カオ転三次 コスプレ?サマナーの生存戦略   作:杉の根

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第4話

異界。

 

この世にありながらあの世の領域であり、人外の悪魔達が跋扈する地獄と聞いていた。

なるほど、飢餓地獄とはこのような場所なのだろう。

生きながらにして地獄に迷い込んだのかと思わせる。

 

一片の実りも潤いもない荒野で枯れ草を奪い合う餓鬼達。

奪い合いの中で一匹の餓鬼が傷つくと弱ったと見た他の餓鬼が襲い掛かる。

骨と皮ばかりの死体と枯れ草で満足できるはずもなく、また互いに争い出した。

いつまでも奪い合いと共食いを繰り返していくのだろう。

一方が生きるにはもう一方が死なねばならないという残酷な真理をこれでもかと見せつけてくる。

 

昨日の偵察の結果を聞いてはいた。

ヘルメットに簡単な見鬼の術が施されているから私も悪魔を直接目の当たりにする事になるのも聞いていた。

覚悟も決めていたつもりだったが、聞くと見るでは大きく違うと言うしかない。

 

やがて「美味そうな肉」に気付いた餓鬼が一斉にこちらに振り向き我先にと走り出す。

 

こんな状況でも取り乱さずにいられるのは餓鬼達が束になっても彼らにはとても及ばないと分かっているからだ。

 

「うおおおおおお!!」

 

腹の底まで揺らす咆哮と共に青い巨人が前に踏み出す。

アサルトと名乗った男、車内では私の緊張を解そうと積極的に話しかけてくれた面倒見の良い面もあった。

今はその存在感の強さと巨体が相まって味方なのに縮こまりたくなるような威圧感を放っている。

 

そのアサルトの咆哮を境に餓鬼の気配が変わったのが分かった。

先程までは我々を食欲の対象としか見ていなかったが、今はアサルトだけを見ている。

襲い掛かる者や逃げる者、立ち竦む者までいるが自身を遥かに上回る強者の威嚇に恐慌を起こしているのは同じだろう。

突出していた一匹の餓鬼がアサルトに足に噛みつこうとするがアサルトは何の対応もせず進み続ける。

足に飛びつくところまでは見えたが、土煙に僅かに赤色を混ぜて消えてしまった。

戦いは数だとも言うが餓鬼では数にすらならないようだ。

左手から雷光を放てば全身の水分が沸騰したのか3匹が纏めて破裂する。

右手に持った剣というべきサイズのナイフを振るえば衝撃波で4匹がバラバラに吹き飛ぶ。

 

ここで近くからポン、という音が聞こえた。

何の音と思う間もなく逃げようとしていた餓鬼達の中心から炎が巻き起こり全員を火達磨に変えてしまった。

音の元を見ればストームと名乗った男の肩にある砲*1から僅かに煙が立っていた。

 

グレネードランチャーという物だろうか。

それは重火器に分類されるのでは?

少なくとも日本では所持すら許されないのでは?

いや、アサルトの放電銃も、そもそもパワーアーマー自体、新しすぎてまだ規制されていないだけで民間で運用して良い物ではない。

 

運用…?

 

ハッとして四人の装備を詳しく見てみる。

アサルトの突撃機、ストームの火力支援機、ターミナルのドローン運用機、サンライトは指揮官機?盾を持つのでアサルトとはまた違った前衛なのかもしれない。

それぞれ違う設計思想と構造を持った機体が四種*2も実用可能な段階にあるのか!

 

そしてそれを装備した者達の存在も重要だ。

 

アサルトを筆頭によく鍛えられた体*3に、合図の一つも無いまま行われる滑らかな連携*4

対悪魔パワーアーマーという新兵器を任されるのが精鋭である事に不思議はないが、精鋭は必要だからと言って急に用意できるものではないのだ。

食物連鎖のピラミッドの様に精鋭兵という存在は大勢の一般兵がいてこそ運用できる。

一般兵の中から能力と士気の高い者を選り抜き、一般兵の経験を集めて有効な訓練を編み出し、一般兵よりも手厚い待遇と装備で厳しい訓練と危険な実戦を乗り越える。

そうしてできた優れた一般兵こそが精鋭兵となるのだ。

つまり、彼らという精鋭兵の存在は大勢の一般兵がいるという証拠となる*5

 

また、彼らの行動を見るに、そもそも指揮系統といった根本の部分からして普通のオカルト組織とは一線を画している。

一般的な退魔師集団を騎士団と例えれば、彼らは騎兵隊と言えるだろう*6

 

つまりガイア連合は自分の軍を、それもかなりの実力を備えた異能者による軍を持っている可能性が高いということか!

