【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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11.それは大いなる計画だよ?

 次元航行艦アースラに招かれた高町夫妻となのは、ユーノ、そしてハナコは、どこか和を思わせる部屋に案内された。

 そこには艦長であるリンディ提督が待っており、早速、話し合いが開始された。

 

 ハナコ達の前には茶碗に淹れられた煎茶と、茶請けの練り切りが置かれ、和やかなムードで話が進む。

 話し合いの最中、リンディが煎茶に角砂糖とミルクを淹れて、なのはが顔を引きつらせた。すると、桃子がなのはに小声で「海外では緑茶に砂糖を入れる文化もあるのよ」と告げて、なのはは世界の広さを知った。

 

 そんな一幕もあった話し合いで、リンディがジュエルシードの危険性を士郎達に詳しく説明して、なぜなのはの協力の打診を受け入れるかを語った。

 

 曰く、ジュエルシードは次元干渉型のエネルギー結晶体。いくつか集めて特定の方法で起動させれば、次元震や次元断層と呼ばれる災害が発生し、近隣世界ごとこの地球が消し飛んでしまう危険性があると。

 ゆえに、戦力は少しでも多くあった方がよく、なのはは即戦力として期待できる、と。彼女の才能は、時空管理局でも滅多にいないレベルで飛び抜けているようであった。娘を褒められて、士郎はまんざらでもない様子。

 

 そういうわけで、なのはとユーノは、ジュエルシードを全部回収し終わるまで、次元航行艦アースラに住みこみで働くこととなった。

 

 話し合いが無事終わり、なのはが大きく息を吐くと、釣られるようにして場の空気が弛緩する。だが用件はこれで終わりではなかった。もう一人、話がある人物がいる。

 

「さて、では次ですね。パラレルワールドからの迷い人ということでしたが」

 

 ハナコに話が振られ、彼女はここまでの経緯を話し始めた。

 

 食に特化した高度な文明が存在する地球の出身であること。

 ブラックホールから回収された植物の調査中に、事故が発生したこと。

 世界地図を一部共有する、異なる地球に転移してしまったこと。

 こちらの地球は、数億年前に分岐したIFの地球である可能性が高いこと。

 こちらの地球は、あちらの地球より食の分野で著しく劣っていること。

 

 そこまで話して、ハナコは茶碗のお茶を飲み、一息ついた。特別美味しいお茶というわけではない。茶請けの味も普通。時空管理局が扱う食材にも、期待はさほどできそうにないと感じるハナコだった。

 

「なるほど、話は分かりました。しかし、やはり私達にはあなたの助けになれそうにありません。パラレルワールドを移動する技術どころか、パラレルワールドを観測する技術すら、時空管理局は持っていませんから」

 

 リンディが痛ましそうにハナコを見ながら、そう告げる。

 だが、ハナコは首を横に振った。

 

「いえ、別にもとの世界に戻してほしいという話ではありません」

 

「あら?」

 

 ハナコは練り切りを一欠片だけ口にし、言葉を続ける。

 

「こちらの世界は食の分野において非常に遅れています。ですので、わたしはこちらで食の研究がしたい」

 

「……?」

 

 話の行き先が予想できず、リンディが首を傾げる。

 

「グルメ細胞という特殊な細胞があり、これを生きた生物に組み込むことで、美味しい動植物を生み出す研究を行ないたいのです。ですが、その研究を地球でやるには、バイオハザードが怖い。グルメ細胞を組み込まれた生物は、強靱な生命力を獲得するのです」

 

「はあ、生物研究ですか。時空管理局とは、そこまで関係がなさそうですが……」

 

 リンディのそんな言葉をハナコは半ば無視して、話を続ける。

 

「そこで、あまたの世界を股にかけ、世界の秩序の維持を担っている時空管理局に頼みがあります。――無人世界を一個、貸してくれませんか?」

 

 無人世界の貸与。

 ハナコのその要求に、リンディは絶句した。

 

