SPはウルトラマン   作:グレイソン

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SPはウルトラマン

 殺人鬼に追われる……と言う経験は、人生においてそう多くはない筈だ。

 いやぁ、絶対に無いとは言えないが、しかし特別な環境に身を置いている訳でもなく、平穏な日常生活を極普通に過ごしているのであれば、遭遇する可能性はとてつもなく低くなるだろう?

 そう考えると、私は今、貴重な経験をしていると言えなくもない。なんせ、その滅多に無い出来事と言う奴がこの身に起きているのだから。

 花の十六歳、女子高生一年目の春。年始めの交通事故で両親を失い、天涯孤独となり、一人暮らしには広すぎる家で孤独な新年度を過ごしていた夜に……まさかそんなタイミングで、人生二度目の命の危機が降り掛かってきて、しかももうすぐ真後ろまで迫っているとは、一体全体誰が予想したろうか。取り敢えず、私はしていない。

 振り返ると、二メートル程の長身に隆々とした筋肉を備えた色黒の男が、私を捕らえようと走って来ているのが見える。黒ずくめのスーツにサングラス、短く刈り揃えられた没個性的な髪と言った出で立ちは、清潔感を通り越して怪しさや怖さしか醸し出していない。筋肉量が故にか、足はその巨躯に似合わず異様に素早く、気を抜くとすぐにでも追い付かれてしまいそうだ。自分で言うのもなんだが、私は小柄ながらに運動神経が抜群で、中学時代は陸上の大会でぶっちぎりの優勝経験もあって、走るくらいなら大の大人にも引けを取らない。それを追い込んでくるだなんて、とても信じられない。

 ひぃっ、と我ながら情けなく、あとついでにやたらめったらぶりっ子でもしているような少女っぽい悲鳴を上げそうになるのを堪えながら、前を向いて足を動かす。だが中々に振り切れない。当たり前か、向こうだって必死なんだろうから。

 あー、ちくしょう、靴紐もっとキツく縛っておけば良かった。足元に目を落として思う。紐のほどけかけたスニーカーは本当に走りづらくて仕方ない。脱げそうで脱げない辺り最悪だ。これくらいなら一層の事履かないでおくか、もしくはアウトドア用のブーツみたいな、もっとマシな奴を選ぶべきだったのかも知れない。

 でも、そんな暇なんて無かったっけと思い返した。

 なんせいきなり窓と壁をぶち破る突撃と共に襲われたもんだから、本能的に玄関へ逃れた勢いのまま、咄嗟に手近にある靴を引っ付かんで飛び出さざるを得なかったのだ。いや、そうなれば、あの状況下で掴んだのがスニーカーであるだけマシと考えるべきか。ヒールとかサンダルとかローファーだったら笑えない。

 そう言えば、無惨にも大穴を開けられてしまった我が家二階の西側にある私の部屋はどうなるのだろうか。祖父母や親戚の類も居らず、両親が死んでしまった今では、家主は私になっている訳だし、ブッ壊れた理由は事故とか火事とか災害でも無い訳だし、やはり修理費は私持ちになるのだろうか。それとセキュリティレベルが紙屑以下になっている今、空き巣や不埒な輩が立ち入ったりしないだろうか。現金や金目の物は言わずもがな、服とか家具も盗まれれば腹立たしいし、何より悲しい。あと、変態どもに下着なんて漁られた日にゃあたまったもんじゃない。そんな事ある訳ないと思いたいが、いやコレがマジで有り得るから怖い。火事場泥棒って言葉があるくらいなんだからヤラれかねないのよ……まぁ火事場じゃないんだけど。

 命の危機だけでなく、財布と精神衛生的な危機も含んでよぎる不安に思考を巡らせていると、私はいつの間にやら街中を抜けて、沿岸の倉庫が立ち並ぶ区画に踏み込んでいた。

 いや、私は途轍もなくバカな女だな。人影は少ない……と言うか、最早全くもって無い。何故街中にいる間に誰かに助けを求めなかったのだろう。奴さんだって流石にパニックを起こすのは避けたいのか、凶器の類も一切持ち出さず、怒鳴り声一つ上げず、律儀に追い掛けて捕らえる事に専念していてくれたのだから、交番なりそこらの人なりに縋り付く余地くらいあったかも知れないのだ。……いや、まぁ、助けてくれるかは別だろうし、巻き込まれたほうってのはたまったもんじゃないだろうけど。

 全く、アホのグズめが、だからお前はスタースクリームなのだ、うっせぇメガトロンの野郎め、俺こそデストロンのニューリーダーだ、失せろ……などと呆れを抱いていると、ふと違和感を抱いた。

 あれ? 後ろの気配が無くなった……?

