【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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25.すれ違う人々だよ

 八神はやての突発お泊まり会から数日。すずかとハナコは、放課後になって再びはやての家へ遊びにやってきた。

 今日はすずかがバイオリンの稽古に行く日のため、前回のような食事の用意はしていない。しかし、今日は特別にマウクラン産の食材のみで作ったケーキを焼いて持ってきていた。

 

「いらっしゃーい! ささ、上がって上がって」

 

 八神家のバリアフリーな玄関ではやてがすずかとハナコを迎え入れる。

 早速、すずかが持参したケーキをはやてに差し出すと、はやては満面の笑みを浮かべてお礼を返してきた。

 

 

「わたしとハナコちゃんの二人で焼いたんだ」

 

「手作りケーキ! それはまた、本格的やな」

 

「わたし達の友達のご両親が喫茶店を開いていて、その子のお母さんのパティシエさんから作り方を教えてもらったの」

 

「はー、ということは、パティシエール特製ケーキってことやな」

 

「作ったのは、あくまでわたし達だけれどね」

 

 紙箱から出てきたのは大きめのホールケーキで、これにははやても目を輝かせていた。

 

「ちなみに、ケーキの材料は市販されていない、例のマウクラン研究所産の美味しい食材だよ」

 

 ハナコがそう告げると、さらにはやての顔に笑顔が広がる。

 

「ハナコちゃん達がくれた野菜とお米のおかげで、ずいぶん食生活が豊かになったわ。本当にありがとうなぁ」

 

「いいのいいの。なんか研究所の人が農業機械を大量に作ったせいで、食材が余り気味なんだよね。販路が開拓できていないからねぇ……」

 

「そっか。今度からは買わせてもらうわ」

 

「毎度ですー。研究費になるから、定期購入は大歓迎だよ。値段をちゃんとつけると相当高くなるんだけど、まだ試験栽培だから安値でゆずるよ」

 

 そんな会話をハナコとしている間に、はやてはホールケーキを取り出していくつかに切り分ける。

 そして、皿を用意して三人分のケーキをすずかと一緒にテーブルの上に運んだ。

 

 さらにはやてが紅茶を淹れ、ケーキを食べながらの雑談が始まった。

 

「はー、このケーキ本気で美味しいなー」

 

 期待していた以上の味だったのだろう、はやてはじっくり甘味を味わいながらケーキを口にする。

 だが、すずかはケーキを一口食べて、納得していない顔で言う。

 

「スポンジの出来がまだまだかな。やっぱり本職の人には敵わないね」

 

「例のパティシエさんやな。その人の店行ったら、これより美味しいケーキが食べられるん?」

 

 はやての期待の表情に、ハナコが答える。

 

「研究所産の食材はまだ商業展開していないから、その人もプライベートでしかうちの食材を使っていないはずだよ。ほら、前にも説明したグルメ細胞があるから、お客さんへの説明なしじゃ出せないんだ」

 

「……もしかして、グルメ細胞って割とガチで存在するん?」

 

「するよー。なにせ、わざわざ研究所で栽培している食材だよ?」

 

「そっかー。食べるだけで元気になる食材かぁ。テレビの通販みたいやな」

 

「元気になるというか、細胞が体に適合したら、体が強くなるんだよ」

 

「それなら大歓迎やな。料理とか結構腕力使うからな」

 

 確かに、とすずかはそのはやての言葉に同意した。

 

「しかし、ケーキが美味しすぎて、この紅茶じゃ完全に負けとるな」

 

「今度、うちで使っている茶葉を持ってこようか? ハナコちゃん、いいよね?」

 

「いいよ、美食茶(グルメティー)でしょ? あれも増産しているから、どんどん配っちゃって」

 

「グルメティーとは、また自信満々な商品名やなー」

 

 と、楽しく三人で会話することしばし。

 ふと、ハナコは家の玄関の方向に人の気配を複数感じた。

 それから、玄関の扉を開け閉めする音が聞こえてくる。

 

「ただいま戻りました。ごめんなさい、ちょっと遅くなっちゃった」

 

「はやて、ただいま!」

 