「より豊かな食生活、すなわちより豊かな人生を送るために、時空管理局の協力が必要です」

 

「それは……ええと、ちょっと了承しかねるわね」

 

 困ったようにリンディが言うが、ハナコは意にも返さず横に手をかざして「むむっ」と念じた。

 すると、ハナコの手の平から、急に木の枝が伸びてきて、彼女達の頭上で葉を揺らした。そして、枝に綺麗な花が咲き、散り、木の実が結実する。その木の実は、明らかに林檎だった。

 

「はい、皆さん、頭上の林檎を一つずつ収穫してください」

 

「ハナコちゃん、いきなり過ぎるよ……」

 

 なのはがそんな突っ込みを入れながら、素直に立ち上がり林檎を一つもぎ取った。ハナコの行動は唐突だが、今回のこれは従えば美味しい思いをできるとなんとなく察していた。

 そして、士郎と桃子も頭上から林檎をもぎ取り、人間の男の子の姿になっていたユーノも林檎を一つ採る。それから、遅れるようにしてリンディも困惑しながら林檎を手に取った。

 

「行き渡りましたね? では、この枝はしまいます」

 

 木の枝がハナコの手の平に飲みこまれていき、あっさりとその姿を消す。代わりに、ハナコの手の平には林檎が一つ握られていた。

 その林檎を目の前に掲げ、ハナコが言う。

 

「この林檎にナイフで、真ん中を一周するように切り込みを入れます。そして、上側を開くようにすれば……」

 

 ハナコの手の平にナイフ状の鋭い木の葉を生み出し、それを使って手にした林檎に切り込みを入れていく。そして、パカッとフタを開けるようにして上部を外した。

 すると、林檎の中から、キラキラと輝くシャーベットが出現する。

 

「シャーベ林檎です。皆さんも開けてみてください」

 

 ハナコは、ナイフ状の木の葉を皆に配る。

 すると、桃子が率先して木の葉を受け取り、士郎となのはのシャーベ林檎に切り込みを入れていった。

 リンディも困惑しながら木の葉で林檎に切れ目を入れ、パカッとフタを取るように外皮を外した。

 

「シャーベ林檎は、林檎の形をした果実の中に、極上のシャーベットが詰まっている食材です。さあ、いただきましょう」

 

 ハナコが手の平から生み出して配った木さじを使って、シャーベ林檎の試食が始まる。

 バラのジャムでハナコの食材の美味しさを知っている高町家の三人は、ワクワクしながら木さじでシャーベットをすくいあげる。

 リンディは困惑を続けながらも、素直にシャーベットへ木さじを差し入れた。

 

 正直なところ、リンディは食に特化した高度文明の存在を信じ切ってはいなかった。口だけで説明されても、何を馬鹿なことをと考えることは止められなかった。

 だが、ハナコはいきなり手から木の枝を生やし、シャーベットという完成した料理が中に詰まった果実を用意してきた。リンディは、信じる心と疑う心で内心が真っ二つに分かれ、困惑を続けていたのだ。

 

 だが、それも終わりを告げる。

 

「――!?」

 

 シャーベ林檎を口にした瞬間、リンディは衝撃を受けた。

 清涼感あふれる、林檎味の衝撃。それにより、リンディの食の価値観は破壊された。

 

 こんなに美味しい物が、世の中には存在していたのか。

 手の込んだトッピングもされていないただのシャーベットが、これほどまでの美味しさ。確かに、食の高度文明はあるのかもしれない。リンディの乱れていた心の内は、シャーベ林檎の清涼感によって洗い流された。

 

「これは……びっくりするくらい美味しいわね」

 

 木さじを忙しく動かしながら、リンディがつぶやく。

 その対面に座る高町家の人々も、シャーベ林檎を次々口にしていた。

 

「いやー、役得だな。うん、美味い」

 

「ね、お父さん。ハナコちゃんの料理は他のも美味しいって言ったでしょう?」

 

「加工なしでこんな美味しいシャーベットが食べられるんだから、パティシエ形無しね」

 

