「そいじゃ、さっきの話の続きしよっか」
「その前にアイス取ってきても良いか?」
「もちろ〜ん、私のもお願いね〜?」
だらしなく足をふらふらさせてソファに寝そべる千束。冷蔵庫を開けて箱で買ってあるアイスを2つ取り出して、声を掛けた後に千束の分をポイッと投げて渡す御天。
「千束選手ナイスキャッチ〜!」
「溶けない内に食べろよ」
「ねね、さっきのキャッチ何点くらい?」
「可愛くなかったから0点だな」モグモグ
「超辛口採点!?というよりも、キャッチに可愛いもクソもあるかいな!」
だったらそんな事を聞いてくるな、と言いそうになったのを直前で止めた御天。今ではぶーぶー文句を言いながらも、御天と同じくアイスに齧り付いている千束の気を悪くするだけだろうと考え至った。
昔であれば躊躇わず言葉を発し、命令であればどんな内容であれ従っていた自分を少し思い出した御天。良くも悪くも、千束に出逢ったことが全ての始まりだったのかもしれないが、そういった内容を伝えるとすぐ調子に乗るので自分の心の中だけに留めておいた御天であった。
「ねへなんでわあひにはないもつあえてくえなかったの?」ムシャムシャ
「お前に言うと絶対ついて来るだろ。というか食いながら喋るな」
「......んぐっ。そりゃそーでしょ。ただでさえ色んな組織から命狙われてるのに、一人で任務とか危険すぎるよ」
「別に今回はそこまで危なくなかったから──」
「そーゆー問題じゃなくて!」
御天のポテンシャルを鑑みるに、確かに今回のウォールナット護衛任務は難しくはなかった。だがしかし、千束の言う通り御天はある理由から色々な組織や人間達から命を狙われている身でもある。そういった事情も踏まえて、今までは御天一人での仕事や任務は極力千束も一緒に行ってきた実績があった。
「それで、約束は破ってないでしょうね?」
「今ここにいるのが何よりの証明だろ」
「私が言ってんのは"
「殺してねぇよ。実弾撃った奴にも止血はしてやったし」
ここでの"約束"の意味とは、御天と千束が出逢った時に二人の間で交わした"
最初の頃は御天もこの縛りを鬱陶しく邪魔なものとばかり考えていたが、やはりそれも千束と出逢って変化していき、今では自然にどうやれば死なず殺さず相手を無力化出来るのかを考えるようになっていた。
「相手は
「いや、武装や対応を見るにその線は無い。俺の事も知らない様子だったしな」
「護衛任務にしては相手の規模が小さい様な気がするけど」
「対象の殺害依頼をした奴も本気じゃなかったんだろ。俺の予想じゃ様子見ってところかな」
「お〜余裕そうだねぇ。まぁ御天相手じゃファーストリコリスでも歯が立たないのは間違いないけどさ」
先程の二人の会話の中でも出てきた色々な組織に狙われているという点について、この組織の一つの名前がMAと言い"Mental Attack"の略称である。元々は明治政府樹立以前に組織された治安維持組織"
そして千束の発した"リコリス"というのも、八咫烏傘下の一つである"彼岸花"という女系暗殺部隊で、学名から組織の実行部隊をリコリスと改名している。その組織の名はDAと言い"Direct Attack"の略称である。DAはテロリスト等の犯罪者を秘密裏に暗殺することで、テロや犯罪を未然に防ぐ治安維持組織で国を守る公的機密組織でもある。政府に協力しているものの、警察等の機関とは異なり独立した特権を有している。
「そんな事は無いだろ。前に模擬戦した......えっと、誰だっけ?」
「フキね。完膚なきまでにやられて滅茶苦茶悔しがってたよ。私はそんなフキが見られて満足したけどね」
「お前結構性格悪いな」
「いやいや、悔しかったら一発だけでも当ててみろってもんでしょ」
「模擬戦やったのは俺なんだけどな」
リコリスは能力に応じてランクが存在しており、上から順にファースト、セカンド、サードとなっておりランクによって制服の色が設定されていて識別出来るようになっている。因みに少し前に模擬戦を行ったリコリスである春川フキはファーストリコリスであり、彼女の戦闘スタイルは超低姿勢による高速移動を主としており、セカンドやサードのリコリスが束になっても勝てなかったという話がある。
しかしながら、そんなファーストリコリスであるフキを相手に一発も被弾せずに完勝した御天。その後、どうしたらそこまで強くなれるのかフキに問われるも"勘でどうにかする"や"何となく"等の曖昧な返答をしたお陰か否か、千束諸共怪物呼ばわりされてしまった。
「それにしても、リリベルってリコリスと比べて相当強いんだね〜」
「まぁ想定してる相手が相手だしな。それと、リリベルの強さの基準を俺で考えてるなら間違いだからな」
「何か特別な訓練とかあったの?」
「そんなもんは無かったと思うけど......何せ随分昔のことだから覚えてないな」
DAがテロや犯罪を未然に防ぐ事を目的としているのに加えて、MAは独自の思想を持ちながらにして対人格闘や複数人でのチームとしての連携戦術を基礎としてリリベルに叩き込み、謀略や諜報活動等裏の仕事をこなせるだけの知識や経験も豊富なことからリコリスよりも戦闘面で優れた者が多いのだと御天は推測する。
