雑談をしていたからだろうか、随分気が緩んでいる。
ショタオジ監修の修行法の一つ、どこでも瞑想をしよう。
息を吐きながら目を閉じ、思考を落ち着かせる。
息を吸い、息を吐く。
今の俺はアサルトだ。
眼を開く。
するとタイミングよく重たい稼働音を出しながら扉が開いた。
格好付けると言うが、特別派手な事をする必要はない。
敵でもないのに武装を構えて派手に踏み込むなんて以ての外だ。
先頭役としていつもする様に油断なく進めばいい。
何時でも戦えるように降ると、レイが索敵結果を伝えてきた。
<覚醒者が一、依頼人の皆良田幸助です LV1 未覚醒者が一、護衛対象の皆良田啓幸 共に非敵対的です>
<結界あり、登録にない様式…複数の脆弱性あり 悪魔反応無し 監視カメラが三、9時方向の一つからMAG反応があります>
『俺とアサルトだけで行く。監視カメラはストームが押さえろ。ターミナルはいつでも動けるように待機。アサルトはそのまま周囲に睨みを利かせていろ』
連携システムで伝わった情報を元にすぐさまサンライトが指示を飛ばした。
会社化した結果俺たちにとって警察の脅威度は増している。
そうでなくとも招いておいて術まで使った無断撮影とは挑発と受け取ってもいいだろう。
依頼人の前までサンライトを先導し、脇に控えて周囲を警戒する。
サンライトは兜を脱いで挨拶を始めたが…
挑発に挑発を返すような指示を出しながらにこやかに挨拶するんだから大したものだ。
『屋敷のセキュリティシステムに侵入しました。監視カメラは電源を切ってあったようですが、LV0の霊を憑依させ目にしています』
ストームからの通信には少し驚いた。
『俺のレーダーにはMAG反応しか掛かっていないぞ。LV0にしては隠密性が高すぎないか』
『限界まで存在を薄くしているようですね。術の構成は…これでは術者が見ているのは殆ど砂嵐でしょう。結界も結構大掛かりな工事までして何とか成立しているという具合です』
『スネ夫さんの話だと霧沼家ってのが取引してるっすよ。取引先を取られて面白くないかもしれないすけど何かできる力は残していないだろうって話でしたっす。ちゃんと結界敷いて監視したりできるならマシな方の現地組織じゃないすか』
『この依頼人は覚醒しているものの表の政治家に専念しオカルトの知識は殆どないと言っているが…自宅で工事をさせるほど信用している霊能組織がいて無知というのは少し引っかかるな。元々今回の挨拶は早めに切り上げて異界の偵察にうつる予定だ。今は深入りを避けて霧沼家周りの情報を得てから考えよう。アサルト、出発だ』
『了解』
今回の異界は地元で地獄谷と呼ばれる間欠泉のある谷に入り口がある。
湯煙の中に隠された入り口に侵入するとすぐに一匹のガキが出迎えてくれた。
前蹴りを食らわせると一発で血を吐きながら霧散していった。
やはりボスLV一桁の弱小異界というのは間違いない。
<入口付近に溜まっていたようです レーダー反応はすべてガキです>
予定の陣形を試しつつ蹴散らしていく。
先頭で【咆哮】*1を上げればガキが数と士気に任せて襲ってくる
インペレイターに組み込まれた【獣の反応】*2と【コロシの愉悦】*3のスキルカードが俺の思考を加速し闘争本能を煽る。
その熱に身を任せて最初の集団に突っ込みながら【会心波】*4で薙ぎ払う。
ガキとのレベル差は大きい、小威力技であっても即死だ。
だが士気が高いというだけあるらしい。
5匹はいた先頭集団が一撃で全滅する様を目の当たりにしてもまるで怯む事無く新しいガキが突撃してくる。
正確には飢餓に追い立てられて群がってくるといった方が近いかもしれない。
範囲攻撃で薙ぎ払ってはいるが忙しい。
そこで視界の隅のレーダーに点滅する赤でMAG反応が強調表示された。
魔法攻撃の反応だ。
<3時方向より魔法攻撃が来ます 【吸血】*5が…いえ、ストームが対応します>
次の瞬間魔法を使おうとしていたガキの頭が吹き飛んだ。
