもー…。ルフィ!
そういうわけだから、くもの力借りてもいい!?」
「いいぞー。くも」
「ラリオ」
むくり、と、船大工…フランキーより少しばかり大きい体が立ち上がる。
くもは甲板を軽く蹴って飛び上がると、その体に太陽を纏う。
クルーたちは一斉にその姿を見上げ、感嘆の声を漏らした。
「くもってば、あんなことも出来るようになったのね」
「前までは『こっぐー』っつって、泣いてばっかだったのにな」
「おれもあんな風になれるかな?」
「お前、ライオンじゃなくてトナカイだろ」
そんな雑談の傍らで、彼らの船…サウザンドサニー号の進路に、一筋の光が放たれる。
瞬間。空間に亀裂が走った。
その光景に、ルフィとジンベエ以外の皆が目をひん剥くも、それだけでは終わらない。
くもは光をまといながら、その亀裂へと凄まじい勢いで迫る。
くもが亀裂へと激突すると、何かが割れるような音と共に、空間に穴が開いた。
「ラリオーナ」
「ロビン。くもが『サニー号と繋いでくれ』って言ってるぞ」
「…こんな感じでいいかしら?」
考古学者、「"悪魔の子" ニコ・ロビン」。
彼女が食したハナハナの実の能力によって、サニー号から生えた幾重にも重なる手が、くもとつながる。
その姿はまるで、ソリを引くトナカイさながらである。
くもは咆哮すると共に、開いた時空の穴…「ウルトラホール」へと飛び込んだ。
「リノ……!」
それが混沌を招くとも知らず。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「おーおー…。どうなってんだ、こりゃ?」
「全部まわってみたいけれど…。
流石に多すぎるわね」
星屑が漂う空間を見つめ、皆が感嘆の声を漏らす。
ナミとロビンの女性陣は漂う星々に夢中だが、男性陣はというと、空間に空いた穴に興味津々だった。
「あーっ!あそこの穴ん中、筋肉みてーな木がたくさんあるぞ!行ってみよう!」
「いや、そっちよりも、生きてる刀みてーな折り紙が見えた。
おれはそっちに行きてェ」
「わかっちゃいねェな、テメェら。
あそこの穴に、ミサイルみてーなモンが飛んでるのが見えた。
おれはスーパーあそこに行きてェ」
「あの穴なんて、見目麗しい女性が駆けていたのが見えましたね。
いくら速くとも、ワタシのこのつぶらな瞳は誤魔化せませんよ。
ワタシ、瞳、ないんですけど。
ヨホホホホっ!!」
「うぉ〜〜っ!!全部行きて〜〜〜〜!!」
「却下!!」
「「「「えーーーーーっ!?!?」」」」
ナミの一喝に、全員が不満げに声を上げる。
が。彼女は般若のような顔で男性陣を叱りつけた。
「ライブに行くだけなのよ!?
無駄に危険に飛び込まないの!!」
「んだとぉ!?おれぁ船長だぞ!?
くも!船長命令だ!全部まわるぞ!!」
「くも!!真っ直ぐ向かわないとおやつ抜きだからね!!」
「ラリオ!?」
ナミの並々ならぬ怒気に負け、あわよくば寄り道をしようと思っていたくもは、バレないように軌道を修正する。
大食漢のくもにとって、食事を抜くことは、身を斬るより辛い罰である。
ルフィはそれにぶーぶーと文句を垂れるも、ナミの眼光で即座に口笛に変わった。
「…今、ちょっと軌道修正したような」
「言ってやるな、ウソップ。
くもにとっての『おやつ抜き』は、ルフィに『メシ抜け』っつってんのと同義だ」
「あー…。死ぬな」
コック「黒足のサンジ」の言葉に、ウソップはなんとも言えない表情を浮かべ、不貞腐れたルフィとくもを見やった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「では、『暗黒』、及び各地に現れた超生物への対策会議を開始します」
その頃、海軍本部会議室にて。
本部准将及び会議の進行役を務めるブランニューの言葉に、揃う海兵が揃って気を引き締める。
現在、世界情勢は混沌を極めている。
世界のパワーバランスの一つを担っていた、世界政府公認の海賊…王下七武海の撤廃から始まった動乱。
その中でいくつか、特に異彩を放つ事件があった。
「皆さまご存知の通り、突如として現れた謎の生命体…『暗黒』。
かの存在はカイドウ、ビッグ・マムが倒れた当日に、東の海に位置する農業大国…ソナイ・クエヘン公国の『光を奪い』ました。
これにより、収穫を予定していた多くの作物に影響が出るものと思われます。
今のところ、光が戻る気配はありません」
太陽の光も、月の灯りも、自然が発するすべての光が奪われ、閉ざされた世界。
