【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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10.ここは湯のまち、海鳴温泉だよ

 ジュエルシードの思念体により月村邸の庭園が破壊されてから、ハナコは連日、庭園で復旧作業を続けた。重機もかくやの働きにより、破壊の跡はすっかり消え去り、もとの美しい庭園が戻っていった。

 ハナコはこの世界の花を増やすことも考えたが、自分のセンスがこの世界の大人のそれに合致するとは限らないと考え、原状回復にとどめた。後はプロの庭師に任せるつもりだ。

 

 と、そんなことをやっているうちに、再び休日がやってくる。

 特に学校などには通っていないためハナコは毎日が休日のようなものだったが、その日は珍しく月村夫妻から予定を空けるよう言われていた。

 

 世間では連休のようで、月村家は市内の温泉宿に予約を取っており、そこで宿泊する予定が前々から立てられていた。

 これは月村家のみの行事ではなく、先日月村邸に遊びにやってきた高町なのはの高町家、アリサ・バニングスのバニングス家も一緒になっての宿泊だ。

 そして、月村家の一員となったハナコも、当然のように温泉行きのメンバーに数えられていた。

 

 三家合同のお楽しみ。だが、ここで彼らに思わぬ誤算が起こる。

 

 先日起こった海鳴市の中心街での樹木による建築物、および道路の破壊。これにより、月村建設の経営者である月村夫妻、バニングス建設の経営者であるバニングス夫妻が多忙となり、温泉に来られなくなったのだ。

 これには、月村すずかがとても落ち込み、姉の忍に慰められる様子が見られた。

 

 保護者四名の欠席。だが中止にはならなかった。元々この温泉宿泊は、高町家が主催の行事。ゆえに、高町夫妻が監督責任者となることで決行することになった。

 

 そんなこんなで、ハナコは忍が運転する車に乗って、すずか、ノエル、ファリンと一緒に高町家の実家まで向かった。

 高町家の建物は、瓦葺きの立派な日本家屋。それなりに広い敷地面積を誇り、敷地内には道場がある。月村家ほどの資産家というわけではないが、高町家もそれなりに裕福な家であった。

 その高町家の家屋の前に、忍の車が停まる。そして、すずかと一緒に車を降りたハナコは、高町家のインターホンを鳴らし、すぐさま戸を開けた高町なのはに出迎えられた。

 

「おはよう、なのはさん。実家が喫茶店と聞いていたけど……そうは見えないね?」

 

 そんなハナコの挨拶に、なのはが笑いながら応える。

 

「おはよう! 『翠屋』の建物は別の場所……駅前の商店街にあるの。お父さん達は通いなんだ」

 

「なるほど、そうだったんだ」

 

 ハナコは、この世界に初めてやってきたときに訪れた商店街を思い出す。そういえば、オシャレな喫茶店が一軒あったな、と。

 

「家とお店が一緒だったら、ユーノくんは飼えなかったかも」

 

 なのはは、肩に乗った喋るフェレット、ユーノに指で触れながらそう言った。

 そんな会話をしていると、高町家の前に、忍の普通車とは別の黒塗りの高級車が停まる。高級車から運転手が降りてきて後部座席を開けると、そこからアリサ・バニングスが降りてきた。

 

「みんなおはよう!」

 

 アリサが、元気にハナコ達に挨拶をしてくる。ハナコ達も口々に挨拶を返し、玄関前に自然と子供達が集まった。

 よそ行きのおめかし服のアリサが、ニコニコと笑いながらハナコに話しかける。

 

「先日はバラのジャムをありがとう。パパとママも喜んでいたわ」

 

 そんなアリサの感謝の言葉に、ハナコは「どういたしまして」と返した。

 バラのジャム。これは、先日のジュエルシードの一件で、月村邸の庭園に生やしたウォールローズの花びらから作った、手作りジャムだ。

 花びらは大量に収穫してあり、結構な量のジャムを作ったため、アリサのバニングス家やなのはの高町家にもお裾分けをしてあった。

 

「お礼はすずかさんにも言ってね。ジャム作りを付きっきりで手伝ってくれたから」

 

 ハナコが、自分の隣に立つすずかを手で示しながら、アリサに向けてそんなことを言った。

 

「あら、そうなの? すずか、そんなこと一言も言ってなかったじゃない」

 

