Fate/Grand Order 人狼真偽談合:ジャッジメント   作:グラサン髭坊主

1 / 1
プロローグ・Ⅰ

 

 

 

 

 

 

 ――ふと、意識が浮かび上がっていく感覚に気がついた。

 

 いつの間にか眠っていた状態から、自然と目を覚ますような。

 

 いつの頃からか、幾度か経験したことのあるそんな感覚を思い出しつつ、閉じていた瞼をゆっくりと開いていく。

 

 

 

???

「――ん? おお、ようやく気がついたか」

 

 

 

 うっすらと見開いた先にいたのは、1人の老人だった。

 

 灰色の髪に、少し高い鼻。

 それ以外はどこにでも居そうなその老人は、横になっていた自分の身体の直ぐ側に座っていた。

 今いる場所はどうやら何かしらの建物の広間らしく、自分はそこに据えられていたソファーの1つに横になっていたらしい。

 

???

「お前さん、ずっとこのソファーで眠っておったんじゃ。具合でも悪いのか?」

 

???

「ん、とりあえず体に異状は無い、みたいです」

 

???

「そうかそうか。まあ、元気なら何よりじゃな」

 

 そう言って、屈託のない笑顔を浮かべる老人。

 素直にそう発言するあたり、どうやら悪い人間というのが、この老人に対する率直な第一印象であった。

 

???

「そういえばお前さん、名前は何というんじゃ?」

 

リツカ

「・・・藤丸立花です。リツカと呼んで下さい。その、お爺さんは?」

 

モブ爺

「ワシの名はモーブじゃよ。よく周りからはモブ爺と呼ばれておるから、お前さんもモブ爺でよいぞ?」

 

 にこやかな表情を浮かべながら、起き上がろうとした自分に手を差し出してくるモーブ――モブ爺。

 その手を取りながら、リツカは現状を確認するために1番気になっていたことを彼に尋ねる。

 

リツカ

「それで、モブ爺さん。ここは一体何処なんですか? その、気がついたら眠っていて、起きたらこんな場所にいたので・・・」

 

モブ爺

「なんと、お前さんはこの屋敷の者ではないのか」

 

 リツカの言葉を聞いて、初めてモブ爺が笑顔以外の表情、心底驚いたといったような顔を見せる。

 彼はどうやらリツカをこの場所の関係者だと思っていたようだ。

 

モブ爺

「ワシはこの屋敷を偶然見つけて避難してきたんじゃ。ほれ、そこの窓から外を見てみなさい。もの凄い荒れ模様じゃぞ?」

 

リツカ

「えっ、・・・うわぁ」

 

 促されるままに窓の外に視線を向けると、そこには猛吹雪で荒れる夜の森が広がっていた。

 この天候の中で遭難していたら確実に命に関わっていただろうから、モブ爺がこの屋敷を見つけられた事は本当に幸運だったと思われる。

 

リツカ

「すごいな。まるで昔のカルデアのよう――」

 

 ふと、思わず口にしたその言葉。

 そこでリツカは、今更なが自身の現状を思い返し始めた。

 

リツカ

(――そうだ。確か俺は、ノウム・カルデアで眠っていた筈なんだ。それなのに、今は見知らぬ場所にいるなんて、まるで上総国の時のような・・・)

 

 なるべく冷静に現状を再確認するリツカ。

 場所は不明、時代も不明。そして、周りに味方の存在は無いという状況に、ほんの少しずつだが不安がこみ上げてくる。

 

モブ爺

「カルデア? そこがお前さんの出身地かい?」

 

リツカ

「あ、えっと。出身地ではなく、職場というか、なんというか」

 

モブ爺

「・・・ふむ。お前さんに何があっあのかは分からんが、とにかく今は落ち着くといい。まあ、外はあんなじゃが、ここなら暖もとれるからな」

 

 そう言って、モブ爺はソファーの前にあるテーブルからティーポットを手にすると、慣れた手付きで近くに置いてあったマグカップに中身を注ぎ、それをリツカの眼の前に差し出してくる。