 ひりつくように殺気立ったあの感覚が、今は無い。振り返ると、先程まで追走していた大男の姿は見当たらず、ただジットリとした粘つく海風が吹き抜けるだけだった。足を止めて辺りを見回すも、どこにも影も形もない。

 撒いたのかとか、諦めたのかとは思いたいが思わない。どう考えてもおかしい話だからだ。こんな誰にも邪魔されない絶好の場所に辿り着いていながら、どうして諦める必要があるよと。諦めの悪い小娘の私とあれ程の激しい追走劇を繰り広げて、ようやく追い詰めたようなものなのだ。それをみすみす逃すなんて、それこそアホのグズの所業だろう。姿を消すにはきっとそれなりの必要性があっての事の筈だ。

 備えておこう。そう思って私は息を整え、草臥れたスニーカーの紐を結び直してから、再び走り出さんと前を見上げ……

「あぁ、納得」と、間の抜けた声を漏らした。

 ズシン、と言う音と共に、眼前に大男が落着したのだ。

 なるほど、私を飛び越して前に回り込むつもりだったのか。どれだけ馬鹿げた跳躍力をしているのか、人間技とは到底思えないが、果たしてその企みは上手く行ったようだ。出鼻を挫かれた挙げ句に間合いは完全に大男のものである。そして私と来たら唖然とした挙げ句に尻もちまでついてしまったもんで、体勢を立て直して踵を返すタイミングを尽く逃してしまっていた。今ではもうそんな隙など微塵も見当たらない程に、全身に鋭い視線が突き刺さってくる。

「あー……あの、往生際悪く聞くけど、私、あなたに何かしたかしら? 自分で言うのもなんだけど、私はつい最近天涯孤独になったばかりの、ただのか弱い女子高生(一年目)なんだけど」

 私は徐々に徐々にと後退りながら、仁王立ちする大男へと尋ねた。悪足掻きにも似た時間稼ぎだが、何もしないよりはマシだろう。この僅かな時間に何か新たな策を思い付くかも知れない。或いは、誰か救いの手が差し伸べられるかも知れない。まぁ……何も無いって事もあるかも知れないけど。

 男は無表情なまま私を見下ろしていたが、数度自分の喉を弄くると、奇っ怪な声色で口を開いた。

「何もしてないが、見ている。俺達がやった事を」

「えぇー? 見たって、何を? 生憎と覚えてないから、是非とも教えてくれると助かるかなーって」

「忘れていようが関係ない。むしろ、思い出される前に殺せるのならば、なお都合がいい話だ」

「あー、そりゃあまぁ……ごもっともね」

「どうやらこの場所なら規定に反しないようだ。礼を言おう」

 大男は懐から不思議な形の道具を取り出すと、その切っ先を私に向けた。何処と無く安物のオモチャの光線銃に見えるそれだが、先端に火花を散らす小さな光を灯し、低く重い唸り声のような駆動音を鳴らしている辺り、中身は安物では無さそうだ。そして、もしかしなくとも本物だろう。

「ようやくこれを使って処理出来る」

「あなた、宇宙人だったのね」

「地球人から見ればその通り」

「いや、宇宙人の計画を目撃したなんて、ホントに全く覚えがないんだけど……」

 参ったとしか言いようがない。これでは隙をついて逃げようが抵抗しようが、撃たれるのが落ちだ。そもそも運動が得意とは言え、大の男を伸してしまえる程に力強くは無いし、弾を避けられる程速くもない。……後、多分あれ光線銃だし、光より速く動ける訳無いし、正直マジもう無理でお手上げかなーって。

 手足が震えてきて、次第に痺れるような感覚に陥って、力が入らなくなってくる。あぁ、やっぱり今マジで怖いんだなぁ、と自覚が湧いてきた。怖いと感じるだけ、まだまともな感性とか心とか残ってたんだな……ってこのタイミングで感慨深くなる辺り、どこかしらちょっとおかしくなってるんだろうけど。

