この戦いももうすぐ終わる
けれど何か嫌な予感がするわ
戦局的状況が変わる訳では無いから私たちが負けるってことはないけれど、もっと別な事で
「桂花さま?お顔が怖いのですがどうかなされましたか?」
「何か嫌な予感がしただけよ」
「嫌な予感……ですか?」
なんか胸騒ぎというか
本当に変な気分になるわ
「えっ……うそ……そんな……」
理央が一時も手離したことがないぐらい大切な黒い羽扇を落とす
だめ、そっちを見てはだめ
けれど私はそっちを向いた。現実を見なければならなかった
「軍医を呼んでくれ!それから寝台を!」
星の背中にまるで死人のように活力がない衛宮の姿が
なんで……なんでよりによってこいつなのよ!
「星、何があったの」
「正騎殿が秋蘭たちを助けるために呂布と戦って、私が駆けつけた頃には……」
また人のために戦って、今回はこんなに酷い傷まで負って……
「もう……1人は嫌ぁ……わたしを1人にしないでぇ……」
「──理央、落ち着きなさい」
「でも……正騎さまがぁ……」
「落ち着きなさいって言ってるでしょ!!」
「──ッ!!」
私らしくないわね、こんな声出すなんて
でもこんなこと思ってられないわ
「あんたが嘆いてたって
「桂花さま…………すみません、取り乱しました。今から私が言う通りにしてください。星さまは凪さまを連れてきてください。わたしではできませんので凪さまの氣を使って体力を回復させます」
「わかった」
「桂花さまはわたしが言うものを揃えてください。全て陣内にあるものなので桂花さまならすぐに揃えられるかと」
「わかったわ」
「正騎さまを寝かせられる天幕へ急いで運びます。そこでわたしが応急処置を致します。五斗米道の知識、借りさせていただきます。華佗さま、どうか力を貸して……」
理央と星がこれだけ心配してんのよ
言いたいことがあるんだから早く起きなさいよ馬鹿!
──────────
あれっ、どこだここ
周りを見渡しても真っ暗なんだけど
──あぁ、そうか
呂布に斬られて、そのまま死んじまったのか
秋蘭たちは逃げきれたかな
それに理央を独りにしちゃうのか。桂花の事も何もしてあげられてない
ははっ、やっぱり悔いが多すぎるな
縁がある人を、仲間を助けられるなら死んでもいいって思ったけれど……いざ死んでみると生きたいって気持ちで溢れてくる
だからオレは、オレはまだ生きなければならない……!やるべき事が、果たさなければならないことがあるんだ!!
「 深い傷を負っても生きているか。彼女の力に感謝するんだな」
(こんな所に人が?あなたは一体?)
「私はそうだな、凛の知り合いと言っておこう」
赤い外套を纏って、肌は少し浅黒く白髪の男性
母さんの知り合いでもこんな人見たことない
見たことないはずなのに、知っている気がする
「私のことはいいだろう、どうやらこちらで意識が起きたからか身体に引き寄せられるようだ」
(えっ?急に眩しく──待ってくれ!オレはまだあなたと話が!)
「魔術師として成長すればまた会えるだろう。私としてはあまり会うことは望んでないがね」
「今のは一体……」
さっきのはなんだったんだろう
それにあの人は……あれ?いまペンダントが光ってた?
これには魔力が空のはずなのに
「それにここは……」
天幕の中?
胸元を見ると治療されたあとがある……
確か星の声が聞こえたからあのあとに星がここまで運んでくれたってことか
「正騎、さま……?」
声がした方を向くと理央がいた
これはオレの様子を見に来たんだな
「生きて……目が覚め……う……うわぁぁぁぁぁん!!」
「理央……ごめんな心配かけて」
「本当ですよぉ!あなたが死んじゃったらわたしは……」
「ごめん……でも今はそばにいるから」
その後しばらく、理央の頭をずっと撫でていた
少しでもそばにいることを示すために、安心させてあげるために
それからしばらくして落ち着いたらオレがどうやって助けられたか聞いた
「そっか、理央が手当をしてくれたんだ。凪にも迷惑をかけちゃったかな」
「そんなことはないです。凪さまもすぐに手伝ってくれましたし、迷惑だなんて思っていませんよ」
みんなの幸せを願ってるというのに、オレは馬鹿だな……
でも、あの時秋蘭たちを退却させるためにはあれしかなかったし……
「目を覚ましたようね」
「桂花……」
そうだよな、この子にも心配をかけちゃったんだよなオレは……
「理央、悪いけど少しだけ外れてくれる?二人だけで話したいことがあるの」
「……わかりました。けど正騎さまは怪我人なので、無理はさせないでくださいね?」
「わかってるわ」
「では、失礼します。お話が終わったらまた来ますからね」
そう言ってパタパタと駆け足で出ていってしまった
「なんでこんなことになったかは覚えてる?」
「……秋蘭たちを助けるために呂布と戦ったから」
「ええ、そうよ。秋蘭たちを助けたのは良いわ。彼女たちがいなくなったら華琳さまが悲しむもの。けど、あんたがいなくなったら悲しむ人がいないと考えたことはないの?」
オレが死んだら悲しむ……
理央がそうだ、それにここにはいないけど父さんと母さんも魔術師とはいえオレの親だ
息子が死んで悲しまないような人達じゃない
「少しはいるとわかったようね。ならなんでその人たちのことを考えないのよ」
「考えているよ、でもオレはみんなを──」
「いい加減にしなさいよ!!」
桂花……?