 

モブ爺

「ほれ、勝手にいれさせてもらったものではあるが、温かい紅茶じゃ。飲めば少しは落ち着くじゃろ」

 

リツカ

「あ、ありがとうございます」

 

 素直にマグカップを受け取り、ゆっくりと紅茶に口をつけるリツカ。

 程よい温かさが、じんわりと身体に染み渡っていく。

 

モブ爺

「・・・それにしても、こんな吹雪の夜じゃと、あの()()を思い出してしまうのぉ」

 

リツカ

「噂話、ですか」

 

 唐突にモブ爺が口に出したその言葉に反応するリツカ。

 それを見た彼は、何やら先程の笑顔とはまた違う、どこかいたずらっぽさのある笑みを浮かべた。

 

モブ爺

「そう、最近この辺りで耳にする噂話じゃ。お前さん、人狼って知っとるかい――?」

 

 ――人狼。

 

 モブ爺曰く、吹雪で遭難した人の中に紛れ込み、夜になると1人ずつ喰い殺すという人外の化け物。

 そんな存在の噂が、モブ爺の周りで最近耳にするようになっているらしい。

 何度も戦った経験のあるウェアウルフとは違って、昼間は人間の姿でいるというそれは何の力もない者にとってはさぞかし脅威であろう。

 

リツカ

「そんな恐ろしい存在が、この辺りにはいるんですか?」

 

モブ爺

「まあ、そんな話を最近は聞くようになったな。・・・も、もしや、お前さんがその人狼だったり――」

 

リツカ

「ち、違います! 人狼だなんて知りませんよ!」

 

モブ爺

「――ハッハッハ。ただの噂話だよ。人狼なんているわけないさ!」

 

 唐突に怪訝な視線を向けてきたモブ爺であったが、リツカの反応を見た途端に今までで1番大きな声を上げ笑い始めた。

 そこでようやく、リツカは自分がただからかわれたのだと気がついた。

 

リツカ

「ちょっと、脅かさないでくださいよ!」

 

モブ爺

「ああ、すまんすまん。お前さんの反応をちょっと見てみたくなってな」

 

リツカ

「てことは、人狼の話は嘘だったんですか?」

 

モブ爺

「いんや、人狼の噂話を聞くようになったのは本当の事じゃぞ?」

 

リツカ

「・・・えっ? なら、どうしてその話を信じていないんですか?」

 

モブ爺

「単純なことじゃ。ワシの知る限りでは、人狼を見たとか仲間を殺されたとかいう事件や被害者の話を、一切全く聞かないからじゃよ」

 

 モブの言葉を聞いて、リツカはなるほどと納得する。

 噂話ばかりで、その存在そのものを決定づけるような証拠が何一つ無いのでは、噂話は真実ではないと断言してしまいそうなものである。

 

モブ爺

「どうせ、何処かの誰かさんが語った与太話が、不思議と皆に広まってしまっただけじゃろうて」

 

 そう言って、モブ爺は紅茶のセットを片付け始める。

 広間の壁時計に目を向けると、時刻は既に深夜近く。吹雪で遭難した身体に、これ以上の夜更しはあまり良いとは言えないだろう。

 

モブ爺

「そろそろ日も跨ぐ頃か。もしも仮に、この屋敷の中に人狼が交じっていたら、今夜、誰かが死ぬじゃろう・・・。ハッハッハ、怖い、怖い」

 

リツカ

「まだそんな事を言うんですか・・・!」

 

モブ爺

「ああ、言い忘れておった。今夜はワシのような者たちが何人もおるようじゃ。あまり煩くするのはよろしくないぞ?」

 

リツカ

「っ!?」

 

 その言葉を聞いたリツカは、張り上げそうになっていた声を咄嗟に抑えるように口を噤んだ。

 彼ら他にもこの屋敷にいるのであれば、こんな深夜近くに大声を上げるのは非常識なことこの上無い事だろう。

 

