【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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23.女が三人寄れば楽しい、だよ

 十二月第一週の土曜日。朝から月村家は騒がしかった。

 

「もうー、なんで起こしてくれなかったの、ファリンさん!」

 

「起こしましたよー? でもすずかちゃんと一緒に、ぐーすか寝てたですよ」

 

「ファリンさん、お見舞いのフルーツ何にしよう!」

 

「なのはちゃんは入院せずに、病院から管理局の施設に移るってリンディさんが言っていましたよー」

 

「ああー、寝癖が!」

 

「はいはい、直しますよー」

 

 騒動の主は、寝坊したハナコだった。それにメイドのファリンが付き合い、朝の用意を進めていた。

 一方、ハナコと一緒の部屋で寝て、こちらも見事に寝坊したすずか。彼女は、急がず焦らず自分の部屋で着替え、月村邸にやってきていたリンディ提督とアースラスタッフに挨拶をしていた。

 

 それから、メイドのノエルが作った朝食をハナコとすずかは一緒に取り、なのはが入院している病院へと向かうことにした。

 アースラスタッフが病院近くまで転移魔法を使うというので、ハナコとすずかは便乗し、海鳴大学病院へと到着する。

 

 そして、高町家の恭也と美由希の二人と合流し、なのはの検査が終わるのを待った。

 街中で昏倒した状態で発見され、救急車で運ばれたというなのは。意識が戻った後も衰弱しており、頭部を中心に検査を受けたが、問題は見つからなかった。

 目に見えないリンカーコアという器官が損傷しているため、魔法技術の存在しない地球の医療では、なのはの昏倒と衰弱の原因は突き止めることは不可能だった。

 

 そこで、アースラスタッフが、次元世界の事情を把握している提携病院の名前を出して、そちらでなのはを受け入れると申し出た。家族である恭也と美由希も了承しているため、病院側はそれを受け入れ、なのはは無事退院することとなった。

 

 そうして、なのはは長かった検査から無事に解放された。リンカーコアの損傷と検査疲れが相まってヘロヘロになりながら、なのはは病院にやってきていたアリサとすずか、ハナコと一緒に無事を喜んだ。

 

「もう、心配したわよ……」

 

 アリサがどこか不安そうな声でなのはに言った。

 すると、なのはも気弱な声でアリサに返す。

 

「今回はさすがに大変だったかな……」

 

「魔法使いに襲われたんだって?」

 

「うん、一人と戦っていたら、他に三人も居て、囲まれちゃった」

 

「むうー、卑怯ね!」

 

「あはは、決闘じゃないんだから仕方ないよ」

 

「仕方なくないわよ! 通り魔相手に仕方ないとか言わないの!」

 

「そ、そうだね……」

 

 そんな会話の中、ハナコは前の世界で少々学んだ食の再生屋の医療技術が使えないかと、なのはを観察していた。だが、初めて見る症状だったため、魔法関連はどうしようもない、とお手上げ状態になった。

 そして、そのままなのはは病院を出ると、アースラスタッフの転移魔法で月村邸の転移施設に運ばれていった。

 

 ハナコとすずかは、アリサの家のリムジンで送っていってもらうことになったため、転移魔法に便乗はしなかった。

 一方、恭也と美由希もリムジンに乗せ、高町家へと帰すことになった。

 それと、なぜか残ったリンディが、リムジンに同乗してきた。なにやら、恭也と美由希に話があるらしい。

 

 リムジンの中で、リンディが恭也に向けて言う。

 

「今回の襲撃は、次元世界の各地で発生している連続魔導師襲撃事件の犯人によるものと見ています。そして、その犯人はおそらくこの地球を中心に活動を行なっています」

 

 その説明に、恭也は少し驚いた顔で答える。

 

「魔法文明ではない地球に犯人が、ですか……」

 

「そして、なのはさんが狙われたと言うことは、犯人は海鳴市の魔導師を探し出せる距離にいるということになります。よって、時空管理局は、ここ海鳴市に捜査本部を設置することにしました」

 

「そうですか……」

 

「というわけで、ご近所さんになりますから、よろしくお願いしますね、高町さん」

 

「えっ……」

 

 なにやら、リンディ提督達がこの街に住み着くようだぞ、と同じ車内だったため話をバッチリ聞いていたハナコが思う。

 

「しかし、魔導師襲撃事件ね……通り魔みたいなものだよね? 怖いなぁ」

 

 恭也の隣に座る美由希が、ぼんやりとした声で言う。

 

「魔法を使ってくる通り魔とか、どうすればいいのかしら。さすがの鮫島でも撃退は無理よね」

 

 そうコメントしたのは、アリサだ。ちなみに鮫島とは、このリムジンを運転している運転手の男だ。

 鮫島も、苦笑しながら「空を飛ぶ相手は、さすがにどうしようもありませんな」と答えている。

 一方恭也は、魔導師相手の戦闘シミュレーションを頭の中で組み立て……自分ではなのはが使う防御魔法を突破できない事実を思い出し、思考を止めた。

 

「大丈夫よ。今回の襲撃事件は、魔導師が持つリンカーコアという器官を狙ったもの。魔法を使えない皆さんは、狙われることはありません」

 

 皆を安心させるように言ったのはリンディだ。

 そんなリンディの言葉で、皆は狙われなくて安心したような、魔法を使えないことが残念なような、複雑な気持ちとなった。

 そんな中、ハナコはリンカーコアという単語になぜかデジャヴを覚えて首をかしげていた。

 