『孤立したガキや遠距離攻撃するガキは私が撃ちますよ。集まっているガキに集中してください』
分担してくれるのは素直に有り難い。
『ありがとう、任せた』
『最近、話し合いが多くて腕が鈍りそうだ。俺も前にでるぞ』
『いっそ前衛連携の練習はどうだ?』
同一目標への同時攻撃は後衛同士なら簡単だ。
後衛と前衛でも俺達なら射線もタイミングも文字通り見てわかる。
だが前衛同士においては邪魔をしない以上の事は難しくなる。
そんな訳で近距離での連携は伸び悩んでいる。
『実戦なら何か掴めるかもしれん。やろう』
『んじゃ、索敵とフォローに専念するっす』
間もなく集まってきていたガキは一掃された。
その後は問題なく異界を探索できた。
ここまで密集していたのは入り口だけで、基本は集団がよくうろついている程度のものだった。
地形もひび割れた荒地に僅かな枯草と単純で遮蔽が少なく見晴らしがよかった。
幸い敵を探す必要はない。
入り口から離れすぎないように見晴らしの良い荒野を探索すれば十分だろう。
念の為もう少しガキを間引いてから戻った。
偵察を終えてスカラベの中で骨川と通信しながら相談する。
『僕も同じような自己紹介を受けたんだ。サトウ…皆良田さんが表の政治家に専念しているというのは間違いないよ。でも文字通り何も知らないってのは有り得ないね。メシア教の被害者を多く抱える反メシア派なら悪魔と覚醒者の力の片鱗くらいは知っている。彼自身覚醒者なのだから無防備でいられるはずがない』
一応外部の取引先なのでサンライトが主にやり取りをする。
『当然、誰かに警護を頼んだはずだ。メシア教は当然あり得ない。メシア教に頭の上がらない根願寺にとって反メシア派の幹部は堂々と関われる相手ではないだろう。ダークサマナーに警備など盗人を招き入れるようなものだし、犯罪者であることも多い彼らと関わるのはスキャンダルが怖い』
『残るは土着の霊能組織、この地域では霧沼家だね。根願寺のリストでは断絶の危惧あり、僕と会った時についてきてた霧沼家の護衛も鍛えているだけの未覚醒でね。皆良田さんも護衛も護衛を外して話すのをすんなり受け入れたんだよねえ。衰退した霧沼家が安定した長期の契約を独占し続けるために偏った知識を伝えていて、護衛は個人的な関係か何かで本音では霧沼家より皆良田家側。皆良田さんが護衛か反メシア派からの情報で騙されている事に気づいた。無知だの素人だのってのは霧沼家由来の情報を、延いては霧沼家自体を信用していないってアピール。頼りにするって方はガイア連合への乗り換えをチラつかせている。また騙されちゃ堪らないから息子の見ている所で実力を確認ってのが今回の依頼だと思っていたんだけどまだ裏がありそうだね。情報屋を気取っておいて恥ずかしくなっちゃうなぁ』
『霧沼家はそれなりに効果のある結界や監視の術を使えている。本拠地のみなら残されたものを維持している可能性もあるが、皆良田家との付き合いは戦前まで遡るようなものではないのだろう?新しく作れるならむしろ実力がある方だ。皆良田家としても霧沼家が全国規模の根願寺や日本メシア教に及ばない事は承知の上だろう』
『うーん。さっきのリストなんだけど、判断の元になった件が載っててね。約20年前に異界を抑えきれずに当主が殉職して救援要請してるよ。積極的に外に出て人を襲う性質から優先的に対応したらしいね。当時はガキがボスをやっている程度の異界だったから、それで当主まで失うんだから衰退は嘘じゃない…はずだけど今の実力と矛盾しちゃうや。何かあったのかよく調べてみるよ。なんにせよ、依頼内容が間違ってたみたいだね。本当に申し訳ないよ』
『地方の霊能組織などどうせ死に体だろうと調査すらしない事も珍しくないほどだ。実際、大した脅威ではないという点は変わらないし、政治が関わる案件だとも予め分かっていた。それにこの案件は俺たちにとって少なからず意味があるのだろう』
『恩に着るよ』