モブ爺

「他人の屋敷の空き部屋を使うのはちょいと気が引けるが、この状況では仕方なかろう。お前さんもどこかの部屋を使わせて貰うんじゃな」

 

リツカ

「そう、ですね。そうすることにします」

 

モブ爺

「うむ。では、また明日」

 

 モブ爺はリツカへの助言を述べ終わると、そのまま広間を静かに出ていった。

 1人だけとなった広間の中、リツカはその場で静かに深呼吸をする。

 

(――カルデアとの通信は・・・、うん、やっぱりダメか。今の状況は、シャトー・ディフや上総国の時に似たような感じ、なのかな)

 

 かつてリツカは、夢を見るような形で特異点に巻き込まれた事が何度かあった。

 故に、目が覚めたら見知らぬ場所にいたという現在の状況にも、幸か不幸か、直ぐに自身の状態を確認できる程度には場馴れしているのである。

 

 

 

???

「――おや、これは珍しい。こんな時間にお客人ですかな?」

 

 

 

リツカ

「えっ!?」

 

 唐突にかけられた声に、ビクリと驚きの反応を見せるリツカ。

 声のした方へと目を向けると、そこには執事の様な服装の初老の男性が1人、玄関の前で佇んでいる姿があった。

 先程の言葉から察するに、この屋敷の関係者であるのだろう。

 

???

「おっと、驚かせてしまったようですね。これは失礼を」

 

リツカ

「いや、あの、えっと、すみません! 勝手にこの屋敷に入ってしまって・・・」

 

???

「ああ、そこは問題ありませんよ。この屋敷はそもそも、私の主人がこの山で道に迷われた方の為に建てた、避難所のようなものですから」

 

 突然の事ながらも咄嗟に謝るリツカに対し、初老の男性は表情を変えないままに、この屋敷が遭難者の為に建てらてたもので、ここにいても問題無い事を教えてくれた。

 

リツカ

「・・・そうだったんですね。その、初めまして。自分の名前はリツカといいます」

 

GM

「ああ。申し遅れました。私はこの屋敷の管理を任されております、ジェレミア・モリスフォードと申します。長いので、GMとお呼び下さい」

 

 己の名前を述べたリツカに対し、丁寧なお辞儀と共に名乗り返す初老の男性、GM。

 その所作と身なりからして、教養高く有能な人物であろう事が窺える。彼の主人がこの場所の管理を任せているというのも、素直に納得できるというものだ。

 

GM

「さて、リツカ様。今夜はもうお休みになられた方がよろしいでしょう。部屋は空いている所をご自由にお使い下さい」

 

リツカ

「は、はい。ありがとうございます」

 

GM

「ただ、避難してきた者がそのまま使えるようにしている為、部屋の鍵はついておりません。そこだけはご容赦願います」

 

リツカ

「なるほど。分かりました。それではGMさん。おやすみなさい」

 

GM

「はい。おやすみなさいませ」

 

 広間を後にするリツカに対し、慇懃な様子で見送るGM。

 そんな彼に会釈を返しながら、リツカはとにかく今日はもう眠ろうと、空き部屋を探しに向かうのであった。

 

 

 

「――――良い夢を。救世の遠き来訪者様」

 

 

 

 

 

 ・・・そして、夜が訪れ―――

 

モブ爺

「―――ぐぁっ、ま、まさかお主ら、本当に人ろ、がはっ!?」

 

???

「困るんですよね、根も葉もないとは言え、人狼の噂を広められるのはさ」

 

???

「俺達の存在を安易に吹聴した、それだけで噛み殺す理由としては十分だ」

 

???

「さあ、そろそろ夜明けが近づいてきています。普通の遭難客として各々の部屋に戻りましょう」

 

???

「そうだな。ああ、一応言っとくが、俺達は初対面同士ってことにしとこうぜ」

 

???

「ええ、大丈夫です。それでは■■■、また夜にでも」

 

???

「おう、■■■またな」

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。