【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

27 / 60
27.クリスマス・イブ

 十二月二十四日、クリスマス・イブ。すずか達は、入院中のはやてにサプライズでクリスマスプレゼントを持っていく計画を立てていた。

 だが、ハナコだけはグルメ研究に関する別の予定が入ってしまい、病院に同行ができなくなってしまった。ハナコにとって数少ない友人のはやてのことはもちろん大事だが、グルメ研究だって大事だ。そして、お見舞いは行けなくてもはやての具合が悪くなることはないが、グルメ研究に関しては用事に参加しないと今後に支障をきたす可能性があった。

 

 そういうわけで、ハナコは月村家の転送施設で時空管理局の本局へ跳び、ギル・グレアム提督の待つ部屋へと向かう。

 今日の誘いの名目は、クリスマスディナー。だが、実態はグルメ研究のこれまでとこれからについての話だと、ハナコはメールで伝えられていた。

 

「やあ、いらっしゃい。今日は楽しんでくれたまえ」

 

 グレアムに迎え入れられたハナコは、用意されていたテーブル席に着く。

 そして、グレアム提督が自ら紅茶を淹れ始めた。

 

 時空管理局のお偉いさん自ら茶を淹れるとは思っていなかったハナコは、目をパチパチとさせた。

 

「ロッテは今日いないんですか?」

 

 ハナコは、一人で紅茶を用意するグレアムに向けて、そんな疑問を口にしていた。ロッテとは、グレアムの使い魔のことだ。

 

「ああ、大事な仕事を任せていてね。……私が紅茶を淹れることが意外かね? 私の祖国は紅茶大国なんだ。紅茶を美味しく淹れることに関しては、それなりに自信がある」

 

 グレアムは笑みを浮かべながら、紅茶をティーカップに注いでいった。

 そして、ハナコはグレアムが手ずから淹れた紅茶を口へと運んでいく。しかし、鼻に香ってきた匂いにハナコは覚えがあり、ピタリと動きを止めた。

 

「これは……」

 

美食茶(グルメティー)だよ。本局でも、最近ようやくマウクランの食材が出回りだしてね。美食茶の紅茶の葉は、私的に飲むために最優先で確保するようにしているよ」

 

 ニッコリと笑いながら、グレアムが自分で淹れた紅茶のカップを口元に持っていく。

 ハナコも遅れてティーカップのふちに口を付け、紅茶を飲む。

 

 その味は、確かにハナコが無人世界マウクランの農園で農業用ロボットに茶摘みさせ、農園に併設した加工場で紅茶に加工した、マウクラン産美食茶の茶葉が出す味であった。なお、ハナコが淹れる美食茶よりも、グレアムの美食茶は美味しかった。

 

「さて、では楽しいディナーの前に、難しい話は終わらせておこう。グルメ研究の進捗と今後についてだ」

 

「はい」

 

 ハナコはティーカップをテーブルに置いて、真面目に話を聞く姿勢になる。

 そして、そこからグレアム提督の話が始まった。

 

 研究の進捗については、時空管理局の想定以上であり、評価に値する。

 だが、その一方で急速な研究の進行に、コントロールがしっかり利いているかの懸念の声も上がっていると苦言を(てい)された。

 

 研究の今後については、重大な企画が地球側で話し合われているらしい。

 なんでも、月村家、バニングス家、そしてグレアム家を含む次元世界を知る名家が出資した会社が設立される予定であるとのこと。

 マウクラン産の食材の販売を行なう会社で、地球でのグルメ細胞の情報公開を視野に入れているとグレアムは語った。

 

「マウクランの農園に人員を投入して規模を拡張し、地球にグルメ細胞を含む食材を広めていく。そう決まったんだ」

 

「それは……わたしの出身世界にあった食材はすぐに出荷できますけれど、一から品種改良している新食材はまだ外に出せる水準ではないですよ?」

 

「それは大丈夫だ。まだ会社の設立すらしていないんだ。試験的な販売ですら、二年後になるか三年後になるか……君は自分のペースで研究を進めてもらって構わない」

 