「あ、あー……えっと……」

「それでは、さようなら……地球での別れはこれで合っているか?」

「……そ、そうね、それでいいわ……正解」

 言葉を紡ぐより溜め息が口から漏れる。宇宙人の男が引き金に指を掛け、光線銃の唸りが高まった時、

――ジッとしてて。

 誰かの声が聞こえた気がした。

 いやいや、ジッとしてろも何も、そもそもこんな状況下で動ける筈も無いだろうに、何を頓珍漢な事を抜かすのだろうか。妄想や幻聴の類なら真面目に素っ頓狂過ぎるが、パニックを起こしているが故なのだろうか。

 そう思っている内に……いや、それよりも早く、目映い光が宇宙人の男の巨躯を弾き飛ばした。

「な、なんだ……ッ!」

「えーっと……さぁ? なんでしょうね……?」

 コンクリートの地面に叩き付けられて破片を撒き散らす大男に、思わずそう答えてしまったが、今は悠長に受け答えをしている場合では無い事に気が付き、私は全身の力を振り絞るように立ち上がった。震えるしふらつくし、先程までのスピードで走れる自信は無いが、四の五の言っていられない。踵を返して駆け出そうとし、

「うん、動かないでいてくれて助かったよ」

 背後から歩み寄って来た青年と正面から対峙する形になった。

「え? あ、っと……そんな事言うって事は、あの声はもしかして?」

「あぁ、うん。僕だよ」

 黒と茶色を基調にした、どことなく異国の伝統衣装めいた服を纏った彼は、あっけらかんとにこやかに言った。それから掌を、起き上がり掛けた大男に向けて翳すと、まるでちょいと小突くかのように光の弾を撃ち出して、再び地面に縫い付けた。またもや地面が派手に罅割れた挙げ句に、今度は爆煙にも似た粉塵が立ち込めて、その向こうからうめき声が漏れ聞こえてくる。

「君の出番はまだだよ、焦らない」と、青年は煙の向こうに向けて、明るく穏やかに言った。「慌てなくとも相手はしたげるからね」

「いやぁ、あなた……これは恨まれても文句言えないわね」

「大丈夫、彼みたいな連中に恨みを買うのはもう慣れてるし。後、文句を言えなくなるのは彼のほうだね。なんせ、この先二度と口も目も開けなくなる訳だからさ」

 ……いや、爽やかに何とんでもない事口走ってんだろう、この人。少し、違う恐怖に身が震える。

「えっと……私、もしかして危ない人に助けてもらったのかしら? それとも、助けてくれたと思ったのは勘違い?」

「いや、僕は助けたつもりなんだけどなぁ」

 青年はまぁいいかと笑うと、私と大男の間に割り込むように立った。

「少し眩しくなるだろうから、目を閉じてて?」

 上衣の懐から取り出した、ペンやライトにしては太い銀色のスティックを掲げ、彼は悠々と言ってのけた。何をやらかすのか気になった私はそれに従わず、ジッと見詰めていたのだが、彼の握るアイテムの先端が強い閃光を放つと、思わず目を背けながら若干後悔した。それは間違いなくフラッシュライトだったのだが、光量と放たれる方向が異様だったのだ。辺りは街頭も少なく暗闇の広がる世界で、そこに突然、一帯全てを照らし尽くさんと言わんばかりの、百万ワットの輝きが走るとなれば、少なくとも寝起き直後に電灯を直視する以上には眩しい。

 光の跡が焼き付いたままの視界で彼を見やると、一瞬状況が把握出来ずに、「は?」だの「へ?」だのと言った間の抜けた声を上げてしまった。しかし事実は明確に目の前に存在しているので、その後は自分でも驚く程に早く理解出来た。

「ウルトラマン……?」

 先程まで青年の居た場所に立つその銀色の超人は、体格こそ二メートル程の身長に収まっているが、確かにかつて地球を何度も危機から救ってくれた、あの光の巨人達に酷似した姿をしていたのだ。