 そう言いながら居間に姿を見せたのは、金髪の大人の女性と赤髪を三つ編みにした小さな少女の二人。

 

「シャマル、ヴィータ、おかえりー」

 

「おじゃましてまーす」

 

 はやてとすずかがそう二人に挨拶をする。そして、ハナコはというと……。

 

「ヴィータさん、やっほ」

 

 見覚えのある赤髪の少女に、片手を挙げて挨拶していた。そう、赤髪の少女は、以前マウクランに密猟しにやってきた赤服の少女ヴィータだったのだ。

 

「お前はッ!?」

 

 ヴィータは想定外の訪問客に驚く。そして次の瞬間、彼女はハナコに詰め寄って首根っこをつかみ、無理やり立たせて壁際に引っ張っていった。

 

「なんの目的でここに来た!? やっぱり管理局の回し者だったのか!?」

 

「いや、違う違う。わたし、はやてさんのお友達だから」

 

「はやての友達!? じゃあお前がすずかか?」

 

「ハナコだよー」

 

 そんな気の抜けたハナコの声を聞いて、ヴィータはつかんでいたハナコの首から手を離した。

 

「なんやなんや、ヴィータとハナコちゃん、ちゃんとした知り合いだったんちゃうの?」

 

 ヴィータの突然の所業に驚いたはやてが、そんな疑問を口にする。

 はやての中では、ヴィータとハナコはお肉をお土産に持たせるような仲の良い友達同士のはずだったのだ。

 

「ええと、そちらの子は昨日はやてちゃんが言っていた、ハナコちゃんですよね……?」

 

 事態をつかめていない金髪の女性、シャマルが首をかしげながら言う。

 

「そうやで。あのめっちゃ美味しいお米を持ってきてくれた人や。それと言いそびれていたけど、ヴィータにあの美味しいお肉を渡してくれた人でもある」

 

 はやてのその言葉に、シャマルは驚愕の表情を浮かべた。

 そこまで驚くことかな、と思いながら、ハナコはヴィータとシャマルに向けて言う。

 

「今日もお土産に美味しい手作りケーキを持ってきたよ。美味しいからぜひ食べてね」

 

「マジか! あ、いや、そうじゃねえよ」

 

 一瞬ヴィータの顔が喜色に染まるが、彼女は頭を横に振って、ハナコの背中を強く叩く。

 そして、ヴィータはハナコの肩に手を回して、そのまま居間から離れるように移動し始める。

 

「お前、あの世界に住んでいるんじゃないのかよ。……あー、そういえば住人じゃないとか言ってたな」

 

「あそこは仕事場だよ。普段はこっちで小学生やって、土日だけ研究しに通っているの」

 

「……やっぱり、お前、管理局の人間か?」

 

「違うよ。あの世界は時空管理局の人に借りているだけ」

 

 ハナコのその言葉に、ヴィータは「ムムム」と難しい表情になった。

 そして、しばらく何かを考えていたかと思うと、再びハナコに向かって小声で言う。

 

「なあ、あたしが無人世界に行って狩りをしていること、はやてとか管理局とかに秘密にしてくれねえ?」

 

「ん? いいけどなんで?」

 

「あー、それはその……ほら、そのー……」

 

「……あっ、そういうこと。はやてさんに魔法を秘密にしているんだね? 大丈夫だよ。あの無人世界のことも、はやてさんにはこの近場にあるマウクラン研究所ってことにしてあるから。ヴィータさんがしたのも、密猟じゃなくて研究所の見学って言っておいたよ」

 

「お、おう。ありがとな」

 

 ヴィータは心底ほっとしたような顔になり、ハナコの肩に回していた腕を解いた。

 そして、ハナコはさらにヴィータに向けて言う。

 

「ということは、ヴィータさんが地球にいるのも不法滞在ってことかな? 管理世界の魔導師が管理外世界に滞在するのって、時空管理局の許可がいるもんね」

 

「そっ、そーなんだよ。なんだ、お前頭いいなー!」

 

「分かったよ。はやてさんに免じて、時空管理局にも秘密にしておいてあげるよ。それより、ケーキ食べよう。ギガうまだよ」

 

