【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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15.また会う日までだよ

「アースラの皆さんが、もうすぐ帰投します! そこで、お土産として保存食を持ち帰ってもらい、本局でわたしのグルメ研究に価値を見いだしてもらおうと思います!」

 

 月村邸のダイニングで、ハナコがそんな宣言をする。

 彼女の話を聞いているのは、忍とすずかの二人だ。

 

「というわけで、どんな保存食を用意するか、話し合いましょう! 第一候補としては缶詰。パパさんに製缶キットをいっぱい買ってきてもらったよ」

 

「缶詰って作れるんだ」

 

 ダイニングのテーブルに置かれたキットを物珍しげに見ながら、すずかが言う。

 そう、缶詰は手作りできる。手作りゆえに清潔な工場で作られる缶詰ほどは、食の安全性は高くない。だが、そこはIGOのグルメ研究所出身のハナコが食品製造にも通じているため、食中毒の可能性は限りなく低くなる。

 

「じゃあどんな缶詰がいいか、案を出していってね」

 

 ハナコがそう言ったのを皮切りに、様々な案が出てくる。

 

 トマト缶、コーン缶、肉系野菜の味噌煮缶、樹に生るタラバ蟹缶などなど。

 

「マッシュルーム缶とかどうかな」

 

 さらにすずかがそんな案を出すが、これにはハナコが駄目出しをする。

 

「残念、キノコは植物じゃなくて菌類だから、わたしの力では作れないんだな」

 

「そうなの? キノコって植物じゃないんだ……知らなかった」

 

「うん、そのうち学校で習うんじゃないかな? 多分だけど」

 

「木の子供なのに不思議だね」

 

 そんなすずかのコメントに、ハナコは確かにと笑った。

 そして、今度は忍が案を出す。

 

「……桃缶かな。風邪を引いたときに食べると美味しい……」

 

「桃缶を食べたくて、風邪引かないかなって思ったこともあるよ」

 

 同意するようにすずかも乗ってくる。すると、ハナコが不思議そうな顔で言った。

 

「桃のコンポートの缶詰だよね? 風邪を引くと食べるの?」

 

「……うん、日本だと定番……」

 

 忍がハナコの疑問にそう答えると、ハナコが感心しながら言う。

 

「風邪引いたことないから知らなかったよ」

 

「ええっ、ハナコちゃん、風邪引いたことないの……?」

 

 驚くすずかに、ハナコはうなずく。

 

「生まれてこの方、病気はしたことないよ。あ、でもサンドリコっていう花の花粉で花粉症になったことはあるかな」

 

 サンドリコはハナコの出身世界にある〝グルメ界〟と呼ばれる魔境に咲く花だ。その花粉を吸い込むことで、どんな生物であっても体中の全水分がわずか数秒で排出されて死に至る強烈な花粉症に侵される。

 ハナコはこの花粉を美食四天王のココに浴びせられたことがある。なんでも、花粉症で脱水症状になってからの方が、食材であるサンドリコを美味しく食べられるかららしい。ちなみに花粉症はサンドリコを食べることで治る。

 あのときは本気で死ぬと思った、と思い返すハナコ。まあ、実際サンドリコは美味しかったのだが。

 

 そしてその後も案が出続け、最終的に三つの品を保存食としてアースラにお土産として持たせることに決まった。

 

 品目は、ネオトマト缶、レモモン缶、瓶詰め水晶コーラだ。

 

 ネオトマトは、この世界に来てハナコが最初に栽培した食材。すずかもフルコースのメニュー作りでネオトマトの調理には慣れている。

 レモモン缶は、忍イチオシの桃缶を採用した。レモモンはレモンの外見で中身が桃という果物で、甘味の中にわずかに酸味がある不思議な味わいの食材だ。

 水晶コーラは、先日のフルコースのドリンクとしても提供した一品。ハナコの出身世界でも高級品だった水晶コーラだが、原料である水晶樹の種は、ハナコにかかればカロリーの許す限り無限に作り出すことができる。

 