「……それなら、問題ありません」

 

 急な話に、気が急いてしまったなと、ハナコは息を吐いて反省する。

 そして、その後は設立する予定の会社の話に終始した。グレアムはハナコに会社名の案はないかと聞いてきたため、ハナコは少し考えてから答えた。

 

「グルメエイジ社というのはどうでしょう」

 

「グルメエイジ……美食家達の時代か。案として挙げておこう」

 

 ハナコがもといた世界は、新グルメ時代を迎えていた。その前身であるグルメ時代は、美食神アカシアがグルメクラゲからグルメ細胞を発見してから興った。

 では、こちらの地球におけるグルメ時代は、いつ始まるのか。それは、月村家がハナコを保護して、グルメ細胞をその手にしたときから始まっていたのではないか。そうハナコは思っていた。

 

「さて、難しい話ばかりで疲れたろう。ディナーにしよう」

 

 グレアムがそう言って、魔法でどこかに通信を入れる。

 すると、部屋のドアが開き、異国風のコック服を着た複数の者達が、食事用のサービスワゴンを押して室内に入ってきた。

 そして、コック達が、テーブルの上に次々と料理を並べ始めた。本来ならば、とても二人で食べきれる量ではない。

 

 ハナコはその料理の数々を見て、美食茶を飲んでからずっと空いていたお腹が刺激され……豪快にお腹を鳴らした。

 

「ははっ、待たせすぎてしまったかね? 遠慮なく食べていってくれたまえ。今日は、様々な管理世界の料理を取りそろえてある。君でも初めて食べる料理があるのではないかな?」

 

 そんなグレアムの話をハナコはうんうんとうなずきながら聞き流し、料理に目を釘付けにしたままそわそわと体を揺らし始める。

 グレアムが言ったとおり、初めて見る料理が多数ハナコの目の前にあった。食材自体は見覚えがある。ハナコがマウクランで育て、本局に納品した品々だ。だが、料理のレシピはハナコが知らないものばかり。

 なるほど、もといた世界の並行世界であるこちらの地球とは違って、管理世界とやらは完全な別世界。文化の発展も似通ってはいないのか、とハナコは期待に胸を膨らませ、そしてお腹を空かせた。

 

「では、いただくとしようか。メリー・クリスマス」

 

 グレアムのその言葉に、ハナコも「メリー・クリスマス」と返してから「いただきます」と手を合わせ、早速、目の前に置かれた謎の料理に取りかかる。

 これは? どう食べる? どの食器を使って、どういうマナーで食するのだ? ハナコは、未知の文化の前に足踏みをする羽目になった。

 

「マナーは気にしないでくれたまえ。シェフも退室させたし、この場には私しかいないからね。ほら、その料理はスプーンを使うと食べやすいよ」

 

 そう聞くや否や、ハナコはテーブルに用意されていたスプーンを手に取り、ショートパスタのようなものに紫のソースがかかった料理を口に運んだ。

 

「!?」

 

 ショートパスタらしきものは、トウモロコシ粉を固めて透明なソースで茹でたものだった。そこにベリー系のソースがかけられており、ハナコは思わず「美味しい」と叫びそうになった。

 

「ふふふ、お気に召してくれたようだね」

 

 グレアムの言葉に、ハナコはコクコクと頭を縦に振った。

 まだ発展途上で癖の強いマウクラン産の食材をここまで調和の取れた料理に仕立て上げるとは、本局所属のシェフ侮りがたし。ハナコは他の料理にも手を付けながらそんなことを思った。

 

 そして、しばらくハナコがグレアムと一緒に料理を楽しんでいると、不意に部屋の扉をノックする音が響いた。

 すると、グレアムは食事の手を止めてため息をつき、つぶやく。

 

「やれやれ、ディナーの間は来客を拒んでいたはずなのだがね」

 