 

背中に冷たい汗が流れる。

経済面でのガイア連合は日本最大の財閥だ。

オカルト面でのガイア連合も日本最強の異能者集団だ。

軍事面でのガイア連合も日本最強の軍事組織かも知れない。

 

彼らがその気になりさえすればいつでも日本を征服できるだろう。

いや、征服自体は既に完了しているといってもいい。

行動原理を無視して実力で見れば日本にとってメシア教以上の脅威とすら言える。

 

しかし彼らのこれまでの行動が私に期待を抱かせる。

国家以外の組織による独自の軍と聞けば反乱がまず思いつくが、ガイア連合ならば、日本を守るためなのかもしれない。

過激派という脅威がさらに勢力を増している以上、軍を持つ判断に妥当性すら感じる。

 

ガイア連合に日本の運命の全てを賭けるべきか?

だが自ら民間企業に留まっている彼らに全てを任せるのか?

ガイア連合は自身の核心部分では秘密主義を貫いているのに?

この依頼を機に見極めなくてはならない。

 

「皆良田さん、少々よろしいですか」

 

「あっ、し、失礼しました。危険だからと護衛をお願いしたのに自分は油断して考え事とはお恥ずかしい」

 

「異界といい悪魔といい初めてでしょう。パニックを起こさず冷静を保つだけでも大したものです」

 

「お気遣い有り難うございます。それで何か御用でしょうか」

 

「護衛を確かなものにするため運が良ければ程度の話でしたが、アサルトが上手くやったようです。武装を確認なさってください」

 

既に戻ってきていたアサルトがボロボロの餓鬼を鷲掴みにしていた。

餓鬼は暴れるだけの体力は残しているようでアサルトの手を引っかいたり指を掴んだりしている。

 

「アナライズの結果、物理型で魔法は使えません。要注意の喰らいつきも顎を砕いてあります。念の為片足も。まだ一日目ですから安全重視で行きましょう」

 

体を隠すのに十分な大きさの盾とバトン型のスタンガンを握りなおす。

さっきまで頼もしく思えていた装備が急に頼りなく感じる。

 

「落ち着いて、盾の構え方を思い出してください。我々が傍にいますし治療の準備もあります」

 

た、盾…

相手と自分の最短距離を盾で遮る。

下を地面につけて、裏を足で押さえる。

背中を取られないように、武器を突き出しやすいように、少し斜めにする。

これでいい、はず。

 

「いいですよ。格上の悪魔といえど相手は傷つき機動力を失っていますし、盾への対抗手段も持ちません。防御を崩さないようにすれば勝てます。始めましょう」

 

アサルトの手から解放された餓鬼が真っ先に試みた事は逃走だった。

しかし、アサルト、ストーム、サンライト、私に四方を囲まれている。

僅かに逡巡した後、最も与しやすそうな私の方へと向かって来た。

 

這っているが、予想よりもずっと早い。

 

ぶつかる!

 

「ひぃっ!」

 

我ながら情けない声だ。

しかし恐怖で固まったのが良かったのか、餓鬼との衝突に何とか耐えることができた。

軽そうな見た目で今は片足で這っているはずなのに骨まで響く衝撃だった。

餓鬼が盾の表面を引っかく音が聞こえてくる。

必死で盾を押さえていると餓鬼が攻め方を変えてきた。

盾を両手で掴んで揺らし始めたのだ。

凄い力だ。

両足が無事だったなら、私はあっという間に引き倒されていたに違いない。

必死に抵抗するが何度も片足が浮く。

無理だ、早く助けに来てくれ。

体ごと揺らされるのに耐えていると盾を掴む手が目に入った。

無我夢中でスタンガンを餓鬼の指に当てようとする。

何度かスタンガンと盾との間に光が走る。

もう一回!

 

そのバチンッという破裂音は一際強く聞こえた。

 

「ギャッ!」

 

餓鬼が悲鳴を上げて体を仰け反らせる。

人間もまだ野生の本能を残しているのだろうか。

相手が弱ったと見た途端に体は追撃に動き出していた。

盾を上から押し付けながら、盾の横からスタンガンを差し込む。

脇腹に電撃を受けた餓鬼が再び悲鳴を上げた。

興奮のままに何度もトリガーを引いていると、急に盾で押さえつけていたはずの餓鬼が消えた。

 

何処にいった?

 

辺りを見回した所で気が付いた。

世界の見え方が、感じ方が違う。

もっとよく見たい。

思わずヘルメットを外してしまった。

勝って兜の緒を締めよという慣用句を思い出して思わず笑いが漏れた。

 

「これが、覚醒か。確かに目が覚めたようだ」

 

今までのバイザーに映された映像とは違う。

新たに加わった霊的な感覚だけではない、物質的な感覚すらも解像度が違う。

 

「覚醒者の血筋ですから素質はあると思っていました。それでも一度目で、とは驚きました」

 

そうだ、彼らに礼を言わなくては。

 

「皆、様……」

 

存在感…いや、存在が違う。

 

見極める?