 ちなみにレモモンを搾った果汁一〇〇パーセントジュースは三五〇ミリリットルで十万円、水晶コーラも同じく三五〇ミリリットルで十万円と、ハナコのいた世界では高値がついていた。

 それを忍とすずかが知っていれば、気軽にお土産として渡そうなどとは言わなかっただろう。だが、ハナコは高級食材が日常的に大量生産されている第一グルメ研究所にいたため、自身が生み出す食材の値段に無頓着な性質があった。

 

 そうして、用意するお土産の内容が決まり、早速、ハナコは食材の用意を始める。今回は時間がないため、速度最大で促成栽培をして収穫し、すぐさま料理に取りかかった。

 すずかも料理の手伝いを行ない、製缶キットでネオトマトのピューレーとレモモンのコンポートを缶詰にする。

 大鍋に作った水晶コーラも次々と瓶に詰めていき、無事にお土産はそろった。

 

 さらに、ハナコはもう一つのお土産をここ数日作成していた。それは、グルメ細胞について詳しく説明したレポートと、グルメ研究の研究企画書。月村俊に用意してもらったノートパソコンでそれぞれを作成した。

 グルメ細胞のレポートに関しては、すでに印刷されて俊に回されている。グルメ細胞について詳細を知らせるのは、グルメ細胞を含む食材を継続的に提供するに当たって必要なことだとハナコが判断したからだ。

 

 やがて、お土産の用意は終わり、ハナコ達はアースラが地球を離れる日を迎えるのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 海鳴臨海公園で、リンディ提督とクロノ執務官は、地球人達と別れの挨拶を交わしていた。

 公園にやってきたメンバーは、高町家の家族と、月村家の家族、バニングス家の家族だ。それぞれの親達も来ていた。

 

 次元世界や時空管理局の存在は地球の人々には秘密にされているが、実は地球人の中にも次元世界のことを知る者はそれなりに存在している。時空管理局員の中には地球でそれなりの立場にいる者もいる。地球内で次元世界を知る者達のコミュニティもあり、今回それに月村家とバニングス家が加わることになった。

 

 各々がリンディとクロノとやりとりを終え、特にお世話になった高町なのはも最後の挨拶を交わす。

 ちなみにユーノは地球にこのまま残る。なのはに魔法の使い方を一通り教えるために、故郷への帰還を延ばしたようだ。ちなみにもうフェレット姿で生活はしておらず、人の姿で高町家の居候をしているらしい。

 

「それじゃあ、リンディさん。フェイトちゃんをよろしくお願いします」

 

 なのはがそう言って、頭を下げる。

 

「ええ、悪いようにはしないわ。そもそも彼女は指示されてジュエルシードを二つ集めただけで、そこまで大きく罪に問われるようなことはしていないから、大丈夫よ」

 

 リンディもそう言って、なのはに笑いかけた。

 

 フェイト・テスタロッサはこの場には居ない。すでに別の次元航行艦で、プレシア・テスタロッサと共に時空管理局管轄の留置所がある世界に送られているのだ。

 今回のプレシアの犯行は、ジュエルシードを狙ってのものだった。そしてアースラにはジュエルシードが保管されており、同じ艦に置いておくのは危険と判断され、プレシア達の移送が早急に行なわれたというわけである。

 

 やがて、なのはの挨拶が終わり、次にハナコがすずかをともなってリンディへと近づいていく。

 

「リンディさん、これお土産だよ」

 

 布製の手提げバッグ三つをリンディの前に置く、ハナコとすずか。バッグにはそれぞれ、ネオトマト缶、レモモン缶、瓶詰め水晶コーラが入っている。

 

「あらあら、こんなにいただいちゃって、いいのかしら?」

 

「一人で全部食べるのは無しだよ。時空管理局のお偉いさんに配って、グルメ研究の宣伝をお願いね」

 

「ええ、任されました」

 

 バッグの中をちらちらと見ながら、リンディがハナコの言葉に了解の意を示した。

 そんなリンディに、ハナコは笑いながら言う。

 

「グルメ細胞のレポートと、研究の企画書はアースラのエイミィさんにメールしておいたよ。そちらも確認よろしくね」

 