 やがてリムジンは高町邸に到着し、恭也と美由希、リンディが下車する。

 アリサとすずか、ハナコはそのままアリサのバニングス家へと向かい、なのはのことを心配しながら、三人で気晴らしのためにゲームで遊んで過ごしたのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 週明けにはなのはは無事に学校へと登校してきた。

 ただし、どこか憂鬱そうで、ハナコが昼休みに遠慮なく理由を尋ねてみると、どうやら魔法のデバイスである『レイジングハート』が修理のため出払っていることが心配になっているようだった。

 襲撃の後遺症がないならばよし、とハナコは判断し、デバイスの改修について話し始めようとしたなのはに、元気ならそれでいいと告げて離れた。魔法関連の長話はDr.ゼロに普段から聞かされていたので、学校に来てまで聞きたくないと思っての避難であった。

 

 代わりにハナコは一人で何かを考え込んでいたすずかのところへやってきて、話しかける。

 話す内容は、とりとめもないような雑談だったが、その中でふと、こんなことをすずかが言い始めた。

 

「ハナコちゃん、この前言っていたはやてちゃんの家での料理だけど、明日いいかな?」

 

「明日? いいよー。食材は何持っていこうか」

 

「お肉はあるらしいから、野菜かな? デザートに果物も持っていきたいよね」

 

「せっかくだから、お米も十キロくらいまとめてプレゼントしちゃう?」

 

「あはは、それいいかも。でも、ハナコちゃんのお米じゃなきゃ満足できないようにならないかな?」

 

「その時は、安く売ってあげればいいよ」

 

「そうだね。そうしようっか」

 

 そんな会話をしつつ、何事もなく昼休みが終わった。

 そして、帰りになってから、すずかはずっと車中で携帯電話をいじって八神はやてとメールのやりとりを続け、渾身の面白話をしていたアリサに話を聞けと怒られる一幕があった。

 アリサの怒りっぷりはそれはもう激しいもので、ハナコがこっそりなのはに聞いた話によると、アリサは親友のすずかが知らない人と楽しそうにメールをしている様子が気に障ってしまったようだった。

 

 同年代の友人関係って面白いなー、と他人事のようにハナコは思いつつ時間は過ぎ去り、翌日の放課後となる。

 すずかとハナコは、メイドのノエルが運転する車に乗って、八神家へとやってきた。

 すずかは夕食を食べてから帰ることをノエルに告げ、持ちこんだ食材の入ったバッグを持ちながら八神家のインターホンを押す。

 

 すると、インターホンに八神はやてが出て、「月村ですけど……」と遠慮気味に言ったすずかに嬉しそうな声色で応えた。

 

『よう来てくれたなぁ。ささ、鍵は開けたから上がって上がって』

 

 どうやら、遠隔操作で家の鍵を開けられるらしく、すずかとハナコははやての手を患わせないためにも、遠慮なく家の中へと足を踏み入れた。

 

「いらっしゃい、すずかちゃん!」

 

「お邪魔します。こんにちは、はやてちゃん」

 

「そして、あなたが噂の師匠さんやな?」

 

「お邪魔しまーす。どーも、師匠ことハナコだよ」

 

 すずかに続いてハナコが挨拶をすると、車椅子に乗った茶髪の少女、はやてが笑みを浮かべてハナコに言葉を返す。

 

「今日はご指導ご鞭撻(べんたつ)をよろしゅうお願いします」

 

「あはは、わたしもプロの料理人ってわけじゃないけどね」

 

「そら、この年齢でプロがいたらびっくりやわ」

 

 そうして一部バリアフリーな玄関で靴を脱ぎ、三人は料理のために真っ直ぐキッチンへと向かった。

 

「おおー、キッチンが低い! 本当にはやてさんが料理しているんだねぇ」

 

 八神家のキッチンは車椅子が自由に動けるように広々としており、さらに調理台の高さも低かった。

 

「せやな。今年になってから食べてくれる家族も増えて、毎日料理が楽しいわ」

 

 その家族はどこだろう、とハナコは家の中の気配を探るが、どうやら不在のようだ。そういえば、玄関に靴が置いていなかったな、とハナコは気付き、仕事等で忙しいのだろうと察した。

 

「じゃあ、食材はいろいろ用意してきたけど、はやてさん、今夜の料理は何かな?」

 

 ハナコがはやてにそう尋ねると、はやては笑顔で答える。

 

「初めは最近寒いし鍋でもしようか思うたんやけど……」

 

「けど?」

 

「せっかく料理上手な人を呼んだのやから、もっと凝った料理を作ろう思うてな」

 

 はやてがそう言うと、示し合わせていたかのようにすずかが横から言う。

 

「今日の料理は、オードブルだよ。オードブルって言ってもフルコースの前菜のことじゃなくて、パーティーとかで出す軽食の盛り合わせだね」

 

 ああ、パーティープレートか、とハナコは思い至る。

 

「つまり、品目をとにかく一杯作ろうってことやな!」

 

 そう言って、はやてはキッチンの隅に置かれていた一枚の紙を手に取り、ハナコに見せた。

 そこには、様々な料理が載せられた大皿が複数描かれていた。料理の絵の横には、料理名の注釈も書かれている。

 それを見て、ハナコは上手な絵だなと感心した。

 

「八神家の最強の晩ご飯だね」

 

 ハナコがそう言うと、すずかとはやては吹き出し、場は笑いに包まれた。

 そうして、八神家のキッチンにて、出会って間もない三人による料理タイムが始まる。

 

 はやては次々取り出されていくハナコの野菜を目利きしようとしながら、想像する。友達と家族達が一緒になった楽しい食卓を。

 つい半年前には考えもしなかったであろうその光景を思い描き、はやては料理を食べる前から幸せで胸が一杯になった。

 

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