見極めてどうすると言うのだ。

私程度が協力しようが敵対しようが大した違いはあるまい。

 

「皆良田さん、深呼吸をしてください。落ち着いてよく見てください。貴方の目の前にいるのは四人の人間です」

 

呼吸を忘れていたことに気づき、言われるがままに深呼吸をする。

 

「小休止にしよう。ストームとアサルトは周辺確保、ターミナルは警戒。俺はパッケージと話す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺ことアサルトはストームと一緒に周辺警戒をしている。

 

今はパッケージが疲れたようで休憩中だ。

初戦闘と覚醒を経験したのだ。

頭を整理する時間も必要だろう。

 

『やっぱり覚醒には悪魔との戦闘がいいんだな』

 

『俺達でなくても一回で覚醒も珍しくありませんからね。生き残れるならですが』

 

通信で軽く雑談をしながらもレーダーに注意して歩く。

 

『でもちゃんと盾使えてたのは凄いっす。アサルトが教えたんすか?盾使ってるとこ見た事ないんすけどよく教えられたっすね』

 

『ああ、ミリオタと言うけど俺は現代の軍事だけじゃなく中世の軍事とかも好きだから。教えた盾の使い方はローマ兵式のだよ。盾もスクトゥムと似てるのを選んだ』

 

『スク…?ローマの四角い盾をそう呼ぶんすか。…っ!スカラベよりSOS!覚醒者複数!最大レベルは7です!』

 

ターミナルは母艦機能の一環として通信機能をより重視している。

通信兵としての役割も持っているのだ。

 

『アサルト、ストーム!奇襲に注意して集まれ!ターミナル!異界出口までドローンで偵察しろ!』

 

『『『了解!』』』

 

元々大して離れた距離ではない。

直ぐに集結した。

 

「な、何事ですか。サンライト殿」

 

「残してきたスカラベが敵襲にあっているようです。幸い脅威度は低いのでスカラベと合流し撃退します。我々も襲撃される可能性がありますので直ぐに移動しなければなりません」

 

「敵…」

 

「心当たりがお有りですか」

 

「確証はありませんが…霞沼の者かと」

 

「今は行動あるのみです。詳しくは後程。出発!」

 

「「「ウーハー!」」」*7

 

餓鬼と戦うのが目的だったし、バックアタックを警戒して広範囲を狩っていたからこの辺りの餓鬼は過疎状態だ。

何度か少数が居たぐらいで、そいつらも近づく前にストームの射撃でなぎ倒されていった。

 

だがパッケージが遅い。

覚醒したお陰でまだマシだが担ぐべきか迷うな。

 

『ターミナル、スカラベは持ちそうか』

 

『第一結界も破れてないっすよ。私達の拠点として作ったっすから当然っすね。あっ、未覚醒を二人、見張りに残して移動し始めたっす。スカラベに手が出せないもんすから、こっちを狙うことにしたみたいっす』

 

なら担ぐほど急を要するわけではない、のか?

 

『よし。全員足を緩めろ。このペースだとパッケージが持たない。しかし、ここまで直接的な手に出るとはな。ダークサマナーの疑いすらかかっていなかった筈だが』

 

確かにサンライトの疑問は引っかかる。

 

『根願寺のリストでは霊能組織としては素行良しの部類でしたね。古い内容ではありましたが、伝統的な集団というのは変わるのに時間がかかります。急に意見を変えるという事は急に勢力図を変えるという事、必ず内部の不和からお家騒動じみたことになります。調べて分からないはずがありません』

 

『じゃあ変な悪魔召喚して乗っ取られたってのはどうっすか』

 

『覚醒者複数の戦力を送り込めるほど力を増したのが悪魔との契約、結界の知識も悪魔から、なら説明がつくな。だが零細霊能組織が召喚できる程度の悪魔がそれをできるかは腑に落ちないな』

 

『まあ、これから霧沼家の人に聞けばわかるだろ』

 

『うっ、そういやこれから対人戦っすね。一応ドローンに威力捨ててパラライズに特化したジオ持たせたドローンありますけど…』

 

『私は…せめてゴム弾を持ってきていれば良かったんですが…』

 

『俺はやれるぞ。アサルトはどうだ』

 

俺は今世では運動大好きの少年時代を過ごした。

俺は色んな競技がしたかったので運動部には長く所属しなかった。

だが助っ人として引っ張りだこだったので、格闘技もいくつか経験している。

格闘技術もそうだが、殺さない力加減もできると思う。

 

