「でっ!?」
「ラリオっ!?」
尻餅をつき、ルフィとくもが声をあげる。
二人して「いてて…」と尻を気にしていると、覚えのあるシルエットが見えた。
「ルフィじぇんばぁああ〜いっ!!」
「あ、ロメ男!!」
麦わら大船団に属するバルトクラブ船長…「人喰いのバルトロメオ」の姿に、ルフィはぱっと笑みを浮かべる。
バルトロメオはルフィの無事を喜んでいるのか、あり得ないほどの涙と鼻水を流し、ルフィに迫った。
と。そこでふと、くもがこちらを見下ろしていることに気づき、バルトロメオは再び涙を流す。
「うぉおおお〜〜っ!!
"太陽の獅子"くも先輩!ナマで見るともはや神々しいべ〜〜っ!!」
「ラリオ?」
「ああ、くもは知らなかったな」
ドレスローザに訪れたときは、くもはまだコスモウムの状態で、意識はなかった。
そのため、初めて見るバルトロメオに興味を抱いたのだろう。
まじまじと涙を流して喜ぶバルトロメオを前に小首を傾げていると。
ルフィがバルトロメオの肩を掴み、笑みを浮かべる。
「コイツは俺の友だちのロメ男だ!仲良くしろよ〜?」
「ラリオーナ!」
「わぷっ…。ルフィ先輩と肩を組んで、く、くも先輩の頬擦り…!
おらもう顔も肩も洗わねーべー!!」
「いや、洗えよ。汚ねぇし」
「洗うべ〜〜〜っ!!」
二人と1匹でそんな応酬をしていると。
こっ、こっ、と二つの足音が響いた。
「騒がしいぞ、麦わら屋」
「…コイツがソルガレオの主人か」
一人は見覚えがある。
一時期同盟を組んでいたハートの海賊団の船長…「"死の外科医"トラファルガー・ロー」。
しかし、もう一人には見覚えがない。
なんとも奇怪な出立に、青ざめた肌。
スリラーバークで見たゾンビがコスプレをしていると言われても、然程違和感がない。
ルフィはローの姿に表情を明るくするも、見覚えのない男を見て首を傾げた。
「あ!トラ男…と、誰だお前?」
「アローラ。私の名は『ダルス』。
ウルトラメガロポリスより来た、ウルトラ調査隊が一人」
なんともカクカクとした動きで、両手で円を描くように挨拶らしき単語を発するダルス。
ルフィたちはというと、話の半分も理解していないのか、小難しい顔を浮かべ、首を傾げた。
「…ウルトラ?」
「…要するに、そのソルガレオが開けるウルトラホールの一つからやってきた異世界人というわけだ」
「え〜〜〜〜っ!?」
ルフィは素っ頓狂な声を上げ、ダルスの体をマジマジと見つめる。
異世界人と言われても、あまりピンとはこない。
だが少なくとも、彼の纏う衣服がこの世界のものではないことは確かだ。
ローに視線を向けると、彼は「信じられんのも無理はないがな」と呆れ気味に溢す。
ダルスの言ってることは真実らしい。
ルフィが「わかった。信じる」と端的に伝えると、ダルスは「手間が省けた」と安堵を吐く。
「…しかし、参ったな。
あの少女があそこまでウツロイドの神経毒にやられているとは…」
「ウツロイドぉ?」
飛び出た聞き慣れぬ単語に、おうむ返しで問いかけるルフィ。
ダルスは表情を変えず、淡々と告げる。
「君も見ただろう。少女のような姿をしたクラゲを。アレのことだ」
クラゲと聞いて浮かぶのは、あの気味の悪いクラゲのような生物。
ルフィは「ほーん」と一見興味なさげに返すと、ふとあることに気づく。
先程のダルスの発言。ルフィにはよくわからなかったが、彼が理解している情報を組み合わせば、自ずと見えてくる。
ウタの変貌の理由が、あのクラゲにあるということに。
「……って、バルス!!お前、ウタがおかしくなった理由わかんのか!?」
「バルスじゃない、ダルスだ。
その質問には、肯定しておこう」
「教えろ!!今すぐ!!」
「あ、ああ…」
凄まじい剣幕で迫るルフィに、ダルスは若干たじろぎながらも、生返事する。
と、その時。
なんとも愉快な音と眩い光を放ちながら、こちらにやってくるシルエットが見えた。
それを一言で表すのならば、クマ。
その正体は、ハートの海賊団の船員であるミンク族のベポ。
