Illigal The Lilybell   作:Lycka

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#01:Nostalgic escape

 

 

 

 

 

 

~ポイントS1~

 

 

 

 

 

 

「......着いたぞ」

 

『確認した。入ってきて良いぞ』

 

 

 

依頼主である最強ハッカーことウォールナット指定の場所へ赴き、それをウォールナットが確認しようやく腰を落ち着けられそうな部屋へと案内される御天。しかしながら本人かと思われるウォールナットと対面して開口一番、疑いの声色で問いかけをする。

 

 

 

「それは趣味か?」

 

『変装だ。ハッカーなんて身バレしたら最後、すぐに殺されてしまうからな』

 

「よりにもよって狸のぬいぐるみとはな」

 

『リスだ。馬鹿にしてるのか』

 

 

 

目の前に現れたのは大きなリスのぬいぐるみ。御天とてウォールナット程でないにしても、取引相手については事前に調べがついており、このぬいぐるみのことも頭の中には入っていた。しかしながら、やはり実際に会ってみるとかなりの違和感を覚えた御天であった。

 

 

 

そして、今回の依頼はウォールナットから発言された内容と関係深いものであり、所謂"護衛任務"という御天にはお得意のものでもある。最強のハッカーであるウォールナットによると、どうやら最近辺りを嗅ぎ回っている連中がいるらしく、現在二人が腰を落ち着けているこのセーフハウスも特定されている危険性があるとのこと。そういった事情を踏まえて、安全な別の場所へと移動し避難するという計画の一端を御天は担がされてしまった。

 

 

 

「そんで、もう準備は出来てるのか?」

 

『こちらは既に完了している。お前の方こそ、護衛を依頼したのに丸腰で挑むつもりか?』

 

「あぁ、悪い悪い。これで十分か?何なら試し打ちしても良いが」カチャ

 

『ぶ、武器があるなら問題は無い。というより、その銃は一体どこから取り出したんだ......』

 

「他にもあるが......見るか?」

 

 

 

その御天の問いに対し、重そうなぬいぐるみの首を全力で横に振ったウォールナット。御天は残念そうな顔を浮かべながら取り出した拳銃を懐に収める。それを確認したウォールナットは安堵したかの様に肩の力が抜ける。しかしながら、そう長い時間腰を落ち着ける暇もなく二人の耳に少し甲高い警報音が届く。

 

 

 

「一応聞いとくけど、風呂が沸いたりとか飯が炊けたってわけじゃないよな」

 

『悪いがもてなしの準備の時間までは取れなかった。これは外敵が接近していることを告げる警報だ』

 

「数は?」

 

『......見える範囲で2人。だけど──』

 

「別働隊であと数人は動いてると思った方が良いな。それで、あとは手筈通りにいくのか?」

 

 

 

先程の御天の問いとは反対に、今度は首を縦に振りそれを見た御天は肯定と判断し徐に腰の辺りに手を伸ばす。

 

 

 

「さっきも聞いたが、もうこのセーフハウスは使わないんだよな?」

 

『あぁ、少し惜しいが仕方ない』

 

「了解だ。言質は取ったから、後でグチグチ文句言うなよ」

 

『文句?お、おいお前、まさかこの部屋ごと──!?』

 

 

 

ウォールナットが御天に飛びついて真意を聞こうと迫ろうとするが、対する御天から左手で"静かに"の合図を出されて咄嗟に口を塞ぐ。正確に言えば、ぬいぐるみの口の部分を手で抑えているだけの状況だが、次の瞬間に起こった出来事を見てウォールナットは唖然とした様子で手を脱力させてしまった。

 

 

パスンッ!パスンッ!

 

 

「うぐっ!!」

 

「があぁぁ!?」

 

 

 

流れるように右手で先程とは違う種類の銃を取り出し、ノールックで玄関の方へと二発打ち込んだ御天。こんな夜中に大きな銃声を出すわけにもいかず、銃身の先にはサイレンサーがつけてあった。サイレンサーとは、簡潔に言えば遮音性を高めて発砲時の閃光を抑える効果のある筒状の、言わばアタッチメントのようなものである。

 

 

 

しかし、何故御天が違う銃を持っているのかやこの様な事態に備えてサイレンサーを付けているのか......という点はこの際驚くべきところではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点である。数秒の間、この理由と原理が理解出来ずにウォールナットは放心状態だった。

 

 

 

