【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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24.それは小さな祈りだよ

 今夜の献立は、パーティープレート風料理の盛り合わせ。ハナコは紙に描かれた料理を一品一品はやてに確認していき、調理手順を話し合う。

 一通り確認し終えたところで、三人は食材の下準備に入った。

 

「我が家のお肉はすごいでー。冷凍肉やけど、ちょうど解凍が終わってるころや」

 

 はやてはそう言って、冷蔵庫から肉の塊を出して調理台の上に置いた。

 それを見たハナコは、「おや?」と何かに気づく。

 

「そのお肉、見覚えがあるんだけど……」

 

「なんや? このお肉、何か知っているん? 貰いものやけど、すごく美味しくてな、どこのお肉か知りたかったんよ」

 

 ハナコは、はやてが出してきた肉塊をじっと見つめる。

 すると、ハナコの感覚はこの肉にグルメ細胞の気配を感じ取った。そして、哺乳類の肉とは違う独特の肉質も、ハナコは見た覚えがあった。

 

「スミヨシさんのお肉じゃん。なんだ、あの赤い服の女の子が言っていた『ギガうま料理のはやて』って、はやてさんだったんだね」

 

 ハナコのその意外な言葉に、はやてはびっくりして目を見開いた。

 

「もしかしてハナコちゃんて、ヴィータと知り合いか?」

 

「そうそう、ヴィータさん。このお肉はわたしがヴィータさんにゆずった食材だよ」

 

「ホンマか! そうか、ハナコちゃんからいただいたお肉やったんやな。ありがとうなぁ。このお肉、めっちゃ美味しくてなあ」

 

「でしょー。今日持ってきた野菜も同じくらい美味しいから、期待しておいて!」

 

 ハナコはそう言いながら、すずかが水道の水で洗っている野菜に目を向けた。

 いずれの野菜も無人世界の農園で収穫した新鮮な野菜だ。もちろん、グルメ細胞は含まれている。

 

 ちなみにグルメ細胞のことは事前にすずかからはやてに教えてある。

 食べると元気になるかもしれない食材という売り文句に、はやてはうさんくさそうなコメントをすずかに返してきたようだった。

 

「期待しておくわ。でも、どういういきさつでお肉をヴィータに渡したん?」

 

「んー……」

 

 はやての疑問の言葉に、ハナコは言いよどんだ。はやてが魔法について知っているかハナコには分からないためだ。管理外世界の人間には魔法は基本、秘密にすること。ハナコは時空管理局から、そう言い含められているのだ。

 そして、ハナコが導き出した言い訳はというと……。

 

「わたし、マウクラン研究所ってところの研究員をしていてね。そこで育てた家畜のお肉を見学に来たヴィータさんにプレゼントしてあげたの」

 

 嘘半分真実半分の話をしながら、ハナコは思う。ヴィータさん、わたしが居ない間に上手く話を合わせるよう頼むぞ、と。

 すると、はやては「ふーん」と話を流して、肉を見ながら別のことを言った。

 

「しかし、これなんの肉なん? 豚とも牛とも鶏とも違うよな?」

 

「ああ、これ、リクガメの肉だよ」

 

「亀肉! うわー、亀ってあんな美味しいんか!」

 

「どうかなー。スッポンとかウミガメとかは定番だけどね」

 

「スッポンかぁ。一度スッポン鍋してみたいなあ」

 

 ハナコとはやては、食材の下準備を再開しながら、そんな会話を交わす。

 すると、野菜を洗い終えたすずかも話に乗ってきた。

 

「スッポンって、血が美味しいって本当かな?」

 

「すずかさんって血の料理に抵抗ないよね。ブラッドソーセージとか、苦手な人多いんだけど」

 

 ハナコのそんなコメントに、ピーラーで野菜の皮むきを始めたはやてが目を輝かす。

 

「ブラッドソーセージ! 一度くらいは食べてみたいな!」

 

「じゃあ今度、月村邸にでも来てくれたときに食べてもらおう」

 

「いいね! はやてちゃん、お泊まりしていってよ」

 

「ええなぁ。本当、楽しそうやわ」

 

 そんなかしましい会話をしながらも、三人は止まることなく手を動かし、またたく間に料理の下準備が済んでいく。

 そして、ハナコ達は一向に帰ってこない八神家の同居人を心配しながら、冷めても問題ない料理から取りかかっていった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 はやて渾身の晩ご飯が完成し、食卓へと並べられていく。

