【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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19.世界は二人の手の中にだよ

 Dr.ゼロはハナコに己のできることを語った。得意分野は機械工学で、他にも生命科学や生物学、魔法科学にも秀でているらしい。

 まさにグルメ研究に相応しい人材だ。魔法科学は必要ないが、生命科学や生物学はグルメ細胞の研究にうってつけ。

 機械工学が得意なことも都合がいい。機械加工で研究資材を用意してもらえるからだ。ハナコは機械に関して、使うことに関しては問題ないが、作ることは全くできなかった。

 

 そんなやりとりですっかりゼロと打ち解けたハナコは、早速、初日から大きな動きを見せようとしていた。

 

「まずは食物連鎖の下の方から用意していくよ。グルメ細胞を含む植物を生やして、それをこの地の草食動物に食べさせてグルメ細胞に適合する動物を増やしていく」

 

「ふむ、『摂食注入』を試すのかい? ああ、確かグルメ細胞が適合しなくても、グルメ細胞を摂取し続けていればその生物の肉質が向上するのだったか」

 

「そうだね。だから、食物連鎖の下からグルメ細胞を与えていくわけ」

 

「ほう……それはそれは」

 

 ハナコがいた世界で美食神とまで称された美食屋アカシアは、かつて深海の謎を探求していた。当時、〝人間界〟の地上の食材と比べて、深海の食材は味の宝庫であった。

 

 深海の探索を進めたアカシアは、やがてグルメクラゲという生物を発見した。

 研究の結果、他の海洋生物がグルメクラゲを食べることで、その海洋生物の味が向上していることをアカシアは突き止める。グルメクラゲは、深海の食物連鎖の下層に位置していた。ゆえに、深海は味の宝庫となっていたのだ。

 

 その後アカシアはグルメクラゲを調べ上げ、グルメ細胞を発見した。

 そして、アカシアはグルメ細胞を〝人間界〟の地上に持ちこみ、その後、〝人間界〟の食材の質は飛躍的に向上した。

 

 そんなアカシアが〝人間界〟の地上にしたことと同じように、ハナコは無人世界マウクランへグルメ細胞を持ちこもうとしているのだ。

 

「あと、大型の生物を捕らえて、グルメ細胞を直接注入していくこともやっていくよ。ゆくゆくは、人為的に閉じた環境を作って、狙いの食材を生み出す〝ビオトープ〟なんかも建設していきたいね」

 

「素晴らしい。グルメ細胞を植え付ける生物の選定は、任せてもらっても? すでに各地へ探査機を飛ばしてあるんだ」

 

「んー、選定は一緒にやろうか。むやみやたらにグルメ細胞を植え付けたら、食物連鎖のバランスが崩れてしまう可能性が高いからね」

 

「ふむ、そうかね?」

 

「草食動物が頂点捕食者になったら、目も当てられないからね。わたしの世界には昔、デスゴールっていう超巨大草食獣がいて――」

 

 楽しげに、ハナコとゼロが言葉を交わしていく。

 二人が手にした無人世界は、彼らにとって最高の玩具だ。それで今後どう遊んでいくのか、互いに意思をすり合わせながら、二人は相手のスタンスも探っていく。

 ハナコはゼロがどのような研究者なのか、議論を通じて把握していく。そして、手綱を握ってやらないと、際限なく手を広げてデスマーチに突入しそうな人だ、と警戒を強めた。

 

「この無人世界は広いけど、まずは手の届く範囲から始めよう。一歩ずつ、だよ、ゼロ博士」

 

 ゼロに言って聞かせるように、ハナコが宣言する。

 ゼロもそれに同意し、この先に待つ美味に思いをはせた。

 

 こうして、次元世界初のグルメ細胞研究が始まり、二人の研究者が野に解き放たれたのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「まずは一面の草原を作ろう。そこに草食動物を放牧する」

 

 ハナコが、そう方針を打ち出す。

 すると、ゼロが空間投影画面を呼び出し、この建物近隣の風景を映像で表示した。

 

「ふむ、草原というと平地か。草が生えそうな場所というと、すでになんらかの植物が生えているが……」

 

「ああ、すでに草原になっていても大丈夫。わたしのグルメ細胞由来の能力で、植物は自在に操れるんだ。わたしの体液を含ませた水に触れた植物は、育てるのも枯らすのも自由自在だよ」

 

「ほう、そんな能力が……」

 

「だから、ゼロ博士には、水の散布機を作ってもらおうかな」

 

 ハナコはゼロがピックアップした近隣の草原地帯を目で確認しながら、ゼロに早速、指示を出した。

 すると、ゼロが何かを考え込むようにして言った。

 

「体液か……」

 

「そうだね。まあ、体液の量はそんなに多くなくていいよ。何万倍に薄めても大丈夫」

 

「お小水かね」

 

「血液だよ! いや、小でもいいんだけど、気分的にね!?」

 

「しかし、植物を入れ替えていくためにいちいち血液を失うのは、デメリットが強くないかい? 非合理的だよ」

 

「あー、大丈夫。失った血液なんて、一食何か食べれば即座に補給されるから」

 

「それもグルメ細胞のなせるわざか……」

 

「うん、まあ普通の人間からしたら、グルメ細胞に適合した人は一種の超人だね」

 

 そして、ゼロは「三十分で散布機を作る」と言って、ロボットに資材を運び込ませた。

 さらにゼロは、空の注射器をハナコに渡して血液を採取するように言った。

 

 用意良いなこの人、と思いながらハナコは注射器を腕に刺し、血液を抜き取る。

 機材を組み立てていたゼロはそれを見ていたのか、意外そうに言う。

 

「注射針、刺さるのかい。てっきり、針が折れ曲がって刺さらないのかと」

 

