ユーノが地球から去り、なのはが寂しげな顔を見せる様子を学校で何度も目撃したハナコ。だが、慰めてどうにかなるものでもないと判断して、ハナコは普段通りに日々を過ごした。
ちなみにユーノが地球を離れた理由は、フェイト・テスタロッサとプレシア・テスタロッサの裁判に証人として出るため。
そんな裁判中のフェイトとは、なのはがずっとビデオメールのやりとりを続けている。ビデオメールの撮影のために、ハナコも何度か手伝わされたことがあった。
フェイトの裁判だが、どうやら長引きそうな様子を見せているようだ。
プレシアには余罪があり、ジュエルシード以外のロストロギアをフェイトに幾度か回収させていたと判明した。それに関して、どこまでフェイトに対して罪を追及するかでやりとりが増えているようだった。
だが、リンディ提督からの連絡によると、フェイトは実刑判決とはならず保護観察処分となる見込みのようだ。ただ、判決は地球での年明け以降になりそうだとのことで、なのはは判決が出るまで気が気ではない日々を送ることとなってしまった。
一方、プレシアは無人世界にある施設での二百年の幽閉が求刑されている。判決もそこから大きく減刑はされないだろうというリンディからの報告が、ハナコにもあった。
プレシアは長命種ではなく、重病も患っているため、実質的な終身刑となるようだ。
フェイトの精神的負担も考えて、ハナコがもといた世界にあった『ハニープリズン』のような厳しい刑務所ではなく、ある程度の自由が保障された場所での拘留となってほしいものだと、ハナコは落ち込むなのはを見ながら思った。
そして時は過ぎ、十二月。学校から帰ったハナコは、月村邸に与えられた自室でグルメ研究のまとめ作業を行なっていた。
ノートパソコンを操作し、時空管理局へ提出する研究レポートを執筆する。
月村邸のパソコンはADSLでインターネットに繋がっており、そこ経由でどういうわけかDr.ゼロからの電子メールも届く。ちなみにハナコは、時空管理局から次元通信可能な携帯端末を与えられている。それだというのに、わざわざこちらのメールアドレスに送るあたり、ゼロの遊び心が見て取れた。
執筆の最中にハナコがメールボックスを確認すると、ちょうどゼロから報告のメールが来ていたようだ。
なんでも、再びあの赤い服の少女ヴィータが第三ビオトープを訪れ、実験生物にちょっかいをかけたようだ。ハナコと約束したとおり、今度は実験生物を殺さなかった様子。
そして、帰りにビオトープ内の研究施設に立ち寄って、ロボットの案内で冷凍肉を持ち帰ったとある。
なお、ゼロはそのとき転送施設がある中央研究所に居たため、ヴィータとは会わなかったと書かれていた。
「あの博士、違法研究者だって言っていたからなぁ。外の人とは会わないか」
ハナコはそう納得して、メールを閉じて研究レポートの執筆を再開した。
やがて、夕方になり、食事を終える。それからハナコはリビングで食後のお茶を飲みながら、すずかから今日の放課後にあった出来事を聞いていた。
「図書館で、前からずっと気になっていた子と話すことができたの」
「ふーん。なんで気になっていたの?」
「うーん、わたしと同年代で、車椅子姿だから印象が強かったのかな? それで、話す切っ掛けになったのが、同じ料理本を取ろうとしたことだったの」
「へー。すずかさんと同年代ってことは九歳くらいでしょう? それで料理本を手に取るって、こっちの世界ではそうそうないんじゃない?」
「うん、八神はやてちゃんって言うんだけど、ご家族全員の食事を作っているんだって」
「本当に九歳だよね!?」
「尊敬しちゃうよね」
車椅子の九歳の子供が家族全員の食事を作る。ずいぶんと複雑な家庭事情なのだなぁ、とハナコは思った。
無人世界マウクラン産の『酸素の葉の健康茶』を飲みながら、ハナコは続けてすずかの話を聞く。
「それで、今度はやてちゃんの家で一緒に料理しないかって、お呼ばれされているんだ」
「おー、同年代の友達って、そんなに気軽にお呼ばれとかするものなんだね」
「あはは、普通は知り合ったその日に呼ぶことは少ないと思うよ。でも、すごく気があったから……それでね、ハナコちゃんのことを紹介したいから、一緒に行かない? できれば、マウクランの野菜を持って」
「いいよー」
すずかの誘いに、ハナコは即座に乗った。