「ううん、鍋でジャムを煮詰めるのを見ていただけだから……」

 

 恥ずかしそうに、すずかが顔の前でワタワタと手を振った。

 

「わたしもジャム、毎朝食べているよ。ありがとう、ハナコちゃん、すずかちゃん」

 

 なのはも、笑顔で二人に向けて言う。

 そして、さらに言葉を続けた。

 

「お母さんが、『翠屋』のジャムより、はるかに美味しいって言ってたよ。お店で出したいくらいだって」

 

「あはは。さすがに店で出すには、いろいろハードルがあるんだろうけどね」

 

「うーん、その辺りの詳しい事情はよく分からないけど……」

 

 小学三年生のなのはや異世界人のハナコには、飲食店で食べ物を出す際の決まり事などの知識はさっぱりであった。

 と、そのような会話をしている間に、なのはの父である士郎が、近所の駐車場から家の前へ車を運転して持ってきた。空色のワゴン車である。

 

 それから遅れて玄関から、残りの高町家の家族が外に出てくる。士郎の妻の桃子、長男の恭也、長女の美由希の三人だ。

 それぞれにハナコは朝の挨拶をした。

 

「おはよう、ハナコ。シリアルバー、ありがとうな。早速、毎朝食べているよ」

 

 旅行用のバッグを肩に提げた恭也が、ハナコにそう話しかけた。対するハナコも笑顔で答える。

 

「向こうの世界のグルメ栄養食ほど美味しくないけど、気に入ってもらえた?」

 

「ああ、妹と取り合いになるくらいには美味くて、困っているくらいだ」

 

「なのはさんと?」

 

「いや、もう一人の妹だ。こいつとは初対面だな? 妹の美由希だ」

 

 恭也に紹介された美由希は、ハナコに向かって「よろしくー」と人懐っこい笑顔で手を振った。

 それに対しハナコはペコリとお辞儀をして、それからまた恭也に向き直った。

 

「くれぐれも、一日一本を守ってね。食べ過ぎたからってすぐさま『直接注入』には達しないけど、それでも毎日グルメ細胞を過剰摂取したとなると危ないので」

 

「ああ、分かっている」

 

 ハナコはなのはを通じて、高町家に穀物を固めて作ったシリアルバーを大量に提供していた。

 このシリアルバーは、グルメ細胞をたっぷり含んだ特性栄養食だ。

 グルメ細胞の『摂食注入』に必要な期間を少しでも縮められるよう、グルメ細胞の『直接注入』にならないギリギリを見極めた量のグルメ細胞を配合してある。この配合量はIGOの第一グルメ研究所で究明されたものなので、ハナコも知っていたのだ。

 

「グルメ細胞が適合するといいね」

 

「ああ、そう願うよ」

 

 そう会話を終え、ハナコ達は士郎に促されて車に乗りこんだ。

 皆は二台の車に分けて乗り、それぞれ士郎と忍が運転を担当する。向かう先は市内の名所、海鳴温泉だ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 旅館『山の宿』。天然風呂が売りの旅館である。

 そこでハナコは女性陣一同と温泉を楽しみ、日頃の疲れを癒やした。なお、ユーノは恭也の手により男湯に連れられていった。

 

 そして、風呂上がりに浴衣を着込み、皆で騒いで過ごそうとしたところ、いきなりなのはが他の宿泊客に絡まれた。

 だが、その人物はなのは曰く、念話という魔法を使ったテレパシーで話しかけてきたらしく……もしやジュエルシードを狙う金髪少女の関係者かもしれないと、皆で警戒を深める羽目になった。

 

 そして夕刻、食事の時間となる。

 皆で揃って部屋に集まり、座卓につく。そして、座卓に並べられた豪勢な料理を前に、皆で「いただきます」と唱和し、食事を開始した。

 

「うん、ザ・海の幸だね」

 

 目の前に置かれた刺身の盛り合わせやカニの脚、潮汁などのメニューを一つ一つ目で楽しみながら、ハナコが言う。

 

「海鳴市は港町だからね。こういうところでは、魚介類が多く出てくるよ」

 

 早速、刺身を美味しそうに食べていた士郎が、ハナコに向けてそう答える。

 

「刺身の切り口も綺麗だし、腕の良い料理人が揃っているんだねぇ」

 