『俺も行ける。LV7が精々なら素手で十分だろ』

 

『ターミナル、ストーム、不安なら俺とアサルトの二人でやる』

 

『…過激派の事もあります。いずれは避けられない事です。やります』

 

『…私もやるっす』

 

『ふむ、だがパッケージの保護も重要だ。今回は俺とアサルトでやる。護衛は任せたぞ』

 

『分かりました。すみません』

 

『護衛は任せてほしいっす!シールドドローン*8を持ってきてるっす』

 

『もうすぐ出口だ。警報の結界があるぞ!アサルトは俺と一気に踏み込む!態勢を整える前に叩くぞ!護衛班は後から来い!』

 

減速どころか加速して異界の境の煙に突っ込む。

何か糸を張ったような結界があったが、引きちぎって進む

 

「突っ込んできます!足止めにもなりません!」

 

「列を乱すな!逃げたら殺すぞ!」

 

<正面に槍衾です 徹甲能力に乏しいので問題ありません>

 

異界から出ると急速に煙が晴れて視界が開けた。

4人が槍を突き出して列を作り、後ろに1人控えている。

前衛は最高でLV2で未覚醒すら混じっている。

後衛の白装束の男がLV7、こいつが中心か。

 

<後衛にMAG反応 目標はサンライト 『ジバブー』です>

 

「絹笠様、どうか糸を分けてくださいな」

 

白装束が糸束を投げつけてきた。

空中で解けながら生き物のように動き出す。

俺より速いので先頭に出ていたサンライトが狙われているが問題ないだろう。

サンライトに僅かに黄色い生糸の束が襲い掛かるが、怯むことなく太陽の直剣で糸を切り払っていく。

その間に俺が前に出て敵の前衛にたどり着いた。

 

「歯を食いしばれよ!」

 

減速無しで槍の列に突っ込んだ。

LV20クラスの反応速度からすると槍衾というには色々と足りなすぎるな。

念の為、左腕の一振りで正面の二本を粉砕して外側の二本は無視して進む。

当然槍が当たるが、こっちはどうということはない。

襲撃者の方は槍から伝わる衝撃に耐えられなかった。

一人は槍が手からすっぽ抜け、一人は槍を落とさなかったが大きくよろめく。

 

正面の二人の内LV2の方は何とか俺を避けようとしている。

手間が省けていい、ちょっと速度を緩めて退くのを待つ間に右手でもう一人を退かそう。

こっちはLV1か、投げるつもりだけどクッションが欲しいな。

無理な回避で体勢が崩れているLV2に投げつければ丁度いいか。

LV1のベルトを掴んで放り投げるとLV2は避けるどころか全身で受け止めようとした。

倒れていく二人を横目に見ながら通り過ぎる。

顔が似てるし兄弟か?

 

「屑どもがっ!とにかく時間を稼げ!」

 

<呪術契約を確認 非殺傷の無力化は難しくなります>

 

急に前衛組の行動が切り替わる。

捨て身なのかもしれないが、既に抜いた後だ。

同レベルでは遅いとは言え俺にお前らでは追いつけない。

そのまま白装束へと突進していく。

もう手が届くぞ。

何かを取り出そうとしていた右手と首を掴む。

 

「聞きたいことがあるからな。従えば命は勘弁してやる」

 

少しずつ指に力を入れながら脅していると、サンライトがもう追いついていた。

 

「なるべく太陽運輸の名は綺麗にしておきたい。今の内だぞ」

 

後ろを見れば足をやられたのか前衛組は這いずりながらこっちに来ている。

 

「っ!お前ら、止めろ!止まれ!」

 

その言葉を合図に前衛組は糸が切れたように倒れた。

 

『待ち伏せは無力化した。スカラベはどうだ?』

 

『見張りはそわそわしてるけど本隊が負けたのには気づいていないぽいっす。スカラベは無事っす』

 

『こっちは接敵無し、合流しますか?』

 

『合流しよう。アサルトはそいつを見張っておけ。俺は他の連中を手当して拘束する』

 

『了解』

 

*1
汎用スキル投擲とカタパルトで各種ストーンを飛ばす

*2
ハード面では外装と装備が違うだけで中は一緒、ソフト面ではシキガミだよりの実質一種です

*3
鍛えるのが趣味の人とその他も覚醒補正ありです

*4
オペレーターに徹するシキガミが一人一人についてます

*5
精鋭兵ではないです

*6
太陽運輸がすごいというより現地組織が伝統に縛られていると言うべきです

*7
余所行きの掛け声

*8
『かばう』持ちアガシオン

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