「ラリオーナっ!」
「んめぇ〜〜〜っ!!」
特等席にて、くもの背に乗り、特大の骨付き肉を頬張るルフィ。
くもも用意してもらった特大の金平糖を頬張り、笑みを浮かべて咆哮する。
一味の皆も思い思いに過ごしており、UTAが現れるのを今か今かと待ち侘びていた。
「…にしても、くもの姿を見て誰一人騒がんのう」
ジンベエがUTAの登場を待つ観客席を見渡し、首をかしげる。
麦わらの一味は誰も気にしてはいないが、くもの姿はあまりに異質だ。
別世界の住人…事実そうなのだが…と言った方が、まだ納得できる。
常識を疑えとまで称される『偉大なる航路』上で不思議を不思議に思わぬ胆力は必要だが、ソレも限度がある。
加えて、くもは9億超えの賞金首。
ここに集うUTAファンからすれば、紛れもなく憎悪の対象だ。
UTA含め、ここにいる殆どが海賊を嫌っているのだから。
しかし、彼らはくもの姿が視界に入っているはずなのに、騒ぎ立てることもない。
ジンベエが思考を巡らせていると、料理をしていたサンジが口を開く。
「金平糖が主食の変わったライオンって言い張っときゃ問題ないだろ。
第一、手配書もコイツが真っ白になった時のモンだ。他ライオンの空似ってことで」
「おいおい。四皇と渡り合えるライオンが2匹もいてたまるかってんだ」
「あら。今はルフィが四皇よ?」
「…っと、そーだったな。
まだ実感わかねーんだよ」
「ぐーすか寝てたもんなー、クソマリモ」
「4番に言われたかねぇよ」
「あぁ!?やんのかヘナチョコ剣士!!」
「上等だコラァ!!」
あいも変わらずなゾロとサンジに、ロビンとジンベエは薄く笑う。
喧嘩するほど仲がいい。
そんなことを言えば、二人して激昂するのは目に見えているため、誰も口にはしない。
この場で和気藹々と宴を楽しむ彼らが、四皇として悪名を轟かせる「麦わらの一味」だとは、誰も思わないだろう。
と。そんな時だった。
「────♪」
細く、しかし力強い歌声が会場を包み込んだのは。
歌声が雲を薙ぐように、霧も曇天も一気に吹き飛ばされ、陽光が降り注ぐ。
皆が一斉にステージへと目を向けると、ピンクのパーカーを羽織る少女が歌声を紡いでいるのが見えた。
皆が感涙を涙に浮かべる中で、特にライブに興味を持たなかったルフィが、ふとステージを見やる。
「……あっ!」
歌声を紡ぐ少女の姿。
フードを取っ払い、シンプルな白のワンピースで着飾った彼女の姿に、ルフィは酷く見覚えがあることに気づく。
くももルフィの歓喜を読み取ったのか、横目でステージへと目を向けた。
「─────♪」
まるで魔法のような世界が広がる。
機材で作り出したにしては、あまりにも鮮烈な光景。
ただの岩でさえも、絢爛なイルミネーションへと早変わり。
所々、不思議なクラゲが浮かび、ステージライトを屈折させる姿も見える。
そのクラゲを視認したくもは、驚愕に目を見開き、ぐるる、と唸った。
「くも、どうした?」
「……ラリオーナ」
「…あのクラゲか?」
「ラリオ」
「……確かに、なんかヘンだ」
ルフィも見聞色の覇気で、そのクラゲの異質さを感じ取ったのだろう。
訝しげに眉を顰め、クラゲを見やる。
ゾロ、サンジ、ジンベエの3名もそれに気付いたのか、浮かぶクラゲを軽く睨め付けるのが見えた。
ウソップもなんとなく感知しているのだろう。違和感に、ぶるり、と肩を震わせ、きょろきょろと視線を動かしている。
気づいていないのは、覇気を習得していないクルーのみ。
「おい。このライブ…」
「なにかおかしい…じゃろう?」
「あのクラゲ食えっかな」
「やめとけ。ありゃあ多分毒持ちだ。
でなきゃ、お前と同じ頑丈胃袋のくもがこんなに唸らねーだろ。
どっかで拾い食いして痛い目でも見たか?」
「お前らな…」
ゾロとルフィのなんともズレた会話に、サンジが白い目を向ける。
一方で、くもはゾロの失礼な物言いに半目を向け、不満そうに鳴いた。
ラストのサビが終わり、ウタがステージへと降り立つ。
こっ、と独特な靴が音を立てると共に、彼女は手をあげて告げた。
「みんな!やっと会えたね!ウタだよ!!」
その宣言に、観客が騒めく。
世界の歌姫。救世主。
多くの名を冠する民衆の味方、ウタの姿を眼に焼き付けようと、皆がステージに注目する。
ウタがつらつらと口上を述べる中、ルフィは皆の制止を待たず、ステージを囲む岩の一つを掴み、ステージへと降り立った。
ウタが訝しげに眉を顰めるも、その疑問を払うように、ルフィの笑い声が響く。
「やっぱりそうだ!お前、ウタだろ!