 グレアムが何やら操作して空間投影画面を表示させる。すると、画面には扉の向こうが表示されているのか、来訪者の顔が映っていた。

 それは、グレアムの使い魔のロッテと、ロッテに非常に似た顔の少女、そして、クロノ執務官の三人の顔。

 その顔ぶれを見て、驚愕の表情を浮かべるグレアム。そのグレアムに、画面の向こうのロッテが言う。

 

『ごめん、父様。クロノに全部バレた』

 

「……そうか」

 

『グレアム提督。話を聞かせてもらいます』

 

 クロノがとても真面目な顔で、画面の中でそう告げた。

 

「……入りたまえ」

 

 そう言って、深く息を吐くグレアムを見ながら、ハナコは「急に何か始まったけど、食事中に追い出されないよね?」と不安の表情を浮かべるのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ハナコを蚊帳の外に置いて、クロノとグレアムの話が始まった。

 料理を次々口にしながら、ハナコは流れてくる話を自分なりに頭の中でまとめた。

 

『闇の書』は魔導師や魔法生物のリンカーコアを蒐集(しゅうしゅう)し魔導書のページを埋めるロストロギアで、ページが埋まりきって完成すると暴走を起こす。

 その『闇の書』をめぐる事件は、今回が初めてではない。

 十一年前にも起きていて、そのときも『闇の書』が暴走して、それを止めるためにクロノの父親が犠牲になった。

 その日以来、グレアムは破壊しても別の場所で復活する『闇の書』を封印する手段を探してきた。

 それと同時に、彼は新たな『闇の書の(あるじ)』の所在も探し、見つけ出した。

 それが八神はやてであり、グレアムははやてを陰ながら支援し、その一方で主のはやてごと『闇の書』を封印する準備をしていた。

 

 はやての下半身麻痺の症状は『闇の書』の影響であり、『闇の書』のプログラムである守護騎士達は、はやての症状を治すため『闇の書』の完成を目指していた。守護騎士は四人居て、その中にヴィータとシャマルが含まれている。

 グレアムは、『闇の書』の完成を確実なものとするため、使い魔のリーゼロッテともう一人のリーゼアリアを変装させて守護騎士のピンチに介入していた。

 そして今日、リーゼロッテとリーゼアリアは以前からの予定通り、守護騎士達を直接蒐集させることで、『闇の書』を完成させた。

 これにより、『闇の書』が起動し、『闇の書の主』であるはやてと一体化した。『闇の書』が起動して主と融合し、本格的な暴走を始めるまでのこのわずかな時間が、『闇の書』を主ごと封印する唯一のチャンスであり……そのチャンスをクロノに潰されて今に至る、というわけだ。

 

 そんな話の最中にハナコは大量にあった料理をグレアムの分を残して食べ終わっており、一人で食後の美食茶を淹れて、横から聞こえてくる話の整理に努めていた。

 はやての原因不明の病気は、どうやらロストロギアのせいだったらしい。そして、それを治すためにヴィータ達が奮闘していたが、『闇の書』は完成させても暴走するだけなので無意味。

 

 なんともやるせない話だと、ハナコは思った。『闇の書』を思いっきりぶん殴ってやって、はやての病気が治るなら、どれだけよいことか。

 だが、これはそんな簡単な話ではない。終わりのない苦しみにはやては苦悩して、はやてのために魔導師の襲撃を選んだヴィータ達も苦悩して、そしてはやてを封印しようと考えていたグレアムも苦悩していた。誰も幸せになれない、そんなひどい話だった。

 

 ハナコは、はやてという友人のために何もしてやれないことを悲しんだ。

 そして、封印という手段を止めたクロノは、どう思ってこれを止めたのだろうかと考えた。

 

 クロノは言う。なんの罪もない一人の少女を犠牲にするなど、ありえてはいけないのだと。

 そして、仮にはやてごと『闇の書』を封印したとして、どんなに厳重に管理しようとも、いつか力を欲する誰かによってその封印は破られるだろう、と……。

 

「……話は以上です。現場に戻らなければいけないので、一旦失礼します」

 

 クロノはそう断りを入れて、部屋を退室しようとする。

 だが、そんな彼にグレアムは「クロノ」と言って呼び止めた。

 