「おー? あたしはそうそう、ギガうまの称号は与えねーぞ!」

 

 そうしてハナコとヴィータは居間に戻り、ハナコはテーブル席に座り直した。

 そこで、ヴィータがはやてにケーキを催促し始める。だが、はやてはヴィータに「手を洗ってくるまではやらん」と言い、ヴィータが駆け出すのをハナコ達は笑って見送った。

 

 そして、すずかのバイオリンの稽古が始まる時間まで、皆でギガうまなケーキを堪能するのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 十二月第二週の日曜日。ハナコがいつものようにマウクランの中央研究所に向かうと、Dr.ゼロの不在をナンバーズの十番目、ディエチに伝えられた。

 

「珍しいね、中央研究所にいないって。どこかのビオトープまで行っているの?」

 

 ハナコはゼロの不在を不思議に思い、ディエチに彼の行き先を尋ねた。

 

「ううん。マウクランにいない」

 

「えっ、この世界にいないの? そういうことって初めてじゃない? 本局にでも行ったのかな……」

 

「うん、本局にある『無限書庫』っていうデータベースに調べ物に行った」

 

「へー、そんな場所があるんだ。何か食材関連の調べ物かな?」

 

「『闇の書』とかいう植物をつかさどるロストロギアが、新規のビオトープ構築に役立ちそうだとか言ってた」

 

「わお、さすがマッドサイエンティスト。危険な古代の遺物(ロストロギア)を活用する気かぁ」

 

「ちなみに『無限書庫』は巨大な図書館で、次元世界のあらゆる書籍が集められている。データ量が膨大すぎるから、『闇の書』の情報を調べるためにチンク姉とクアットロも連れていった」

 

「へー、そんな場所があるんだねぇ」

 

「世界は広い。管理世界だけでも不思議な施設は無数に存在する」

 

「施設丸ごとロストロギアとかありそうだよね」

 

「正直、『無限書庫』もロストロギアじゃないかってあたしは疑っている。時空管理局が設立される前からあるらしいから、多分、古代ベルカの遺産」

 

「そんなところに、よく入ろうとするね、ゼロ博士も」

 

「ガーディアンのゴーレムがうろついているらしい」

 

「危険すぎるっ!」

 

 と、そんな会話をしたのち、ハナコは自分の研究をしにディエチと分かれた。

 ナンバーズがまとめた日報を読み、時空管理局に提出する研究レポートを執筆する。

 そして、数時間執筆を続けていただろうか。不意に、ハナコが持っている携帯端末が震えた。時空管理局から与えられた次元通信が可能な端末なので、連絡相手は魔法関係者のはずだ。

 

「んー、なのはさんからメールか。これに届いたって事は、『レイジングハート』からの連絡かな?」

 

 ハナコがメールを開いてみると、そこに書かれていたのは、連続魔導師襲撃事件の捕り物中にクロノ・ハラオウン執務官が負傷したという連絡だった。

 なんでも、事件の犯人を追い詰めたと思ったら、相手側に増援が追加されて、クロノがその増援の背後からの不意打ちでリンカーコアを奪われたらしい。クロノに怪我はないが、リンカーコアを奪われたことで一時的に昏倒状態にあるらしい。

 

「はー、なのはさんでも絶対に勝てないっていう、あのクロノ執務官がね……怖いねぇ」

 

 ハナコは携帯端末に「あとでお見舞いに行きます」と打ち込んで、メールを送信する。

 そして、最近よく聞くようになったリンカーコアという単語に、思いをはせる。

 

「魔法使いや魔法生物にしかない内臓器官か……ヴィータさんは動物のリンカーコアを集めているみたいだったし、そっちの方をちょっと食べてみたいかな」

 

 次元世界特有の内臓肉。どんな味がするのか、ハナコは今度Dr.ゼロに聞いてみようと思うのだった。

 

 なお、クロノへのお見舞いは、意識が戻った本人から映像通信で直々に拒否された。

 本人曰く、ベッドで悠長に休んでいる暇などないとのことだが……ハナコは苦笑いで「お大事に」とコメントを返すことしかできなかった。

 

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