おれだよ、おれ!!」
一見すれば、詐欺にしか思えない文言。
しかし、その仕草とバカみたいな明るさ、更には頭に乗せた麦わら帽子。
ウタは、ぴこん、とリボンのようにまとめた髪を動かし、声を張り上げる。
「ルフィ!?」
「久しぶりだなぁ〜!!」
「ルフィ〜〜〜〜っ!!」
感極まってか、ウタはルフィへと抱きつく。
強く抱擁を交わす二人に、観客たちは戸惑いの声を上げた。
「おい!ルフィ!お前、なんでプリンセス・ウタとそんな仲良し…」
「なんだぁ!?」
ウソップとチョッパーの疑問に、ルフィはなんでもないように告げる。
それが、とんでもない爆弾と知らず。
「だってコイツ、シャンクスの娘だもん!」
赤髪のシャンクス。
ルフィと同じく四皇として君臨し、その悪名を轟かせる大海賊。
そんなビッグネームを前に、会場に動揺が走った。
それもそのはず。ウタはこれまで、『海賊嫌いの歌姫』、『民衆の真の味方』として名声を築き上げてきた。
それが一瞬にして倒壊しかねないスキャンダルがぶち込まれたのだ。
ざわざわと皆がどよめく中で、数人が怪しげな笑みを浮かべた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……で。この子はダメなんだよね?」
「じぇるるっぷ」
未だに曇天が包み込む会場にて。
観客が寝息を立てる中、ルフィたちが眠る特等席に降り立ったウタは、忌々しげな表情を浮かべてくもに触れる。
その手には折れたナイフが転がっており、くものはがねの体には、ナイフで切り付けたような傷があった。
「ごめんね、ルフィ。
でも、私の…。『私たちの"新時代"』に、コイツは要らない!!」
実のところ、パラサイト…正式名称『ウツロイド』は知覚していた。
こうして寝息を立てている獅子が、自らの最大の天敵であることを。
他のウルトラビーストとは一線を画す実力を持つソルガレオ。
太陽にも例えられるその力は、自分達の繁栄にとって大きな脅威である。
だからこそ、ウタを利用して楽に殺せる環境を整えたのだ。
ウツロイドの群れは一斉にくもに向け、攻撃を放つ。
いくら四皇を打ち倒したとは言っても、今は完全に無防備な状態。
直撃すれば絶命は免れぬ弾幕が、くもを襲った。
「ルナアーラ、『シャドーレイ』っ!!」
「マヒナペーア!!」
と。それを遮るように、月光が光線となってウツロイドを撃ち落とす。
ウタはその光景を目の当たりにして、ひどく錯乱した。
「いやっ、だめ、だめっ!!皆で"新時代"を迎えるんでしょ!?」
ウタの懇願に呼応してか、それとも耐えていたのか。
撃ち落とされたウツロイドはふよふよと浮遊し、突如として現れた影を見やる。
その影を表すのならば、三日月。
コウモリのように翼を広げるソレは、自らを囲む脅威を睨め付け、吠えた。
「マヒナペェェーーーーアッ!!」
「ルナアーラ、『サイコキネシス』!!」
この場に似つかわしくない幼い少女の声と共に、海底に沈んでいた瓦礫が浮かぶ。
淡く光る瓦礫はウツロイドの群れを薙ぎ、ぼちゃ、ぼちゃ、と海に叩き落としていく。
「私たちの"新時代"の邪魔をしないで!!」
その光景を前に、ウタはセットした髪を掻きむしり、息を吸った。
「っ、ソルガレオとそこの男の子を連れて撤退!」
「マヒナペーア!!」
コウモリは咆哮すると、ウルトラホールを開き、ルフィとくもを抱えて飛び込む。
閉じていくウルトラホールを、ウタは忌々しげに睨め付けた。
「…許さない。よくも、皆を…」
