【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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20.造られた者の幸せだよ

 無人世界マウクランを借り受けてからというもの、ハナコは夏休みを活用して毎日そこへ通った。

 黒草の種を撒いたところに生えそろったブラックカーペットの生態系を観察したり、グルメ細胞の培養環境を整えたり、一人でこの地に住み込んだDr.ゼロの食生活を整えるために小規模な畑を作ったりと、楽しい日々を送っていた。

 そんな充実した毎日を過ごしていると、ハナコはある日、居候先の月村家ですずかに詰め寄られた。

 曰く、一人で楽しそうにしていてずるいと。

 

 自分も無人世界に連れていってとすずかに懇願されたハナコは、時空管理局に確認を取ってから、すずか達をマウクランへ連れていくことに決めた。

 そう、すずか〝達〟である。

 

 夏休みも終わりが近づいてきた八月中旬。

 ハナコはすずかとアリサ、なのはとユーノの四人を連れて、マウクランへと訪れていた。

 

「転送施設ねえ……魔法なのにずいぶんとSFね」

 

 月村邸からマウクランへの転送が終わると同時に、アリサがそんな感想を述べた。

 

「魔法って言っても、科学の一つだから……」

 

 ユーノから魔法を教えてもらっているなのはが、そんなコメントをアリサに返す。

 なのはは最近、魔法のデバイス『レイジングハート』に頼らず、一から魔法を組むことに挑戦していた。そこで彼女は、魔法というものは数学で成り立っていると知った。

 そう、数学である。算数ではない。小学三年生の算数力ではいろいろ足りないと分かり、なのははこの夏休みを使って徹底的に数学を勉強していた。

 

 そんななのはの夏休みの苦労が皆に語られ、ハナコは「へー、思ったよりも学術的」と魔法の仕組みに感心した。

 

「なんで魔法の施設を管理しているハナコが、魔法について不勉強なのかしらね?」

 

 アリサの突っ込みを受けるが、ハナコとしては魔法を勉強するつもりは毛頭もなかった。

 

「だって、使えないし? 先天的な才能が必要なら、勉強するだけ時間の無駄だよ」

 

 ハナコのそんな言葉に、なのはは反論する。

 

「時空管理局の魔法技師の人達は、魔法を使えない人も多いよ?」

 

「わたしは魔法技師を目指していないからいーのいーの」

 

 ハナコは手をヒラヒラと振りながら、なのは達を研究所の内部へと案内していく。向かう先は、食堂。ゼロがここにいると連絡があったからだ。

 食堂に辿り着くと、そこではゼロが複数の女性達と一緒に黒草料理を食していた。

 そんなゼロに、ハナコは近づきながら言う。

 

「おはよう、ゼロ博士。今日は友達を案内してきたけど……その女の人達も初顔さんだね?」

 

「ああ、おはよう。うむ、君が部外者を連れてくると言ったから、私も関係者を呼んだのだよ」

 

「前に話していた助手かな」

 

「ああ、私の娘達だよ。紹介しよう」

 

 ゼロは、黒草料理をモリモリと食べていた女性を一人一人紹介していった。

 全部で四人の女性だ。ウーノ、チンク、セイン、ディエチとそれぞれ名乗った。

 

「博士って結婚していたんだね」

 

 十歳くらいの小さい子供から二十歳くらいの大人の女性まで、見た目の年齢はバラバラだ。

 この子達の父親と言うのなら、ゼロは割と歳がいっているのだろうか、とハナコはフェイスガードの下の顔を想像する。

 

「いいや? この子達は造ったんだよ。人造生命だね」

 

 あっけらかんと言ったゼロのその言葉に、ハナコ以外の子供達が絶句する。

 

「それはまた、助手にするために造ったのかな?」

 

 なのはやアリサがドン引きしている横で、ハナコは物怖じせずにゼロに問うた。

 

「言っただろう? 私は悪のマッドサイエンティストなんだ。悪い計画のために造ったんだよ」

 

「そっかぁ。まあ、ちゃんと娘として扱っているなら、文句はないけど」

 

「安心してくれたまえ。悪い扱いはしていないよ」

 

 ゼロがそう言うと、娘達はどこか嬉しそうな表情を浮かべた。

 この様子なら大丈夫そうだな、とハナコが思っていると、ハナコの腋を肘でつつく者がいた。アリサだ。

 そのアリサが、小声でハナコに言う。

 

