現場は混乱していた。
最大戦力であるクロノ・ハラオウン執務官は第三勢力の者達を捕らえて一時戦線離脱。クロノの次の主力である高町なのはは『闇の書』に囚われた。
残されたのは、『闇の書の
銀髪の女性の姿をした『闇の書の主』が放つ広域攻撃魔法に、彼らは一方的に蹂躙……されなかった。
ユーノ・スクライア。彼が武装局員全員に防御魔法をかけていたからだ。
そして、そこからユーノの奮闘が始まった。
武装局員達を守り、援護し、時には攻撃もする。防御魔法は確実に『闇の書の主』の魔法を防ぎ、拘束魔法は数秒動きを止め、誘導弾は武装局員に向かっていた『闇の書の主』の注意を的確にそらす。
その様子を映像越しに見ながら、クロノは「あいつあんなに強かったのか」と感心していた。
現在、クロノとハナコは転送施設の転送待ち。急ぎであっても向かう先は管理外世界であり、手続きは必要なため、到着して即座に転移とはいかなかった。
『君の本当の名は、『闇の書』じゃない! 『夜天の魔導書』だ! 思い出すんだ! 主のために成すべき事を!』
はやての姿から大人の女性の姿に変わっていた『闇の書の主』に、ユーノが語りかける。防御魔法を身にまとった状態で体当たりしながらだ。
それを見たクロノが、「すごいなあいつ……」とつぶやく。
「独特な魔法を使う……確かあいつは『闇の書』の
そんなクロノの感想をハナコが無言で聞いていると、施設の担当官から転送可能と連絡が来た。
すると、クロノは即座に転移魔法を起動し、二人は次元を超越して時空管理局本局から地球の軌道上に待機しているアースラへと跳んだ。
到着するや否や、クロノが叫ぶ。
「エイミィ、僕達二人をそのまま現場に転送してくれ!」
『ハナコちゃんも!? えっと、待って、ユーノ君が『闇の書』を海上に誘導中! 誘導先に転送するね!』
そして次の瞬間、ハナコ達は光に包まれ、海鳴臨海公園へと移動していた。
公園からは、空の上で大立ち回りをするユーノの姿がよく見えた。緑色に輝く無数の鎖が『闇の書の主』に絡みつき、彼女を振り回していた。
回転の勢いで『闇の書の主』は陸上から海上に移動させられ……絡みついていた鎖が海上で大爆発を起こした。
その爆発に、『闇の書の主』は苦痛の表情を浮かべた。
効いている。効いているが……決定打とは言いがたかった。
「ユーノ、よくやった。あとは援護に回ってくれ」
と、そこでユーノの横に飛行魔法でクロノが移動した。
さらにそれに遅れるように、背中に空飛ぶ植物であるワタリギクの翼を生やしたハナコがやってきた。
「やっときてくれたか……あとは頼む。僕は、なのはと念話を繋げることに専念するから」
ユーノがクロノに向けてそう言うと、クロノは片眉を上げてユーノに問う。
「なのはは無事なのか?」
「魔導書の中にいるみたいだけど、さっきから念話が繋がりそうなんだ。繋がるまで、時間稼ぎを頼む」
「任された。ハナコもいいな?」
「おっけー」
そこから、激しい空中戦が始まる、かに思われたが、即座にユーノが「繋がった!」と叫んだ。
そして、少しの間、念話を飛ばしたかと思うと、クロノ達に向けて指示を飛ばした。
「……よし、クロノ、非殺傷設定で全力攻撃だ! 魔力ダメージで自動防衛プログラムを一時的に麻痺させて、『夜天の魔導書』から暴走の原因であるその自動防衛プログラムを切り離す! ハナコはクロノの魔法が当たるように援護!」
「りょーかい!」
先に動いたのはハナコだった。
ハナコは、空中で動きを止めていた『闇の書の主』に、軽くパンチを打ち込む。
だが、それは軽々と防御魔法に防がれる。
しかし、そこでハナコは攻撃を止めない。パンチを次々と繰り出していき、防御魔法の魔法陣に拳を突き刺していく。
そのパンチは、一撃ごとに威力が上昇しており……ハナコははやての体を使っているであろう銀髪の『闇の書の主』に向けて全力を出して、再起不能なまでに破壊しないようにしていた。ちょうどいい力加減を探っているのだ。
そして、二十回目のパンチで防御の魔法陣が砕け、ハナコは気合いを入れてパンチを『闇の書の主』に叩き込む。
「『フライパンチ』!」