ベポは自分が空気をぶち壊したことに気づき、真顔で軽く頭を下げた。
「あ、すんません」
愉快という単語が服を着て歩いているような出立を前に、締まらない空気が流れる。
ローは「…コイツの付き添いで来た」と、憂いのある顔で告げた。
「……と、兎に角!早くウタのことについて教えてくれよ!」
「そうも言ってられないみたいだぞ」
ダルスの言葉に、ルフィは弾かれたように空を見上げる。
そこには、夥しいクラゲと観客たちを引き連れたウタが立っていた。
クラゲの上に乗ったウタは、スピーカーを顕現させ、笑みを浮かべる。
「みんなー!!悪いライオンは〜?」
「「「殺せ!殺せ!殺せ!!」」」
熱狂し、殺意をぶつける観客とウタ。
くもは唸り声を上げて威嚇するも、多勢に無勢だと悟ったのか、皆を背中に乗せた。
「くも、逃げろ!!」
「ラリオーナ!!」
ルフィの指示に従い、廃墟を凄まじいスピードで駆け抜けていくくも。
しかし、そんなスピードにもついて来られるのか、多くのクラゲがくもを取り囲んだ。
先程のように、クラゲの周りに光る石が顕現し、光線が放たれる。
しかし。ソレを阻むように、バルトロメオがバリバリの実の能力でバリアを出し、打ち消してみせた。
「バーリアっ!」
「ロメ男ぉ〜!ありがと〜っ!!」
「いんやぁ〜!それほどでもぉ〜!」
「まだ追ってきてるぞ!
このライオン、もっと速く走れないのか!?」
緊張感のカケラもなく馬鹿騒ぎするルフィらに、ローが怒鳴る。
いつかは破れることがわかっているのか、それともただ排除するために死にものぐるいなのか、未だにこちらに向けてレーザーを撃つクラゲたち。
ルフィは笑いながら、くもの背を叩いた。
「そーだな…。よし、くも!
ギアを上げろー!!」
「ラリオーナ!!」
咆哮と共に、くもの体が白く染まる。
刹那。彼らの体に凄まじい衝撃が走った。
「うぉおおっ!?は、速すぎるっぺー!?」
「すんません」
「ベポぉお…!!しっかり掴まれぇ…!!」
吹き飛ばされかけたベポの手を握り、全力で踏ん張るロー。
バルトロメオもくもの尻尾に捕まり、なんとか風圧を耐えていた。
しかし、その甲斐あってか、クラゲの群れから脱出できた。
その後ろ姿が小さくなっていくのを見て、ウタは舌打ちする。
「さあ、みんな!悪いライオンを探そう!
"新時代"を迎えるために!!」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「…逃げ切れたな」
「よくやった、くも!ほら、金平糖!」
「ラリオー…ナ?」
なんとか逃げ切れたことを確認し、ルフィはポケットに入れていた宝石を金平糖と間違えて、くもに差し出す。
くもがそれにかぶりつこうとするも、即座に金平糖でないことに気づき、首をかしげる。
ルフィもそれに気づいたのか、「わりーわりー」と笑って、別のポケットに入れていた金平糖を差し出した。
一方で、ダルスは目を丸くしてルフィが手に持った宝石を見た。
「おい!どこでそれを…!?」
「拾った」
「……アマモのヤツ、落としたな…」
ダルスはなんとも言えない表情を浮かべ、眉間を押さえる。
ルフィが首を傾げ、「これお前のか?」と聞くと、ダルスは首を横に振った。
「生憎だが、俺のものじゃない。
このZクリスタルは、お前たちのものだ」
「いらねぇ」
ルフィが突っぱねると、ダルスは深いため息を吐いた。
「……それはソルガレオにとって大事なものだ。お前が持っていてくれ」
「そーか?…じゃ、貰っとくけどよ。
さっきからソルガレオだかブルガリアだか言ってるけどよ、それってくものことか?」
「そうだ。正確には、種族の名だがな」
「ふーん」
一文字も合ってない間違いにツッコむ余裕もないのか、ダルスはソレに頷く。
しかし、ルフィにとっては「くもはくも」という認識が染み込んでいるのか、興味なさげに生返事をした。
と。ルフィはソレどころではなかったことに気づき、首を横に振る。
「そんなことより、バルス!