「ちょっとハナコ、この人、大丈夫な人なの?」

 

「うん? ゼロ博士は大丈夫か大丈夫じゃないかで言うと、大丈夫じゃない人だけど?」

 

「ちょっとー! 変なことされたらどうするのよ!」

 

 小声から大声に変わったアリサに、ゼロがやれやれといった様子で反応する。

 

「私は何もしないさ。第一、魔法の才能の欠片もなさそうな君に、何かするとでも?」

 

「失礼ね! あなたこそなんなのよ。ウーノにチンクにセインにディエチって、イタリア語で数字の一、五、六、十じゃないの! あなた娘を番号で呼んでいるの!?」

 

「立派な名前だよ。分かりやすいだろう? 全員まとめてナンバーズという」

 

 そんなアリサとゼロの言葉のぶつけ合いを見ていたすずかが、人の名前にあれこれ言うのは失礼だとアリサを止めに入った。そんな中、ハナコがポツリと告げる。

 

「新種の食材がこの世界で完成しても、博士に命名を任せるのはやめておくね」

 

「なぜだい!?」

 

 アリサに向けていた顔をハナコに向け直し、ゼロがショックを受けたように叫ぶ。

 

「いや、だって、安直なネーミングセンスの人は、ちょっと……」

 

「合理的だろう!?」

 

「いやー、美味しそうな名前付けるの絶対無理でしょ」

 

 そんなことを言うハナコだが、ゼロの娘達が反論する様子は見えなかった。彼女達も内心では何か思うところがあったのかもしれない。

 

 さて、そんな漫才じみたやりとりを終えた後、ゼロ達は食事を再開した。

 黒草料理を美味しそうに食べる娘達、ゼロがいうところのナンバーズは、表情豊かにワイワイと楽しそうにしていた。それを見たなのはが何か考え込んでいたが、ハナコはきっと裁判中のフェイト・テスタロッサへ、思いをはせているのだろうと察した。

 

 やがて食事は終わり、ナンバーズが食器を片付けている間に、ゼロとハナコは今日の予定について話し出す。

 

「さて、見学者がいるなら、今日の研究は本格的にはできそうにないね」

 

「まあ、そうだね。とは言っても、見るものはまだ何もないんだよねぇ」

 

「ブラックカーペットも生えそろったが、見た目はただの黒い草原だからね」

 

「ふーむ、そうなると……ああ、博士。ナンバーズの皆さんは今後もこの研究所に住み込むの?」

 

「そうさせるつもりだよ。ちなみにこれが全員ではない」

 

「となると、食糧の増産が必要だね。うん……博士、農園を経営してみるつもりはない?」

 

「ほう? 詳しく」

 

 ハナコが思いつきでした提案に、ゼロが即座に食いついてきた。

 そんなゼロの様子に笑いそうになりながら、ハナコが説明を始める。

 

「今ある研究所の畑を拡張して、野菜や果樹を大規模に育てるんだ。ブラックカーペットみたいな野生動物のための植物じゃなくて、人間のための食材作りをするの。それも、外に出荷できるほどの量を」

 

「出荷か。目的は、外貨獲得のためかな?」

 

「外貨って、ここは国じゃないよ……まあ、研究費獲得のためだよ」

 

「このマウクランは、すでに私とハナコ君の国だよ?」

 

 ゼロのそんな戯言をハナコは、はいはいと受け流す。

 そうして、ハナコ達は研究所の近くに農園を造ることに決めた。早速、ハナコは子供達と一緒に外に行き、豪快に開拓を始める。一方のゼロは開拓用の機械を即席で組み上げ、ハナコの横で動かした。

 そんな非現実的な開拓風景を子供達は見て喜び、ハナコが「今日の分」と言って促成栽培した野菜と果物で作った食事を楽しみ、無人世界への訪問を満喫した。

 

「それじゃあ、農園は任せたよー、ナンバーズ!」

 

 そして、半日経過したところで、ハナコはすずか達をともなって地球へと帰っていく。

 ナンバーズの娘達はそれを見送りながら、世界の転覆をするはずが農園経営とは、ずいぶんと方針が変わったものだとしみじみ思うのだった。

 

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