【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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29.夜の続き、旅の続き

『夜天の魔導書』から切り離されたバグの塊、自動防衛プログラム『ナハトヴァール』。

 とうとう姿を見せたそれを前に、皆が奮闘していた。

 

 なのはが魔力砲撃を撃ち込み、ユーノが反撃を防ぎ、クロノが光の剣の雨を降らせる。

 ヴィータが巨大なハンマーを叩きつけ、シャマルが行動を封じ、守護獣のザフィーラが魔力の杭を飛ばし、剣士のシグナムが剣を弓に換え炎の矢を撃ち込む。

 そして、はやてが広域殲滅魔法で『ナハトヴァール』の障壁魔法を打ち抜く。

 

 (まと)が大きいからか各々の攻撃は命中を続けており、『ナハトヴァール』を守る障壁魔法は着実に消滅していっている。

 そんな中、唯一魔法を使わず植物による物理攻撃で『ナハトヴァール』に攻撃を重ねるハナコが、歓喜の叫びを響かせた。

 

「感じる……感じる! 目の前の『ナハトヴァール』が、追い詰められてどんどん美味しくなっていくのが分かるよ! これはもしや、ストレスを感じることで肉質が向上する特殊調理食材……!」

 

「ええいっ、言っていることはアホみてーなのに、活躍は人一倍とか、どうなっているんだこいつ!」

 

 ヴィータに悪態をつかれながら、ハナコは植物の鞭で、『ナハトヴァール』の対物理障壁魔法を次々と破壊していく。

 

 『ナハトヴァール』は、幾重もの障壁魔法によって守られている。

 魔導師達が砲撃を撃ち込んで削り、守護騎士達が魔法をまとわせた武器で削っているわけだが、ハナコは自らの腕を『グルメ細胞の悪魔』に変化させ、そこから(いばら)を生やして障壁に「美味しくなあれ、美味しくなあれ」と言いながら叩きつけている。最終決戦に臨む真面目な空気が台無しである。

 

 一方、クロノは、ハナコにグルメ細胞の気配ありと言われて、『ナハトヴァール』がグルメ細胞で強化されていないかどうか警戒していた。だが、現段階では驚異的なパワーを『ナハトヴァール』が発揮する傾向は見られなかった。

 しかし、それも当然であった。グルメ細胞はただ持つだけで強くなれるわけではない。美味しい物を食べ続けてこそ、グルメ細胞は強化される。だが、『ナハトヴァール』は、ここに生まれ落ちてからまだ一度も食事を取っていない。現状、『ナハトヴァール』が持つグルメ細胞の恩恵は、見た目が本来より禍々しくなることと、肉質が向上していることくらいしかなかった。

 

「しかし、ハナコってここまで食いしん坊なんだね」

 

 幾重もの魔法の鎖で『ナハトヴァール』の触手を拘束しながら、ユーノが苦笑して言う。

 すると、ハナコ本人から反論という名の言い訳が来た。

 

「わたしも、向こうの世界にいたころはここまでじゃなかったんだよ? 研究が忙しい時は平気でグルメ栄養食とか食べていたし。でも、今のわたしは美味しいお肉に飢えているんだ!」

 

 そんな気の抜けたやりとりをしているうちにも、魔力障壁は破壊され、本体に攻撃が通るようになる。

 それを好機と見たシャマルが、皆に向けて叫ぶ。

 

「今よ、コアを露出させて!」

 

 その言葉を受けて、真っ先に動いたのはハナコだった。

 

「来たぁ!」

 

 ハナコが茨を全力で振るうと、『ナハトヴァール』の手足らしき部位が一瞬でバラバラになった。

 本体から落ちた肉塊が、海面に落ち、そのまま海の底へと沈んでいく。

 

「いよっし、後でサルベージだ!」

 

 喜ぶハナコだが、『ナハトヴァール』が再生能力で新たに手足を生やそうとする。切断面がうごめき、肉が生えてくる。

 そこで、空中で魔法陣を展開したはやてが叫ぶ。

 

「石化魔法、いくで! ハナコちゃん、ええな?」

 

「美味しそうな部位は、もう切り離したからおっけー!」

 

「よっし! 彼方(かなた)より来たれ、宿り木の枝! 銀月(ぎんげつ)の槍となりて、うち貫け! 石化の槍、『ミストルティン』!」

 

 ハナコの攻撃でずいぶんと小さくなった『ナハトヴァール』に、はやてが放った白く輝く槍が突き刺さる。

 攻撃を受けた『ナハトヴァール』は体の内から石化していき、周囲に放っていた鳴き声を止めて沈黙し、ゆっくりと海面に向けて落ちていく。

 だが、すぐさま肉体の再生が始まり、新たな体を作り上げようとする。

 