ウタがおかしくなった理由、教えてくれよ!」
「バルスじゃない。ダルスだ。
…ローといい、この世界の人間は、名前をまともに呼ばない慣習でもあるのか…?」
「いいから、早く教えてくれ!!」
「わかった!わかったから揺らすな!!」
がくがくと肩を掴み、激しく揺らすルフィにダルスが声を張り上げる。
いつも引き連れている少女でさえも、ここまで我が強いことはなかった。
慣れない感覚に戸惑いながらも、ダルスは口を開こうとする。
「あの悪魔のことを知っているのか…!」
と。その時だった。廃墟の奥から、寂れた出立の男が姿を現したのは。
男の服はところどころ破け、生傷が目立つ。
ルフィは痛々しい姿の男を見上げ、首を傾げる。
「おっさん誰だ?」
「今は話をしている場合ではない…!
あの悪魔に見つかってしまう前にこちらに来るんだ、早く!!」
男が指差した方向に視線を向けると、先程のクラゲやら音符の騎士やらが飛び回っているのが見える。
男に促されるがままに、彼らは急足で廃墟へと向かった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
男…元エレジア国王ゴードンが語ったのは、ウタを育て、歌姫として世界に羽ばたくまでの経緯。
ゴードンの手によって育てられたウタは、天性の才も相まって、音楽の都を治めていたゴードンですらも舌を巻くほどの歌手へと成長した。
しかし、この滅んだ島に船が来ることは、滅多になくなってしまった。
ウタの才能を解き放つにはどうすればいいか、と頭を悩ませていた、そんな時。
たまたま見つけた特殊な映像電伝虫によって、世界中に歌声を発信する手段を手に入れ、ウタの才能は世界に認められた。
しかし、ウタはその名声により、暴走した。
「ライブの開催を決定したあの時…!ウタは既に、悪魔に魅入られていたんだ…!十二年、共に居た私ですら、あの悪魔にウタがいつ魂を捧げたのかすらもわからない…!!
私がもっと…。ふぐっ、ぅう…!あの子の…ことを、見ていれば…」
「…無理もない。ウツロイドの神経毒はそういうものだ。
実の家族ですら、その変貌に気付けないのだからな」
懺悔を吐き出し、滂沱の涙を流すゴードンの肩に手を置き、ダルスが慰める。
ゴードンは追い縋るように、ダルスの体を掴んだ。
「教えてくれ…!ウタを狂わせたあの悪魔は、なんなんだ…!?」
「…アレの名は『ウツロイド』。
独自の神経毒によって人間や動物に寄生し、自らを守らせ、または自らに都合のいい環境を作り出す生物だ」
「……?」
「………要するに、ウタはウツロイドに操られているんだ」
約1名が首を傾げるのを見て、ダルスはため息混じりに噛み砕いて説明する。
ルフィは「話は早ぇじゃねぇか」と言い、拳を合わせる。
「つまり、あのクラゲを残らずぶっ飛ばせばいいんだな?」
「いや。一概にそうとも言えない。
アレは毒による暴走だ。
解毒には、ソルガレオがライジングフェーズ…いや、白く煌めいた時に、強く放たれる特殊なエネルギーを使う。
あの段階だと…。直接接触しなければ、正気に戻ることはないだろう」
「じゃあ、白くなったくもが触れば…!」
「ああ。しかし…」
ダルスが言葉を続けようとしたその時。
ベポが背負ったイルミネーションが開き、なんとも愉快な音が響く。
これで何度目だろうか。
ローが「ベポ…」と、呆れながらベポを叱ろうと、そちらを向いて、気づく。
「アチョー…?」
その体が、まるで赤ん坊のように小さくなってしまっていたことに。
「ベポォオーーーーーっ!?!?」
「クマァアーーーーーっ!?!?」
ローとバルトロメオの絶叫が響く。
そんな彼らに絶望を伝えるかの如く、ウツロイドと観客を引き連れたウタが現れた。
ウタはいつにも増して不気味な笑みを浮かべ、一歩ずつ迫っていく。
「あれー?ゴードンってば、なんでこっちに来てくれないの?