自身が作り出した世界では明るく振る舞っているとは思えぬほどに、その顔はひどく冷めきっていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「いやぁ、強くなったなぁ、ウタのやつ」
五線譜に磔にされた海賊たちを見上げ、ルフィが呟く。
その光景は、あまりに鮮烈だった。
ただ歌を歌っただけで、かのビッグ・マム海賊団の猛者があっさりと捕獲されてしまうのだから。
戦いという表現すら烏滸がましい蹂躙。
まさしく、音楽の神に愛された天使の所業と呼べるだろう。
警戒していたクラゲも、ただふよふよと皆の周りを漂っているだけ。
気を張り詰めるのも疲れたのか、ウタが生み出す食糧にかぶりついていると。
骨つき肉を握っていた手に、ちくっ、と鋭い痛みが走った。
「いてっ。なんだ?」
ルフィは肉を持つ手を変え、右手に収まったモノを見つめる。
そこには、太陽の刻印が施された宝石が佇んでいた。
宝石にしては小さく、また形も団子のようなソレ。
「ん〜…?この模様、どっかで見たことあんだよなぁ〜…?」
ルフィはそれに首を傾げつつも、なんとなく捨てる気になれず、「ま、いっか」とそれをポケットに突っ込む。
難しいことは考えない。
刹那的に生きている彼にとって、考え事など二の次なのだ。
ルフィは意識を齧りかけの肉に戻し、大口を開けて肉を噛みちぎった。
「……」
ウタが冷ややかな瞳で、こちらを睨め付けていることにも気づかず。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ど、どうしよう!?この人たち全然起きないよ、ルナアーラ!!」
「マヒナペーア…」
ンなこと言われても知らん。
そう言いたげに表情を歪めるコウモリ…月を誘いし獣「ルナアーラ」は、洗濯バサミでびろんびろんに伸びたルフィの顔面を見やる。
ゴム人間のルフィに覇気を纏わぬ打撃は効かない。
少女は最初こそビンタで叩き起こそうと奮闘したものの、返ってくる柔らかい感触に無駄だと悟ったのだ。
噛み付いたり、体を引っ張ってみたりと試行錯誤を繰り返したはずいいが、意味はなく。
ルフィは未だにぐっすりと眠っていた。
「ソルガレオのチカラを引き出せるのは、絆を繋いだ人間だけなのに…!!肝心のソルガレオも全然起きないし…!!」
試しに、持ってきた宝石…『ソルガレオZクリスタル』を握らせたものの、それも効果はなく。
ルフィはぐーすかと寝息を立てるばかり。
少女は「あーもー!!」と苛立ちを吐き出し、頭を掻きむしる。
「絶対にあの人が原因だ!
うぅ〜…!ウツロイドのやつ〜!」
「マヒナペーア」
「なに!!」
少女がルナアーラに噛み付くも、ルナアーラが咥えたモノを見て目を丸くする。
そこには、『Z』によく似た模様が刻まれた腕輪があった。
???…『かがやきさま』を止めるため、ソルガレオを従えるルフィに協力を仰ごうとするも、一足遅かった。かがやきさまどころではなくなったため、まずはウツロイドを止めるために奔走することになる。
ウツロイド…ソルガレオが天敵であることを知っているため、ウタを利用して殺そうとした。若干引くレベルで思い通りに動いてくれるウタを重宝している。
ウタ…くもに対する殺意マックス。行動原理が「ウツロイドの守護」にすり替わってるので、原作よりも行動が過激かつキレやすい。軽く幼児退行を起こしている。
ルフィ…ウタワールドに突如として現れたZクリスタルに疑問を浮かべるも、すぐにどうでもよくなった。そんなことより肉だ。
くも…なんか肌がちくっとしたけど、すぐにどうでもよくなった。そんなことより金平糖だ。