「おい、何をぼけっとしてるんだ。ここから逃げるんだろ?」

 

『あ、あぁ勿論だ。だが、何故確認もせずに当てられたのか気になってな』

 

「ん?そりゃぁ、長年の勘ってやつだよ」

 

『......殺してないのか』

 

「寝る前は夢見が悪くなるから殺さない事にしてる。アンタの依頼なら、別にそうしてやっても──」

 

『いや、まずはここを離れるのが先決だ』

 

 

 

二人が会話を続ける中、玄関の扉が開き御天の撃った弾丸が命中したと思しき人間が二人倒れ込んでくる。その二人の太腿からは血が流れており、今も苦しそうに唸り声を出している。

 

 

「......誰からの依頼だ?」

 

「くっそぉ......お前なんかに教えるかよっ!」

 

「静かにしてくれ。仲間はあと何人いる?」

 

「あぁぁ!いってぇぇ!!」

 

「はぁ......やっぱこっちを使うべきじゃなかったか」

 

 

 

ダメ元で聞いてみたは良いものの、一人は口を割ろうとせず、もう一人に至っては未だに痛みと戦っている様子。しかしながら、これだけのやり取りでも得られる情報は多かったと感じた御天は、念の為に二人の手足を拘束してから止血作業を行った。

 

 

 

先程のやり取りで分かった事はいくつかあるが、一番重要なのは御天(じぶん)の事を知らないということである。襲ってきた二人や他の仲間に教えていないだけという可能性もあり得るが、自分の事を知っている人間であればその判断をする事はないであろうと思い、あまり派手に動く事は出来ないという事実に辿り着く。

 

 

 

「荷物はそれだけか?」

 

『セーフハウスには必要最低限の物しか無い』

 

「こっちとしても助かる。それじゃ荷物持って、外で待っててくれ」

 

『いや、外に敵が来るかも知れないだろ?』

 

「大丈夫だ、来たらすぐに分かる。それとも、大事そうに抱えてる荷物諸共木っ端微塵になりたいか?』

 

『外で大人しく待ってる』

 

 

 

 

恐る恐る外へ出て周りを確認するウォールナット。途中で手足と口を拘束されている敵二人に睨まれたが、御天の言葉を思い出してそそくさとその場を後にする。

 

 

 

数分後、特に変化の見られない様子で部屋から出てきた御天に疑問を抱きつつ、予定通り移動先へと向かい始めた二人であった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

月明かりが夜道を綺麗に照らし、涼しげな風が吹き草花が波のように揺れる絵画の様な印象を受ける中、一方では大きなリスが肩を揺らしながら息をあげて歩いていた。仕方ないと途中で諦めた御天も、今は同じペースで周りを警戒しつつ護衛任務を続行している。

 

 

 

「運動不足だな」

 

『う、うるさいな。僕の担当は......銃弾飛び交う戦場じゃなくて、情報戦なんだ』

 

「そんなの前から知ってる」

 

『だったら......聞かないでくれ』ハァ

 

 

 

揶揄う様に言葉を投げ掛ける御天だが、周りの警戒を怠った瞬間は一切無い。ウォールナットが気付いていないところへも気を配り、待ち伏せや死角からの襲撃を未然に防いできた。

 

 

例えば、様々な物陰からの狙撃に対しては護衛対象兼狙撃対象であるウォールナットを安全な場所で待機させ、御天一人で敵に気付かれることなく近付き戦闘不能にする。空からの監視又は追跡に関しては、サイレンサー付きの拳銃に持ち替えて一機、また一機と撃ち落としていった。

 

 

 

「よし、もうすぐ到着するぞ」

 

『やっとか......』

 

「そのまま行くのも危険だ。ここは俺の案で良いか?」

 

『命には代えられないが......お前が、果たして約束を守るのかどうか』

 

「守るも何も、最初から殺害目的なら会った瞬間撃ってるよ。護衛とか回りくどい事はしてない」

 

 

 

それに依頼には逆らえないしな、と笑いながら不満げに首を傾げる御天。それでも、最初にもウォールナットから言われた通りハッカーにとって身元が割れるということは、即ちハッカーとしても一人の人間としても"死"を意味する事に他ならない。

 

 

未だに煮え切らない態度を取るウォールナットを見兼ねた御天は、これなら良いかとある物を取り出して見せた。

 

 

 

「これで満足か?」

 

『......成程。正直、調べても調べても正体が掴めない人物で怪しいとは思ったが──』

 