「久しぶりの人の姿での食事がこんなに美味しい物で、得したな……」

 

 美味しすぎる味に夢中になっているリンディとは違い、高町家とユーノはハナコの提供する食材にある程度慣れていたため、冷静にシャーベ林檎を楽しんでいた。

 そんな皆の満足する様子に、ハナコはにんまりとしながら自身のシャーベ林檎を食べ進めた。

 土に種を埋めず自身から直接植物を生み出したため、余分にカロリーを消費しており、少し疲れたハナコの体にシャーベ林檎の糖分が染み渡る。

 

 そして、シャーベ林檎を皆が食べ終わったところで、ハナコがあらためてリンディに向けて言う。

 

「わたしが研究しようとしている食材の魅力、分かっていただけましたか?」

 

「うーん、確かにあきれるくらい美味しかったのだけれど……世界を一つと言われると簡単にはうなずけないわ。無人世界は時空管理局の所有物ではないけれど、局外の人に斡旋するとなると責任が生じるもの」

 

「簡単にうなずけない、ですか。では、こちらも簡単でなければよろしいでしょうか」

 

「うん? どういうことかしら?」

 

「フルコースをご用意します」

 

 ハナコの答えになっていない言葉に、リンディは不思議そうな顔をした。

 そんな彼女に向けて、ハナコは自信満々な顔で言葉を続ける。

 

「何日か時間をくだされば、もっとたくさんの食材を用意して、本格的な料理をご用意できます。シャーベ林檎より、はるかに美味しい料理が」

 

「それは……食べてみたいわね」

 

「はい、食べてみれば、私の言うグルメ食材の研究の価値が、完全に理解できるはずです」

 

 ハナコの宣言。それを受け、リンディはしばし頭の中で考え込んだ。

 そして、告げる。

 

「分かりました。後日、ということですね。しばらくはジュエルシードの回収と所属不明の魔導師の追跡で忙しいので、それが落ち着いてからになるでしょうが」

 

「了解です。フルコース、楽しみにしていてください」

 

 リンディに向けて、ハナコは満面の笑みを浮かべた。

 そんな子供の無邪気な笑顔にリンディは、ふと、艦内にいる自分の息子のあまり笑わない顔を連想する。

 

「ちなみに、そのフルコースは一人分かしら?」

 

 リンディにそう問われ、すぐさまハナコが答える。

 

「そう考えていましたが、他にも無人世界の貸与に関わりそうな方がいるなら追加で作りますよ」

 

「そう、それなら、あと一人分追加で用意してもらって良いかしら」

 

「構いませんが、どのような立場のお方が? できれば直接お目にかかって、嫌いな食べ物等を聞き取りしたいのですが」

 

「ええ、後で彼の所に案内するわ。相手はクロノ・ハラオウン執務官。私の息子で、時空管理局本局のホープよ」

 

 思わぬ好感触に、ハナコはどうやら上手くいきそうだと、内心でガッツポーズを決めた。

 こうして、ハナコが美味しいお肉を再び食べるためのグルメ研究への道が、少しずつ拓けていくのであった。

 


 

シャーベ林檎(果実)

捕獲レベル:3

トリコ原作に登場する果実。ビックリアップルの実食シーンで、このシャーベ林檎をビックリアップルに載せてトリコによって食された。

 




リリカルなのは無印本編や公式サイトでは、次元世界における別世界のことを平行世界と呼んでいます。ですが、それらは本当の意味での平行世界ではなく、ただの地球型の別惑星でしかないと解釈しています。

本編で明かされない裏設定:時空管理局の到着が原作より早くなっていたのは、温泉の時点でユーノくんが時空管理局に現地の詳細状況をつけて通報したからです。ジュエルシード回収RTA。ちなみに劇場版時空だとユーノくんは通報してから地球に来ているので、このRTAチャートは成立しません。当作品はテレビアニメ版を基準としつつ、都合のいい部分だけ劇場版を参考にする構成になっています。
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