魔力ダメージではなく物理ダメージが『闇の書の主』を襲い、彼女は上空に吹き飛ばされる。
そして、そこにハナコの腕から伸びたツタが絡みつき、上空で『闇の書の主』が拘束された。
「クロノ執務官、今だよ!」
「君は、また無茶をするなぁ! 『スティンガーブレイド・エクスキューションシフト』!」
クロノは突っ込みを入れつつも、攻撃魔法を発動して無数の刃を『闇の書の主』に叩き込んだ。
魔力が大爆発を起こし、『闇の書の主』は光に包まれる。
やがて……光が収まった場所には、二人の魔法少女が姿を見せていた。魔法のデバイス『レイジングハート』を片手ににぎるなのはと、黒い衣装に身を包み長杖と『夜天の魔導書』を手に抱えるはやてだ。
銀髪の女性の姿はない。あれは、『闇の書』がはやての体を乗っ取っていた存在だったため、はやてが意識を取り戻した時点で、はやて本来の姿に戻ったのだ。
無事に復活した二人の少女達。
そんな彼女達の下には、なにやら黒い巨大なドーム状のよどみが発生していた。
「あの黒いよどみが、切り離した自動防衛プログラムだ! あれが『夜天の魔導書』を『闇の書』におとしめていた元凶、闇の書の闇『ナハトヴァール』だよ!」
ユーノの説明に、ハナコは分かりやすい敵が出てきてくれたもんだと思った。
「あれは数分動かんで。あれの対処前に、
空を飛ぶはやてがそう言うと、『夜天の魔導書』が輝き、四つの光の玉が出現する。
その光の玉は人型を取っていき……やがて、四人の人間に変わった。ヴィータ、シャマル、それと桃色の髪の女剣士、白髪の大男だ。
守護騎士の復活にはやては喜び、一気に場が和やかムードになる。
そこでクロノが割って入り、『ナハトヴァール』の対処法を話し合うべきだと主張した。
そこから魔導師と守護騎士一同で『ナハトヴァール』をどうするか意見を交わし始めた。
闇のよどみの中でうごめく物体。生物のような、無機物のような、おぞましい姿。魔法の知識が足りずに話に入れないハナコは、それをじっと見つめる。
「じゃあ、宇宙にぶっ飛ばせば!」
「そこを『アルカンシェル』で」
「ドカンや!」
何やらなのはとはやてが盛り上がっているが、それよりもハナコには気になることが一つあった。
「あの『ナハトヴァール』とかいうやつ……美味しそうな予感がする!」
そんなハナコの言葉に、話し合いをしていた一同が「は?」と驚きの声を上げた。
「あのよどみの向こうから、グルメ細胞を持った食材の気配がするよ!」
「何を言い出すんだこんなときに!」
思わずと言った様子で、クロノが突っ込みを入れる。
だが、ハナコはそれに取り合わず、叫ぶように言う。
「あれって実体化した魔法のプログラムなんだよね? 魔法って、プログラムって、どんな味がするのかな!?」
すると、クリスマスディナーで料理を詰めこんだはずのハナコのお腹が、可愛い音で鳴いた。
はやてを無事に助け終わって満足し、やる気が落ちたハナコだったが……。〝未知の味〟が待っている。その事実さえあれば、やる気を再燃させるには十分であった。
ワタリギク(植物獣類)
捕獲レベル:30
オリジナル食材。渡り鳥のように集団で空を飛び、花を咲かせる環境や種を撒く環境を求めて大陸を縦断する植物獣類。食獣植物の類ではないためワタリギク側から人を襲うことはないが、防衛行動は取るため不用意に手を出すと思わぬ反撃を受けることになる。
三色から五色の小さな菊の花を咲かせるが、この花は食用菊であり、高級刺身の薬味と彩りによく用いられる。
ナハトヴァール(魔法プログラム)
捕獲レベル:不明(推定200以上)
魔法少女リリカルなのは原作に登場する自動防衛プログラム、闇の書の闇。『夜天の魔導書』を『闇の書』たらしめているバグの塊であり、無限再生と無限転生、侵食の能力を持っている。
アルカンシェルでコアを吹き飛ばした後もそれまでに攻撃で切り離した肉は消えてなくならないため、食すことも可能である。とはいえ食用に耐えられる味とは限らないが。
暴走の初期段階で撃退できないと、侵食の力で地球を丸ごと飲みこむ強大な力を秘めている。侵食範囲と無限の再生能力を合わせると、完全暴走時の捕獲レベルは200を超えるだろう。