「何か?」

 

 そう答えて足を止めたクロノ。そこで、グレアムが使い魔のリーゼアリアに言う。

 

「アリア。『デュランダル』を彼に」

 

「父様!」

 

「そんな……!」

 

 使い魔の二人が、叫ぶように言った。

 だが、グレアムは使い魔の彼を止めようとする声に取り合わない。

 

「私達に、もうチャンスはないよ。持っていたって、役に立たん」

 

 そうして、リーゼアリアから一枚のカードがクロノに譲渡された。

 これこそが、闇の書を封印するための魔法の杖。『デュランダル』だ。強烈な凍結魔法を行使できる、時空管理局最新鋭のデバイスだ。

 

「それとクロノ。ハナコ君も連れていきたまえ」

 

「……彼女を? なぜ?」

 

 クロノが、心底不思議そうな顔でハナコに目を向けた。ハナコは、シリアスな場面に偶然居合わせてしまった一般人のはずだった。

 一方、ハナコは名前を呼ばれて、喜びを露わにした。友人であるはやてを助ける手伝いが、できるかもしれない。そう喜んだのだ。

 

「ハナコ君が今日ここにいるのは、彼女が今回の件のジョーカーだからだ。魔力を持たないため『闇の書』には蒐集されず、それでいて『闇の書』を単独で破壊できる可能性を秘めている」

 

「本気で言っているんですか……?」

 

 グレアムの言葉に、クロノはハナコをじっと見つめる。ハナコは、居心地が悪くなってその場でもじもじとした。

 

「『闇の書』を封印する場から彼女というジョーカーを離すために、今日こうして本局に隔離していたのだ。その意味がなくなった以上、彼女をここに留める理由はないよ」

 

 今日の呼び出しにそんな理由が、とハナコは驚き固まった。

 グルメ研究の今後について彼女は結構大事な話をしていたつもりだったが、グレアムにとっては足止めの策でしかなかったらしい。

 

「分かりました。ほら、ハナコ、立て。急ぐぞ」

 

「はーい。そこそこエネルギーを蓄えられたから、暴れるなら任せてよ」

 

 ハナコは口元をハンカチでふいて、立ち上がってクロノの後ろについた。

 

 彼女は、このディナーの席で食没をしていた。食に没頭し、大量の料理を食べて己の身体に栄養とカロリーを蓄える技術である。今の彼女は、その小さな体の本来の体重より少し重たくなっている。大量に並べられたディナーの分だけの増量だ。

 そんな重たい体で一歩を踏み出し、ハナコはそのまま部屋を退室していく。

 

 それからハナコは、転送施設に向けて小走りで移動しながら、クロノに話しかける。

 

「いまいち何をすればいいか分からないけど、はやてさんを助けるためなら頑張るよ」

 

「ああ、一応筋道はユーノの奴が立てていたんだが、戦力が足りなかったところだ。君が本局で見せたという膂力には少し期待している」

 

 クロノに期待され、ハナコは両手をにぎって気合いを入れた。

 転送施設まであと一息、といったところで、クロノの目の前に空間投影画面が開いた。

 

 画面に映るのは、アースラスタッフのエイミィだ。

 

『大変だよ、クロノ君! なのはちゃんが『闇の書』の中に囚われちゃった!』

 

「なんだって!? リンカーコアの蒐集ではなくてか!?」

 

『そうじゃなくて、『闇の書』のページが開いたら、なのはちゃんの体がスーって消えてなくなったの!』

 

 人を本の中に直接取り込む能力。なのはは救い出せるのか。その取り込みは自分にも効くのか。ハナコは転送施設の扉をくぐりながら、グルグルと思考を巡らせた。

 クリスマス・イブに始まった一大決戦。はたして、子供達の笑顔は守られるのだろうか。

 




映画のパンフレットを入手しましたが、無事に時空管理局東京臨時支局の設立理由が載っていて一安心。複数の事件が起こる地球を特異点として観測するためとかすごいこと書いてありますね……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。