遺跡。
辺りは苔むし、ところどころに草花が生い茂っている。
かつては何かの実験場であった事が見て取れるその場所には一つの台座があった。
動く物の無いその空間の中で、ただ一つ、スゥスゥと安らかに胸を上下させる物がある。
白く、絹糸の様に臥された髪が揺れ、その表情にはやや翳りが見える。
「ぅぅん」
猫の様な唸り声の後、その人物の影が、地面に墨汁を垂らしたように広がる。
夢の中で、空気が変わるのをを感じた。
光に満ちた空間で横たわる様な、安らかな眠りを妨げるものだった。
「ぅぅん」
朝は苦手だ、その為に俺は...俺は...どうしたのだったか?
「あれ?」
思い出せない、それどころか声もやけに高い様に思える。
風邪でもひいたのだろうか?
それにしては、倦怠感が無さすぎる。
それに、この身体を突く様な硬い感触はなんだろうか。
「んー...?ん!?」
そうして、少女は飛び起きた。
白い髪を棚引かせ、慌てた様子でいる。
そうして起き上がり、まず最初に見たものは...
「オッパイ⁉︎オッパイナンデアイェェ!?」
呑気な物である。
本来男である自身には無い代物を見て、少女はようやく自身に起きた事を把握した。
「女になってやがる...!?」
なんなんだこれは。
自分は男だった筈だ。
それにこんな石の台座でなくて...待て、此処は何処だ?
辺りを見渡すと、其処は石造りの遺跡であった。
長い年月が経ったのだろう、草花が生い茂り、天井からは水が滴っている。
「此処は...?」
わからない。
唯その一つが、少女の頭に満ちていた。
しかし、それも一瞬の事で...
「取り敢えず病気じゃないな、ヨシ!さて、探検するぞ!」
そう言って、石の台座から飛び降り、歩き始めた。
現実逃避である。
「さて、とは言ったものの、まずは何をするか。」
立ち止まり、首を傾げる。
白い髪が陽の光によって艶を見せ、其処には幻想的な風景が広がっていた。
そのスポットライトを浴びた構成物は、構わず舞台を後にして
「まずは自分の姿を確認しよう。」
そうして、長い白髪を携えた、紅色の目をした美幼女が、水面に顔を覗かせていた。
「こいつは一体...?」
自らである。
いや、そうではない。
その少女の左目があるであろう場所からは白い花と、耳に纏わりつく蔓が伸びていた。
「...まあ、気にしてもしょうがない...か...?」
どれだけそうしていただろう、此処では時間の変化がわからないが、それでも短くない時間の間、少女は固まっていた。
さて、次はどうしてくれようか?
そう考えた所でキュルキュルと可愛らしい音が鳴る。
腹が減った。
「まずは腹ごしらえだな!」
幸い、近くの植物は小さな赤い実を持っている。
「これ、食えるよな?多分、大丈夫か。」
頂きますも無く、取る手は進む。
そうして、口に運べば、仄かな甘味が広がる。
プチプチと皮を潰す感触が堪らない。
ふと、気づいた。
どうした事だろうか。
両手で数えられる程すら食べていないのに、もう自らの体は満腹を告げている。
「胃が小さくなってるのか...?まあ良いや、ご馳走様。」
自身の体に一抹の不安を感じながらも、口の汚れを濯ぎ、ついでに水を飲みながら考える。
さてどうする?
少女の周りは謎だらけである。
自身はなぜ少女になったのか?
自身の左目から生えた花は一体なんなのか?
この遺跡は一体なんだろうか?
まあ、一つずつ解決すれば良いだろう
「まずは情報だな。」