 ハナコは料理の盛り付けを確認し終えると、箸を取って刺身に手をつけた。

 最初に箸でつかんだのは、春が旬の魚、真鯛(まだい)の刺身。それは新鮮で、血の臭みもなく、ワサビのツンとくる香りも清涼で、ハナコの舌を喜ばせた。

 

「うん、美味しい」

 

 真鯛を咀嚼し終えたハナコが、そう感想を口にする。

 だが、それを見ていたアリサが、意地悪そうな顔をしてハナコに向けて言った。

 

「本当にー? 物足りないんじゃないのー?」

 

「いや、ちゃんと美味しいよ。宿泊費から考えたら値段相応の美味しさじゃないかな。ただ、わたしは一〇〇グラムで一〇〇万円とかする魚の刺身を知っているから、これ以上の味があるって理解しているだけで」

 

「一〇〇グラムで一〇〇万円! 食べてみたいわねー」

 

 ハナコが言及した刺身は、フグ鯨と呼ばれる高級魚の刺身だ。あれは本当に美味しかった、とハナコは味を思い出そうとし、止めた。今食べている刺身が本当に物足りなくなりそうだったからだ。

 

「うん、私もまた食べたい。だからね、いつかこの世界でも、グルメ細胞の恩恵を受けた食材を植物以外にも増やしたいと思っているんだ」

 

「ん? どういうこと?」

 

「わたしは元々グルメ研究所ってところにいたんだけど、そこでは動物にグルメ細胞を植え付けてより美味しいお肉を作り出す研究もされていたんだ。もちろん、動物だけじゃなくて魚も。だから、それと同じようなことをこの世界でもできたらなぁって」

 

「へー、成功したら、わたしにも食べさせてね」

 

「もちろん!」

 

 そんなハナコとアリサの会話に、恋人の忍に『あーん』をさせられそうになっている恭也が、横から口をはさむ。

 

「グルメ細胞に適合した生物って、強くなるんだろう? そんな動物や魚が野に放たれても大丈夫なのか?」

 

「大丈夫じゃないね。だから、研究用に隔離環境が欲しいんだけど……」

 

「実験動物が逃げ出すバイオハザードとか起こすなよ?」

 

「うん……」

 

 道は遠いな、と思いながらハナコは潮汁をすすった。

 それからハナコは食事を残さず全て平らげ、夜。就寝の時間となり、布団が敷かれた部屋で子供達が雑談する中、ハナコは皆より先に眠った。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 翌朝、ハナコがぼんやりとした目覚めで布団から出ると、皆は既に起きていた。そして、何やら部屋に集まって浮かない顔をしている。

 

「んー? みんなどうしたの?」

 

 目をこすりながらハナコが問うと、アリサが呆れ声で「やっと起きたのね」とため息をついた。

 本当に何事だろう、と首を傾げると、皆を代表してなのはがハナコに向けて言う。

 

「昨日の夜中にジュエルシードを一つ見つけて、フェイトちゃん……黒い魔導師さんと奪い合いになって、その最中に時空管理局が到着して、ジュエルシードはフェイトちゃんに持っていかれたの」

 

「えっ、いろいろありすぎじゃない?」

 

 ハナコが惰眠をむさぼっている間に、何やら事態が進行しているようであった。

 

「それで、みんなで深刻そうな顔をしているのは、ジュエルシードを奪われたことが理由かな?」

 

 あくびを噛み殺しながら、ハナコが皆に問う。

 それは、他の皆と違いのんきそうな声色。黒服の謎の少女にジュエルシードを奪われたらしいが、なのは以外が回収したとしても、ちゃんと魔法で封印しているなら海鳴市への被害が抑えられることになる。なので、ハナコとしては特に気にすることはないと思っていた。

 

 すると、フェレット姿のユーノがハナコに顔を向けて答える。

 

「いや、そうじゃないんだ。時空管理局の人からは、なのはと僕はもうジュエルシードの捜索から離れていいと言われたんだけど……」

 

「このままあの人達に全部任せて、何もしないのは違うかなって思って」

 

 ユーノの言葉を引き継いで、なのはがそう告げた。

 ハナコとしては住処が脅かされないなら、全部専門機関に任せてしまえばいいと思っている。

 だが、真剣ななのはの表情を見て、ハナコは彼女の責任感の強さに感心した。そしてハナコはなのはに問う。

 

「で、なのはさんはどうしたいの?」

 

