荀緄さんに話をしてから数日、お世話になった人に挨拶をしたり旅の準備が整ってとうとう出立する日が来た
旅立つ時、屋敷の門の前でみんながお見送りをしてくれるために来てくれていた
「皆さん、今日まで本当にお世話になりました」
「正騎さんもどうかお元気で……」
「お料理とても美味しかったしお手伝いもしてくれてこちらもお世話になりました!」
「正騎さん、もし目的が分からなくなったりした時いつでもここに帰ってきていいのですからね。私たちはいつでもあなたを歓迎しますよ」
「ありがとうございます」
みんな本当に良い人達だった
たった数日居させて貰ったとはいえ、ここまで言って貰えるんだからな
「出立前にこれを。お腹が空いたらいつでも食べてくださいね」
「これは……おにぎりですか!」
「はい。正騎さんから教えてもらったものを再現してみました」
これは少し前に荀緄さんに故郷でどんなものを食べていたのか聞かれた際に答えたものだ
いろんな食べ物があったとはいえここで確実に再現できるものはおにぎりとかしかないからな
だからオレはおにぎりって答えたんだ
でもまさかこんな形で出てくるなんてな……
本当に嬉しく思う
「ありがとうございます、大切にいただきますね。……それじゃあオレはそろそろ行きます」
さすがに荀彧は見送りに来なかったか
まぁあの子は男嫌いでオレは荀緄さんたちのご好意に甘えてたわけだから仕方ないか
屋敷に背を向け歩き出した……途端に屋敷からバンッと扉が開く音がした
「……荀彧」
「……何よ」
「いや、君が来てくれるとは思わなかったから」
嬉しい……って言おうとしたら荀彧が早足でこっちに向かってきた
「あんたには助けられたから、本当なら無視したけど仕方なくよ!仕方なく!!」
「それでも来てくれたんだ。嬉しいよ」
もし来てくれてなかったら多分モヤモヤした気持ちで行くことになってたかもしれない
だからどんな理由であれ、来てくれたからスッキリした気持ちで行けそうだ
「どんな旅に出るかなんて私には知ったこっちゃないけれど、賊に襲われて簡単にくたばったりするんじゃないわよ!?」
「あぁ、心配してくれてありがとう。将軍とかとても強い人達には適わないだろうけど、そこら辺の山賊には負ける気はないよ」
「あっそ……それじゃあね!さっさと行っちゃえバカ!」
「ちょっ、痛っ!蹴るなよ!」
バカと言われつつなんか蹴られた
加減をしてないからか結構痛かった
これで荀彧ともお別れ……だけど、この子は曹操の元に行くんだし、いつかまた会えるだろう
「それじゃあ行ってきます!」
オレはみんなに一礼をして、屋敷を後にした
空から落ちた時とは違い、今度は準備万端でのこの世界を歩き出す
荀家の屋敷を出て、時間が経ち今は夜
多少見渡しのいい木々の所で腰掛けて、今夜の野営地を簡単に作った
今は木に寄りかかって、焚き火で温まってるところだ
まだ数時間というところだが、気がついたことはいくつかある
まず、街道や草原は賊がいない……というより、崖や高さがないと見つかるため場所によっては安全性が高い場所が多い
その反面、オレが今いる木が多い場所だと身を隠す場所が多いから賊も潜みやすい
オレも今休む前に数人相手にしておいた
実力差はあったから気絶させておいたし、この周囲には結界を貼った
母さんから教わったもので、今はオレに敵意を持って結界内に入ると、普通の人なら即気絶するほどのショックを与えるというもの
だから今のオレは無防備と見せかけて安全だ
「さてと、そろそろできあがる頃だな。簡易なものだけどお腹を空かせてる方が危険だろう」
料理のレパートリーを増やすために薬草など食べれる物を調べてたら食べれるものとそうじゃない物は見分けが着くようになっていた
それと偶然鹿がいたので、生き延びるために狩りをした
血抜きとかも出来るし、皮も何かしらに使えそうだ
とまぁこの肉と薬草を煮込み、貰っていた調味料で味付けをして、簡易的なスープを作ったんだ
栄養素が偏るかもしれないけど何も口にしないよりはましだからな……
それに出立の時に頂いたおにぎりもあるから今日の夜は満足に過ごせそうだ
「よし、いただきます」
鍋から器によそいで早速食べようと手をつけようとしたら何か気配がする
その気配はこっちに向かってきてて、ただ敵意はないのか結界のラインを超えてきた
「
干将莫耶を手元に出し、いつでも戦えるように警戒
気配が来る方向を見ていると……
「ほう、まさかこのような森の中で美味そうな物を見るとは」
白をベースにした服を着て、長い槍を持っている女性が出てきた
……というか、目のやり場に困る服だな
「これはお主が作った物で?」
「あっ、はい」
「ふむ……」
と、オレが作ったスープをまじまじと見つめてる
もしかしたら食べたいのかな?旅の途中とかってのもありそうだし
「あの、良かったら食べますか?」
「良いのですか?」
「ええ。1人で食べるのも味気ないものですから」
「それはありがたい」
投影しておいた器によそって、女性に渡す
オレは1人で食べるとしても、その鍋とかで食事するとかは無理なタイプだ
だから食器がない場合は木々から作ったりしてることが多い
コーティングとかしてないけど、そこに魔術で膜を作って安全性はちゃんと考えたりもしてる
「ではいただくとしよう」
作るための材料やらがほとんど現地調達したものだから調味料があっても満足したものは作れなかった
なので食べれるかどうか、ちょっと見守っていた
そして一口付け……
「これは……!」
と一言言ったあと、スープを飲む手を止めなかった
どうやら食べられる味ではあったようだな
「少なかったらおかわりもどうぞ。多少多めに作ったので。あとこれは握り飯です」
「そうですか、それでは有難く頂戴致します。路銀が尽きて空腹の時にこの匂いがしたものでしてな。まるで生き返ったかのような気分だ」
「喜んでいただけたようでよかったです。えっと……」
「まだ名乗っていませんでしたな。我が名は趙雲、字名は子龍」
趙雲……趙雲!!??