「皮膚に力を入れたら刺さらないよ」

 

「ふうむ、融通が利くのだね」

 

 そうしているうちに、散布機は完成し、ゼロ博士は建物に用意していた水道で水を確保。ハナコの血液を混ぜ、散布機を空に飛ばした。

 そして、ゼロはこっそり注射器を白衣に忍ばせるが……。

 

「あー、ゼロ博士。こそこそ注射器回収しなくていいよ。わたしの血液なんて、いくらでもあげるから」

 

「おや、そうかい?」

 

「現状、グルメ細胞は、わたしの体から採取するのが一番効率的だから。この次元世界にグルメ細胞が存在するのも、並行世界から移動してきたわたしの体の中にあったからだしね」

 

 そんな会話をしている間にも、散布機が草原に向かっていき、水を散布している様子が空間投影画面に映る。

 やがて一通りの水まきが終わったところで、ハナコがゼロに向けて言う。

 

「これで、あの一帯の植物はわたしが操れるようになったよ。というわけで、全部枯らします」

 

 ハナコがムムッと念じると、映像の中の草原がみるみるうちに枯れ果てていく。それをゼロは「ほう!」と驚きながら見守った。

 

「完了。次はグルメ細胞を含んだ植物の種を撒くよ」

 

「ふむ。次は種まき機の作成が必要だな」

 

「あー、博士、それはいらない。わたしが撒いてくるよ」

 

「手作業かい? 非効率的だよ」

 

「大丈夫、一瞬で終わるから。ちょっと外で撒いてくるから、付いてきて見ているといいよ」

 

 ハナコはそう言って、建物の外へと向かう。

 ゼロは、またグルメ細胞由来の何かをするのかと考えながら、その後ろを追った。

 

 そして、建設中の研究所を出たすぐのところで、ハナコは上に着ていた白衣を脱ぎ、半袖のキャミソール姿になる。

 すると、ハナコの右腕が変化していき、ツタで編まれた異形の姿となる。

 

「ほう、確か『グルメ細胞の悪魔』だったね?」

 

 ハナコの異形の右腕を見ながら、ゼロが興味深げに問う。

 

「そうだね。グルメ細胞に適合して『グルメ細胞の悪魔』を低確率で身に宿し、『星のフルコース』という食材を食すことで、『グルメ細胞の悪魔』が体と一体化するんだ」

 

 ハナコはそう言いつつ、右手を天に掲げた。すると、手の平から大輪の花が咲き、すぐに散り、パンパンに膨らんだ巨大な実が結実する。

 その実を天に掲げたまま、ハナコが叫ぶ。

 

「草原跡まで、飛んでけ! 『シードスコール』!」

 

 豪快な炸裂音と共に実が弾け飛び、無数の種が空に向かって飛んでいく。

 そして、やや遅れるようにして、ゼロが表示したままの空間投影画面が異常気象を映し出した。〝種の雨〟が降り注いだのだ。

 

「ほお、これはすごい」

 

 確かに種まき機いらずだ、とゼロは感心した。

 一方、種を飛ばし終えたハナコは、腕をもとに戻し、白衣を着直す。

 それからゼロの空間投影画面を確認すると、満足したようにうなずいた。

 

「水も撒いてあるし、数日で芽を出すでしょ。急ぐわけじゃないし、成長の促進はいらないね」

 

「ふむ。では、芽を出すまで何をして過ごすかね?」

 

「ゼロ博士には、私の体細胞からグルメ細胞の培養を試してもらうよ。あと、わたしは基本、地球における週末しか来られないから、博士には自由裁量で研究を行なってもらうことになるかな。今は長期休暇の真っ最中だから、毎日来られるけどね」

 

 その長期休暇が終わったら、七日間のうち二日しか来られない、とハナコは指二本を立てながら言う。

 

「了解した。グルメ細胞を培養しつつ、細胞を植え付ける生物の選定と、この世界の地質調査でもやっていることとしよう。そうだな……機械を今後も生産することを考えると、鉱山でも開発しようか」

 

「この世界、借りているだけだから無茶はしないように」

 

「ははっ、グルメ細胞に支配された地に変貌させれば、もはやこの世界は私達の物さ!」

 

 そんなゼロの言い様に、ハナコは「フェイスガードの下は悪い顔しているんだろうなー」と内心で思った。

 そして、ハナコ達は研究所の中へと戻り、細胞培養のための準備を進めていく。

 そんな中、ゼロはふと思い出したとでもいうように、ハナコに問う。

 

「そう言えば、あの草原跡に撒いた種は、なんの種なんだい?」

 

「ああ、あれは黒草(くろぐさ)っていう多年草の種だよ。黒草の群生地はブラックカーペットって呼ばれるんだけど、他にグルメ細胞由来の植物がない状況だと、あの一帯の草食動物はブラックカーペットに集合するだろうね。それを追って、肉食獣も集まってくる」

 

「ふむ、ただの草か……」

 

 ハナコの答えを聞いて、どこか残念そうにするゼロ。そんな彼に、ハナコはニヤリと笑って言う。

 

「黒草は、人が食べることもできる食材だよ。フレッシュな口当たりで、シャキシャキした食感で美味しいんだよ。ゼロ博士も、サラダとして食べたかったら取り尽くさない範囲でいつでも採取していいからね」

 

 すると、ゼロは嬉しそうな雰囲気をまといだした。

 この人、本当に食欲のために研究を手伝ってくれるんだな、とハナコは思い、次に彼女が訪れるまで一人この世界に残ることになるゼロに、いくらかの食材を残していってあげることを決めた。

 


 

黒草(植物)

捕獲レベル:1以下

トリコ原作に登場する多年草。IGOの第一ビオトープ内に群生するブラックカーペットとして登場した。

 

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