一寸先も見えぬほどの闇が、一つの島を包み込んだ。
幸い、火や電灯と言った人工の光はあるが、それもいつまで保つかわからない。
陽光の有無は、精神にも健康にも響いてくるのだ。
海軍所属の科学班、SSGの奮闘により、なんとか生活はできているが、島の空気は重くなるばかり。このままでは、暴動に発展する恐れすらある。
万が一、聖地マリージョアに『暗黒』が訪れたならばどうなるか。
海軍からすれば、考えたくもない惨状になることは間違いないだろう。
しかし、脅威は『暗黒』だけではない。
ブランニューは続けて、9体の摩訶不思議な生命体の写真を、映像電伝虫で拡大し、プロジェクターに写す。
「では、先日の決定により、『暗黒』含め、これら9種を特殊指定害獣として扱い、以後『ウルトラビースト』と称することとします。
その被害は…現場で働くあなた方の方がよくご存知かと」
ブランニューの言葉に、皆が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
ソレも無理はない。
クラゲのようなウルトラビーストの神経毒により、一国で大規模な暴動が発生し。
蚊のようなウルトラビーストにより、多くの家畜が皮と骨だけとなって死に絶え。
誰もが名を呼びたくない虫のようなウルトラビーストのフェロモンにより、一国がかの生命体に全てを捧げ。
イルミネーションのようなウルトラビーストにより、各地の発電所が襲われ。
折り紙のようなウルトラビーストの斬撃により、多くの軍艦が真っ二つに斬られ。
竹のようなウルトラビーストの突進により、都市一つが倒壊し。
歪な竜のようなウルトラビーストにより、一国の全てが食い尽くされ。
道化師のようなウルトラビーストにより、島一つが花火となり。
石垣のようなウルトラビーストにより、各地に巨大なクレーターが出来た。
先述した『暗黒』含め、その被害は今なお拡大しており、大将含む海軍の戦力が対応にあたったものの、結果は芳しくなかった。
「各種対応にあたったものの、対象は逃亡。
海軍総出の捜査を掻い潜ったことから、知性は揃ってかなり高度なものと見られます」
「…それもこれも、麦わらが連れていたあの『ほしぐも』のせいじゃないか?
聞けば、ウルトラビーストは頂上戦争の時に開いたのと同じ、『空間の穴』からやってきたと聞いたが…」
一人の海兵がルフィの過去の手配書を取り出し、その帽子の中に見える、笑顔を浮かべる煙型の生命体を指差す。
ブランニューは頷くと、続けて獅子の姿が全面に写し出された手配書をプロジェクターに写した。
「ええ。我々が確認するウルトラビーストよりも厄介なのは、麦わらの一味のペット…『くも』なのです」
「…麦わらの一味には、もう1匹ペットが居たような?」
「議題とは関係ない質問は慎んでください」
質問をバッサリと切り捨て、ブランニューは言葉を続ける。
「話を続けます。
これらウルトラビーストの危険性も加味して、麦わらの一味ペット『くも』に高額の懸賞金が課せられることが決定されました」
DEAD OR ARRIVEの文字が踊る下には、くもの名前とともに、0が幾つも並んだ額が並んでいる。
億超えと称される、賞金首の中でも一線を画す危険性を示す金額。
誰かの喉から、唾を飲む音が響く。
「『"太陽の獅子" くも』!懸賞金、9億3300万ベリー!!」
こうして、ソルガレオの姿は賞金首として広まることとなった。
懸賞金の端数は太陽→サンサン→33です。
ウルトラビーストが出した被害全部の責任がくも1匹に押し付けられてるので、懸賞金が馬鹿みたいに高くなってる。尚、本人は全く気にしてない模様。コスモッグ時代の懸賞金は10ベリー。コスモウム時代の懸賞金は、ウルトラホールを開けて興味を持たれたせいで5000万ベリーにアップされた。
あったかもしれない一幕
ナミ「えっ!?ちょっと待って!?
あそこ、宝石が山のように埋まってるわよ!?」
ウソップ「おいお前…。まさかとは思うけど、あんだけルフィたちを叱っといて『寄れ』とか言うつもりじゃねーだろーな?」
ナミ「言うに決まってるじゃない!くも、寄せて寄せて!」
くも「ラリオーナ…」
チョッパー「『そんな急に言われても出来ない』って。あ、あと…」
サンジ「…ナミさん。あそこはやめといた方がいい」
ナミ「え?なんでよ?」
サンジ「見えたんだよ…。人くらいのデカさのゴキ…」
ナミ「よしっ!ライブ会場に急ぐわよ!!」
ウソップ「変わり身早ぇな!?」