弾丸に愛をこめて   作:ふみどり

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諏訪と檀野

 この時間なら作戦室にいると返ってきたメッセージと画面右上の時刻を確認し、檀野は飄々とボーダー本部の廊下を歩いていた。すれ違った友人たちからのソロ戦への誘いを軽くかわし、御礼ついでの差入れを抱えて目当てのドアをノックした。

 おー、と相変わらずガラの悪い声に軽く笑いつつ、失礼しまァすとドアを押し開けた。触れた空気には、わずかに煙草の香りが混じっている。

「どーも諏訪さん、お疲れさまです」

 おお、と軽く応えた声の主はこの作戦室の主、諏訪隊隊長の諏訪洸太郎。もうそんな時間か、と諏訪は時計を見上げて口元を歪めた。

「檀野お前、マジで見た目に似合わず時間きっちり守るよな」

「えー俺そんな不真面目に見えます? 制服(これ)着ててもダメなの?」

「不真面目っつーかチャラく見える」

「ひどい」

 俺わりと普通に優等生なのに、と口を尖らせながら檀野は鞄の中に手を伸ばした。中の文庫本に折り跡がつかないよう、丁寧に紙袋を取り出す。

「これ、ありがとうございました。映画も良かったけど原作も面白いですね、すぐ読み切っちゃいましたよ」

「だろ?」

 読書家が揃う諏訪隊の作戦室には、多くの小説や漫画が持ち込まれている。活字もそこそこ読む檀野は、よくこうして映画の原作になった小説を借りに訪れていた。

「続きもあるけど読むか?」

「読みます!」

 けどその前にこれ御礼、と差し出したまだ温かい紙袋。気ィつかわなくていーのに、と言いながら受け取った諏訪だが、紙袋に触れた瞬間に中身を察したらしい。

「……コロッケか?」

「笹森の好物っしょ、確か。いたらついでにやろーと思ったんですけどね。残念」

「このあと日佐人も来るからそれはいーけどよ。お前な、こういうときは俺の好物持ってくるモンじゃねーのか」

「酒と煙草以外の好物教えてくれたら次からそうしますけど」

「麻雀」

「……ルール覚えたらいいです?」

「バーカ、本気にすんな。覚えたいなら教えてやっけどな」

 そう言って歯を見せた諏訪に、つい檀野の口元にも笑みが浮かぶ。

 視野が広く兄貴肌の諏訪を慕う人間はボーダーにも多いが、檀野もそのひとりだった。スタイルこそ違えどガンナーとしての先輩でもあり、檀野が何か考え込めば背をはたいて笑い飛ばしてくれる良き相談相手でもある。

 さっそくコロッケをひとつ取り出して齧り付いた諏訪は本棚を指でたどって続編を探しだし、ほらよと檀野に差し出した。檀野は軽く礼を言って文庫本を受け取り、ぱらぱらとページをめくった。文庫本の柔らかい紙には、何度も読み込んだ跡が見て取れる。

「映画の内容は一巻までだったんすよね~」

「俺としては二巻のが面白かったな」

「おっ楽しみ」

 ありがたくお借りします、と檀野は丁寧に本を閉じて鞄にしまった。

 すでに折り目も残りよれてしまっている本すら大事に扱うその姿勢は、諏訪の目から見ても好ましかった。誰に対しても物怖じせず笑顔で接する軽やかさをもつ檀野だが、かなり几帳面な性格であることは長い付き合いからよく知っている。その真面目さゆえに、妙に気負いすぎるところがあることも。

 しかし、この一年ほどでだいぶ檀野も肩の力が抜けるようになった、と諏訪は思う。それは理屈立てて物事を考える荒船や視野が広くサポート上手の穂刈と連んでいる影響なのか、単純にボーダーで経験を重ねてきたからなのか、──それとも。

 一応本人は隠しているつもりらしいが、残念なことに檀野は完全に顔と態度に出ているのである。くわえて檀野は、()()さえはっきりしていれば努力を積み重ねることを厭わない人間なのだ。

 ふ、と諏訪はコロッケを食べ終わった口元を拭って笑う。

「そういや檀野」

「はい?」

「まだ那須をデートにも誘えてねえって? このヘタレ」

「は、待っ──何で諏訪さんがそれ知ってんだ!!」

 一瞬にして真っ赤に染まった弟分に肩を揺らしながら、諏訪はいつのまにか同じ高さにまで成長していた頭を声がでけえとぺしりとはたいた。

 

 *

 

「ヘタレだろ」

「諏訪さん、そんな本当のことを」

「うーん、もう少し頑張りましょうって感じかなー」

「えっまだ告白してなかったんですか?」

「だから何でそんな筒抜けなんだよ!! 諏訪隊で総攻撃やめて!!」

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