 そこへ追撃をかけたのがクロノだ。

 グレアム提督から(たく)されたデバイス『デュランダル』を用いて、広域凍結魔法を発動する。

 

「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ……凍てつけ!」

 

『Eternal Coffin』

 

『デュランダル』の音声と共に、海面ごと『ナハトヴァール』が凍り付いた。

 さらに、それをチャンスと見たなのはとはやてが、最大の一撃を放つ。

 

「全力全開! 『スターライトブレイカー』!」

 

「響け終焉の笛! 『ラグナロク』!」

 

 二人の少女の叫びと共に撃ち出された二本の魔力の帯が、氷結した『ナハトヴァール』に突き刺さる。

 圧倒的な魔力の奔流に、『ナハトヴァール』は砕かれ、ねじ切られ、破壊された。

 

 そして、粉々になった肉体から『ナハトヴァール』のコア、中枢プログラムが露出し……。

 

「捕まえ……たっ!」

 

 シャマルの魔法が、その瞬間を見逃さずにコアを正確に捕らえた。

 そこへ、魔法陣を展開して待機していたユーノが手をかざす。

 

「長距離転送! 目標、軌道上!」

 

 魔法陣が緑色の光を放ち、コアが宇宙へ向けて撃ち出された。

 

「やったで!」

 

「あとは任せたよ、リンディさん!」

 

 はやてが歓声を上げ、なのはが軌道上の次元航行艦アースラで待つリンディ提督に向けて言った。

 アースラには『アルカンシェル』という魔導兵器が積まれており、それを用いてコアを完膚なきまで消し飛ばすのだ。

 

 一同は空を見上げて、事態の行方を見守る。

 そして、はるか上空で、紫色の光が瞬き……。

 

『効果空間内の物体、完全消滅。再生反応……ありません!』

 

 アースラスタッフのエイミィの通信がハナコ達のもとへと届き……『ナハトヴァール』の討伐が終了したことを知らされた。

 それにより、場の空気は一気に弛緩し、各々が一休みするため凍り付いた海面へと降りていく。

 そんな中、はやてが『夜天の魔導書』と行なっていた融合が解け、空中で気を失う。はやてはこれが生まれて初めての魔法戦。心身共に負担が大きかったのだろう。

 

 なのはは『夜天の魔導書』の管制プログラムに抱えられるはやてを心配そうに見守りながら、クロノの魔法でできた海上に浮かぶ氷の上に降り立った。

 そして、ふと気づく。先ほどまでお肉お肉とうるさかった声が響いてこないのだ。なのはは、周囲を見渡して、ハナコがいないことを確認すると、首をかしげて言う。

 

「ねえ、ハナコちゃんは?」

 

 それに答えたのは、『デュランダル』を待機状態のカードへと戻したクロノだ。

 

「彼女なら、海の中に潜ったよ。一番美味しそうだった部位を回収してくるらしい」

 

「え、ええー。今、十二月だよ!? しかも、氷まで浮いてるのに!」

 

 なのはは、海に浮かぶ『ナハトヴァール』の残骸を見渡しながら、あれらではダメだったのかと、彼女の食欲に呆れたような感心するような複雑な気持ちを抱いた。

 クリスマス・イブの決戦。はやてを救うために行なわれたその戦いは、お肉の印象で上書きされそうになっていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 闇の書の闇、『ナハトヴァール』。暴走を始めようとしていたそれは、魔導師と守護騎士一同の奮闘、そして、やる気を出したハナコの全力により、無限に再生する肉体を削り取られつつ静止軌道まで飛ばされた。

 そして、軌道上で待機していたアースラの魔導兵器『アルカンシェル』で跡形もなく消滅させられた。

 

 これにより、バグが物理的になくなった『闇の書』は『夜天の魔導書』として生まれ直した。

 ……かに思われたが、そうは簡単にいかなかった。

 

「やはり、破損は致命的な部分まで至っている……自動防衛プログラムが停止しても、歪められた基礎構造はそのままだ」

 

 そう語るのは、リインフォースとはやてに命名された『夜天の魔導書』の管制プログラム。銀髪の女性の姿を取ったそのプログラムは、『闇の書』の脅威はまだ去っていないと、意識を失ったはやてが運び込まれたアースラにて告げた。

 

「私は、『闇の書』本体は……遠からず、自動防衛プログラムを生成し、また暴走を始めるだろう」

 