そして、そんな組織の一員であった御天だが、ある時を境に組織を抜け千束と出逢い今に至るという経歴を持つ。時を同じくしてDAからDAの支部である喫茶リコリコへ異動した千束と、DAの訓練教官であったミカの二人でDAの任務の他に一般人からの依頼等も請け負っている。
「まぁでも、依頼した奴に話を吹っかけたのがMAって事もあり得るから、一概に繋がりが無いとは判断出来ねぇか」
「そんな回りくどい事しなくてもリリベル達にやらせれば良かったんじゃない?」
「俺もそこが引っ掛かったんだけどな。今回リリベル達が出しゃばって来てないってことは、何かしらの理由があるんだろ」
「案外、御天にビビって出てこなかっただけかもよ〜?」
「今回の俺への依頼の出所は信頼出来るから、事前に俺が居る事は把握出来ないな。それに、そんな簡単な事で日和る様な連中じゃないさ」
その対象に俺が含まれてたとすれば尚更な、と御天は付け加えて説明する。それもそのはず、組織唯一の脱走者として現在もMAや他の組織から狙われている御天。他の関係無い任務ならいざ知らず、自分相手ともなれば質の良いリリベル達を大量に寄越してくるだろうと推察する。
「逆にDAの方で何か情報出てないのか?」
「ん〜どうだろ。MAとかリリベル関係だったら、御天に聞きたいくらいって前に言ってたからそんなに掴めてないんじゃないかな」
「あの赤髪のおばさんな。ちょっと話しただけで"
「楠木司令ね」
御天の言う赤髪のおばさんとは、DAの司令官である楠木司令の事であり千束と同じく会う度に口論をしている相性の悪い人物。歴代最強リコリスと言われる千束に負けずとも劣らない特級戦力である御天についての扱いに毎回頭を悩まされており、時々DAの依頼を間接的に受ける御天だがその都度交換条件として色々なお願いをしている様子。DAとしてもある意味敵であるMAの元リリベルの御天に貸しを作りっぱなしになる事が嫌なのか、ある程度の範囲内でのみ御天のお願いを聞くことにしている。
「あんまり御天には頼りたくないって言ってたよ」
「だろうな。この前なんか面と向かって"この場で殺してやろうか"宣言されたし」
「司令に変な口答えするからじゃない?」
「別にそんなことないだろ。ちゃんと"自分と司令じゃ相手にならないですよ"って言ってあげたし」
「あーそれそれ。そういうこと言っちゃうから司令から嫌われてるんだよアンタ」
"それはお前もだろう"と千束に伝える御天だが、対する千束は"御天程じゃないです〜"と返し、その後はどんぐりの背比べ的な言い合いへと発展していった。
そんなこんなで千束の説教兼活動報告会は夜遅くまで続き、二人が布団に入ったのは午前3時を過ぎた時間であった。そして、言うまでもなくこの日の喫茶リコリコへの出勤には間に合わず、二人してミカに頭を下げて謝ったとか。
~???~
「報告します。例のハッカーへの依頼、失敗したとのことです」
「......うむ。下がって良い」
「はっ。失礼致しました」
都内某所。薄暗い部屋の中で仄かに光るランプを見つめながら、部下であろう人物から報告を受け"やはり"といった表情で頷く長身の人物。
「珍しいな。お前の読みが外れたのか......それとも故障か」
「前者はともかく後者はあり得ん。私の読みが外れたのなら、それはハッカーの力量を読み間違えたのかもしれん」
「あくまで自分は悪くないか。変わらず傲慢だなお前は」
「褒め言葉として今は受け取っておこう」
部下であろう人間と入れ替わりで部屋に入ってきたもう一人のガタイの良い筋肉質の男。その人物との会話中ではあるものの、報告を受けた長身の人物が手をかざすと薄暗かった部屋に一気に明かりが灯る。
その明かりの中心にあるのは、一見何の変哲もない長方形の物体。明かりの色彩は正常であることを示す青色。本来、何かしらの異常が発生すれば赤く光り警告音が鳴り響く様になっている。そんな状態でないのであれば、筋肉質の男が言った通りの前者なのだろうと判断する。
「それで、次の一手を聞かせてもらおうか司令官様」
「......今のところは静観する方向だ」
「理由を聞いてもいいか」
「近々大きな仕事がある。ポッと出の何も分からないモノに振り回されるより、次の仕事を確実に成功させる方が大切だと判断した」
端末を操作し、次の仕事の内容を大きな画面に映し出し確認させる。それを見た男は数秒の間で内容を確認し、一人で"成程ねぇ"と呟き納得している様子だった。
「君にはリリベル達の編成と指揮を任せる」
「はいよ、いつものやつね」
「相手方からも人数は出る予定だ。必要最低限度の支援で良い」
「現場指揮でB級を二人、あとはC級を1チームで行かせます」
「良かろう。君は本部で私と待機だ」
「了解。じゃあ早速準備してくる」
男は準備に取り掛かる為に翻ってその部屋を出て行く。その様子を見届ける前に端末へと向かい、先程の資料とはまた別の物を画面へと映し出す。そこには、とある人間の生体データの様なモノが映っており1ページ、また1ページと次々に表示される内容を何度も目に焼き付ける様にして見る。
「......もうすぐだ。あと少しで───────に出会えるはずだ」
そう言って込み上げてくる笑いを抑えながら、待ち望む未来へと想いを馳せるのであった。
遅ればせながらリコリコ最終話見ました。
ちさたき&クルミズキwithミカ最高過ぎませんかね。