「う、ウルトラ戦士だと……! もう宇宙警備隊が出張ってきていたのか……!」

 大男が慌てふためいた様子で立ち上がり、おののき後退った。そんな大男に、ウルトラマンの眼光が照射される。すると刹那の内に擬態していた人間の体を打ち破り、中から本来の、攻撃的な昆虫のような姿が現れた。敵の偽装を打ち破り、正体を露にすると言う超人的能力を使う辺り、どうやらこの小さな巨人はホログラムだの演技だのハッタリだのではなく、本物のようである。

 昆虫型宇宙人は狼狽えた後、落ち着き無く銃を構えながらギチギチと顎を鳴らし、目を光らせている。片やウルトラマンは、無言で胸を張りながら立っている。彼らは少しの間、そうしてお互いを見やって動かないでいた。どうやら二人の宇宙人の間で、地球人には理解しきれないテレパシーだかなんだかの方法での交信をしているようである。だが、ウルトラマンのほうはエネルギーが地球上では急激に消耗するのであれば、早い所ケリをつけるべきじゃないだろうか。

 そう考えている内に宇宙人同士の会話は終わり、二人は一斉に身構えた。

――そのまま動かずに、僕の後ろに居て。

 物陰に避難しようとした私に向けて、彼は振り向きもせずに言った……と言うか、脳裏に思念を直接伝えてきた。後頭部に目が付いている訳でもないのによく分かるものだ。流石はウルトラマンと言った所か。

 え、マジすか? と戸惑っていると、再び続けて声が頭の中に響く。

――マジっす。それが一番安全だからね。

 マジすかぁ、あと勝手に思考も聞かれちゃうのかぁ、とか思いながらも、走り出すのをやめて仕方なくその場に立っていると、昆虫型宇宙人が銃から雷鳴のような音と共にビームを放ったのが分かった。ウルトラマンは微動だにせず、吐息を吐きながら、分厚い胸板でそれを受け止める。稲妻のような光が弾け、その眩さに私がまたも呻いていると、突然電撃の走る音が止んだ。見やると、ウルトラマンが短い呼気を吐き出すと共に、稲妻光線を片手で振り払った所だった。夜空の果てに稲妻が散って行き、消える。……いや、でもアレって流れ弾とか大丈夫なんかな? 仮にも光線銃のエネルギーでしょ? マズいんじゃ……?

――大丈夫。アレだけ拡散しちゃったら、もう威力残ってないから。

 と、彼が答える。まぁ、それなら安心か。

 と言うか、全く凄いものだ。あれだけの激しい光波熱線を受けて尚、無傷でいるとは。人間が浴びれば一瞬で黒焦げになるだろうに。その余りの頑強さに、少し、いや、かなり羨ましくなる。でもこれ地球人にとっては上位者的能力でも、彼らにとっちゃデフォなんでしょ? ちくしょう、これだから宇宙って奴はよぉ。

 昆虫型宇宙人が激しく動揺した声と音を上げた。

 対峙するウルトラマンはフンと小さな吐息を漏らしただけで、あとは無言を貫いた。

 暫くの様子見の後、やがて彼らはほぼ同時のタイミングに光線を撃ち放った。まぁ、光線銃のか細いビームと、十字を組んで狙いを定めた激流の如きスペシウム光線では、どちらに軍配が上がるのは目に見えていたが。

 光線を押し返された挙げ句に必殺技の贈り物を土手っ腹にブチ込まれて、昆虫型宇宙人は悲鳴を上げていた。そして時間にしてほんの一秒の間の後、その体は赤熱化すると共に膨れ上がり、地球上の生物にはありえないようなカラフルな肉の欠片が辺りに降り注いだ。

 ……随分と呆気ない幕切れである。あれだけしつこく私を追い回しておきながら、そんなオチでいいのか。いや、こちらとしては助かるからいいんだけど。

――さて、少しばかり話をしようか。

 ウルトラマンが振り返り、二つの綺麗な白い瞳で私を見る。傷一つ無い銀色の肉体が美しく煌めいていて、胸のカラータイマーは青のまま鮮やかに輝いていた。正しく光の戦士と言う姿と立ち振る舞いからは、余りにも圧倒的な余裕すら感じる。ぶっちゃけもう超然としすぎていて、別の恐怖を抱いてしまっていた。