 そう告げるリインフォースに、ならば今のうちに修復はできないのかと、シャマルが問うが……。

 

「管制プログラムである私の中から、『夜天の魔導書』本来の姿が消されてしまっている。修復は不可能だ」

 

 その言葉に、一同は気を落として沈黙する。

 唯一救いがあるとすれば、『闇の書』からのはやてへの侵食は一時的に止まっており、身体の麻痺が消えていることだろう。

 そして、自動防衛プログラムが再生成される前に、『闇の書』から守護騎士プログラムを切り離して独立させ、『闇の書』の基幹プログラムを管制プログラムごと破壊すれば……『闇の書』は再生も、次の主を求めての再転生もすることなく、この世から完全に消えてなくなる。リインフォースは、そう語った。

 

「……それって、リインフォースさんが死んじゃうってことですよね?」

 

 なのはが、険しい顔をしてリインフォースに問う。

 リインフォースはこくりとうなずき、儚く笑って言った。

 

「いいんだ。我が(あるじ)が無事でいられるなら、私の犠牲など、なんということはない。主の幸せが、私の一番の幸せだ」

 

 その言葉を聞き、皆が一様に悲痛な表情を浮かべた。

『ナハトヴァール』の肉を楽しみにしていたハナコも、事態を認識して気分が沈む。

 アースラの医務室に寝かされるはやてを囲んで、皆が肩を落とした。

 

 そんなよどんだ空気の医務室に、一人訪ねてくる者がいた。すずかだ。

 なぜ彼女がアースラにいるのか。彼女はどうやらアリサと一緒に、『闇の書の主』となのは達の地上での戦いに巻き込まれたようだった。そこで、緊急措置としてアースラに保護されていたのだ。

 

「あの……ハナコちゃん、お肉が焼けたんだけど……」

 

 すずかが暗い空気の中で、困惑したように言う。

 

「ああ、ありがとう、すずかさん。でも、あれだね……こんな暗い気持ちで食べても、すずかさんの料理に失礼かもしれないね……」

 

「ハナコちゃん……」

 

 気を落とした様子のハナコに、すずかは釣られて気分を沈ませた。

 だが、そのハナコの言葉を否定する声が、医務室の出入り口から発せられた。

 

「いいや、ハナコ君は食べるべきだ。ハッピーエンドをたぐり寄せたいのならばね」

 

 その声の主に、皆が振り返る。

 その主は……ヘルメットを被った白衣の男。

 

「ゼロ博士!? なんでアースラに……」

 

「私が連れて来た」

 

 ハナコが驚愕の声を上げると、さらに追加で医務室に現れる者がいた。グレアム提督だ。

 

「これは……一体どういうことですか?」

 

 ヘルメット姿の怪しい部外者の登場だけでなく、捜査妨害をしていた提督までも乱入してきた状況に、クロノが渋い顔をして問う。

 すると、グレアムが真面目な顔をして言った。

 

「最高評議会から私に、『闇の書』を正常な形に戻すよう指示が届いた。彼は、その最高評議会から派遣された人員だ」

 

 最高評議会って、時空管理局で一番偉い人だよね、とハナコは頭の中で思った。そして、Dr.ゼロはここ最近、『無限書庫』で『闇の書』について調べていた。『闇の書』を修復するための何かを『無限書庫』で見つけたのではなかろうかと、ハナコは希望を抱いた。

 

「ドクター、もしかして、『夜天の魔導書』の本来の形を見つけたんですか?」

 

 そうゼロに問いかけたのは、ユーノだ。やはりユーノは『無限書庫』でゼロと顔を合わせていたようだと、ハナコは目を輝かせるユーノを横目で見た。

 

「残念ながら、集めた基幹プログラムのデータはいくらか歯抜けがある。だから、それを今から用意してもらうよ」

 

「それは……『夜天の魔導書』の管制プログラムにも、データは残っていないそうなんです……」

 

 ゼロの言葉に、ユーノが気を落としてそう答える。しかし、ゼロは口元を釣り上げ、さらに言った。

 

「用意するのは、別の人さ。ハナコ君、キミだ」

 

「ハァ?」

 

 急に話を振られ、ハナコは思わず変な声をもらしてしまった。

 だが、そんなハナコにゼロは抑揚の利いた声で言葉を告げる。

 

「グルメ細胞が、全てを導いてくれるはずさ」

 

 そうしてハナコは……食堂へと連れていかれ、すずかの作った『ナハトヴァールの厚切りステーキ』を食べることになった。

 

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