こんな怒りを感じたのは初めてだ……
「みんなを幸せに?みんなを守る?確かにそれは立派な理想よ!でもあんたが死ねばその時点で幸せになれない人がいるのよ!」
これには何も言い返せない
そうだよ、オレの事をを思ってくれてる人がいるんだ
オレが死んだらその人たちは……
「私だってその一人よ!他の男なんて死んでも構わないわ。でも
オレは、守りたいと思った人も悲しませそうにしてしまってたのか……
何を、何をやってるんだ……
「少し考えなさいよ。あんたが本当に守りたいもの、守るべきものを」
そう言って桂花は天幕から出ていった
親しい人を助け、幸せにすることを考えていた
例えそれが自分が傷つこうとも、犠牲になろうともみんなが幸せならそれで良かった
けれど、オレが死ねばそれだけで幸せから遠くなる人がいる
オレは何をやってきた?何のために戦ってきたんだ?
オレが守るべきもの、オレがなるべき正義の味方──
「正騎殿、起きてて大丈夫なのですか?」
「ダメに決まっています!今すぐ横になってお身体を休ませてください!」
「星、栄華……」
星には助けて貰ったし、栄華も来てくれたってことはオレを心配してたって事だよな……
星に至っては、オレに着いてきてくれたから劉備ではなく曹操の元と歴史からかけ離れたことをしてくれたんだし
「2人共ゴメンな、心配かけさせちゃって」
「正騎殿、私は生まれてこの方後悔というものをしたことがなかったのですが、此度の戦で初めて後悔致しました。あの時に正騎殿を引き止めておけばと。この責任とってくれますな?」
「星さん!?あなたこんな時に何をおっしゃっていますの!?」
「これぐらい言っておかねば正騎殿はわからないお方なのでな。とまぁ冗談は置いておくとして、まずは先に身体を癒してくだされ」
「あぁ。ありがとう」
こんな時に冗談を言うのは星らしいよな、場を和ませる為に言ってくれたんだろう
本当にいろんな人に心配をかけちゃったんだよな……
「なぁ2人共。ひとつ聞きたいんだけど、いいか
?」
「ええ」
「はい、なんですの?」
「2人はオレのことを、どう思ってる?」
「どうって、その、急にそう聞かれても……」
「そのまんまでいいんだ、2人がどう思ってるのか」
オレの答えを見つけるために、聞かなきゃいけない気がした
「……わかりました。わたくしは、あなたのことが時々見ていられなくなりますわ。男なんてケダモノのように欲望のままに生きてるのに、あなたは自分のことはどうでもよく、他の人だけを気に来かけているように思えましたわ。まるで、自分が死んでもいいようにも」
そうか
やっぱりみんなにそう思われてたのかな
「それに、まるで人形のように空っぽにも見えましたの。最近は桂花さんや理央さんと話してるときは人間らしさを感じましたけれど、それ以外のときはあなたからは何も感じませんでしたわ」
「そっか、ありがとう。本当に馬鹿やってたってことがわかってきた」
「そうですわよ。あなたはまず、自分を大切になさってください。自分を大切になさらない方が他の人を救えるなんて、わたくしは思いません」
自分を大切……か
そうだよな、オレ自身が守りたいと思ってもそのオレが生きていなきゃ守ることも何も出来ないんだ
「私にとってはやはり、正騎殿は唯一殿方で背を任せられるお方です。正騎殿が後ろにいる限り私は前だけを意識できる。それにこうしたいと思った時既に正騎殿はそれを行ってくれますからな。それに戦以外では隣にいて欲しいと思っています。共に正義を掲げる者として、最も信頼をおける者として」
そっか。オレは必要とされてるんだ
だから死んでも守るんじゃなくて死ななずに守り共にいる……そうしなきゃならないんだ
誰が欠けても悲しむ人が生まれてしまうのだから
「……やっと答えは見つけた」
「今なにか言いましたか?」
「ううん、なんでもないよ。それとありがとう、星、栄華。やっと目指すべきものが見つかった気がする」
「……その様子だと大丈夫そうですわね」
「では私たちは行くとしよう。正騎殿の成長した姿はいずれ見させていただきます」
「ああ!」
これが正解なんてわからない
けれど、これがオレが目指す、なるべき正義の味方
父さんとは違うけどオレはオレだ
ただ後を追ったりその姿になろうとするんじゃなくて自分で見つけなければならなかったんだ