あの蜀の将の1人で単騎で長坂の戦いで劉備の息子を救出したり、その息子劉禅の時代になっても活躍してた有名な武将じゃないか!!
荀彧の次は趙雲だなんて、オレはどれだけ凄い人物に会ってるんだか
「オレは衛宮正騎です」
「ふむ?変わった名前でおられますな」
「オレはこの国の人じゃないんです。日本……えっと天の国ってなんか占い?だかで騒がれてる所がオレの故郷でして」
「にほん……?確か数日前に同じ地名を言ってた者が……」
「そ、それは本当ですか!」
「聞きなれない地名でしたので。だが会ったのは数日前、今はどこにいるかまではわかりませぬ」
「そうですか……」
つまり趙雲さんが出会ったって言う人がきっともう1人の天の御遣いってやつだろう
会えないのは仕方がないが、結構近い場所にいるってことはわかった。それだけでも大きな情報だ
「占いで騒がれてるということは、正騎殿が天の御遣いの異能を使いし者の方……という認識で?」
「一応、それであっています」
「それはどのような力をお持ちで?」
「魔術……って言ってもわからないか。1番使ってるものと言えば武器を複製することです────
目の前で干将莫耶を投影して、趙雲さんに渡した
魔術は人に見せるものじゃないが、ここは千年以上前の世界だ
魔術を見せたところでどうにかなるってことは無いだろう
「重さも見た感じも確かに武器だ。だがこれが複製物とは思えませぬな」
「1度手にしてみれば武器だったら複製できますよ。例えばその槍とかも」
「それは面白い、では我が龍牙を複製してみせてくだされ」
オレは趙雲さんの槍、龍牙を受け取る
普通なら自身の武器など渡さないだろうけどまあこの人ぐらいのレベルだとオレとの差がわかるんだろう
「
──基本骨子、解明
──構成材質、解明
これが後に名を残す将が使う武器、オレが触ってきた武器とは作りやその経験がまるで違う
「ありがとうございます、それじゃあ……──
本物の龍牙と寸分も違わない贋作物を投影してみせ、趙雲さんに渡した
本物を触り、解析も済んだものだから作りやすい
「確かに異能だが面白い能力だ。この槍を使ってる違和感を感じない」
「わかって頂けたなら良かったです」
「それに衛宮殿も随分と面白いお方だ、料理はできてこのような力を持っていらっしゃる」
「料理は好きでやってることですから。魔術に関しては生まれがそうだったので運……ですかね」
「……衛宮殿、お主はまだ旅を続けられますかな?」
「オレはまだ旅立って少ししか経ってないので、当分はこのようにしているつもりです」
「でしたら、私もその旅について行ってもよろしいでしょうか?貴方という人に興味がわきましてな」
オレが思ってる趙雲という人物は、勇者のように勇敢で強く、主の忠誠を尽くすような人物だったんだけどこの世界の趙雲さんはなんか変わってる人……みたいだな
でも実力はオレの世界での趙雲と同じで本物なんだろう
それを学ばせてもらう機会にも繋がるし、断る理由もないしな
「構いませんよ。一人旅って決めてるわけではないので」
「ではこれからよろしくお願い致します。腕には覚えがありますので、身の回りは安心してくだされ」
魏の荀彧に会った次は蜀の趙雲
まさか三国志の世界に降りたってこんなことになるなんてな
さて、1人だから適当に済ませたけど明日からは料理も本気だしていかないとな