「あー、えっと……」私は茫然としていた意識をようやっと引き戻して口を開き、上手く回らない舌を働かせて言った。「……あの人、丁寧にさよなら言って逝ったのね」

 そんな言葉が飛び出るくらいには、まるで引き立て役のようだった昆虫型宇宙人が哀れに思えてしまっていたのだ。

 

「うーわ、本当に派手にブッ壊されてるね」などと空気も考えずに彼が言った。

 まるで他人事のようだ。……いや、実際他人事なんだけど。でもちょっとは私の心を考えてほしい。それもウルトラマンなんだからさぁ。

 私はウルトラマンだった青年を連れて、二階の壁に大穴を開けたままの自宅に戻っていた。今居るのはちょうどその派手に粉砕された壁のある私の部屋だ。彼の要望でここに来たのだが、確かに私も気掛かりではあったので、ある意味助かった。

「宇宙人に襲われたって言ったら怪獣災害保険でなんとかならないかしら」

「あぁ、心配しなくてもいいよ、保険を下ろすまでもない。宇宙警備隊が修復をさせてもらうから」

 え、マジで? 宇宙警備隊ってそんな事までやってくれんの?

 ちょっと意外な気持ちになったが、いやよくよく考えてみたら歴代ウルトラ戦士も、時間無いんだから戦い終わってさっさと帰ればいい所を、わざわざビル火災とかコンビナート炎上とか消したりしたっけ。ホントにありがとうと感じると共に、それの延長線上で補償とかする部門があってもおかしくないのかもと納得していた。

「それは助かるわね。ついでに何かオマケを付けてくれると嬉しいんだけど」

「そうだなぁ、カプセル怪獣でも付けようか? ペットにも仲間にも護身用にも最適だよ。デカイけど」

「大体予想付くから聞く必要あんまり無いんだけど、一応聞くわ。……何mくらいかしら?」

「最低で四十mかな」

「正にオマケが本体って奴ね。そんなのどっかのキャラメルで充分だわ」

「四十mのオマケが付いてくるキャラメルがあるの?」

「いや、違うわよ、そっちじゃなくて」

 意外と地球の事知らないんだなぁと呆れて笑っていると、突然、先程まで吹き込んでいた冷たい風が全く感じられなくなった。見ると、壊れた壁は元通り直っていて、破片が散らかり放題だった部屋も綺麗さっぱりと片付いていた。

「おぉ、流石処理係、仕事が早いなぁ」とウルトラマンだった彼が笑いながら言う。

「い、いつの間に……」

「今さっき、一ミリ秒で済ませていったよ」

「えーっと……まぁ、赤射なのか焼結なのかは知らないけど」

 早いだけで手抜きであっては堪らないが、壁を叩いた感じ元通りであった為、問題はなさそうである。破片で破けたお気に入りのぬいぐるみも、新品同様に完全修復されている。ただ、長年の汚れはとってくれなかったようだが。ケチ臭いなぁ光の国。

「さて、本題に入ろうか」

 疲れのままにベッドに腰掛ける、対面に立ったウルトラマンの青年が言った。随分と横道に逸れた気がしたが、まぁ戻ってこれたので良しとしよう。

「君は今、狙われている」

「地球じゃなくて?」

「厳密に言えば地球だけど、目下の標的は君」

「えらくピンポイントなのね」

 最早苦笑せざるを得ない。

「原因は、君が彼らの侵略計画の一端を目撃してしまったかららしい」

「それ、さっきの虫っぽい人も言ってたわね。身に覚えがないこちらとしては、困る以外に術が無いんだけど」

「君の事情がどうあれ、彼らには関係無いさ」

「まぁ、本人もそう言ってたしね」

「その為、いつ何時襲われて殺されるかも分からない。そこで僕が、四六時中付きっきりの護衛役として、宇宙警備隊から派遣されたんだ」

「なるほど、さしずめSPはウルトラマン、って事かしら。……少女漫画にしたら受けるんじゃない?」

 流石に無理だろうか。どう考えても少女が手に取る光景を想像出来ない。いや、多様性がどうのこうのと喧しくなった今なら趣味を隠さなくて良くなって来てる訳だから、ワンチャンスあるかも……無いかな?