 しかし、時間がいくら過ぎても、八神家の同居人達は帰ってくる様子を見せなかった。そして、待ち続けて時刻は八時半。ハナコとすずかも、いい加減帰る準備をしなければならない時刻となっていた。

 

「どうする?」

 

 沈黙を破るように、ハナコがはやてに問いかけた。

 すると、はやてはとっさに笑顔を顔にはりつけて、ハナコに言葉を返す。

 

「仕方ない、先に食べよか。二人とも、みんなの分ラップするの手伝ってくれへん?」

 

 はやてのその言葉を受け、ハナコとすずかが動き出す。料理を小皿に取り分け、ラップをかけ、冷蔵庫に仕舞う。

 そして、一部の料理を電子レンジで温め直し、三人で食卓について「いただきます」と言って食事を開始した。

 

「う、うまー! なんやこれ! めちゃうまー!」

 

 あまりの料理の美味しさに、はやてはそれまで感じていた寂しさが一時的に吹き飛んだ。

 今回、ハナコが持ちこんだ野菜は、いずれも地球に存在する品種にグルメ細胞を植え付けて栽培したもの。ハナコの出身世界の突拍子のない野菜と違って、こちらの世界の住人にも受け入れられやすい見た目をしている。だが、味はグルメ細胞によって飛躍的に向上していた。

 

「ふふーん、わたし、研究所の研究員をしているって言ったでしょう? その研究所って、グルメ研究所なんだよ」

 

「なんや、その素敵な研究所は……!」

 

「今日の料理に使った以外にもお土産に野菜やお米も持ってきたから、ご家族のみんなと美味しく食べてね」

 

「ホンマか! ありがとうなぁ」

 

 そうして、はやてはハナコやすずかと言葉を交わしながら、楽しい食事の一時を過ごした。

 やがて、料理は全て平らげ、「ごちそうさま」と一緒に食後の挨拶をして、食事を終える。

 それから、ハナコとすずかは急いで帰る用意を始めた。すでに、メイドのノエルが八神家の前に来ており、車の中で待っていると連絡があったのだ。

 

 持ってきていたバッグを手に取り、忘れ物がないかの確認を互いにするハナコとすずか。その二人の様子をはやては少し離れたところから寂しそうな顔で見つめていた。

 そんなはやてに、すずかは気づいてしまった。そして、すずかは少し悩んだ後に、はやてに向かって言葉を切り出した。

 

「そうだ、はやてちゃん、今日これからうちにお泊まりに来ない?」

 

「すずかちゃんのうち?」

 

「うん、うちはハナコちゃんもいるし、それに猫がいっぱいいるんだ。楽しいよ」

 

 すずかの誘いの言葉に、はやては少し逡巡(しゅんじゅん)し、くしゃりとした笑顔で答える。

 

「……それは魅力的やなぁ」

 

「じゃあ、そうしよう。待ってて、今、ノエルさんに頼んでくるから」

 

 すずかは小走りで駆け出し、家の前にいる忍にはやてのお泊まりを頼み込みにいった。それをはやてとハナコは見送る。

 二人の間で沈黙が再び訪れるが、それを今度ははやてが破った。

 

「なんや、気を使わせてしもうたな」

 

「すずかさんは優しい子だからね。付き合ってあげて」

 

「わたしが付き合ってもらうんやけどな」

 

「ふふっ、そうかもね。まあ、明日の朝ご飯は期待していて。特製のブラッドソーセージを出すよ」

 

「早速お泊まりが実現してしもうたな。お世話になります」

 

 努めて笑顔で言うはやてに、ハナコも笑顔で返した。

 そして二人は、「お泊まりしてもいいって……!」と家の中に戻ってきたすずかを笑いながら迎え入れた。

 

 それからしばらく経って、八神家の同居人から、家に帰ってきたとはやてに連絡があった。

 時刻はすでに夜の十時を過ぎていて、はやてはハナコと一緒に月村邸のすずかの部屋で就寝の準備を進めていた。

 はやては携帯電話を持ち、笑みを浮かべて電話の向こうと言葉を交わしている。

 

 だが、ハナコはその笑顔が心からのものとはどうしても思えず……電話越しに謝るヴィータの声を聞きながら、「こりゃあ、八神家への再訪問が必要だね」と、ハナコはすずかと新たな訪問計画を練るのであった。

 

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