「……時空管理局の人と協力して、ジュエルシード集めができないかなって」

 

 そこまでなのはが言ったところで、渋い顔をした恭也が横から言う。

 

「それをみんなで認めるか話し合っているわけだ」

 

「みんなというか、高町家でね」

 

 なのは達とは少し離れたところですずかと一緒にお茶を飲んでいたアリサが、補完するようにそう言った。

 なるほど、なのはを囲むように集まっているのは、いずれも高町家の人間だ。その高町家で、なのはをこれ以上事態に関わらせるか決めようとしているのかと、ハナコは納得した。

 

 ちなみに、現在の各人の意見としては、士郎は反対、桃子は賛成、恭也は反対、美由希は賛成と、見事に割れていた。

 

「なのははまだ子供だぞ。これ以上危険なことに関わらせるのは……」

 

「でも、なのはだってうちの一族の子だよ。多少の危険くらい、試練として乗り越えてなんぼじゃない?」

 

「なのはは別に御神(みかみ)流を学んではいないだろう」

 

「それでも、とーさんの子だよ」

 

 恭也と美由希が正面から意見をぶつけ合う。二人の話し合いは白熱し、それを士郎と桃子が見守っていた。

 それを見たハナコは、ふとした疑問を覚えて桃子に話しかける。

 

「桃子さんは賛成なんだね」

 

「この子が本気で決めたことですもの。親として応援してあげないとね」

 

「心配じゃないの?」

 

「心配よ? でも、誰かのために危ないことをするのは、うちではよくあることだから、見送ることに慣れているの」

 

 その言葉を聞いてハナコは、高町家は武術家というだけでなくその武を活かした仕事でもしているのかな、とぼんやりと思った。

 その後、恭也と美由希の話し合いは続き……なのはが家族に反対されても強行する意思を示したところで恭也が折れ、士郎も他の皆が納得しているのならばと賛成に回った。こうして高町家は、なのはの意志を尊重する方針を固めた。

 

 そして、なのはがジュエルシード捜索に協力することを時空管理局に伝えようと、その場でユーノが魔法で通信をつなげる。

 映像通信のようで、空間に四角い枠が投影されて人の顔が映る。

 エメラルドグリーンの髪色をした、大人の女性。リンディ・ハラオウンという名で、海鳴市の近くにやってきている次元航行艦アースラの艦長を務めている提督であるらしい。

 

 そのリンディ提督に、なのはが協力を申し出る。

 すると、リンディ提督は申し出を受けてもいいとあっさりと応えた。

 驚くなのはに、リンディ提督が言う。

 

『そちらの後ろにいるのは、高町なのはさんのご家族の皆さん?』

 

「はい、魔法や次元世界関連の事情は知らせてあります」

 

『そう、なら、親御さんにもこちらに来てもらって、協力体制について詳しい話し合いをしましょう』

 

 すると、士郎と桃子は顔を見合わせ、うなずいてアースラへと向かうことを決めた。

 この後、旅館の裏庭に迎えを寄越すと言って、通信を終えようとするリンディ提督。

 だが、そこに割り込む者がいた。ハナコだ。

 

「あのー……ちょっといいですか?」

 

『あら? 何かしら?』

 

「なのはさんの事情とは関係ないんですけど、わたしも時空管理局の人と話したいことがあるので、ちょっと付いていってもいいですか?」

 

『用件によります』

 

 どうやら少しは話を聞いてもらえそうだ、とハナコは息をついてから、姿勢を正して通信画面の前で話し始めた。

 

「簡単に言うと、わたし、別の世界からこちらの世界に迷いこんだ人間なんです」

 

『時空関連の事故かしら? 出身世界はどこか分かりますか?』

 

「ここ第九十七管理外世界のIFの世界……いわゆる並行世界から来ました」

 

『パラレルワールドですか……。それは……次元世界と違う枠組みの世界なら、ちょっと私達は専門外かもしれないわね』

 

「それも含めて、詳しくお話できれば、と」

 

『分かりました。あなたもアースラにお招きします』

 

 そういうことになり、ユーノが通信魔法を終えると、次元航行艦に向かう一同は急いで浴衣から普段着に着替え始めた。

 新グルメ時代の地球とも、こちらの地球とも違う高度文明の艦船。美味しい食事は出るのかな、とハナコは異文化に少しワクワクするのであった。

 

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