「ええ、もう目を通したわ。グルメ細胞、とんでもない代物ね。局内でも飛びつく部署がありそう」

 

「共同研究の申し出は大歓迎だから」

 

 ハナコは嬉しそうにそう言うが、リンディは時空管理局には暗部というべき秘密研究部門が存在するのではと危ぶんでいた。

 だが、それについてはとりあえず意識から外し、別のことをハナコに告げる。

 

「そうそう、プレシア・テスタロッサについてだけれど」

 

「何かあの後、進展ありました?」

 

「心をひどく病んでいたので、局内にある病院に入院したわ。だけど、それとは別に体に病を抱えていたことが分かったの」

 

「それはまた……知っていたら薬膳でも食べさせたんだけどなぁ」

 

「でも、本局の最新の医療技術で、完治は無理でも延命は可能よ。だから、体を癒やして、心を治して、それからね。フェイトさんとの仲を取り持つのは」

 

「あの二人の親子仲が改善することを美食の神々に祈っているよ」

 

 プレシアの娘アリシアと使い魔リニスの食霊は、『時の庭園』に残されている『食霊の門』から『魂の世界』に帰っていった。食霊はこの世の食材を食べることが難しく、『魂の世界』にある霊食で腹を満たす必要があるためだ。

 できれば、『魂の世界』でとびきり美味しい霊食でも食べて、成仏してほしいな。ハナコはこの世界にも存在しているであろう、美食の神々にそう祈った。

 

 そうして、皆が別れを告げ終わり、リンディとクロノは光に包まれアースラへと戻っていった。

 集まっていた皆も解散ムードになり、ハナコは帰ってから何をするかと考え始めた。

 

「よーし、グルメ研究が始まるまでしばらくは、家庭菜園をいじって遊ぶかな」

 

 ハナコがそんなことをすずかに向けて言っていると、月村俊が隣にやってきて、言う。

 

「そうはいかないよ、ハナコちゃん。畑仕事をする毎日は終わりだよ」

 

「ん? パパさん、どういうこと?」

 

「ハナコちゃんの戸籍を作ろうとしていたことは、知っているよね? 戸籍ができたら、ハナコちゃんは晴れてこの国の子供の一員だ」

 

「あ、うん、そういえばそうだね」

 

 ハナコがこの世界にやってきた当初は、次元世界や時空管理局のことなど知るよしもなかった。そのため、ハナコはこの国で地に足をつけた生活をしようと、日本生まれの無戸籍児として戸籍の取得に動いてもらっていた。今ならば、無人世界に住み着くという選択肢もあるわけだが……。

 

「この国だと子供の保護者は、子供を学校に通わせる義務を負うんだ。つまり、ハナコちゃんは学校に通うんだよ」

 

「学校!」

 

 思ってもいなかった話の展開に、ハナコは驚く。ハナコは今まで学校という場に通ったことがなかった。あまりにも未知の場所すぎて、喜べば良いかすら彼女には分からなかった。

 

「試験は必要だけど、すずかと同じ学校に通えるようにはしようと思う。ハナコちゃんは九歳だけど、四月生まれということにすればすずかと同学年になるから、そうしておいたよ」

 

「お父さん、本当!?」

 

 俊の説明を横から聞いていたすずかが、嬉しそうに叫んだ。俊は「ああ」とうなずいて、感極まって飛びついてきたすずかの肩を撫でた。

 そして、すずかは俊から離れ、ハナコの手を取って、なのはやアリサのもとへと走り出していった。

 

「学校かぁ。どういう場所かな。うん、楽しみかな?」

 

 ハナコは、すずかに手を引かれながら、新しく始まる生活に思いをはせたのだった。

 


 

レモモン

捕獲レベル:17

トリコ原作で『レモモン搾り100%』という清涼飲料として登場した。グルメタウンの三ツ星自販機で販売されていたが、購入はされなかったので味の説明は単行本の食材解説ページにあるのみである。

 




無印編終了です。なんかもう、ここで完結するのが一番綺麗に終わるのではと思わないでもないですね……。でも、まだタイトルの『おいしいおにく』を作り始めてすらいないので、A's編やります。
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