隊員の憩いの場として賑わうボーダーのラウンジに、今日は報告書を前に頭を抱える隊員がひとり。
報告書の書き方に困るようなルーキーでもなければ悩む顔をひとに見せることが少ない彼だけに、通りすがりの王子一彰は興味深そうな顔でテーブルに歩み寄った。
「やあ、お悩みのようだね」
ダンディーノ、と投げられた呼び名に、檀野は反射的に苦笑を零した。からかわれているわけでも茶化しているわけでもないと初対面で理解してからは素直にその呼び名を受け入れることにしていたが、やはり何となく気恥ずかしいものがある。
そんな檀野の様子など気にすることもなく、王子は檀野の向かいの椅子を引いた。防衛任務の報告書かい、と書類を指され、そ、と軽く頷いた。
「いや報告書は書けてんだけどさ。ちょっとひとり反省会」
「反省? ……ああ、今日はルーキーたちと一緒だったのかい」
報告書を覗き込んだ王子の言葉に、檀野は苦笑したまま頷いた。
ボーダー隊員にとっては通常業務にあたる防衛任務は、基本的に部隊単位の交代制で行われる。そのため、どの隊にも所属していないB級隊員は必然的に混成部隊で任務にあたることになる。たまに部隊に所属している隊員も報酬や戦闘を求めて混成部隊に参加することもあるが、基本的には野良隊員がメインだ。
野良隊員には、単純に隊を組む気がない者や何らかの理由で一時的に隊を離れている者、自分の隊をつくるためにメンバーを募っている者などさまざまいるが、もちろんB級に上がりたてのルーキーたちも含まれる。そのため混成部隊は戦力的な偏りが出ないよう、それぞれの実力や経験を考慮してメンバーが振り分けられるのだが、たまに今回のような「偏り」が生まれることがあった。
「……いや、ルーキーたちが弱かったとかじゃねーんだよ、そりゃ慣れてない感じはあったけど、B級上がりたてにしちゃ上等だったと思う。トリオン兵に遭遇したときも冷静に対応しようと頑張ってたし」
「ふむ。つまり彼らの働きを十分に活かせなかった自分の指揮を反省してるわけだ」
「……そういうこと」
指揮や戦略を考えるのが苦手な檀野も、さすがにルーキーたちを放置するわけもいかず。前線に立ちながらもあれこれと指示を出し、何とか数体のモールモッドを片付けることはできた。が、戦闘の中身を見れば褒められたものではなく。
「まず時間を掛けすぎだし、不用意に駒を動かしてかえって隊員を危険に晒した。もっと周囲の地形とか障害物を考慮して自分らに有利な状況をつくるべきだった、……と思う。あれなら三人とも下がらせて俺ひとりで片付けた方がずっとマシだった」
「はは、ダンディーノらしいね。確かに今回程度の敵ならきみひとりでも十分だ。むしろそうしなかったのは何故だい?」
「……周囲に一般人がいるわけでもなかったし、ルーキーたちに経験積ませてやったほうがいいかと思って……」
「なるほどね」
それも君らしい、と王子は穏やかに微笑む。
王子から見て、檀野は「面白い」人間のひとりだった。戦場に出れば即断即決、あらゆる場面において反射で動く野生の獣のような一面を見せるくせに、冷静なときは苦手なりにひとつひとつ思考を積み重ね、周囲をきちんと慮る理性的な一面を見せる。
個人戦のほうが得意な彼だが、チームのほうがより成果を出せるのだからと自分の苦手分野に切り込んでいく合理性と健気さを持ち合わせていた。
ダンディーノはそういうところが可愛いんだよね、と戦闘の舞台となった場所の地図とにらめっこをする眉間の皺を見つめた。
「……なに? というかここにいていいのかよ王子、任務は?」
「今日はランク戦に向けてのミーティングだけ。もう終わったから今日は暇なんだ」
ほら貸して、と檀野が広げていた報告書や資料をかき集めていく。おい、と慌てる檀野に構わず、書類をもった王子は立ち上がった。
「まだ隊の作戦室にクラウチやカシオがいると思うよ。カシオの勉強にもちょうどいい」
「王子、」
「ひとりで唸っているよりはいい反省会ができると思わないかい」
その言葉にきゅっと口を噤んだ檀野は数秒のあいだ視線をうろつかせ、最終的に申し訳なさそうに目を伏せた。
「……助かる。ありがと、王子」
「構わないとも。さあ行こう、ダンディーノ」
そのままウチの一員になってもいいんだよと王子がからかい混じりに言えば、俺には荷が重いわと檀野も困ったように笑った。
*
「ダンディーノの場合、指揮が下手というよりは単純に向いてないんだと思うんだけど君はどう思う? みずかみんぐ」
「いきなり現れて唐突すぎんか? ……檀野は性格的に無理やろ」
「無理か? ちゃんと隊員を気遣うし、いいと思うけどな」
逆や逆、と水上は蔵内の言葉にため息をついて首の後ろに手をやった。
「駒を切り捨てられんやつに指揮なんか取れん」
王子くんを出して欲しいとリクエスト頂いたので。
ダンディーノ(笑)は適当です。