「なので、しばらくお邪魔する事になるよ」

「どこに?」

「ここに」

「……は?」ちょっとだけ間が空いてから、私はウルトラマンの青年に返した。「泊り込む気?」

「うん。言ったろう? 四六時中付きっきりの護衛、って」

 言ってたっけ……? 聞き逃しただけかな……? 首を傾げながらまた問い掛ける。

「それ、いつまでなの?」

「さぁ、分かんない。敵の計画が阻止できるまでかな」

「って事は、何? それまで一緒に住む気なの?」

「まぁ、そうなるよね」

「馬鹿言ってんじゃないわよ、このオトボケマン。あなたにどう見えようが私は女なのよ?」

「大丈夫、僕にもちゃんと可愛い女の子に見えてるよ」

 そう言った時の笑顔とサムズアップからは、何故だか妙な自信が溢れ出ているように感じられる。確かに私は身体能力だけでなく、容姿も自他共に認める程優れているが、いざこうして面と向かって言われると、こそばゆい気持ちになると言うか……ぶっちゃけめっちゃ恥ずかしい。

「かっ……可愛いかどうかは、知らないけど……!」顔が真っ赤にならないように努めながら、私は彼に言い返した。「私は自分の家に見知らぬ男を泊めるだなんてふしだらな真似はしたくないのよ。これでも周りにゃ品行方正で通ってんだからね。その評判落としたくないし」

 そう、一応これでも学校では真面目で成績優秀な優等生でもあるのだ。いや、性格はこんななんだけど。知らぬが花って奴もあるだろうし。

「え、でも参ったなぁ。それじゃあどうやって守れば良いんだろう……」

 いや、宇宙からでも見張ってればいいじゃない、ウルトラマンなんだし。そう言おうと思って口を開いたが、それより早く彼が言葉を紡ぐ。

「さっき一度、超高高度爆撃を防いだばかりだから、心配で……」

「……はい?」何か聞き捨てならない単語が出た気がする。「ちょうこうこうど、ばくげき?」

「あぁ、うん。付近一帯を消し飛ばす程の光波熱線による奴をね。君が追い掛けられる直前に降ってきたんだけど、僕が接触しようと近くまで来てたから、バリアで消滅させるのが間に合ったんだよね。だから向こうも直接手を下しに現れたんだろうけど」

「それって宇宙で待機してたりしたら、間に合ったりは……?」

「しないね。絶対無理。事前に発射の兆候を察知してない限りは、命削ってテレポートしてもギリギリ守れるかどうかって感じだし、バリア張る暇も無くて体で受け止めなきゃならないから、多分僕も半死半生になると思う。その後敵の本隊が来て一帯丸ごと焼き払っておしまいじゃないかな?」

「ちょ、ちょっ、待って……わ、笑っちゃいけないんでしょうけど……もう笑うしかないわね……」

 顔がひきつるのが止められない。

「こんな事ばかりが続くと思うから、出来るだけ一緒に居た方が良いと思うんだ」

「あ、あぁ……そりゃごもっともで」

 呆然と開いた口から溜め息が漏れ出た。命の危機と評判を天秤に掛ける奴はそうはいない。

「悪いけど、客人用の布団なんて無いから、ソファで寝てもらうわ」

「それは構わないよ。もっと酷い環境で眠った事もあるし……何より、君を守る為だからね」

 キザったらしい台詞吐いちゃってまぁ……真顔で言えるのは真面目な性格だからなのか。とにかく、最近の地球人男子にはいないような好青年なのだろう、このウルトラマンは。擬態に失敗しているとも言えなくもない。

「……後、変な事しようとしたら、容赦無くカラータイマー引っこ抜くから」

「それ死んじゃうんだけどな、僕。そもそも守りに来たのに、君の意思を無視したり、傷付けたりするような真似はしないよ」

「へぇ? 変な事って言ってソッチの話が理解出来るくらいには、地球の知識はあるのね?」

「えッ? あぁ、うん……」

 言い淀む青年。まぁ宇宙人でも地球人でも、男であるなら当然なのだろう。余りからかってやるのも可哀想だ。

「取り合えず、この事件が片付くまではよろしく」

「あぁ、絶対に守ってみせるよ」

 立ち上がり、手を差し出すと、彼もまた強く握り返した。

「それで……」

「なんだい?」

「あなた、名前は?」

「一番最初にすべき事を忘れていたね」

 やっぱオトボケマンな気がする。大丈夫かな、このウルトラマン?

 

 

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