この子たちの毒、入ってるはずなのに?」
「ウタ、頼む!もうやめてくれ!!お前は悪魔によって操られてるだけなんだ!!」
「それが?」
「……っ」
ゴードンの言葉をあっさりと切り捨て、ルフィたちに迫るウタ。
ルフィは「ちょうどいい」と呟くと、くもの背に飛び乗ろうとする。
が。ゴードンはソレを止めるように叫んだ。
「ダメなんだ、ルフィくん!!
『ウタワールド』のウタを治療しても、彼女を蝕む毒は治らない!!」
「ウタワールド…?」
「治療…?私を…?」
その言葉の真意を問おうとするも、ウタの冷ややかな声に意識をそちらに向ける。
ゆらり、と不気味な挙動で俯くと、彼女は激しく足を鳴らした。
「ダメダメダメダメ…!!
これが私たちの"新時代"なんだぁ!!」
ウタが放った衝撃によって、ルフィの帽子が空を舞う。
ルフィが慌ててソレを取り戻そうとするも、ウタが作り出した音符の拘束によって阻まれてしまった。
ひらり、ひらり、と舞う帽子が光の膜に包まれ、ウタの手に収まる。
「返せよ!!シャンクスの帽子!!」
今のウタは、敵だ。
ルフィは必死になって帽子を取り返そうと、体に力を入れる。
しかし、ウタはソレを聞き入れず、ルフィに迫る。
「ねぇ、ルフィ。やっぱり海賊やめなよ」
「何言ってんだ、お前ぇ…!!」
ルフィが射殺さんばかりの怒りを込めて、鋭い瞳を向ける。
あんなに海賊が大好きだったウタ。
時に未来を語り合い、時にまだ見ぬ冒険の海に思いを馳せ、時にぶつかり合った幼馴染。
今までのウタからは考えられない変貌に、ルフィは元凶であるウツロイドを睨め付ける。
「何って…。だって…。
海賊なんてしてるから、この子たちの見せてくれる"新時代"の素晴らしさがわからないんでしょ!?
この子たちの見せる世界は、悲しみも苦しみもない!!
みんなが手を取り合って生きる…、そんな素晴らしい世界なの!!」
「ソレはお前の言ってた"新時代"じゃねぇだろォ!!ウタァ!!」
「黙れぇえ!!!」
ルフィが説得を図るも、ウタはソレを拒む。
その拒絶に呼応し、ウツロイドたちは怪しげな紫色の奔流を放った。
と。そこへダルスが割って入り、特徴的な紋様が刻まれたボールを投げる。
「アーゴヨン!『だいもんじ』!!」
「アーヨーン!!」
そこから現れたのは、蜂のような生命体。
尻に伸びた針から、「大」の字の炎を放ち、紫色の奔流を打ち消した。
「"ROOM"…、"シャンブルズ"!!」
と。ローが能力を展開し、何処かの木と自分達を入れ替える。
残ったのは、ゴードンと隠れていたベポだけだった。
「ウタ…!もう…。もう…、やめてくれ…!!
今の君は、とても見ていられない…!!」
「あっそ」
育ての親だというのに、ウタはひどく冷たい声であしらい、五線譜に磔にした。
トラファルガー・ロー…ワノ国付近で漂流していたダルスを拾った。そのお礼として、ベポの願いを叶えてもらい、ウルトラホールを潜ってエレジアにまで引き返してきた。ダルスの事情は大体聞いてる。
バルトロメオ…エレジアに来ていたものの、なんか変なクラゲがいたので全力で逃げていた。1時間くらい逃げ回った後にローと合流し、行動を共にすることに。
ダルス…ウルトラ調査隊の一人。USでバトルした人。少女…アマモと行動していたが、ウルトラホールにて『暗黒』の襲撃に遭い、ワノ国の近海に落ちる。死を覚悟したものの、たまたま通りがかったローに拾われた。手持ちはアーゴヨンのみ。ウルトラホールを開ける技術を確立しており、自在に世界を行き来できる。バルスじゃない。ダルスだ。
ゴードン…怪我によって、奇跡的に毒を血液ごと出せた人。そのため、精神は正常。しかし、メンタルは限界に近い。多分、本作で一番追い詰められてる人。