ハナコは無人世界で作った野菜類を大量に月村家へ寄付しているため、それを好きに使ってもらって構わないと普段から告げている。なので、すずかが一人で八神はやてなる少女の家に野菜持参で向かってもらっても、ハナコとしては一向に構わない。しかし、すずかはハナコを八神はやてと会わせたいらしい。
「わたしの料理のお師匠様だって言ったら、是非とも会いたい、だって」
「んー、わたしもプロの料理人ってわけじゃないんだけどね」
「でも、ハナコちゃん、キャベツの千切りとか、ものすごい速さで作るよね?」
「あれは食義っていう特殊技能を習得しているからであって……すずかさんももう少し食への感謝が身についたら、食義を学ぼうね」
「よく分からないけど、料理が上手になるなら頑張るよ」
食義。食に対する礼儀と作法のことである。ハナコの出身世界では小学校から食義の授業が行なわれる。だが、食林寺という場所で学べる食義は特別で、精神が研ぎ澄まされ集中力が増し、所作の無駄をはぶき素早さと正確さを身につけることができる、高等技術である。
ハナコが言っているのは、小学校で学ぶ食義ではなく、この食林寺で学ぶ食義の方だ。
食林寺の食義を身につけるには、食に対する感謝、命に対する感謝が重要となってくる。そのため、すずかに食義を学ばせるのは、彼女の心がもう少し成長してからにしようと、ハナコは考えていた。
その後も、茶を飲みながら雑談に興じていたハナコ達だが、ふとメールの着信を知らせる音がハナコとすずかの携帯電話から同時に鳴った。
なんだろうかとハナコが月村家に買い与えられたガラケーを開くと、メールの差出人は意外なことに、なのはの兄の恭也だった。
内容は……なのはが街中で倒れて病院に運ばれた、とあった。
「なのはちゃんが!?」
と、すずかが叫んだため、ハナコは同じ文面がすずかのところにも行っていると察した。
そしてハナコは、取り乱すすずかをなだめ、文面を読み進めていく。
なのははしばらく昏倒していたが、先ほど意識を取り戻したようだ。そして、なのはが言うには、謎の魔導師に襲撃されたらしく、戦闘に負けて気絶してしまったとのことだった。
謎の魔導師による襲撃。それは、この世界の警察では解決できない事件ということ。
ハナコはガラケーに文字を入力していき、恭也にメールを送った。『時空管理局に通報する?』と。
すると、恭也から『よろしく頼む』と返ってきて、さらに少ししてから事件の詳細がメールで送られてきた。
襲撃犯はおそらく合計で四人。相手の狙いは魔導師の魔力生成器官リンカーコアで、戦闘の結果なのははリンカーコアを奪われ、さらになのはの魔法デバイス『レイジングハート』が破損状態になった。
ハナコはその情報をもとに、リンディ提督へ時空管理局から与えられた携帯端末で連絡を取った。
すると、リンディから即座に返事がきた。
なのはが襲われている最中に『レイジングハート』に搭載されたAIから、すでに通報を受けていたらしい。時空管理局本局の医療局で、なのはの受け入れ準備を進めているとのこと。そして明日の朝、月村邸の転送施設を使って、アースラのスタッフと一緒にリンディ自らなのはを護送しに海鳴市へ来るらしい。
ハナコはとりあえず今日できることはここまでだ、と判断してすずかを落ち着かせることに専念することにした。
「病院に行かなくちゃ……!」
「すずかさん、もう夜遅いから……明日、土曜日だから朝から向かおう?」
「うう、なのはちゃん……」
これは、なのはの声を聞かせるまで落ち着きそうにないな、とハナコは思った。
ちなみにハナコは一切取り乱していない。なのはのことをどうでもいいと思っているわけではなく、あの恭也が落ち着いてメールを送ってきていることから、なのはは大事ないと理解しているからだ。
そして、ハナコは不安で眠れないというすずかの話に夜遅くまで付き合い……二人は次の日の朝、見事に寝坊をしてしまうのだった。
酸素の葉(植物)
捕獲レベル:50
トリコ原作に登場した葉っぱ。オゾン草の捕獲の道中でトリコが持参した荷物の中から取りだして、小松の酸素補給のために酸素マスクとして使った。
酸素補給用途以外にも、煎じることで豊富なビタミンとカテキンを含む高級健康茶として飲むことができる。
フェイトそんA's編不在! ちなみに他のロストロギアも集めていたという彼女の余罪は、『魔法少女リリカルなのはMOVIE1st THE COMICS』に載っている描写を特別に採用しました。作劇上都合のいいときだけ劇場版に頼るスタイル!