「これでお互いの秘密は共有出来たな。調べてたって事は、少なくとも何かしら興味があったんだろうけど」

 

『あぁ、更に興味が湧いてきたよ。交渉は成立だ』

 

 

 

そう言って握手を交わした二人。そして、残る敵の追手を避ける為の御天の案を実行する準備へと取り掛かる。

 

 

 

「......なんだよ、何か言いたい事でもあるのか」

 

「いや、少しだけ懐かしい気分になってた」

 

「懐かしい?僕とお前は初対面の筈だが」

 

「そうだな。......っと、それじゃ達者でな」

 

 

 

"今度はゆっくり話せると良いな"と最後に伝える御天に対し、ウォールナットは"次はお茶くらいなら出してやるぞ"と笑みを浮かべながら去っていく。その背中が見えなくなるまで数秒間、先程と同じく懐かしい思い出に浸った御天。

 

 

 

ふと気付き、携帯を取り出して確認するとメールが一通届いており差出人表示欄には"先生"の二文字。丁度、自分がリコリコを出た時間帯であり、いつもながら自分を嗜める内容だろうと予想していたが、いざ開いて見るとそこには違った内容が書かれていた。

 

 

「......よし、最後の一仕事するか」

 

 

 

携帯を懐へ仕舞い込み、自分へと言い聞かせる様に言葉を放つ。先程とは打って変わって少し動き辛いが、御天にとっては然程問題にはならなかった。もう一度、深呼吸をしてから、ウォールナットと別れを告げた場所から勢いよく飛び出した御天。

 

 

 

その夜、リスの大きなぬいぐるみが夜な夜な街を徘徊していたという噂が立ち、後日それを聞いた御天は三度懐かしげな表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

~御天&千束の家~

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

「......ん?」

 

 

 

数あるセーフハウスの一つ、その部屋の中のソファに寝そべっていた千束は扉が開く音が聞こえ、すぐ側に置いてあった銃を持って足音を消してゆっくりと音の鳴る方向へと進む。

 

 

しかし、もう一度扉の開く音を聞いた後に銃を持つ手を下ろして一つ溜息を吐く。緊張感の抜けた表情になった千束は、次にやれやれといった感じを醸しつつも若干怒った口振りで侵入者へと問いかけた。

 

 

 

「何か言う事は無い?」

 

「......ただいま?」

 

「うん、お帰り。......じゃなくて!!」

 

「夜も遅いから静かにな」

 

 

 

セーフハウスとしての機能で二層構造になっており、上は何も物が無くいつもの侵入者であればそこで立ち止まるはず。しかし、御天が帰ってきたとなれば話は別で、本当の居場所である下の階層へ来るのも納得がいく。

 

 

 

「何で私に話してくれないの」

 

「悪かったって。今度は出来る限り話すように努力するから」

 

「それ聞いたの何回目なのかなぁ?」グリグリ

 

「ちょ、汗臭いから今は近寄んな」

 

 

 

御天の脇腹へと銃身を押し付け近付く千束。それに対して、御天は先程まで敵を撒きつつこのセーフハウスへと帰還する為に、走り回ったお陰で全身汗だくで気持ち悪かった。そんな状態で女の子に近付かれて嬉しい人は居ないだろう。

 

 

 

「私は気にしないけど?」

 

「アホか、俺が気にするんだよ。取り敢えず、一回シャワー浴びてくるから──」

 

「お座り」

 

「......なんて?」

 

 

 

疑い深い言葉が出た為、確認の意味も込めて千束に聞き返す。だが、それ以降千束はニコニコと満面の笑みを浮かべているだけであり、再び銃のセーフティーを解除する様子を見て御天は千束の前で正座した。

 

 

それからというもの、千束に今回の件について根掘り葉掘り聞かれる......かと思いきや、"何故千束(じぶん)を頼らなかったのか"や"先生(ミカ)共犯(グル)なのではないか"等といった内容ばかりを問い詰められた御天。

 

 

 

「なぁ、もういいんじゃないか?」

 

「......ゴム弾って当たると死ぬ程痛いの知ってる?」

 

「知ってますごめんなさい」

 

 

 

これは夜通し説教されるだろうと諦めのついた御天は、千束があれこれ問い詰めてくるのをそれとなく躱しつつ、時間が解決してくれるのをジーっと待っていた。

 

 

 

「勘弁してくれ......」

 

 

 

 


Continuation:02→

 

 

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